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木から落ちた猿

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ガレン王になる

 前回の段階では、あまり詳しいことが分からなかった「ガレン王になる=バドゥル・バン・シシク・クンチョノ Bader Bang Sisik Kencana(Gareng dadi ratu)」について、やや詳しい物語を紹介してくれているサイトを見つけたのでお知らせします。
"Gareng menjadi raja"
Ki Sukma Ningrat - Padepokan Sabdo Langit
http://sabdolangit-wartabahagia.blogspot.jp/2012/04/gareng-menjadi-raja.html

 以下、そこで紹介されている内容を訳してかかげます。
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ジョクジャ・スタイルのパンドゥ・プラゴロ(王様ガレン)

 デウィ・ウォロ・スムボドロとマンドゥウロ国の屋敷で結婚して一月、ラデン・アルジュノはマドゥコロの庭園から出なかった。ジャワ大地の女神 babon ratu Tanah Jawa 、デウィ・ウィドワティの化身、ロロ・イルン(スムボドロ)と愛の日々をおくっていたのである。
 その愛の交わりにおいてラデン・アルジュノはデウィ・ウォロ・スムボドロの子宮に愛の種を授けた。三月たって、デウィ・ウォロ・スムボドロに妊娠の兆候があらわれた。その時デウィ・ウォロ・スムボドロはバドゥル・バン・シシク・クンチョノ badher bang sisik kencana (金の鱗の赤い魚)が欲しいと言った。そこで、サン・アルジュノとスマル、ガレン、ペトル、バゴンは連れ立ってセン・デウィの望みのものを見つけるためにカサトリアン・マドゥコロから出立した。目指すは波の荒れ狂う南海の岸である。
 ラデン・アルジュノが出発した夜、トゥルベロ・スケット Trebela Suket 国の王、プラブ・パンドゥ・プルグロ Pandu Pregula がマドゥコロの女の館に侵入した。デウィ・ウォロ・スムボドロを誘拐し、自身の妃とするためである。デウィ・ウォロ・スムボドロが消えて、アマルト国は混乱した。妊娠三ヶ月の身であるサン・デウィがどこに行ったのか、跡をたどることのできる者は、クサトリアにもパンダワの息子たちにも一人もいなかった。
****
 満月の下、南海の岸辺の輝く石の上で、ラデン・アルジュノは瞑想していた。遠くで話し込んでいたスマル、ガレン、ペトル、バゴンたちは知らなかったが、バトロ・ナロドがカヤンガン・ジュングリン・サロコから降下し、ラデン・アルジュノに絹糸でできた網を与えた。
 「プクルン(神への敬称)・カネコ・プトロ(ナロド)よ……。」ラデン・アルジュノは砂浜に頭を下げて訪ねた。「この絹糸の網は何のためのものでありましょう?」
 「では教えよう、アルジュノよ!この網はニニ(スムボドロ)の望むワデル・バン・シシック・クンチョノを捕らえるためのものなのだ。」バトロ・ナロドは一息ついてから言った。
 「神のご忠告を承ります。心にとどめおき、忘れぬようにいたします。」
 「されば、私は天界へ帰るとしよう。」
 「我が敬意を捧げます、神よ。」
 バトロ・ナロドは帰り、ラデン・アルジュノは小屋の下でまだお喋りしていたポノカワンたちを呼び、絹糸の網に触ってはならない、と言った。アルジュノは眠気におそわれ、明け方まで輝く石に寄りかかって目を閉じた。
 ぐっすり眠ってしまったアルジュノを見て、ガレン、ペトル、バゴンはふざけて言いつけを破って、絹糸の網を浜辺へ持って行った。ペトルとバゴンは何度もその網を広げたが、一匹の魚も捕れなかった。しかしガレンがそれを広げると、ペトルとバゴンは目を見張った。というのも、魚は捕れなかったが、人が捕れたからである。その人は背が高く大きくて網を破るほど力がつよく、また海の底へ潜ってしまった。網の糸が切られてしまったのを見て、ガレンはすすり泣いた。
 「なんで泣いてるのレン?」
 「見てよ、トル!網の糸がいっぱい切れちゃったよ。」
 「こいつは運命だ。」バゴンが答えた。「お前はアルジュノの旦那に、死を持って罪の許しを乞わなきゃならん。」
 「助けてよ、父さん」ガレンはスマルに頼みこんだ。
 「アルジュノさまに許しを乞うのだ」
