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木から落ちた猿

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スラカルタ・スタイルのワヤン・プルウォ 造形の側面からのレヴュー その3

 前回の続き。その3です。専門用語?が大量にでてきます。調べられたものは、回を改めて解説します(調べきれないものも多々ありそうですが……)。内容的には、それほどすごいことを言っているわけではないので、専門用語はあまり気にしなくても良いのではないでしょうか。

Ⅲ.ワヤン・プルウォ造形美術のコンセプトの発現

 ワヤン・クリ・プルウォ造形の要素は、素材(水牛の皮)、寸法、透かし彫り、装飾そしてガピット(支え棒)である。スラカルタにおいては、これらの要素で注目に値するものが多く数えられる。透かし彫りは完璧で、技巧と特徴的な美に満ちた装飾が加えられている(パダン=清潔、ウィジャン=助言、ングクル=巻き、レシック=清らか、スム=明らか、ウルット=厳格)。このような装飾は新たに考案され、確定した基準が備えられている。ワヤン・クリ・プルウォの造形美術の要素としてなされる全てを装飾で満たす試みは、物語に合致する人物像の外面/ヴィジュアルを生み出し、上演される物語の中でその人物に対する/内面の断片的雰囲気をも形成する。

 人間にのような状態/雰囲気が一つのワヤンの物語において生じ、またそれを経験するワヤンの人物像に対しても影響を与える。ポチョパン(ダランの語り)の声、クピヤ、ドドガン、スロ(スルク=ダランによる朗唱)、ガムランのグンディン(ガムラン音楽の形式の一つ)演奏を通して雰囲気が作られるとき、人物の内面の応答/態度がその状態/雰囲気に対応し、ワヤンの身体、手、顔の表情にリアリティが生まれる。ワヤンの身体と手の動き、顔の表情はワヤン造形美術の成果として生まれる。身体と手の動きは、そのように動かせば足るが、顔の表情はそうはいかない。それは、倫理的・審美的方法で、期待される雰囲気を真につくりだせるような特定の正確性が要求されるのである(訳注:ウド・ヌゴロとウド・ワドノ=Uda:水、Negara:国、状態、Wadana:顔 air muka:容貌・物腰。雰囲気、物腰といった意味なのであろうか?)。

 ワヤン・プルウォ造形における容姿のコンセプトはウォンドと呼ばれる用語で知られる。言い換えれば、ウォンドとは、ひとつのワヤンの人物の容貌のヴィジュアルのヴァリエーション(種類)であり、プルジュンガン(容姿に基づくキャラクターのヴジュアル)で示される。ある状態を特定し、その経験しているものを特定する(若さ、老い、怒り、寂しさ、喜び、安堵など)。スラカルタで注意深くなされたワヤン・プルウォ造形の生命力が、ワヤンの諸人物に定められたウォンドのヴァリエーションを作り出した。ワヤン上演におけるウォンドの創作と特定は、雰囲気をつくりだす真の助けとなり、人間の行為(素人の観客、造形美術による行為、上演者自身の技術)であることをまさにほとんど忘れるにいたることを明らかに否定できない。それによって、ウォンドに関して、スラカルタ・スタイルのワヤン・プルウォの造形美術の創意の一要素として、またその他の地域(ヨグヤカルタ、クドゥ、バニュマス他)のワヤン・プルウォの造形美術の成果を合わせることも忘れずに手短に再見してみよう。

 全てのワヤン・プルウォの造形にウォンドが考案されているわけではない。十数年にわたる造形美術製作の世界での格闘が、ウォンドの創案にたどり着いた。また「エムプ・ワヤン(ワヤン・マスター)」に属する者のみがワヤン・プルウォ造形美術に命を与える社会によって創意の成果が認識され得たのである。ク・エムプ・アンの語は、知識と行為のレベルの高さによるもの以外でなく、時には宮廷内での一族のメンバーのステイタスをも含む。希望が見い出されるのは封建的社会背景において、宮廷/王のサークルを指向する真の価値感を探索することにある。彼らが考案した作品に明らかなのは、大衆間におけるワヤン・プルウォ造形美術の担い手の作品の模範となることを意識している。

