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木から落ちた猿

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ワヤンとその登場人物〜ハルジュノソスロとラマヤナ 第4章

4. ジョモドグニがロモバルゴウォに母を殺すよう命ずる

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 ロモパラス Ramaparasu はまたの名をロモバルゴウォ Ramabargawa ともいう。バルゴウォストロ Bargawastra という武器を持つからである。彼はロモワドゥン Ramawadung とも呼ばれる。斧(ワドゥン wadung )を武器とするからである。ロモパラスは、ブラフマン〈僧侶〉のジョモドグニ Jamadagni とデウィ・レヌコ Dewi Renuka の末子である。ジョモドグニははじめ国王であったが、のにち苦行者として生きることを決めた。彼らは世俗の贅沢を捨てて、パデポカン padepokan 〈苦行所〉での平穏な生活を欲したのである。しかし間もなく予期しない災いが彼らを待っていたのだった。
 ある日、その名をチトロロト Citrarata というひとりの王が現れた。彼は狩りに出て、苦行所の近くの沐浴場へやって来たのだった。彼はハンサムで格好よく、その声は音楽のように響いた。どんな娘も彼の姿を見、その声を聞くと恋心が揺れ動くのである。その時レヌコは野菜を採っているところであった。彼女は池で鼻歌を口ずさんでいる、一糸まとわぬ美しい男をじかに見てしまった。デウィ・レヌコは何年も森のなかで憂鬱に暮らして来たので、たちまち恋に落ちてしまった。サキン『クプンチュットニャ』〈Saking "kepencutnya"=心魅かれて〉(魅入られて)、とうとうあさましい想いが浮かんだ。長年持ち続けて来た倫理を忘れ去り、ゆっくりと衣服を脱ぎ、裸になると、胸の内に荒れ狂う欲望に任せてサン・サトリアの近くまで泳いで行ったのである。
 これ以上は話す必要もあるまい。突如として雲が立ち籠め、太陽はその輝きを止め、池のまわりは暗くなった。いかづち、雷鳴が轟き、天を引き裂いた。ふたりは愛欲に溺れ、愛の営みにひたったのである。手短かに言えば『ノー・コメント』ということだ。ブラフマナとしての高みを目指していたジョモドグニは、彼の一族を待ち受ける災いを疑ってもみなかったのである。
 とはいえ彼は心にわきあがる怒りをおさえ、感情にまかせることはしなかった。妻を呼ぶ。長い間一言も言葉はなかった。かくてジョモドグニは言う。
 「レヌコよ、苦行所の真ん中で育っていたムラティ melati 〈ジャスミン〉の花が枯れてしまった。花を守るにはどうしたら良いのか、言ってくれないか?」
 デウィ・レヌコは答えず、ただこうべを垂れているだけであった。とつぜん彼女の体が震え出し、顔色が青ざめ、涙が流れた。彼女は魂の震えに気を失わんばかりであった。
 そこへロモバルゴウォをふくむ五人の息子たちがやって来て伺候した。ブラマナ・ジョモドグニはかくて、母に起こった出来事を話したのである。息子たちにジョモダグニは言った。
 「さあ、息子たちよ。そなたらの母は心を痛めている。母を苦しみから解き放ってやるのだ。さあ、そなたらの母を殺せ。」
 ジョモドグニの息子たちは、父の残酷な命令を聞いて驚愕した。息子たちはひとりづつ命令されたが、実行しようとはしなかった。ジョモドグニは拝みながら言った。
 「そなたらが、我が命令を実行しないというなら、すべて獣になるが良い。」瞬く間に四人の息子たちは獣になってしまった。さあロモパラスが命令を受ける番だ。
 ジョモドグニは言った。「さあ、ロモパラスよ、父の命令を受け入れるか?」
 ロモパラスだけが頷いた。彼はすぐさま母の前に拝跪した。弓が引き絞られ、矢が放たれ、母の胸を貫く。地面に倒れ動かなくなった。流れる血が苦行所の床を濡らす。ロモパラスが父の前に拝跪すると、ジョモドグニは言った。
 「おお、ロモパラス。息子たちの中で、そなた一人が父の命令に服した。願いを五つ言うが良い。神の助けがあるであろう。」
 ロモバルゴウォは何を望んだのであろうか?物語は続く。

1976年8月22日 ユダ・ミング
by gatotkaca | 2013-04-01 00:29 | 影絵・ワヤン
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