 「これは運命なのだ、レン!」目を覚ましたラデン・アルジュノはポノカワンたちに近づいて来た。「お前は進んで死を受け入れ、罪をあがなわなければならん!」
 「ご主人、プルマディさま。」スマルはラデン・アルジュノに懇願した。
 「どうすれば我が子、ガレンをお許しいただけるでしょうか?」
 「だめだ、スマル兄よ。これはナロド神よりのお言葉なのだ。この絹糸の網を破った者は誰あろうと死なねばならぬ、とな。」
 「かしおまりました、旦那さん。」ガレンは頬に涙を流しながら、「わたしは喜んで死にましょう。スマル父さん、ペトル、バゴン、さよならだ。俺が死んだら、嫁さんと子どもたちをよろしく頼む!」
 彼は言葉も無く、スマル、ペトル、バゴンと見やり、その顔には悲しみが満ちていた。すぐさまガレンは海に飛び込み、荒れ狂う波に飲まれ、もう浮かんでこなかった。
***
 海の魚たちはジェヌjenu(毒魚の薬)を使ったときのようにびっくりした。ノロ・ガレンの屍骸は南海の波にもまれて漂った。それを見た海の神、サン・ヒワン・バルノはその身体を海底から弾ませて、ノロ・ガレンの屍骸を掴んだ。
 海面に運び、その力でノロ・ガレンを生き返らせたのである。
 「あなたはサン・ヒワン・ヨモディパティですか?あの魂を引き抜くという神の。」
 「いいや、ノロ・ガレン。私はサン・ヒワン・バルノ。教えてやろう。我らはまだ騒々しい下界におるのだ。ここは魂の世界(アラム・ワリカン alam walikan)ではないよ。」
 「どうしてあなたは私を生き返らせたのですか?」
 「まだ死ぬときではないぞ、ノロ・ガレン。というのも、あの絹糸の網を破ったのは、トゥルベロ・スケット国のプラブ・パンドゥ・プルグロなのだ。」
 「パンドゥ・プルグロは何のために海底に潜って行ったのです?」
 「あの王は、ニニ・ロロ・イルン(スムボドロ)の望みを叶えて、彼女を妃にしたいのだ。バドゥル・バン・シシク・クンチョノをな。」
 「畜生!パンドゥ・プルグロめ!人妻と結婚したがるとは!」
 「呪うだけでは足りぬ!そなたはパンドゥ・プルグロの王の装束を着るがよい!そして、あの王が海から上がって来たときに、そなたの鎌を使って殺すのだ。その鎌はただの鎌ではない。カヤンガン・ジョン・ギリ・サロコ Jong Giri Saloka のプソコ(宝物)として超能力を持つ鎌だ。思い出せ、そなたもまた神の後裔であることを!」
 「御意、おお神よ。」
 サン・ヒワン・バルノが去ると、プラブ・パンドゥ・プルグロが海の中から現れた。一言も無く、トゥルベロ・スケット国王の衣装を着たノロ・ガレンは鎌を投げつけた。王の首が飛んだ。その首は胴体から切り離され、南海の波間に飲まれた。その屍骸は魚のえさとなったのである。
***
 女の館。デウィ・ウォロ・スムボドロは武器を携えた兵団に見張られていた。王が現れたのを見た兵たちは女の館を去った。
 「サン・プラブ・パンドゥ・プルグロよ、なぜこんなに早く戻ったのです?」ウォロ・スムボドロは頬を熱い涙で濡らしたままだった。「バドゥル・バン・シシク・クンチョノは見つかったのですか?」
 「わたしは本当のパンドゥ・プルグロではありません、グスティ・アユ。ご主人。」
 「あなたは誰?」
 「私です。ワタシ。ノロ・ガレンですよ。」
 「トゥルベロ・スケットの宮廷に何をしにきたのです?」
 「わたしはグスティ・アユをトゥルベロ・スケット国からお助けしたいのです。マドゥコロへお帰りいただくために。」
 「外で見張っている兵たちに、あなたがパンドゥ・プルグロではないとばれたらどうするのです?とても危ないわ!」
 「兵たちにはばれませんよ、グスティ・アユ。もっともらしい理由をつけて、カサトリアン・マドゥコロへ出発いたしましょう。」
 「どんな理由です?」
 「トゥルベロ・スケットの兵たちと一緒に、カサトリアン・マドゥコロを攻め、アマルト国をプラブ・ダルモ・クスモ(プントデウォ)から奪いましょう。わたしの計画はどうです?グスティ・アユ。」
 「いいでしょう。いつ出発します?」
 「今ですよ!」
 大勢の兵が武器を携え、馬に乗る。ノロ・ガレンとデウィ・ウォロ・スムボドロは馬車に乗ってトゥルベロ・スケット国を出発する。風と競うかのような速さだ。カサトリアン・マドゥコロまではまだ遠い。
***
 アマルト国の国境へ着くと、トゥルベロ・スケットの軍はラデン・アルジュノと三人のポノカワンたちに対峙した。デウィ・ウォロ・スムボドロがプラブ・パンドゥ・プルグロの衣装を着たノロ・ガレンと一緒に馬車に乗っているのを見て、ラデン・アルジュノの血は泡立った。「おい、王よ!今日の太陽をまだ見たいなら、車から降りよ!」
