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木から落ちた猿

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ワヤンの女たち 第32章

32. 賢者にして武器に熟達した超能力のパンディト、ドゥルノは権力に酔った人に片輪にされる

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〈ルシ・ドゥルノ Resi Drona 〉


 ある朝、格段の若きパンディト〈僧〉が、しっかりとした足取りでポンチョロラディヨ国王宮の門をくぐって行った。受付で名前を書き、登録を済ませ、ドゥルノは美しく煌めく王宮に入って行った。彼はプラブ・ドゥルポドに大歓迎されると信じ切っていた。父の弟子として若き日より共に過ごした仲である。しかしどうなったか?
 麗しい希望はすべて雲散霧消したのだ。プラブ・ドゥルポドの言葉はシニカルで、彼の心を傷つけるものであった。
 「へい、ブラフマン!」ドゥルポドは叫んだ。「何たる無礼者か。お前と俺が友であるなど、ありえない。俺のような偉大なる王が、お前ごとき家無しの貧乏人と友であるはずがない。無礼者の気違いめ。貧乏人と金持ちの王が友であるなど聞いたことも無い。俺と友だなどと思っているとはとんだ気違いだ。」
 「ああ、スチトロ Sucitra 〈ドゥルポドの幼名〉。」ドゥルノは信じられない思いで言った。「思い出してくれ、そなたは我らの約束を忘れたのか。我らが共に、我が父ルシ・バラトウォジョの弟子であった頃の約束を。」
 ポンチョロ国のパティ〈大臣〉、ゴンドモノ Gandamana はドゥルノの挙動をずっと観察し、礼儀知らずの『詐欺師 sok 』であると判断した。ゴンドモノはドゥルノがドゥルパディをスチトロと呼んだのを聞いて怒りで頭に血が昇り、ドゥルノを外へ引っ立てていった〈親しくない者が、高貴な人を幼名で呼ぶことは無礼にあたる〉。ドゥルノは体中ががたがたになるまで打ちのめされたのだった。左腕は折れて曲がり、鼻はオウムのくちばしのようにひん曲がった。バスに乗って事故に遭い、10メートルの谷底へ転落して大けがしたした人のようなありさまとなったのだ。
 ドゥルノを叩きのめして気が済んだゴンドモノは、気絶した彼を遠くへ放り投げた。彼は義兄弟(クルポ)の家まで飛んで行った。超能力の人とはいえ、腕が曲がり、骨ががたがたでは集中治療が必要であった。あるいは中央病院に入院である。体中を針で刺されるような不快感を、ドゥルノは忘れようも無かった。プラブ・ドゥルポドとパティ・ゴンドモノの残忍で凶悪な所行、侮蔑への怒りが胸中に渦巻いていた。心の内で罵っても収まらず、自身への侮蔑に対する復讐を誓ったのだ。ドゥルノは息を切らせながらよろめき歩いて考えた。
 「わしに過ちがあったのか?いいや、これは人生における試練なのだ。どれほど苦くとも、この胆汁を飲む方が良いのだ。一気に飲み干せば、我が人生に『祝福』がある。この経験こそが真の師となるのか?それなら今は眠ろう。新たな出会いに託すこととしよう。」

 ルシ・クルポの苦行所の庭で、パンダワとクロウォたちが球技に夢中になっていた。とつぜんボールとユディスティロの指輪が井戸に落ちてしまった。クロウォもパンダワも、どうやって取れば良いのか見当もつかない。困っているとドゥルノが曲がった左腕を抱えながら現れた。微笑みながら彼は言った。
 「やあ、王子様たちよ。マハバラタ〈偉大なるバラタ〉の子孫ともあろうものが井戸に落ちた指輪も拾えないのかね?」
 クロウォとパンダワは見知らぬ人の言葉を聞いて、皮肉に笑い、莫迦にした口調で答えた。
 「おじさんは出来るのかい?年とって、あと何年生きられるかわから無いようなあんたが?でも、もし指輪とボールを取ることができたなら、あんたはすごい人だ。俺たちはあんたの弟子になるよ。」
 ドゥルノは微笑んで彼の力を見せた。目の前の草の茎を引き抜き、巧みに指輪を狙って草を操った。弓から矢が放たれるように、その草が的に当たり、次々と草が長い鎖のようにつながっていく。
 ドゥルノはゆっくりとその草の鎖を引き、指輪とボールを拾い上げたのである。
 パンダワとクロウォたちは、ルシ・ドゥルノの腕前に驚き、茫然とした。驚きながら彼らは言った。
 「わあ、あなたは本当にすごい。敬意を表します。どうか私たちを弟子にしてください。あなたのようなことが出来るようになりたいんです。」
 ドゥルノは満足の笑みを浮かべた。彼はパンダワとクロウォたちを連れてルシ・クルポの家に行った。パンダワとクロウォたちは、ドゥルノがマハルシ・クルポの義兄弟であることを初めて知った。そして彼が超能力の人であり、武器の達人であることも。パンダワたちのドゥルノへの尊敬の念はさらに増したのだった。
 いっぽうドゥルノの心にも安堵と希望が差したのである。これで恨みを晴らすことが出来る。彼は心中に思った。
 「おお、スチトロ、もうすぐ会えるぞ。我が復讐の時を待っているが良い。お前はわしを辱めた。今度はわしが同じことをしてやろう。待っていろドゥルポド、度し難い気違いやろうめ!」
 さて、プラブ・ドゥルポドは如何なる仕返しを受けたか?物語を続けよう。

1977年1月30日 ブアナ・ミング

(つづく)
by gatotkaca | 2013-08-03 13:17 | 影絵・ワヤン
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