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木から落ちた猿

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ワヤンとその登場人物〜ハルジュノソスロとラマヤナ 第26章

26. 肢体麻痺の女カウサルヨ、聖人にして正義の人、英知に長けた王を産む

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 カウサルヨ Kausalya はアヨディヨ Ayodya 国、バヌプトロ Banuputra 王の娘である。ひじょうに美しく、魅力的な美女であり、その美しさはアヨディヨ国全土に誉れ高かった。しかし気の毒にも麻痺の病を患い、身体が不自由であった。超能力のブラフマン、マハ・ルシ〈高僧〉、呪い師、名高い医師たちが、マントラ〈呪文〉、技法を尽くして彼女の治療を試みたが、成功した者はなかった。初めのうちは車を使って歩くことができたのだが、今はもう座ったまま動くことはできなくなっていた。今なら黒魔術に呪われたか、脳梗塞で麻痺したと言えるかもしれない。さまざまな憶測がされたが、本当のところは、彼女の病は偉大なる正義の王、英知に長けた王の候補たる人の母となるための試練であり、至高の神ヤン・マハ・クアサの思し召しだったのである。
 彼女を『想い人 gandrung kepaya 』にしている王たちは、デウィ・カウサルヨが病にかかったという知らせを信じなかった。それどころか自分たちの求婚を拒否するための言い訳だと疑ったのである。王たちの中でも気の短い者、怒りっぽい者 brangsan は、デウィ・カウサルヨを力づくで手に入れるため、アヨディヨ国を攻めようと兵 wadya bala を集める者もいた。アルンコ国のラウォノもその中の一人であった。もともと、このラクササ王は冷酷、残忍、残酷で、求婚の拒否を理由にアヨディヨ国を攻め、国とその財宝を奪おうと考えていたのである。
 『困り果てて saking judhegnya 』 、プラブ・バヌプトロはサユムボロ〈sayembara 嫁取り競技〉を催すことにした。デウィ・カウサルヨの病を治すことのできた者は誰あろうと、それが夫、伴侶となる。王でも、サトリア〈武将〉、ルシ〈僧侶〉であろうと医者、呪い師、また庶民であっても問題は無い。
 ラウォトモジョ Rawatmaja という名の僧がいた。彼は至高の神デワタ・アグン Dewata Agung からの恩寵を得た者であり、彼こそがデウィ・カウサルヤの病を癒す者であったのだ。彼にはひとつのディレンマがあった。なにゆえか?ルシ・ラウォトモジョはすでにブラフマチャリヤ Brahmacariya 〈梵行者(不婚を誓う)〉、不婚者たることを誓っていたのである。これこそゴダ goda 〈試練〉と呼ばれるもので、人間はつねに理想とダルマ(法・運命)との間のディレンマを経験するものなのである。かくて彼は『hanggenturteki〈語意不明〉』し瞑想に集中し、デワタ・アグンにディレンマを解決するための導きを願った。しばらくすると、ルシ・ラウォトモジョに導きがくだった。彼は、カウサルヤの神が定めた夫ドソロト Dasarata に彼女を委ねる仲介を担う者なのだ、と。
 手短に語ろう。ルシ・ラウォトモジョはデワタ・アグンの恩寵により、デウィ・カウサルヨの治療に成功した。しかしルシ・ラウォトモジョは王位も宮廷の地位も断った。そしてデウィ・カウサルヨは彼の苦行所へ伴われたのである。王宮を出ると、ラウォノが彼女を奪い取った。しかし幸運なことに、デウィ・カウサルヨは、すぐさま『テイク・オフ』したガルダ鳥セムパティ Sempati によって取り戻され、雲の中に消え、山を越え、谷を越え、河、海を越えて消え去ったのであった。王たるラウォノは空軍、海軍、偵察隊を派遣して、その行方を追った。そこでガルダ鳥セムパティは苦行所に降り立ったが、苦行所はラウォノ軍に取り囲まれてしまった。許しも得ずラウォノは押し入り、辺りをぶち壊しながらラウォトモジョとデウィ・カウサルヨを探した。
 迫り来る危険を前にルシ・ラウォトモジョはデウィ・カウサルヨに向かって言った。
 「サン・デウィ、私はあなたの伴侶ではないのだ。私はあなたのもとを去らねばならない。サン・デウィは私に頼ってはなりません。その時私はもういないでしょうから。真のあなたの夫はドソロトという人です。今彼はダンドコ Dandaka の苦行所でヨギスウォロ Yogiswara というブラフマンの弟子となっています。さあ、早くお行きなさい。」
 しかしデウィ・カウサルヨの態度は変わらなかった。彼女が約束に殉じる貞節の女 wanita setia であったからである。ラウォトモジョは彼女の麻痺の病を治してくれた人であり、彼こそが夫であると彼女は思っていたのである。カウサルヨが答え、ラウォトモジョの言葉を実行する前に、ラウォノが現れ、ラウォトモジョの首をつかみながら言った。
 「おお、ラウォトモジョ、お前は人間らしさってもののわからん奴だ。お前はブラフマチャリヤ、結婚しない者だ!!妻を持とうなどという望みは諦めろ。そんなことはカウサルヨにとっては拷問と同じだ。彼女を俺に渡せ。そうすればこの世の悦楽、権力、幸福を得られるのだ。アルンコへ来れば大理石の床の7層の王宮が与えられ、そこにはトウモロコシの粒の大きさ、それぞれ7カラットのダイヤモンドが散りばめられている。乞食同然のルシであるお前は、美しい女を雨漏りするぼろ小屋に閉じ込めておくのが関の山であろう。」
 言い終わらぬうちにラウォノの剣がラウォトモジョの頭を切り落とし、頭は床に投げ捨てられた。血が噴き出し、デウィ・カウサルヨの着物を濡らした。
 友情に厚いガルダ鳥セムパティはこれを見て、ラウォノに打ちかかり、ラウォノは遠くへ飛ばされ大地に転げ落ちた。ラウォノが反撃しようとする前に、セムパティはすばやくカウサルヨを連れて苦行所を飛び出し、まだ見ぬ彼女の夫ドソロトを探すためダンドコを目指した。
 かくてカウサルヨは無事に真の夫たるドソロトに会うことができたのである。ドソロトこそ、こののちアヨディヨ国の王位を継ぎ、ウィスヌ神の化身、スリ・ロモ・ウィジョヨをもうけることとなる人である。
 正義と英知の偉大なる人の母となる女の試練と『苦行 laku 』はこのようなものであった。幸福を目指す道は、花々の芳香あふれる真直ぐな道ではなく、険しく、苦しく、困難に満ちた曲がりくねった道なのである。

1976年9月12日 ユダ・ミング
by gatotkaca | 2013-04-17 23:59 | 影絵・ワヤン
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