 「何と高慢なるかな、ジャノコよ!わしと戦え!そなたの妻、ディアジェン(di ajeng=女性への敬称)・ロロ・イルン(スムボドロ)を望むならな。」
 怒髪天を突き、ラデン・アルジュノはノロ・ガレンの胸をソロトモの矢で射た。矢が届く前にノロ・ガレンは車から降り、矢を掴み取った。神たる力を発現して、ラデン・アルジュノの頭に触れた。マドゥコロのクサトリア(アルジュノ)は綿の布のように地面に倒れた。
 主人のありさまを見て、ペトルはアマルトの王宮へ駈けて行った。途中でペトルはプラブ・クレスノ、ラデン・スティヤキ、ラデン・ガトコチョと出会った。ドロワティ王(クレスノ)に、ペトルはラデン・アルジュノのありさまを伝えた。ペトルの知らせを聞き、ラデン・スティヤキはプラブ・パンドゥ・プルグロ、実はノロ・ガレンを探しに行った。
 「ヘイ、コンチョヌゴロ!」プラブ・クレスノはプリンゴダニのサトリヨ(ガトコチョ)を遮って言った。「そなたはどこへ行くのかね?」
 「スティヤキ叔父について行くのです。叔母スムボドロを叔父アルジュノから奪ったパンドゥ・プルゴロを打ちのめしに行くのです。」
 「ならぬ!彼はそなたの敵ではない。そなたは伯父王(プントデウォ)のもとへ行き、私の言葉を伝えよ。私もすぐに馳せ参じるとな!」
 ラデン・ガトコチョが行くと、プラブ・クレスノとペトルは空に飛び、ラデン・スティヤキのあとを追った。ラデン・スティヤキも義理の弟(アルジュノ)と同様のありさまであった。スマルとバゴンの前にぐったり倒れていたのである。すぐさまプラブ・クレスノはウィジョヨ・クスモの花をアルジュノとスティヤキの頭にあてた。ふたりのクサトリアの身体は回復した。
 「クレスノ様……。」
 「やあ、スマル兄よ。」
 「プラブ・パンドゥ・プルグロを負かすことはできないのですか?」
 「天の上にはまた天がある。兄よ、パンダワのクサトリアにはあの王を負かすことの出来る者はおるまいよ。」
 「では、誰であれば彼を負かすことができるのでしょう?」
 「そなたの二人の息子、ペトルとバゴンだ。」
 スマルの指示を待たずに、ペトルとバゴンはすぐに馬車に向かって行った。デウィ・ウォロ・スムボドロのそばに座るパンドゥ・プルグロのところである。不遜なパンドゥ・プルグロを見て、彼らはその王を車から引きずり降ろした。踏みつけられて、王はノロ・ガレンの姿に戻った。
 「ごめんよ、トル!ごめんよ、ゴン!」
 「なんだってこんなことしたんだい、兄貴?」
 「こうやって、おいらはグスティ・アユ、ウォロ・スムボドロをトゥルベロ・スケット国から取り返して来たんだよ。いいか、グスティ・アユはプラブ・パンドゥ・プルグロにさらわれたんだ。絹糸の網を破いたあいつさ。」
 ペトルとバゴンの聞いたノロ・ガレンの話は、プラブ・クレスノがラデン・ジャノコ、スティヤキ、そしてスマルに伝えられた。ノロ・ガレンはプラブ・クレスノから罪を問われることなく、逆に褒美としてバティックを授けられた。
 デウィ・ウォロ・スムボドロとプラブ・クレスノと共にラデン・アルジュノとスマルはアマルトの王宮へ向かい、ラデン・スティヤキはノロ・ガレン、ペトル、バゴンの手を借りてトゥルベロ・スケットの軍を迎え撃った。ウシ・クニン wesi kuning のゴド(棍棒)の超能力で、トゥルベロ・スケット軍は撃退された。
***
 プラブ・プントデウォはパンダワ一族とポノカワンたちに対面した。バトロ・ウィスヌの化身、プラブ・クレスノはデウィ・ウォロ・スムボドロと並んで座るラデン・アルジュノに説明した。「知られよ、アルジュノよ。そなたの妻が求めたバドゥル・バン・シシク・クンチョノとは、南海に住まう魚などではないのだ。妻にとって愛の宝玉は海に例えられる。時として激しい波や嵐にもさらされる。あるいはまた青みがかった穏やかさで目も眩むほど輝くのだ。」
 ラデン・アルジュノが言葉を発しようと唇を動かそうとした時、一人の兵士が突然伺候し、トゥルベロ・スケット国からの敵がアマルトに来襲したと伝えた。プラブ・パンドゥ・プルグロが死んだことを知ったその兄弟、親族たちである。
 兵士の報告を聞き、ラデン・ウルクドロとラデン・ガトコチョ、スティヤキはプラブ・プントデウォにあいさつし、敵を迎え撃って素晴らしい働きをした。日をおかず、アマルトのクサトリアたちは敵を征した。アマルトに平和が戻り、すべての民に喜びが満ちた。

