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木から落ちた猿

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ワヤンとその登場人物〜マハバラタ 第7章

7. サクントロ、アスティナプラの大王バロトの母

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 マハーバーラタで語られるバロト〈バラタ〉とは本当は何者なのか?その歴史を知りたいという読者諸氏からお手紙を頂いた。

 さて、あるところに平和で穏やかな苦行所があった。そこは鹿たちが獅子や虎と一緒に住めるようなところであった。皆あたかも苦行所の聖なる光に影響されているようであった。皆初めは残酷で冷酷、荒々しく貪欲であったのが、落ち着いて仲良くなり、平和で穏やかに変わったのである。
 大地に大いなる苦行所に住まう者は誰か?彼こそブガワン・カンウォ Begawan Kanwa 〈カンヴァ〉であり、サクントロ Sakuntara 〈シャクンタラー〉という名の美しい娘とともに暮らしていた。美しいサクントロはブガワン・カンウォの養女である。サクントロははじめプラブ・ウィスモミトロ Wismamitra 〈ヴィシュヴァーミトラ〉と天界の妖精、ビダダリのメノコ Menaka 〈メーナカー〉の娘であった。プラブ・ウィスモミトロが世俗を離れて苦行中であった時、とつぜんビダダリ・メノコがやって来たのを見た。彼女の衣服は風に吹かれてめくれ上がった。ウィスモミトロはこらえきれなくなり、バタリ・メノコの蜜を吸いたいという欲望がわきあがったのだ。手短かに言えば、メノコは女の子を産み、その子はサクントロと名付けられた。赤ん坊が産まれると、メノコはカヤンガン Kayangan 〈天界〉へ帰り、サクントロはマリニ Malini 河のほとりに捨てられたのである。残酷で無責任に見えるが、これは『行 laku 』だったのだ。
 ある日、ブガワン・カンウォがマリニ河で一休みしていると、森の鳥たちから食べ物をもらっている赤ん坊を見つけ、おおいに驚き、とても可哀想に思った。彼はサクントロを拾い上げ、苦行所に連れ帰ると、自身の子として育てたのである。
 ブガワン・カンウォの苦行所に泊まったアスティノ国王プラブ・ドゥスマントに、サクトロはこのように話した。プラブ・ドゥスマントはサクントロへの恋の矢が当たり、こらえきれず言った。
 「聖なるブガワン〈僧侶〉の娘、サクントロよ。そなたへの求婚を許してほしい。そなたの夫になりたいのだ。」
 サン・プラブの求愛は最初は断られたが、プラブ・ドゥスマントがなおも迫るので、サクントロは言った。
 「おお旦那様、陛下の妃になってもよろしゅうございますが、もし私たちに息子が産まれましたなら、その子をサン・プラブの後継ぎとしてアスティナプラの王にしてください。」
 言うまでもなく、ただちにサクントロとのガンダルヴァ婚〈恋愛結婚〉となった。
 しばらくの間サン・プラブ・ドゥスマントは苦行所に滞在したが、暇乞いして王国へ戻った。彼はアスティノへ移ってもらうため、すぐにサクントロを迎えに来ると約束した。
 サクントロは自身の行いを恥じて悲しくなり、ブガワン・カンウォを出迎える勇気がなかった。父はきっと自分の行いに気付いているに違いないと思ったのだ。賢明なるカンウォはやさしく言った。
 「おお、我が子サクントロ。そなたは過ちを犯してはいない。お腹の子は後の日に歴史に残る偉大な人となるだろう。すべては神の思し召しなのだ。」
 サクントロは泣きながら跪き、義父の足に接吻した。かくて九ヶ月が過ぎ、男の子が生まれた。大声で泣き、元気で立派な未来の偉人である。母によって彼にはサルウォドモノ Sarwadamana と名付けられた。野生の動物たちを征する力を持つ者という意味である。
 しかし、数年が過ぎてもプラブ・ドゥスマントからの迎えは来なかった。ブガワン・カンウォの言葉に従って、サクントロはプラブ・ドゥスマントにサルウォドモノを拝謁させるため、アスティナプラ国へ旅立った。サクントロは王に向かって言った。
 「高貴なる陛下。これは私たちのガンダルヴァ婚で産まれた陛下の息子でございます。サルウォドモノを皇太子として取り上げられますよう。」
 顔を赤らめ、言葉を抑えてプラブ・ドゥスマントは言った。
 「へい、恥知らずな女め!不躾な言葉を止めよ。偉大なる王たる私がそなたのような卑しい女を妃に持つなどありえん。」
 プラブ・ドゥスマントの言葉が終わらぬうちに、空から不可思議な声が轟き、サン・プラブと王宮内の重臣たちの耳に響いた。
 「プラブ・ドゥスマントよ、ゆめ疑ってはならぬ。その子はまさしくそなたの子だ。」
 列席していた者たち皆が喜び、サクントロは儀式に則り正式な妃となった。サルウォドモノは王によってアディパティ〈領主〉に任命され、バロトの名が与えられた。かくてバロトはアスティノの若き王となり、世界の偉大なる指導者となったのだ。バロトこそ永遠なる大バラタ族の祖である。バーラタとは偉大なる魂 Mahatman また称賛される者を意味する。彼に続いてプラブ・ハスティンが、そしてその息子プラブ・クルプラティポ、さらに偉大なるプラブ・スンタヌへと続くのである。
 ワヤン・クリ・プルウォのダラン界では一般にスンタヌだけが知られている。彼はアスティノ国の後継者ではないが、アスティノの指導者となる。マハーバーラタの物語とは異なっている。
 アスティノ王プラブ・クルプラティポが苦行中、バタリ・ゴンゴ Gangga 〈ガンガー〉が現れた。彼の左膝の上に座り、バタリ・ゴンゴはプラブ・クルプラティポに導きを与えた。彼自身は違うが、その子孫が彼女の伴侶となると。プラブ・クルプラティポは息子を得て、スンタヌと名付けた。このスンタヌがバタリ・ゴンゴと結ばれるのである。スンタヌこそがアスティノ国の所収者であり継承者である。そして彼の国は『孫たち』クロウォとパンダワによって争われるのである。
 スンタヌとバタリ・ゴンゴの物語はどのようなものか、物語を続けよう。

1976年6月16日 ブアナ・ミング
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"Shakuntala" Raja Ravi Varma
by gatotkaca | 2013-05-02 00:20 | 影絵・ワヤン
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