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木から落ちた猿

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ビモ・スチ別ヴァージョン

「ビモ・スチ」のヴァージョンでエンシクロペディ版とスラット・プダランガン版は、ほぼ同じ内容だったのだが、チュムポロ版はかなり異なったプロットを採用しているので、参考までに下記に概説する。

ビモ・スチ Cempala版
 アスティノ国、プラブ・ドゥルユドノが家臣達と会議している。ビモはプダック・スミラットという庵にあり、ブガワン・ビモ・スチというプンデトとして暮らしている。彼は人生に幸福をもたらす、「魂の聖性」を全うするイルムを教えている、どうするべきかと。ワフユ・ヒダーヤト(Hidayat=手引き、指針)を手に入れ、これを解き明かすビモに教えを乞うのが良いとドゥルノがいう。しかし、スンクニは言う。コラワにとっての脅威である。ビモが弟子達を動員してコラワ殲滅を画するかもしれない。ビモのプンデトとしての活動を阻止し、滅するべきであると。ドゥルユドノはスンクニの意見をいれ、パデポアン・プダック・スミラットを攻撃することにした。
 一方、バタリ・ドゥルゴは神に拮抗しうる聖性を身につけたビモを滅するため、息子たちをパデポアン・プダック・スミラットに送る。
 プダック・スミラット山に集結したアスティノ軍を、ルシ・プラチョンドセトが迎え撃つ。カルノがルシ・プラチョンドセトを追いつめるが、アノマンが現れ、アスティノ軍は撃退される。
 アルジュノは祖父マハルシ・ウィヨソから、ビモを連れ戻すよう要請される。ウィヨソはいう。ビモにはクサトリアとしての使命がある。それは、パンダワ一族への責務である。デウィ・クンティはスンクニの皮で作った胸飾りを得るまでは胸当てをしないし、ドゥルパディは、ドゥルソソノの血で洗うまでは、その髪を結い上げることはない。これらはビモによって達成されなければならないのだ。ビモの本分はサトリヨであり、プンデトではない、と。プダック・スミラットへ向かうアルジュノはドゥルゴの息子たちを倒す。
 クルンドヨノの森にビモのアリ・アリ(胎盤)を守る黒いラクササがいた。バタリ・ドゥルゴは彼から、アリ・アリを奪い取る。バタリ・ドゥルゴがアリ・アリに生命の水、ティルト・パウィトロ をふりかけると、アリ・アリはビモと瓜二つの武将の姿となる。ドゥルゴは彼にビモ・トゥノヨの名を与え、プダック・スミラットに向かい、ビモに自分を森に打ち捨てておいた罪を問えと命じる。
パデポアン・プダック・スミラット。ブガワン・ビモ・スチが弟子たち「トゥンガル・バユ Tunggal Bayu 」に教えを説いている。弟子の顔ぶれは、アノマン、シトゥボンド象、ガルーダ・マハムビロ、ヤクソ・ジョヨウレクソである。ビモの教えは「スチ・ラハユ Suci Rahayu 」。人間のもつ五つの特性と、避けるべき六つの行為、日々行うべき八つの行為を説く。そこへビモ・トゥノヨがやって来る。ルシ・プラチョンドセト、ジョヨウレクソが迎え撃つが敗退し、ビモ・スチとビモ・トゥノヨの戦いとなる。両者の力は拮抗し、激しい戦いとなるが、ビモトゥノヨはビモスチのクク・ポンチョノコ(親指から生える長い爪)に指し貫かれる。ビモ・トゥノヨは元のアリ・アリに戻る。
 アルジュノとスマルがビモ・スチのもとへ現れ、ウィヨソの言葉を伝え、ビモを説得する。ビモは改心し、サトリヨの使命を全うするため山を下りる決意をする。プダック・スミラットはビモのアリ・アリ埋葬の地としてルシ・プラチョンドセトに託される。 
 かくてビモはアマルトに帰還し、パンダワ一族により祝福の宴が催される。(Cempala edisi:Bima 1996,Humas PEPADI Pusat ,Jakarta)