 ある種のウォンド考案はいくつかの要請によって生じる。たとえば
1.審美的課題
2.ある演目、あるいは特殊な場面との合致(新作の演目)
3.インスピレーション/シンボリズムの表明
4.ニティマンサ・日付/スンカラン・年号/クロノグラム
5.ワヤンのある「ひとり」の人物への贔屓
6.メディア批判や風刺(pasemon)

1.審美的課題
 この要請は外部(売り手)に由来するか、ワヤン造型師の個人的欲望による。その美的本能の感性によって既存のものから新しい創案が浮かび上がる。例として著者はかつてブン・カルノのために、ジャンカハン(バンバンガン)の足=開いた足のノロヨノを製作した。

2.特定のラコンへの合致
 当初ひとつのワヤン・クリのコタック(箱)にはアルジュノのワヤンはひとつであった。新しいラコン(演目)が追加されて(バク、チャランガン、チャランガン・ビナングン)、上演のラコン/場面に合致するようにアルジュノのワヤンの新ウォンドが作られた。例えば、ラコン「スサジ・ロジョスヨ」にはアルジュノのウォンド・マングが使われる。ラコン「イラワンの結婚」ではアルジュノはウォンド・ジマットが使用され、ラコン「バラタユダ」ではウォンド・キナンティのアルジュノが使用される。

3.インスピレーション/シンボリズムの表明
 あるワヤン製作のマスターがある人物のウォンドに新しいインスピレーションを得たとする。ただちにそのインスピレーションはスケッチ(チョレカン)で記録され、そしてワヤンの造形がなされるであろう。そのインスピレーションの刻まれた作品は、上演でそのワヤンが現れたとき、適切か否かが示される。買い手/パトロンに、新しいラコンや特殊な場面のために考案された、彼の見いだしたインスピレーションに基づいて作られた新しいウォンドが受け入れられるかも同様である。

4.日付/年号/クロノグラム
 ワヤンのウォンド作成や全体の造形は時々、ひとりの人生において重要と看做される出来事への注意を喚起するための崇高な日付を目的として作られる。例として、マタラム・セノパテンの時代サカ歴1541年に作られた、ルムブ・アンデニの図像をもたないブトロ・グルのウォンド・アルチャがある。その武器はシス型(Z型)で大地に雨を降らせる(パレマハン)。そのワヤンの造形はスンカラン・ムムットに語句が対応する。デウォ・ダディ・グチス・ブミ(訳注:1451、ひっくり返って1541年・サカ歴)である。別の例では、1552年に製作された、スナン・ハニャクワティ(セラ・クラピャック)財団のブト・チャキルがある。これは、タンガン・ヤクソ・サタニン・ジャルモ(訳注:各単語が一定の数字を示す。これで2551。ひっくり返してジャワの暦、サカ暦1552年を意味する。こういう表記の仕方をスンカラン Sengkalan という)である。等々。

5.贔屓
 ワヤン愛好家たちには、おおむね強烈に普通でなく贔屓のワヤンを持たなければ満足しない。であるから、お気に入りの人物のために幾種類ものウォンドを考案する。たとえば、ガトコチョ(ウォンド・グントゥル、w.グラップ、w.キラット、w.タティット)。ブン・カルノによって加えられたウォンドはw.グントゥル、グニ、w.グントゥル・プラホロ、そしてw.グントゥル・サムドロである。アルジュノ(w.ルントゥン、w.ムラシ、w.カニュット、w.マング、w.ジマット、w.キナンティ)。またプルマディはw.プガンテン、w.パチェル、w.プガウェがある。

6.メディア批判や風刺(pasemon)
 批判や風刺もまたワヤン・プルウォの造形美術に注ぎ込まれる。全体の造形においてもそのウォンド表現にもよく現れる。ペトル・ダディ・ラトゥ(王になったペトル)は王冠をかぶり、靴を履き、チンデ織りのズボンをはき、ドドトを巻き、鼻に指輪をつける。汚職官僚たちに対する、突然裕福になった者は、いつでもどこでもその腐りきった富をみせびらかすものであるという風刺である。1975年ジャカルタのワヤン博物館の入り口のマークにするため、著者はイッピー(反体制)気取りで将来を考えない若者たちに対する風刺として、バゴンのワヤンのウォンド・ブローンを考案した。

