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木から落ちた猿

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カカウィン・アルジュノ・ウィウォホ その10

詩編24

1.  山の王〈シュメール山〉の南の麓に至り、スラーナタ〈インドラ〉は軍に停止を命じ、休ませた
   敵の火が明らかに山の周りに届いていたからである
   神々とアプサラたちに出会った者は皆あわてて逃げ去った
   彼らはラークシャサ軍に囚われ、食われ、略奪されるのを免れた者たちだった

2.  突然マニマンタカ王へ向けた斥候が激しく攻撃された
   逃げる者たちは追いかけられ、彼らは捕らえられた
   司令官はおらず、失神した彼らは武器を持たない案内と一緒だった
   それを見て驚いた者は撤退しながら防衛したが、ラークシャサの大群が押し寄せて来た
   スラーパティの軍は蟹の頭の陣形を取り強く繋がって敵を抑えた

3.  スラーナタ〈インドラ〉自身が主力部隊を率いて、中央で戦いを束ねた
   その〈蟹の頭の陣形の〉口の部分はダナンジャヤ王子だ、彼は戦いにおいて神々の頭領になったかのようだった
   その友、気高きチトララタは象に乗って、彼の戦車に近づいた
   象、馬そして戦車に乗った神々、徒歩の神々は皆彼のもとに参集し、その数、億に達した


4.  彼らは丘や渓谷に挟まれた平野の戦場に広がった
   水の少ない乾燥した砂漠の全体に、噴火する山から粉塵が向かい、岩石が漂う
   彼らの西側の渓谷を超えることができずに止まり、敵の前に待ち伏せる
   そこが防衛の最前線であり、彼らは低木に身を隠していた

詩編25

1.  サン・チトラーンガダとチトラセーナは山の麓に右翼となって展開した
   左側にはサン・ジャヤンタと強力な部隊が突き出るように布陣して、
   敵をしっかり捉えようと防衛の手を伸ばした
   危険を受け止め、突破出来ず破壊を受けぬよう、兵が堅固に固められた

2.  ラークシャサ軍が轟音と共に侵攻して来たのを見て、陣形が整えられた
   辺りを圧する歓声を発して、〈軍の〉轟は万の稲妻のようだ
   戦車は威容を示して止まること無く、馬はいななき、象が叫び、旗がはためく
   切り裂く剣先は火花を散らし、光を放つ

3.  武器が洪水のように溢れ、ラークシャサたちはあたかも沸騰して波立つ海のようであった
   大地が揺れ動き、裂け、崩壊し、振動するようだ
   太陽は暗く、世界は塵に曇り、大風が渦巻いて膨らむ
   聖なるメール山は崩壊し、海は荒れ、大地は呆然として崩れ落ちる

4.  ラークシャサたちは高潮のように押し寄せて戦い、一斉に大暴れし、危険を顧みない
   彼らは荒々しく攻め立て、激しく打ちつけて、暴れ続けた
   神々の軍も機敏に戦い、戦場の中央で拮抗した
   噴火する火山のように両軍は激突し、退く者はなかった

5.  もはや太鼓の音も聞こえなかった、罵り合う声で〈? geretak geretuk〉
   剣が打ち合い、象に向かって投げられる槍の音が鳴り響くゆえ
   敵の首を切る叫び、波のように押し寄せる援軍の轟で

6.  チャクラ〈円盤状の武器〉、矢、槍は使われなかった、というのも殺到した〈敵に〉妨げられたからである
   しかし剣と槍は使われ、クリスと短い槍で人々は突き刺された
   他の者は武器を忘れて噛み付き合い、ぶつかり合い、縛り合った
   窒息して死ぬ者多数、最後には短剣とクリスで首を落とされた

7.  両軍は何千人も互いの数を減らし、象や馬は億に至るまで減った
   槍を備えた美しい戦車は壊れ、折り重なり、崩れ、潰えた
   とうとう英雄たちは折り重なる死体の山の上で戦い始めた
   血の海を渡り、大混乱となり、激昂し、酔ったようになった

8.  シッダたちとルシたちは空から見物しようとしたが、怖くなり逃げ去った
   彼らは恐怖に目を閉じ耳を塞いだ
   上空に揺れ動き、炎を発してきらめくさまざまな武器で天空が焼かれたからである
   スーリヤの天界 Suryaloka は混乱し、太陽は消え失せ、寒くなった

9.  かく有様に、またこの時嵐が吹き下ろしラークシャサたちを打ちのめした
   攻撃されたことに気付かぬ者が山の裾野から闇雲に飛びかかられた
   サン・チトラーンガダとチトラセーナが侵入し、サン・ジャヤンタが追いかける
   アスラの軍の群れは狂乱し、混乱し、崩壊する

10.  多くの者が追い立てられ、取り囲まれて、大暴れし、激しく攻撃する者もあった
   逃げようと殺到したが、後ろが渓谷だったので、押し合いながら引き返して来た
   岸に立つ者たちは崩れ、叫びながら落ちていった
   サン・パールタとインドラ神が急襲したからである

