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木から落ちた猿

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ルワタン その2

準備と供物
 ルワタンの儀式には3種の準備がある。トゥウハン tuwuhan、アングロ nglo またプドゥパアン Pedupaan である。また、白いカイン、初おろしの五反の布、印を押した二束の米、木綿の糸、そして数種の供物もある。
 トゥウハンは、茎についたままで、葉もついた熟したピサン・ラジャ(バナナの一種)の房、若いクラパ・ガディン(ヤシの実)(cengkir)、根と葉のついたトゥブ・ウルン tebu wulung(tebu hitam) (森に自生する植物の一種)、ブリンギン(バニヤン、ガジュマル)の葉、エロelo(訳注:keloであれば豆科の植物)の葉、ダダップ dadap の葉、クルウィ(その実がナンカと似ている植物)の葉、アラン・アラン草の葉、マジャ(beal)の葉、カチャン・コロ(豆の一種)の葉を用意する。トゥウハンは、ジャワの風習に則った結婚の祝言におけるように、正門の左右に積まれる。
 彫琢を施されたピナンの若い花(スカル・ジャムベまたスカル・マヤンともいう)と共に、丈夫を刈り取られたクラパ・ガディンの未熟な実も用意される。ピナンの花はクリルの裏、左右に置かれる。
 ダランの傍らには、アングロ(火鉢)とプドゥパアン(香炉)が置かれ、キ・ダランは香炉からの芳香を上演の間中ふりまく。
 三メートル近い白布は、土台となるグドボの下に広げられ、その上にはバラの花がばらまかれる。キ・ダランは白い布の端に座り、もう一方の端には、ルワットを望む子どもが座る。
 食べ物のスサジ(供物)は、白米、ナシ・プナル(ナシ・クニン サフランで黄色く染めた米)、ナシ・ランギ(数種のおがずを乗せたご飯)、ナシ・ゴレン(焼き飯)、トムプン(米を円柱状にしたもの)・ロビョン、トゥムプン・クンディットである。また、お粥(ブブル)は、ブブル・プティ、ブブル・メラ、ブブル・メラ・プティ、ブブル・ボロボロ、そしてブブル・パランが用意される。
 他に生贄として鶏、アヒル、鳩も用意される。
 社会学研究者は、ルワタンの伝統は、ダランたちが民衆からの尊敬と必要性を確たるものとするためにあったと推測する。古い時代について述べているワヤンの歴史書によれば、ダランは、ルワタンの儀式を行う前に各々、超能力を有するとされる宮廷のダラン=キ・アグン・マスの許可を得なければならないとされている。

様々なマントラ(呪文)
 いくつかの共同体、とくにジャワ語圏では、バトロ・コロが危険で脅威を与える存在であると厚く信じられている。というのも、ルワタンの儀式は、頻繁とはいわないが、今もまだ確実に人々によって催されているからである。子どもをルワットする彼らは、憶えて、唱えられなければならない特別なマントラ(呪文)の恩恵と魔力を信じている。
 以下は、ルワタンの儀式におけるワヤン・クリ・プルウォで一般に使用されるマントラの幾つかである。

1.ラジャ・コロチョクロ Rajah Kalacakra
オウム……
ヨ モロジョ、ジョロモ ヨ
ヨ マラニ、ニロモ ヨ
ヨ シロポ、ポロシ ヨ
ヨ ミドゥル、ルドゥミ ヨ
ヨ ダユディ、ディユド ヨ
ヨ シホモ、モホシ ヨ
ヨ シヨチョ、チョヨシ ヨ
ヨ ミドソ、ソドミ ヨ
エエ カン グワサニ、トゥルコ シロ
エエ カン グルンチョノ、マリヨ シロ
エエ カン ニロコニ、イロゴ カルウィホニロ
エエ カン ガウェ ルウェ、アマルゴノ
エエ カン ガウェ ムララト、アニュギホノ
エエ カン ムガンギ、イロンゴ ククアタニロ
エエ カン ナンソヨ、アシホ シロ
エエ カン マライ ドソ、スミンキロ シロ
オウム……
アウィガン アストゥ

2.プルウォニン・ドゥマディ Perwaning Dumadi
(以下マントラそのものは略す)
3.マントゥラ・チョロコバリック Mantera Carakabalik
4.マントゥラ・サンティパルウォ Mantera Santiparwa
 マントゥラ・シンガ・シンガ Mantera Singgah-singgah
4.(*原文ママ)マントゥラ・サストロ・トゥラック Mantera Sastra Telak
 マンテゥラ・バニャ・ダラン
5.アジアン・バニャ・ダラン Ajian Banya Dalang

