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木から落ちた猿

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イスモヨ・トゥリウィクロモ その13

 バドロノヨとアルジュノの行方を探す、アルヨ・ガトコチョとアビマニュはそれぞれの道を行くこととした。アビマニュはガレン、ペトル、バゴンと共に街道に沿って追跡を開始した。ガトコチョの方は空を飛んで行くことにした。腰紐を引き締め、チャピン〈capin=被り物〉の紐を結び、クタン〈kutang=ベスト〉を引き締めると風が迸り出る。
 アルヨ・ガトコチョはアルヨ・ビモの次男であり、デウィ・アリムビ Arimbi の息子だ。デウィ・アリムビはラクササの国、プリンゴダニのトゥムブク Tembuku の息子、アリムボ Arimba 王の妹である。彼が産まれた時、困ったことが起こった。どんな武器を持ってしても臍の緒が切れないのである。ルシ・アビヨソはアルジュノに天界からスンジョト・クントを借りて来るよう命じた。神の持つ、スンジョト・クントだけがガトコチョの臍の緒を切る事が出来るのだ。
 しかしアルジュノは、ガトコチョの臍の緒を切ると称したアディパティ・カルノに先を越されてしまった。アルジュノはすぐさまアディパティ・カルノを追いかけ、途中でアルジュノとアディパティ・カルノのクントの取り合いとなった。奪い合いの結果アディパティ・カルノはクントの中身だけを、アルジュノはその鞘を持ち帰った。
 ガトコチョの産まれたクサトリアン・ジョディパティ Jodipati のアルヨ・ビモの館へ戻り、スンジョト・クントの鞘はルシ・アビヨソに委ねられた。こうしてその鞘で臍の緒は切られたのである。しかし臍の緒を切ると同時にスンジョト・クントの鞘は、がとこちょの臍の中に入ってしまった。その様を見て、スリ・クレスノは、いつの日か、アディパティ・カルノの手中にあるスンジョト・クントがガトコチョの運命を決するであろうと予言したのである。
 その時、天界からナロド Narada 神が到来し、全ては世界を統べる神ヒヤン・プンガトゥル・ドゥニアの思し召しであると伝えた。そして今や天界はこのガトコチョを必要としており、この赤子こそが天界を救う事の出来る者だと言った。
 かくて赤子のガトコチョはナロド神に連れられて天界へ昇り、地獄の火山『カワ・チョンドロディムコ Kawah Candradimuka 』に投げ入れられたのである。そして神々は様々な武器を火口に投げ込み、それらは赤子のガトコチョの身体と一体となり、彼は強靭な身体となった。赤子はすばやく成長し、ジョコ・トゥトゥコ Jaka Tetuka と名付けられた。彼には三種の護符〈jimat〉(宝具)が与えられた。チャピン・バスノンドは雨に濡れる事無く、陽の光に渇くことのない奇跡の力を持つ。クタン・オントクスモは臆病、恐怖、不安を取り除く奇跡の力を持つ。危険、神聖な場所、悪魔や精霊、魔神のいる場所、どんな所もガトコチョの足を止めることはできない。神から護符の全てを与えられ、ガトコチョは天界の敵、パティ・サキプ Sakip と戦うことを命じられた。ガトコチョは敵を斃し、天界の戦士、ジャゴニャ・カヤンガン Jagonya Kayangan となったのである……。
 今や彼は天に飛び立とうとし、その脚を左右に揺らし、足場にしている岩を打つ。飛び立つと同時に足場の岩は砕け散り、舞い上がる埃と風の轟がガトコチョの身体の軌跡を描く。大空へ至れば、彼は雲間に光る稲妻のようだ……。
 スマルの三人の息子、ガレン、ペトル、バゴンと共に陸路を行ったアビマニュは様々な困難に遭った。山に登り、山を下り、河を渡った。ジャングルを抜けて村に至り、村を出てまたジャングルに入った。昼も夜も休み無く旅を続けたのである。
 夜の闇が濃くなり、彼らは眠気に誘われ、仕方なく曇天の下、草に寝転んで休みを取った。木陰に身を寄せて彼らは雨を凌いだ。
 ある夕方、鬱蒼としたジャングルのある丘を前にして、彼らは仕方なく休む事にした。夜までに丘を越えられそうもなかったからである。休み支度を整えていると、突然の襲撃を受けた。ボゴドゥト国のラクササたちであった。彼らの後ろには、ラクササの軍隊が続き、アマルト周辺、ウィロト、ドゥウォロワティといった隣国の森林、丘陵地帯にも広がっているようだった。
 戦いは避けられなかった。彼らは同時に襲いかかって来たので、一つ一つ相手にする事も出来ず、父アルジュノから与えられた宝具たる矢、アルド・デダリ Harda Dedali を放つ以外に無かった。一瞬で多くのラクササが死に、生き残った者たちは慌てふためいて逃げ去っていった。
 森に潜む敵がどのくらいなのか不明であったので、アビマニュはその夜の内に丘に登り、森に入った。

(つづく)
by gatotkaca | 2012-07-11 00:04 | 影絵・ワヤン
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