11.  四人のマニマンタカの大臣たちのうち、二人は一緒に首をはねられた
   殺され、捕らえられたラークシャサの司令官たちは数えきれず、百万を超えた
   ビダダラの英雄たちはハヤブサのように攻撃する
   その時彼らはラークシャサの英雄たちのさらなる強さに驚愕する

12.  ラークシャサ王の侵攻に皆逃げ戻る
   彼の前にあるもの全てに向け、燃え盛る怒りが満ちていた
   彼は突如として現れ、攻撃し、世界を焼き尽くそうとする火のようであった
   アスラたちの多くが迅速に応え、敵は打ち砕かれ灰燼に帰した

詩編26

1.  アスラパティ〈ニヴァータカヴァチャ〉の侵攻で、神々の軍は狂乱し、死体が積み重なり、蹂躙された
   戦いに参加しようとする者は道を見つけられず、彼の前に立つ者はその強さに槍を投げ出して逃げまどう
   ヤマ〈死の神〉のごときラークシャサたちは頭を素早く回して、首を絞め、殴り掛かり、噛み付いた
   体中の毛と目から矢や棍棒といった武器が大量に飛び出し続けた

2.  像、戦車、馬も溶けて塵となり、戦うが敵わず、あたかも山に殴られたようであった
   神の軍はあわてて逃げ、散り散りとなり、恐怖に立ちすくむ者あり、慌てふためいて逃げ去る者もあった
   神々の王の軍の蟹の頭の陣形は崩れ去り、まずそのはさみが引きずられ混乱状態となった
   跪きながらサン・アルジュノの参戦を求め、軍の殿は撤退し、彼に望みを託した

詩編27

1.  王の息子〈アルジュナ〉は、しばしマントラを唱えて瞑想し、パシュパティーの矢を身に付けた
   突然武器を備えた七百万のラークシャサの姿をした炎が上がった
   彼らは矢の切っ先から完全に出て、波打ち、空に飛び上がった
   荒々しく取り囲み、ラークシャサたちと戦車の全てを焼き払った

2.  マニマンタカの聖なる王〈ニヴァータヴァチャ〉は、バタラ・バイラヴァ Bairawa 〈シヴァ〉の恩寵を求めて沈思した
   彼は全滅したラークシャサ軍の灰の真ん中に立ち、傷つかず、避けもしなかった
   彼が思念集中すると、突然その口からまた、さらに悪辣なラークシャサの軍が出現した
   整然と攻撃し、強力で、先に消された者たちより十倍の凄まじさであった

3.  同じ凄さと同じ恐ろしさの〈軍が〉四、五回同じように現れた
   先程使われたバタラ・シヴァの矢がサン・ニヴァータカヴァチャから放たれたトリプラ Teripura のサクササたちをその無限の力で殺した
   サン・アルジュナは〈ニヴァーヤカヴァチャの不死身の〉秘密を攻めようとした
   マニマンタカ王へのバタラ・イシュヴァラの恩寵を失せしめようと考えたのである 1)

1)つまり、マニマンタカ王の超能力を消すために彼を欺こうと考えたのである。

4.  神々の軍は震え、敵の偉大な超能力を見て死に物狂いで逃げた
   サン・パールタも撤退するふりをして、散り散りの軍の殿となった
   あたかも困惑し、逃げ延びようとしているふりをして、彼は力をためて戻り、囲まれ、攻撃を受けた
   目の前のラークシャサたちが矢、棍棒、チャクラ、そして槍を雨のように降らせた

5.  それは無謀な行いに見え、サン・ニヴァータカヴァチャは槍を取りながら、サン・アルジュナを左手の人差し指で指して言った
   「ちぃ、人間よ、高慢なるそなたは全世界の破壊者たるわしに対して無謀であった、
    我こそは大地の所有者、我こそは三界の主なるぞ、
    わしがそなたをナラカ〈nawaka =地獄〉に戻してやる!」彼は言った

6.  しかしパンドゥーの息子〈アルジュナ〉はすでに最強の矢を準備していた
   鋼鉄の矢、シ・プンキット・バダン si Pengkit Badan がその名である
   神への瞑想の祈りを捧げながら
   彼は槍に傷ついて戦車の中に倒れ伏しているふりをしていた
   マニマンタカの王は彼の消滅を願って侮蔑の呪いを叫んだ

7.  騙され欺かれた彼は、恩寵の場所を開いた
   無駄無く彼は射ち、サン・アルジュナによって、彼の口は最強の矢で一杯になり、彼は戦車に前のめりに倒れた
   尊大さが隙を作り、その隙が悪果を招いたのだ
   その超能力が消え失せ、この世にある全てのものと同様、死すべき者となったのである

(つづく)
by gatotkaca | 2012-04-16 23:01 | 影絵・ワヤン
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