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木から落ちた猿

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イスモヨ・トゥリウィクロモ その9

アルヨ・スマンの陰謀

 白昼夢に沈んでいたドゥルユドノの心にはすこしずつ恐怖が広がって来ていた。唐突に彼はアルヨ・サンクニの声で我に帰った。彼は謁見所にスラワティ王とボゴデゥト王と共に入って来たのである。パティ・アスティノの来訪に驚きながらも喜んだ。クロウォが唯一信頼できる、忠実なるパティこそ彼なのだ。
 「驚かせて申し訳ありません。私が急にやって来たのは、まずもってお知らせせねばならぬことがあるからなのです。」アルヨ・スマンは言い、話し始めた。「王にお知らせしなければならぬ、深刻な問題が起こりました。」
 「どれもこれも、もはや深刻な事態だ。今まさに深刻な事態が会議に起こったところだ」ドゥルユドノは言った。
 「会議で?」アルヨ・スマンが尋ねた。
 ドゥルユドノ王は今、会議で起こったばかりのアディパティ・カルノと長老たちの間での出来事を話した。
 ドゥルユドノ王の話を聞き、アルヨ・スマンは微笑んだ。「それについては、私がすでに予測していたこと。というのもそれこそ私の望んだことですから。」プロソ・ジュナルでの会議とそこで企まれた計画の全てが話された。プロソ・ジュナルでの結果をすべて話して、アルヨ・スマンはスロワティ王を呼び寄せ、トリガルト国に降り懸った事態を説明させた。
 「我々はバラタ・ユダに向けてある計画を進行中であったのですが、トリガルト国から使者が有り、ガルドパティ Gardapati 王の書簡が届けられました。それによると、ウィロトとドゥウォロワティの国境線に送っていたトリガルト軍が、ドゥウォロワティ軍によって壊滅したというのです。全ての役人と兵たちは捕らえられ、我らの知らぬところへ連れて行かれたとのことです。むろん、この戦いの知らせはトリガルトにも届き、見張りの兵士の幾人かを除けば、こちらの兵で戦死した者はいないとのこと。急襲と待ち伏せは未明に行われたようです。」そう言ってスロワティは報告を終えた。
 「で、どれくらい状況が展開したら、我らは行動するべきなのかな?叔父上。」ドゥルユドノが尋ねた。
 「ブリスロウォの報告によれば、トリガルト軍が攻撃を受けると同時に、ウィロト国の兵たちが水牛や牛などの家畜を放して、ウィロトとアスティノの国境線を越えたとのこと。ブリスロウォは抵抗しましたが、ウィロト側にはすでにドゥウォロワティ軍が配備されていてブリスロウォはウィロト軍と対峙することは出来ませんでした。」
 ドゥルユドノ王はパティ・アルヨ・スマンを信頼していた。サン・パティの報告した全ては信頼するに足るものであった。ウィロトは数千の家畜をもって攻撃を開始したということだ。ウィロトの家畜どもはブリスロウォに奪われ、アスティノに連れて来られていた。牧者たちは全滅し、一人として生き残った者はいなかった。
 しかしドゥルユドノはアルヨ・スマンの独断を承認した。アルヨ・スマンの真意が、パンダワを貶めることにあると分かっていたからである。すでに戦いの準備は始まっていたのである。さらにアルヨ・スマンは、パンダワが既に準備を整え、その全てはスリ・クレスノの計画した策略によるものであるとの噂を流していた。
 「おお、スリ・クレスノ。パンダワの後ろには彼がいる。アルジュノは義理の弟であり、アスティノの王位継承者の一人であるアビマニュもまた彼の甥だ。すべてはスリ・クレスノの手の内にあるというわけです。パンダワにアスティノ国を取り返してやるというスリ・クレスノの計画があるからといって、慌てることはありません。むろん、スリ・クレスノはバラタ・ユダでクロウォ壊滅のために立ち働くでしょうが、パンダワの勝利がすなわち、パンダワがアスティノの支配権を得ることにはならない。お忘れめさるな、スリ・クレスノにはアルヨ・ソムボがいる。彼はアスティノを手に入れることに関心があるはず……。」アルヨ・スマンの流した噂がアスティノ国中に広がり、パンダワに味方する国々にも広がる。パンダワのみならずドゥウォロワティもアルヨ・スマンの計画が進行していることを理解する。それゆえ、彼らはサンクニの計画に対して警戒を増し、関心を抱くことになる。
