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木から落ちた猿

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ペトル王になる その4

第四場

 プラブ・ベルグドゥウェルベ・トントンソットが玉座に座す。王妃や側室、女官たちにかこまれ嬉しそうである。突然、パティ・カネコルトノが三人の虜囚を連れてやって来る。

ベルグドゥウェルベ :どうしたパティ。マドゥラ王とアディパティ・カルノは捕らえたか?
カネコルトノ :はい、陛下。さらにもう一人、ラデン・ジョヨドロトも。この三人を陛下に。(虜囚たちを指しながら。)
ベルグドゥウェルベ :まずは試しに、この三人が降伏するか否かを聞いてみるか。
カネコルトノ :(虜囚たちに)お前たち、降伏するか、それともまだ戦うかね?
虜囚たち :我らは降伏いたします。
ベルグドゥウェルベ :ならばよろしい。パティ、この者たちに仕事を与えよ。プラブ・ボロデウォ、彼は年寄りだから監督を任せよう。カルノはきれいな姿をしておるから、書記官にするのが良いだろう。それとジョヨドロトは力持ちだから、井戸の水汲み人にするか。
カネコルトノ :結構でございます。陛下。

 突然、ラデン・ガトコチョが入って来て、王を攻撃しようとする。しかし、玉座の前で気絶して倒れる。列席する皆は驚く。

ベルグドゥウェルベ :皆の者、立て!〈mamak=家臣〉

 ラデン・ガトコチョも正気に戻り、わめきながら王に対峙する。

ベルグドゥウェルベ :パティ、こやつらを引き立てて仕事を与えておけ。
パティ ;かしこまりました、陛下。

 パティ・カネコルトノはラデン・ガトコチョと虜囚たちに仕事をさせるために連れて行こうとする。突然、ラデン・アルジュノと二人の息子、オンコウィジョヨ、イラワン、それからオントルジョ、ソムボ、アルヨ・スティヤキがベルグドゥウェルベの前に現れる。ウルクドロもいるが、彼は外に残っている。
 プラブ・ベルグドゥウェルベはやって来た者たちを歓迎する。そして、アスティノのプラブ・スユドノの兵たちすべてが同じ目的で来たが、ソニョウィボウォ王に降伏したと伝える。
 プラブ・ベルグドゥウェルベは喜んで客たちを迎え入れる。

ベルグドゥウェルベ :パティ!我が心は喜びで熱くなっておる。アスティノとパンダワの制圧が容易く実現したからだ。もはやわしの恐れるものはただひとつ。パティよ、十分に気を配り、見逃す出ないぞ。
カネコルトノ :陛下、お許しを!私はまだ陛下のお言葉を正しく理解できておりません。私に何をしろと?
ベルグドゥウェルベ :さようか、パティよ!戦場か街の門の外に、そなたの見張るべき者が二人おるのだ。一人は年寄りで、名はスマル。太って、目が赤く、露の滴るクンチュン〈kuncung=髷の一種〉をつけておる。
 そしてもう一人はもっと若いやつ、その名はノロガレン。背は低く、目は斜視だ。両腕は曲がって、右の脚は水虫でいっぱいだ。というのも跛で歩くからだ。この二人を見つけたら、放っておかずに街の中に入れるのだ。抵抗するようなら、無理矢理ひっ捕らえてくるのだ。
カネコルトノ :かしこまりました。陛下。

 幕。

第五幕
最後の戦い、そして秘密が明かされる


ダラン :ドロワティ国王、プラブ・クレスノは街の外のプサングラハン〈ゲストハウス〉で待っていた。 
 戦士たちは皆、プラブ・ベルグドゥウェルベに捕らえられてしまった。もう戦場を任せられる者はいない。ソニョウィボウォ王を敗り、捕らえるにはどうしたら良いのか、と作戦を練っている。かくて彼はスマルとノロガレンのもとへ赴くのである。

 幕が開く。

クレスノ :スマル兄よ!
スマル :はい、王様。
クレスノ :私の観たところ、この戦いを終わらせることのできるのは、スマル兄をおいて他にないと思うのだが。
スマル :本当ですか?王様。
クレスノ :そうだ。スマル兄に間違いない。
ノロガレン :(クレスノに)私が悪魔の子プラブ・トントンソットの相手をしてやってもいいですぜ。
クレスノ :それは本当か?ノロガレン。
ノロガレン :本当です、陛下。でもご褒美が欲しいな。
クレスノ :何が欲しいのかね、ノロガレン。
ノロガレン :もし私が敵を捕まえたら、外国へ行く費用をください。
クレスノ :何しに行くんだね?ノロガレン。話してごらん。
ノロガレン :外国で過ごす費用をもらったら、三ヶ月ほど休暇を頂きます。だって私はず〜っとアマルト国にお仕えしております。26年以上もね。
クレスノ :おお、そうか。それでその間何をするつもりかね?
ノロガレン :弟のペトルを探したいと思います。陛下。
クレスノ :おお、おお、なんて良い奴なんだ、ノロガレン。良い心がけだ。そなたは日々の使用人とはいえ、私がそなたの願いについては保証しよう。けれど、まずはソニョウィボウォ王を捕らえて、我が前に連れて来てくれ。
ノロガレン :かしこまりました。王様。

