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木から落ちた猿

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ワヤンの女たち 第28章

28. ウィロト国を蝕む『病』の首謀者、ロジョモロはポロソロとデウィ・ロロ・アミスの誤った精液から産まれた


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〈ロジョモロ Rajamala 〉

 ロジョモロ Rajamala はポロソロ Palasara の息子で、ロロ・アミス Lara Amis の病という『災い mala 』から生じた。ご存知のように〈『ワヤンとその登場人物〜マハバラタ編』13章〉、ロロ・アミスはジャムナ河の上でポロソロに病を治癒してもらった。舟が二つに割れ、人間となった。その名をルポケンチョ Rupakenca とケンチョコルポ Kencakarupa という。ロジョモロ、ルポケンチョ、そしてケンチョコルポは、他の兄弟たちと共にウィロト国のマツウォパティ王のもとで育てられた。三人とも信頼しうる超能力の将となった。さらにルポケンチョは王子となり、戦闘指揮官セノパティとなった。超能力におぼれ、彼らは己惚れと虚栄心にみちた者となっていった(semongah- sesongarang, hadigang, hadigung, hadiguna うそつきで尊大、もっともっとと欲深い者)。
 王の聞こえよろしく、ウィロト王宮と同等の規模と美しさを持つカサトリアン〈クサトリアの居住区〉を建てていた。前庭は『リンギン・クルン ringin kurung 〈宮殿の入り口に門のように植えられるブリンギン(バニヤン・ガジュマル)の樹。〉』を備え、入り口はガプロ gapura 〈アーチ上の大門〉になっていた。今ならさしずめ、床は輸入大理石、自動冷房完備といったところか。典礼があれば三人ともお大臣の服装で列席した。帽子と冠は24金で彫刻が施され、3カラットはあろうかというダイヤモンドで飾られていた。肩と胸は勲章でいっぱいだ。その重さでなで肩になっている。吊り下げた剣、ゴムビョル gombyor 〈ズボン〉は、まるでパサル・クレウェル pasar Klewer 〈スラカルタにある市場〉で売ってるもののように最高の垂れがついている。まさに『貪欲』なる者たちだ。その行為は残虐で、冷酷、サディスティックである。命令に従わない者あれば、相手のことなどお構いなく、怒鳴りつけ、平手打ちをくらわすのだ。
 大笑いしながら話し、英雄の評定があれば、つねに称賛を求めた。花の首飾りがかけられ、美しい女の踊りがつづく。目につく女があれば、ロジョモロはあれこれと物色する。花と香油を売るサリンドリ Salindri という美しい女が目にとまった。彼女は実は賽子賭博に敗れた罪で十二年間身を隠しているドゥルパディその人であった。ロジョモロはサリンドリの美しさと妖艶さに心奪われた。いてもたってもいられなくなり、こみ上げる欲望に、欲求不満がつのっていくのだった。
 そこで彼ら三人は考えた。俺が王になったあかつきには、お前は将軍セノパティだ。俺は超能力にあふれている。俺なしではウィロト国は立ち行かぬ。
 かくて三人はウィロト国王プラブ・マツウォパティ Matswapati に対する「クーデター」を画策する。御前試合を装った陰謀である。戦士としてロジョモロが出場する。プラブ・マツウォパティに挑戦者を選出させる。マツウォパティは国を賭け、ロジョモロはその地位と魂を賭ける。マツウォパティが負ければ、国はロジョモロのものだ。
 秘教や詩文学の教えに繰り返し説かれるように、『力 jaya kawijayan 』に驕る者は、超能力などあてにならないものだという教えを知らぬ。災いに見舞われたときには、期待はずれで、信頼できない( iku boreh paminipun, tan rumasuk ing zasad amung aneng sajabaning daging, yen kepengkok pancabaya ubayane balenjani 〈体内に入れず/皮と肉の間だけでよい/約束を違えれば/災厄に見舞われよう〉)。まさしくそのとおりである。御前試合の競技場で第21ラウンドのゴングが鳴った。ロジョモロはウィロト国側の戦士ジャガラ・ビロウォ Jagal Abilawa に向かっていった。
 ジャガラ・ビロウォまたビロウォ Bilawa(実はビモ)は始めのうちはロジョモロを倒すことができなかった。というのも、『神秘の力の池 kekuatan kolam gaib 』を持っていたからである。彼は斃されてもその不思議な池で沐浴するか、その水に入れば生き返るのである。幸いにもアルジュノとスマル Semar がついていてくれた。スマルはアルジュノに知恵を授ける。アイスキャンディー売りに化けて池に近づくようにと。そしてその池に重代の武器、短剣プラングニ Pulanggeni を投げ入れるのだ。プラングニを入れると超能力を宿した池の水はたちまち沸騰して役に立たなくなってしまった。超能力は消え失せ、ただの水になってしまったのである。
 それゆえ、ビロウォに斃されたロジョモロの遺体は池に入れられても生き返ることなく、水に浸かった布のようぐったりし、骨から剥がされた肉のようにふにゃふにゃになったままだった。
 賭けはむちゃくちゃになり、ロジョモロの計画は砕け散った。クーデターの計画は潰えたのである。
 ウィロト国を蝕み、乗っ取ろうとした『病』の王ロジョモロの物語はこのようなものである。
 もう一度言おう。「スロディロ・ジャヤニングラト・スウ・ブラスト・トゥカピン・ウラ・ダルマストゥティ Suradira jayaningrat swuh brasta tekaping ulah darmastuti (どれほど超能力をそなえ、力があっても、不正、不実、強欲の目的を持つ者は、高貴なる魂、平穏なる愛と平和の心によって必ず滅せられる)」。
 勇猛さと超能力が如何ほどであったとしても、その志が善でなければ、平和を目指す心に打ち負かされるだろう。

1976年12月12日 ユダ・ミング

(つづく)
by gatotkaca | 2013-07-28 08:08 | 影絵・ワヤン
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