 前の2ヴァージョンでは、ビモが出家し、そのイルムを誇示することで、天界のブトロ・グルを動かす。ビモに降下したサン・ヒワン・ウェナンが、パンドゥたちの解放を約定させ、ビモは通常に戻る、という展開である。ビモがブガワンとなり出家する動機は、父たちの救済にあり、用が済めば通常に戻るつもりがある。
 このチュムポロ版では、ビモは自身の意思で出家しているようだ。アビヨソ(ウィヨソ)の反応などから察するに、ビモは出家して俗界と縁を切ろうとしているかのようである。そのビモをよってたかって、俗界へ戻し、バラタユダ(最後の大戦争)での仕事をさせようというわけである。個人的にはチュムポロ版(以下C版)のプロットの方が古態のように思える。「デウォ・ルチ」において覚醒したビモの聖性を強化しようとして、「ビモ・スチ」が作られ、C版のプロットが成立した。後にC版でのビモにある種の軟弱さを感じて、「パンドゥ・スワルゴ」の動機を取り込み、ビモの男振りを強化し直した、という成立順である。あくまで推定だが。
 ところで、C版で気になるのは、バタリ・ドゥルゴがビモと敵対するプロットが存するということである。おかげで、以前書いた「ドゥルゴ総論2011-07-23」を訂正するはめになった。
 ただ、ここでのドゥルゴの介入は、アルジュノへの敵対とは若干ニュアンスが異なるのではないかと思う。アルジュノを滅して、自身の息子デウォ・スラニをジャゴニン・デウォ(神の戦士)に据えたいという動機は、あくまでヒンドゥー世界内での敵役の範疇を出ない。C版「ビモ・スチ」でのドゥルゴの役割は、ビモがサトリヨの本分と責務(ヒンドゥー世界)を放棄してバラモンになろうとすることを止めることである。彼女は便宜上悪意を示すが、一族との絆を象徴するアリ・アリ(胎盤)をビモの分身として送り込み、彼をヒンドゥー世界に引き戻す。ビモの出家がイスラームの世界観を反映するともいえないが、少なくともワヤンの世界を崩壊させる契機にはなる(ビモが出家したままでは、お話にならないのである)。アルジュノへの敵対は、ワヤン世界のバランスを崩す契機として発動し、それが失敗に帰すことで世界が元の状態に収束する、というプロットである。それに対して、C版「ビモ・スチ」では世界のバランスを崩そうとするのは、ビモ自身の意思であり、ドゥルゴの介入と一族の説得で世界がもとにもどる。これは、本来的な意味での敵対とは異なると思うのだが、いかがなものだろう?
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by gatotkaca | 2011-07-26 08:35 | 影絵・ワヤン | Comments(0)

ワヤンでのバタリ・ドゥルゴ その2

 ワヤンの演目においてバタリ・ドゥルゴは、主にパンダワに対する敵対者、あるいは試練を与える者として登場する。彼女が直接手を下した場合は、スマルが神性啓示して撃退することが多く、ほとんどが同工異曲のチャランガンである。以下に、その1ではふれられていないドゥルゴの登場する演目の演目名(これが全てではもちろんない)と、その際の彼女の役どころを記す。なお、たびたび登場するデウォスラニ Dewasrani はドゥルゴの息子である。(父は判然としないが、バトロ・グルであるという説も有力である)

Yamawidura Krama ヨモウィドゥロの結婚
 デウィ・パドマリニをめぐるヨモウィドゥロとデウォスラニとの争い。破れたデウィスラニを救出する。
Parta Krama パルト・クロモ(アルジュノとスムボドロの結婚)
 スムボドロが出した六つの結婚の条件のうちのひとつ、「婚礼の行列を先導するための百頭の、脚先が白い大きな水牛」を借りる相手としてバタリ・ドゥルゴが登場する。(これには諸説あり、ドゥルゴではなくバトロ・ゴノ=ガネーシャの場合もある)
Wahuyu Cakraningrat ワフユ・チャクラニングラト
 天啓ワフユ・チャクラニングラトの争奪戦においてデウォスラニを援助する。
Semar Nbagung Klampis Ireng スマル、クラムピスイルンを建設する
 スマルが建設した街、クラムピス・イルンを破壊しようとするコラワに協力。スマルの超能力に敗れる。
Semar Maneges スマル瞑想に入る
 スマルが瞑想に入ったすきにパンダワを攻撃するコラワに助勢する。カルノの矢に変身し、アルジュノを打ち負かすが、スマルによって撃退される。
Bambang Manonbawa atau Bambang Manon Manonton
バムバン・マノンボウォ あるいは バムバン・マノン・マノントン
 クレスノに化け、パンダワに害をなそうとしたデウォスラニに加勢するが、スマルに撃退される。
Wisanggeni Lair ウィサングニの誕生
 アルジュノとデウィ・ドゥルソノロの結婚が語られる。この時、トゥングルマラヤの王デウォスラニもまたデウィ・ドゥルソノロとの結婚を望んでいた。
 息子の希望を叶えるため、バタリ・ドゥルゴはバトロ・グルに、デウォスラニがドゥルソノロと結婚できるようにと、そそのかした。バトロ・グルはこれを認め、ドゥルソノロの父、バトロ・ブロモに命じてデウィ・ドゥルソノロとアルジュノを別れさせた。
 妊娠中のデウィ・ドゥルソノロは、バトロ・ブロモによってデウォスラニに引き渡され、トゥングルマラヤへ連れて行かれた。デウィ・ドゥルソノロが出産した時、赤ん坊はチョンドロディムコの火口へ投げ捨てられた。しかし赤ん坊は死なず、その身体は超能力に溢れた武将となった。
 その赤ん坊はバンバン・ウィサングニと名付けられ、彼はデウィ・ドゥルソノロを再びアルジュノの妻とする事を成し遂げた。
Partanadi パルトナディ
 アルジュノに取って代わってティンジョモヨの王になりたいと望んだコロ・イロムボはバタリ・ドゥルゴの手助けを得る。
Baladewa-Balarama ボロデウォ・ボロロモ
 バタリ・ドゥルゴは三人の息子たちをスティヤキに、ブトロ・コロをボロデウォに変身させ、パンダワを混乱に陥らせるが、スマルが解決する。
Merak Mas 黄金の孔雀
 アスティノでブガワン・サブドジャティはパンダワ殺害を請け負う。スマルによってバタリ・ドゥルゴの正体を現す。
Sapu Denda サプ・ドゥンド
 バタリ・ドゥルゴは、ブロジョスクティとしてコラワに加勢する。スマルに敗れて正体を現す。
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by gatotkaca | 2011-07-16 00:02 | 影絵・ワヤン | Comments(0)