 クレスノ退場する。スマルとノロガレンはソニョウィボウォの人々に取り囲まれる。

ダラン :ノロガレンは身支度を整え(カインを捲し上げ)、スマルと二人で街に入って行った。道々、ノロガレンはトントンソット王に一騎打ちを呼びかけながら進む。大門の前に着くと、二人は見張り番に入ってはならないと咎められた。しかしノロガレンとスマルは力づくで押し入る。かくて激しい戦いとなった。ノロガレンとスマルは大暴れだ。二人は何かに取り憑かれたようだ。次々と衛兵が戦うが、誰も彼らを捕らえることはできなかった。ノロガレンは不死身だ。突き刺されても刺さらず、棍棒で打ち叩かれてもまるで痛さを感じないように見えた。ついに二人はソニョウィボウォの王宮前広場に至った。ノロガレンは挑戦の雄叫びをあげ、一騎打ちを挑んだ。「さあ、プラブ・トントンソット、化け物の王よ。はやく出て来い。このノロガレン・チョクロウォンソが相手だ!」

ダラン :ノロガレンの挑戦を耳にしたプラブ・ベルグドゥウェルベは、悲しい気持ちになった。しかし、彼が捕らえた王たちに、心の内を知られるのを恥じて、心中の秘密を隠し、言い放った。「そなたらはここに残っておれ。余があの猿めをひっ捕らえ、我が家で馬に番をさせて飼ってやる。」
 すぐさまプラブ・ベルグドゥウェルベは広場のノロガレンに近づいて行き、対峙するとこう言ったのである。

ベルグドゥウェルベ :おお、ご友人。国の法を破り、王を警護する警官たちを押しのけ、ここへ来た目的は何だ?
ノロガレン :あれあれ、検察官みたいな聞きようだな。お前は王だから、その権利はあるのかな。ならばよし。俺は被告人として話をつづけよう。よくよく注意して答えろよ。聞け!俺はノロガレン・チョクロウォンソ。キヤイ・ルラ・スマルの息子にして、ペトルの兄貴だ。ここへ来たのはお前を捕まえるためだ。お前は傲慢にも、偉大なる王となろうとした。さらに他の王たちを征服しようとして、捕まえた。しかし俺と我が父、つまり民草はお前に従わない。さあ、戦おうじゃないか。国と権力を持っていたいなら戦え。
ベルグドゥウェルベ :まあまあ、堪えて。そなたとそなたの父が私に従わないというのは、問題ない。こちらに住むというのなら、喜んで受け入れましょう。征服された者としてではなく、国の住民として。あなたはこの国で、満足のいく給金の仕事をすれば良い。それで良いでしょう?
ノロガレン :へん、無駄口叩くな。

 ベルグドゥウェルベを拳で殴りながら言う。ベルグドゥウェルベは、ノロガレンの前に倒れる。トルコ帽は落ち、地面に叩き付けられる。中に入っていたスラット・カリモソドが飛び出し、ベルグドゥウェルベ王のすべての超能力が消え失せる。

 スマルに衣装を剥がされ、ノロガレンはズボンと剣を剥ぎ取りながら、「さあ、あきらめるか、否か。今日悔い改める気が無いなら、俺が森の王様の捧げものにしてやる。」

 ベルグドゥウェルベは、いつものペトルに戻る。

ペトル :ごめんよ。おとっつあん許して。

 スマルは泣きながら息子を抱き、涙を止めて言う。「もう、みんな終わった。平和が戻ったんだよ。さあ、プラブ・バトロ・クレスノのところへ行こう。」

クレスノ :勝ちましたかな、スマル兄よ。
スマル :はい、王様。ソニョウィボウォ王、プラブ・ベルグドゥウェルベ・トントンソットは実は旦那さんに関係ない者ではなく、旦那さんの家来、つまりペトルだったのです。
アルジュノ :ペトル、そなたは本当に人を困らせる芝居がうまいな。
クレスノ :すんだことだ、弟よ。ペトルの軍はまだ注意が必要だぞ。
ウルクドロ :心配いらん、クレスノ兄よ。そいつは俺の仕事だ。

 王たちはスマル、ノロガレン、ペトルによって解放される。武将たちは敵の到来を迎え撃つ。
 間もなく両者は対峙し、かくて戦いとなる。パティ・カネコルトノはラデン・ウルクドロと戦い、コロドゥルゴはアルジュノと戦う。他の者たちはガトコチョが相手をする。パティ・カネコルトノはゴドで打たれる。その体は崩れ落ち、消え失せて、バトロ・ナロドに変わる。コロドゥルゴはアルジュノの矢を受けて死に、バトロ・グルとなる。

グル :ハイ、我が孫アルジュノ、クレスノよ!こちらへ。
クレスノ/アルジュノ :かしこまりました。ヒワン・プクルン(神への呼びかけ)。
グル :クレスノ、アルジュノよ。知られよ。このペトルの行いはすべて、我が意向、我が手によるものであったのだ。すべては彼への褒美として与えられたものであった。というのも、彼はカリモソドを守ったからである。よってそなたらは誤解してはならん。さて、さよならだ。我は天界へ戻るとしよう。
クレスノ/アルジュノ :我が敬意を。

ダラン :バトロ・グルとバトロ・ナロドが去り、プラブ・クレスノは食事と飲み物を揃え、祝いの宴を催す。アスティノ、マドゥラ、アマルトの王たちは集い、一族の者すべてが共に楽しむのである。

 終劇。
by gatotkaca | 2012-06-05 01:14 | 影絵・ワヤン
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