 サンクニはさらに準備した計画の説明を続けた。「クレスノ・グガの物語において、パンダワはスリ・クレスノを見方にすることに成功しました。結果としてアマルトはバラタ・ユダにおいてスリ・クレスノの指導のもとに戦うということになります。これらは我らにも分かっている。だが、スリ・クレスノの能力については未知数です。後のバラタ・ユダで彼はアマルト側の最高指導者となる。それについて彼はパンダワに条件と提案を出した。スリ・クレスノがその役割を引き受けパンダワの勝利を約束するにあたって、キ・ルラ・バドロノヨ Badranaya 、つまりスマルが共にあることです。スリ・クレスノがスマルを味方につけることに成功すれば、かならずやウィロト、ドゥウォロワティ、ポンチョ・ラディヨ、クンティボジョその他の国々もアマルト支援のため武器を取ることでしょう。彼らはスマルが何者であるかを知っているからです。彼こそ地上に降下したイスモヨ神の化身であり、世界の創造主、ヒヤン・ムンガトゥル・ジャガドの使者なのです。その役目は地上に安寧をもたらし、平和をもたらし、生の完全性を創り出すために人間を養育し、見守ることです。イスモヨがウィスヌの化身たるスリ・クレスノと共にあるならば、我々は二人の創造神と対抗することになります。」
 「スマルがスリ・クレスノの要求を拒むよう仕向けることはできないのかね?」ドゥルユドノが尋ねた。
 「難しいでしょう。スマルはアマルトを愛し、仕えていますし、神の化身として、パンダワの勝利を目指すスリ・クレスノの求めに応じるに違いありません。」サンクニが答えた。
 「スリ・クレスノの計画を妨害するのはどうでしょう。」スラワティ王が言った。
 「スリ・クレスノの計画を妨害するなら、バラタ・ユダにおいてスマルがスリ・クレスノの側にいないようにしなければならぬ。」アルヨ・スマンが答えた。
 「我らがスマルを消す、ということですか?」スラワティが続けた。
 「恐らく、それしか手は無い。」サンクニが言った。
 「スマルを消さぬ限り、我々に勝機はない、と?」ドゥルユドノが尋ねた。
 「すでに計画は万全です。スマルとは、彼の村、クラムピス・イルン Klampis Ireng で会うことになっております。スマルにクロウォの味方になってくれるよう、少なくとも中立を保ってくれるよう頼みます。これは一族間の紛争ですから。彼が拒むようなら、息の根を止めるしかありますまい。」アルヨ・スマンは答えた。
 「クロウォは何をすれば良い?」とドゥルユドノ。
 「何も。」アルヨ・スマンが言った。「スラワティ王の統べるボゴデゥト国、アルゴ・ダホノ Arga Dahana の苦行所にラクササのブラフマンがおります。ブガワン・サンディティヨ・パティSangditya Pati という者です。その苦行所に彼はディユ・サンカパティ Diyu Sangkapati という名の息子と暮らしている。そのブガワン・サンディティヨに手助けを頼みます。」
 「私がブガワン・サンディティヨに仕えることを、王はお許し下さいますように。それから、サン・ブガワンを説得するための書簡をご用意下さい。」スロワティ王が願い出た。
 アルヨ・スマンはアディパティ・カルノとクロウォたちと共にクラムピス・イルンへ出発し、スラワティ王はアルゴ・ダホノへ向かった。

(つづく)
by gatotkaca | 2012-07-07 12:42 | 影絵・ワヤン
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