 あるタイプのウォンドの考案は一定の調整(構成)を組み込んで確定される。ワヤン・クリ・プルウォの造形美術において、あるワヤンの人物に基づく外形やキャラクターはいくつかのヴァリエーションを持った身体部位の形状や色で描かれる。例をあげてみよう。

a.目の形状
 ープレンガン、トゥンガ/クムバル……ラクササ(羅刹)
 ーテレンガン…………サトリヨ(武将)・ドゥガンガン/ガガハン(さっそうとした)
 ークデレン……………サトリヨ・グタパン(神経質・怒りっぽい)
 ークドンドンガン……ダグラン/コミカル
 ーガバハン/リイェパン……サトリヨ・アルサン(上品な)
 ートゥルバギ・ラギ・ムンジャディ(細め)………直線、葉のような、引っ掻き線、その他

b.鼻の形状
 ーニャンティック・プラウ(舟形)……ラクササ
 ーパンゴタン…………サトリヨ・ガガ
 ーワリ・ミリン………サトリヨ・アルサン
 ーネロン・グラティック……ノロ・ガレン
 ーニャムパラック……ペトル
 その他

c.唇の形状
 ーゲケット、ームレングス、ーンドンゴス、ーダミス、ーグサン、その他
(訳注:この辺りは、回を改めて図解をしめすつもりです。)

 その他、キャラクターを特定するもの
 ークミリンガン・プンダック(肩の傾斜角度)、ーブントゥック・プルット(腹の形状)、ージャンカハン・カキ(脚の開き)、ーブントゥック・トゥラパック・タンガン(手の形)、ー肩と首の位置、ー身体の太り/やせ具合、ー顔の色、その他

 各々のワヤンの人物には基本となるひとつの性格がある。この性格に基づいて、各種のウォンドが作られ、状況に応じた精神的コンディション(悲しみ、寂しさ、安堵、自立、恋、その他)、物理的コンディション(老い、若さ、病、その他)に合わせて用いられる。ウォンド考案のために「スブトゥル」(仔細な)変形が施される。目に、鼻に、唇に、肩その他に、しかしキャラクターの卵焼きにはならぬように。顔の彩色のニュアンスは特にあるタイプのウォンドを作る際におおいに助けとなる。また、服の色は望まれるウォンドにサジェスションを加えるだろう。実際のウォンドの作成処理はその理論を書面で記すことは困難である。内面的取り組み、成熟度、藝術的才能/感性、技術と運命、それらが重要な要因となって、調和したひとつのウォンドの創造に影響を与えるのである。これはウォンド作成が感性の問題であることを意味する。感性は、各々の個性に従って相対的/主観的なものを作る。とりあえずこのページに示した図を例にとって、幾何学的測定法の助けを借りてウォンド作成の解説を試みてみたい。

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ワヤン・ウルクドロ・ウォンド:グルナットのスケッチ

 ウォンド・グルナットのウルクドロのワヤンのスケッチに中線/シンメトリー線を胴体から各部位へ引く(頭、首、肩、胸、臀部、前後の脚)。10本の直線(AB、BC、CD、DE、EF、FG、DH、HI、IJ、GJ)と10の角度(B、C1、C2、D1、D2、E、F、H、I、J)が得られる。特定の角度を拡張/縮小する、あるいは特定の線を伸張/短縮すると、特定の新しい印象を得ることが出来る。

 例えば、ウォンド・リンタン(若い)のウルクドロのワヤンのスケッチを、先のスケッチ(グルナット=老い、寂しさ)から作るには、頭の位置を保ったまま角度Bを広げ、肩の傾きを少し減らしてみる。同様に線HIを特定の境界線まで伸ばし、後ろの脚を伸ばす(逃げるときのような印象に)。そのようにして、目指した印象が得られるまで続けるのである。ウルクドロのワヤンには五つのタイプのウォンドが知られている。すなわち、1).w.リンドゥ(颯爽としているとき、元気なとき)、2).w.グルナット(老いたとき、寂しげなとき)、3)w.リンタン(若いとき、行動的なとき)、4).w.ミミス(旅にあるとき)5)w.バムバンガン(成人したばかり、ブロトセノの時が終わったとき)である。ウォンド・リンタン、ミミスとバムバンガンでは、時々身体の色が黒く塗られる。

(つづく:次回で終わります)
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by gatotkaca | 2011-08-25 00:48 | 影絵・ワヤン | Comments(0)