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木から落ちた猿

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サティー(妻の殉死) インドからインドネシアヘ その2

(承前)

インドネシア古典文学における完全なる貞節(サティヤ)

 (女性/妻にとって)サティヤになるということは、社会に生きる女性の役割として何世紀にも渡って物語や詩、芸能/演劇によって強化され継承されて来たイデオロギーである。
 物語世界のイマジネーションの中では、愛とは完全なるものであり、パートナーとは不可分なものであることを望まれる。愛し合う者は来世においても共に生きるのである。
 インドネシアの古典的な物語は人間(女性)に強い愛情と過剰なまでの追悼の感情を織り込んでいる。
 文化は、女性に終生の貞節〈サティヤ〉を守る価値観を『放射』することに成功し、女たちは愛する人、愛する夫とつねに共にあるために、刃で自決したり、火の中に飛び込んだりするのである。
 そうすることによって、別離は解消され、パートナーとの永遠の一体化と幸福をもって〈物語〉が終わるのだ。
 サティヤの実行は、インドネシアの女性がサティヤ(貞節)であることを証明する、社会のみならず、(一定の時代の)広い環境が肯定する行為であり、女性(自身)によっても正しい行為として信じられ、承認されていたのである。
 あたかも女の赤ん坊が産まれた時、彼女の魂には夫への貞節が刷り込まれ、来世へと歩んで行くかのように。

カカウィン・ラマヤナ Kakawin Ramayana(9世紀)

 カカウィン・ラマヤナの中で、ラーヴァナ Rawana がシーター Sita にラーマ Rama が死んだと言って、彼女を騙そうとする話が描かれている。シーターはラーマとの別れを思い、ラーマの後を追って自らを火に焼くよう求めた。
 しかし、トリジャタ Trijata (シーターと共にいた羅刹女)がラーマとラクシュマナ Laksmana が生きている事を知らせたので止めることができた。
 シーターが自決しようとする話は一度にとどまらない。二度目のシーターの自決の物語(詩編21.1ー21.48)はラーマとラクササ〈羅刹〉軍の戦闘中に起こった(この物語はジャワ起源のものであり、マハーバーラタ〈ラーマーヤナの誤りか?:訳者〉(バッティカヴィヤ Bhattikavya )とは関係がない)。
 その時、シーターはラーマが戦死したと思った。かくて彼女は(二度目の)火葬の準備をした。しかし父(ヴィビシャーナ Wibhisana )からラーマが生きているとの報告を得たトリジャタが止めたのである。

カカウィン・バラタユダ(1157年)ムプ・スダ Mpu Sedah 、ムプ・パヌル Mpu Panuluh 著、ジョヨボヨ Jayabhaya 王時代 1135〜1157年

 カカウィン・バラタユダには、貞節を証すサティヤな女性が3人登場する。クシティ・スンダリ 〈シティスンダリ〉Ksiti Sundari 、サティヤワティ Satyawati 、そしてスガンディカ Sugandhika である。*バラタユダとはマハーバーラタの最後に行われるパンダワ一族とコラワ一族の大戦争のこと。

1. 戦死したアビマニュ Abimanyu の後を追うクシティ・スンダリの死の物語は、ムプ・スダ(カカウィン・バラタユダの最初の著者)によって書かれ、最愛の夫との別離に際しての妻の『心を和らげるための、定められた行為の典型』と看做されている。死によっても彼女の貞節と愛情を分つことは出来ず、かくてクシティ・スンダリは夫の遺骸と共に生きながら火に入るのである。

2. パンダワとコラワの戦争の物語の中で、ムプ・パヌルは、横たわる死体の山の中、最愛の夫サルヤの遺体の前でクリスで自決するサティヤワティの死を描いた。ムプ・パヌルは夫を追って死を選ぶサティヤワティを通して、夫への貞節を完成させた女性の姿を描いたのである。

3. サティヤワティの忠実な女官、スガンディカはサティヤワティの胸に刺さったクリスに誘われ、主人の後を追って自らを刺した。このサティヤの行為は古代ジャワ語ではmabela(bela なる行為=忠節)と称される。mabela ( membela )の語はまたしばしば王や国を護るために戦場で斃れる者たちにも使われる。

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火葬の薪に飛び込むクシティ・スンダリ。『バラタユダ』の一場面。クシティ・スンダリには3人の侍女、パン・センテン Pan Senteng 、ナン・クリチュル Nang Klicur 、イ・ムレダ I Mredah が付き従う。場面右で泣いているのはイ・パドマ I Padma 。(Van der Tuuk collection, Leiden University Library Cod. Or 3390-147. 19世紀後半、バドゥン Badung のバリ絵画。作者不詳。バリ島南部(Hinzler 1986:229-30)。

 
カカウィン・ハリワンサ Kakawin Hariwangsa 〈ハリヴァンシャ=クリシュナの生涯〉(12世紀)、ムプ・パヌル著、ジョヨボヨ王時代 1135〜1157年

 12世紀のルクミニ Rukmini の物語は、インドでも伝統的に知られているクリシュナ〈クレスナ〉・ルクミニーの物語の古代ジャワ語版である。彼女もまた夫のいない一人の人生を見出すことは出来ない。
 ムプ・パヌルは、夫クレスナの死を聞いた際のルクミニを描いている。心は粉々となり、クリスを手に取って、ルクミニは死の世界の夫を追って自決しようとする。
 しかしその時クレスナが現れ、愛する人の手にあるクリスを見て、それを奪い取り、ルクミニの自決を止めるのである。クレスナのルクミニへの情熱的な愛の言葉でルクミニの悲しみは癒され、かくて彼らは愛に満ちた美しい一夜を過ごすのである(ハリワンサ 46.1ー50.9)