儀式の次第
 ある地域と他の地域では、時によりルワタンの儀式の次第は異なる。とはいえ、普通その違いは根本的なものではない。一般的には儀式の次第は以下のようである。

散水の儀式 Upacara Siraman
 キ・ダランの指図と指導で、母親が、ルワットされる子どもに水をふりかける。この儀式には、同じ園から採れた花を入れた水盤(貝殻を用いることもある)が使用される。そのあと子どもは、ジャワ伝統の着物を与えられ、導かれて両親、それから祖父母、ピニセプ pinisepuh(世話役)に拝跪(sungkem)する。

スサジとスラマタン(祭式と救済)
 キ・ダランは祈りを捧げながら、スサジの準備をし、救済の儀式が続く。時にはこのスラマタンはキ・ダランの近しい聖職者によることもある。スラマタンの儀式の中核は、子ども、両親、その一族に対するトゥハン・ヤン・マハ・エサ(唯一至高の神)からの祝福を乞うことにある。

サラナ sarana(?)の引き渡し
 ガムランがなり始め、上演が始まるとキ・ダランは、五つに切ったテブ・ウルン(赤サトウキビ)、21個のジャスミンの花、そして成長しはじめの椰子の芽ひとつを、子どもが両親に渡すよう指示する。代わりに両親は、子どもの衣服(洗ったもの)を、キ・ダランに差し出す。

ルワタンの演目の上演
 通常、ルワタンの儀式で上演される演目は三種類ある。ムルウォコロ、スドモロ、そしてバラタユダの演目である。この演目は子どものルワットの儀式で上演されるもので、流行とは関係ない。

断髪
 上演の中程で、キ・ダランは上演中の演目を中断する。両親は子どもを、キ・ダランの近くに案内する。キ・ダランの前で子どもはもう一度拝跪する。そしてキ・ダランは子どもを膝に抱き、母親が子どもの髪を少し切る。切り取られた髪はキ・ダランに差し出される。さらにキ・ダランは、切り取られた髪を、数時間前に受け取った子どもの衣服で包む。この包みは母親に戻され、翌日、土に埋められる、あるいは水に流される。彼らが会場の外に出たあと、キ・ダランは上演を最後まで続ける。

Tirakatan (眠ることの禁止)
 その日の夜、家族の全て、とりわけ両親と(ルワットされる)子どもは眠ることを禁じられる。その子どもは真夜中になるまで眠ってはならない。一方、その父と母は夜を徹して眠ってはならない。
 ふつう、この禁止は、ワヤン上演に対しても適用される。ダランは午後にルワタンを行うことができる。一般的な、若いクサトリアが、理想に達しようとする戦いを物語る演目が選ばれることもある。
 定められた演目での伝統的ルワタンは、ジャワの民衆、バリ、スンダ,西ジャワの民衆によってのみ行われる。西ジャワの地域ではルワタンはワヤン・ゴレ・プルウォ・スンダによって行われる。

 以上、エンシクロペディ・ワヤン・インドネシア セノワンギ刊 によった。
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by gatotkaca | 2011-07-22 00:02 | 影絵・ワヤン | Comments(0)

ルワタン その1

 数あるワヤンの演目でも、最重要なもののひとつが「ムルウォコロ」であるが、これを説明するにはまず、ルワタンRuwatan の説明が必要である。というわけで、以下ルワタンの説明がしばらく続く。
 例によってエンシクロペディ・ワヤンが一番まとまって説明しているので紹介しておく。

ルワタン Ruwatan

 ジャワ人、スンダ人、バリ人の間で著名な、厄除けの儀式のひとつ。この儀式は人や子どもが、バトロ・コロの脅威を避けることができるよう、ルワットされることを目的とする。通常、この儀式はワヤン・クリ・プルウォの演目「ムルウォコロ」の上演をおこなうことでなされる。