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 さて上記物語において登場するバドゥル・バン・シシク・クンチョノ、そしてジョロストロ jalasutra (絹糸でできた網)に関しては、ある伝承があり、スリムルヨ Srimulyo、 ピユンガン Piyungan、バントゥル Bantul といった村々で今も行われているジョロストロ・クパタン Jalasutro Kupatanという儀式の由来となっている。この儀式はイスラム伝道の9人の使徒、ワリ・ソゴのひとりスナン・カリジョゴの弟子、スナン・グスン Sunan Geseng を讃えて、彼の墓に神輿(?)を担いで行進して行く、というものらしい。その伝承を以下に紹介する。

 「パンゲラン・セド・クラピャ Pangeran Seda Krapyak〈後のハニャクロワティ、マタラム第二代国王(即位年1601-1613)〉 王子の妃が妊娠した時、ある淡水魚を欲しがった。それはバドゥル・バン・シシク・クンチョノ、赤い色で、金の鱗を持ったバドゥルという魚のことである。
 妃の望みを知って、パンゲラン・セド・クラピャは文官や兵士たちすべてに探すよう命じた。しかし家臣たちは誰もバドゥル・バン・シシク・クンチョノを見つけられなかった。そんな魚を見たことがなかったからである。とうとうパンゲラン・セド・クラピャはサユムボロ〈競技〉を催すことにした……。
 スナン・グスン Sunan Geseng 〈スナン・カリジョゴ Sunan Kalijaga の弟子〉はその魚を見つけることを承知した。しかしスナン・グスンは魚探しに条件を出した。それは、バドゥル・バン・シシク・クンチョノを捕まえるために、絹糸で作った網〈網=jala、絹=sutra〉を用意してほしい、というものだった。その魚は絹の網でしか捕まえられない、というのである。
 希望は受け入れられ、その村にジョロストロ Jalasutra 〈絹の網〉という名が与えられた。そしてバドゥル・バン・シシク・クンチョノという魚を捕らえた湖はスガラン Segaran と名付けられた。
 スナン・グスンはバドゥル・バン・シシク・クンチョノを捕まえることに成功し、王の師、宮廷の顧問としての地位を与えられた。けれどスナン・グスンは王宮の外で暮らし続けた。」

 この伝承では件のお魚は淡水魚ということらしい。「ガレン王になる」の物語でも「不思議な魚」と妊娠、それを捕らえるための「絹の網」というモティーフがそのまま取り込まれている。ここではガレンに、スナン・グスンが投影されているのである。スリ・ムルヨノの「スマルとは何者か Apa dan Siapa Semaru 」でも指摘されていたポノカワンとイスラム伝道の関係を示す一例といえるだろう。
 また、ここでは「魚探し」は愛情表現の韜晦として示され、アルジュノはそれを理解できずに出奔するという展開になっているが、この「愛の表現」を誤解して主人公たちが離れるというモティーフは、ジャワで著名な「パンジ物語」でも形を変えて繰り返し現れるものである。ジャワ式「君恋し」パターンといえるだろう。
 「ガレン王になる」はなかなか良くできた物語、少なくとも「ペトル王になる」よりもラコン自体の出来は良いように私は思う。
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by gatotkaca | 2012-06-12 16:56 | 影絵・ワヤン | Comments(0)