 ジャワの共同体においては、昔から、特定の人々の人生にはいつもバトロ・コロの脅威が影を落としてる。そのような人々はスクルト sukerta と呼ばれる。スクルトに属する人々とは、
1.オンタン・アンティン Ontang-anting 男でも女でも、一人っ子の子ども。
2.クドノ・クディニ Kedana-kedini ひとりが男でもう一人が女の兄弟
3.ウグル・ウグル・ラワン Uger-uger lawang 男の二人兄弟
4.ルムンティン Lumuntng 後産なしで生まれたこども
5.スンダン・カピ・パンチュラン Sendang kapit pancuran 上から男、女、男の兄弟
6.パンチュラン・カピ・スンダン Pancuran kapit sendang 4番の逆(女,男、女)
7.クムバン・スパサン Kembang sepasang 女二人の兄弟
8.サロムボ Saramba 全て男の四人兄弟
9.サリムピ Sarimpi 全て女の四人兄弟
10.パンドウォ Pandawa 全て男の五人兄弟
11パンダウィ Pandawi 全て女の五人兄弟
12.パンドウォ・イピル・イピル Pandawa ipil-ipil 男五人、女四人で末っ子が男
13.ジュルンプジュ Julungpujut 日没に生まれた子
14.ジュルンワンギ Julungwangi 日の出に生まれた子
15.ジュルンスンサン Julungsungsang 太陽が中天にある時に生まれた子
16.クムバル・ダムピ kembar dampit 男と女の双子
17.クムバル・ゴンダン・カシ Kembar gondang-kasih ひとりが白子(アルビノ)で生まれた双子
18.タワン・ガントゥガン Tawang gantungan 一日あるいはそれ以上の時間をあけて生まれた双子
19.ウンクス Wungkus 胞衣(えな)に包まれて生まれた赤ん坊(ビモのように)
20.ウンクル Wumgkul アリ・アリ(embingあるいはplasenta 後産)が無く生まれた赤ん坊
21.ティバ・サムピル Tiba sampr へその緒が首にからんで生まれた赤ん坊
22.ティバ・ウンクル Tiba ungker へその緒が身体(首ではない)に絡んで生まれた赤ん坊
23.ジュムピノ Jempina 7ヶ月かそれ以前で早産した赤ん坊
24.マルゴノ Margana 家でなく、道端で生まれた赤ん坊
25.スカル・スパサンSekar sepasang 全て女の二人子
26.飯炊きの道具ダンダンをひっくり返した者
27.日干ししている植物の種をひっくり返した者
28.米を炊いている最中、まだ炊きあがらないうちに出掛けた女
29.寝床のくぼみにごみを隠すのが好きな人
30.ガンディック ganghik (刻んだ石)を散らかす人
31.トゥトゥップ・ケオン tutup keong なしの家を建てた人
32.マルゴノ Margana 旅行先で生まれた子
33.ワホノ Wahana 庭で生まれた子
34..ジシム・ルラク Jisim lelaku ひとりで徒歩で遠出して、森やさびしい場所を通っている人
35.トゥノ・ボポ Tuna bapa 生まれたその日に親を亡くした子
36.マデ Made 御座を敷いていない木の寝台で生まれた子
37.クレスノ Kresna 父も母も黒い肌ではないのに、黒い肌で生まれた子
38.家の中で塩を撒いて捨てるのが好きな人
39.頬杖をつきながら入り口の敷居に座るのが好きな人
40.髪、毛、骨を焼くのが好きな人
 その他まだ多数ある。
 スクルトに属する人の数と種類は,広い範囲にわたる。パクム・パングルワタン・ムルウォ・コロの書によればスクルトの子どもの種類は60種を数える。16種のみと数えるものもあり、24種と数えるものもあり、39、36、40そして60種類というものもある。ラデン・ガブイ・ロンゴワルシト Raden Nabehi Rannggawarsita の表したスラット・プストコ・ロジョ・プルウォ Serat pustaka Raja Purwa の書によれば、136種類のスクルトの存在を数える。
 彼らはルワットされれば、バトロ・コロの脅威から免れる。彼らをルワットするための儀式こそがルワタンなのである。ある子どもがスクルトに属するとして、ルワットされることが無ければ、つねにバトロ・コロに餌食として狙われ続けることになる。
 ルワタンの儀式は、ひとりのルワタンのダランによって導かれる。通常彼は、年令を重ねた年長の高い教養を身につけた人である。様々な供物が供せられる他に、ルワットされる子どもはまず、儀式が行われる前に、花を浮かべた水で沐浴しなければならない。その後ルワットされる子どもは、純白の着物を着る。
 ルワタンのダランはかくてルワットされる子どもを養子としてとりあげ、バトロ・コロが近づこうとする気にならないようにするのである。
(つづく)
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by gatotkaca | 2011-07-21 00:23 | 影絵・ワヤン | Comments(0)