カカウィン・スマラダハナ Kakawin Smaradahana (13世紀)、ムプ・ダルマジャ Mpu Dharmaja 著、カメスワラ Kameswara 時代 1182〜1185年

 この物語でムプ・ダルマジャは、シワ神によって焼き殺されたカマ Kama (スマラ Smara 〈ワヤンにおける愛の神コモジョヨ〉)の死を聞いたラティ Ratih の悲しみを描いている。
 『心が粉々となり、ラティは夫を死にいたらしめた神々へ怒りの声をあげた。
 かくて彼女は二人の侍女、ナンダ Nanda とスナンダ Sunanda を連れて、カマの遺体を探すためメール山へいそいだ。しかしカマの死んだ場所を見つけた時、そこにあるのは灰と煙だけであった。
 嘆き悲しんで、ラティはカマがふたたび天界へもどれますようにと祈った。ラティの嘆きを聞き、シワは憐れみを感じて燃え上がる炎をとどけた。ラティは炎の中に身を投げ、忠実な二人の侍女たちナンダとスナンダも後を追って忠義の道(bela:mabela )を為したのである。』

カカウィン・スマナサンタカ Kakawin Sumanasantaka (13世紀)、ムプ・モナグナ Mpu Monaguna 著、ワルサジャヤ時代 1204年

 ムプ・モナグナは、夫の死に殉ずる王妃クルタケシカ Krthakesika の貞節を描いている。彼らの娘インドゥマティ Indumati もサティアを行った。インドゥマティの侍女ジャヤワスパ Jayawaspa は主人の死を追ってマベラ mabela (忠義を示す殉死)をした。
 カカウィン・スマナサンタカには女たちの死に関しての詳細な描写は無いが、古代ジャワの詩人たちの著作では、殉死の場面はポピュラーなものとして何世紀にもわたって描かれて来たのである。

カカウィン・スタソーマ Kakawin Sutasoma (14世紀)、ムプ・タントゥラル Mpu Tantural 著、ラナマンガラ Ranamanggala 時代 1367年

 ムプ・タントゥラルはジャヤウィクラマ Jayawikrama の戦死に嘆き悲しむマルンマワティ Marmmawati を描いている。
 『泣きながら彼女は経巡り、殺された夫を探して泣き叫ぶ、たくさんの女たちの中をかき分け、クリスを自らに突き刺してたおれている女たちの遺体につまづいた。
 もしジャヤウィクラマの遺体が見つからなかったなら、マルンマワティは彼の怒りを受けているとしか考えられない。大声をあげてマルンマワティは夫を呼ぶ。死を持って貞節を示そうとする妻から身を隠すのか、と恨みの声をあげるのである。
 死体の山に隠れることで奇跡的に死を免れた従者のひとりが、マルンマワティの嘆きの声を聞き、彼女の前に現れ、ジャヤウィクラマの遺体が見つからないわけを説明した。
 ジャヤウィクラマ王の偉大な力が、彼の体から巨大な炎を噴き出させ、王はすぐさま灰となったのであった。かくてマルンマワティはクリスを高々と掲げ、その胸に突き刺した。
 鮮血が天にほとばしり、血の臭いは花々の芳香にかわる。かくてそのかんばせを血で洗い、心強く恐れを知らぬマルンマワティは夫に対して拝跪し、灼熱の炎の中に飛び込んだのである。』

カカウィン・アルジュナウィジャヤ Kakawin Arjunawijaya (14世紀)、ムプ・タントゥラル著、ラナマンガラ時代 1367年

 ムプ・タントゥラルのサティヤたる女性の二つめのものは、チトラワティ Citrawati の物語である。彼女はマヒスパティ Mahispati の支配者、アルジュナ・サハスラバフ Arjuna Sahasrabahu の妃である。夫が死んだと誤解し、彼女はクリスで胸を突いて自決する。しかし川の女神ナルマダ Narmada の手助けで蘇生し、夫と再会するのである。

カカウィン・シワラトリカルパ Kakawin Siwaratrikalpa (15世紀)、ムプ・タナクン Mpu Tanakung 著、スラプラバワ Suraprabhawa 時代 1466〜1478年

 カカウィン・シワラトリカルパの物語は、モジャパイト王国終焉の十数年間を扱う。他のカカウィンではサティヤの役割を担うのはたいがい貴族の娘であるが、カカウィン・シワラトリカルパでは低カーストの女たちのサティヤの例を描いている。
 狩人ルブダカ Lubdhaka が病で死んだ時、自分と二人の子を残していったことを妻は嘆いた。彼女に残された道は、今夫のいるところへ自身もついて行くことだけであった。

キドゥン・ランガ・ラウェ Kidung Rannga Lawe 、1540年

 キドゥン・ランガ・ラウェはハルサウィジャヤ Harsawijaya 王に反乱して敗れたランガ・ラウェの物語である。ランガ・ラウェが殺された時、妻たちのすべては、王に許しを乞い、夫の遺体の前で自決した。

キドゥン・スンダ Kidung Sunda 16世紀

 キドゥン・スンダはモジョパイト王ハヤム・ウルク Hayam Wuruk とスンダ王の娘ディヤ・ピタロカ Dyah Pitaloka の結婚が画策された事件を語る。大きな戦いでスンダ王が戦死した際、妃と娘たちは殉死の用意をした。
 ディヤ・ピタロカは自決を恐れて臆しいることをハヤム・ウルクの陣営に知られ、王妃は戦場で死ぬよりも、すぐさま自決するべきであると彼女を促した。王女が殉死(mabela)すると王妃と王女の妹、家臣の娘たちのすべては戦場へ向かい、各々の夫の遺体の上で自決して果てたのである。

キドゥン・ワンバン・ウィデヤ Kidung Wangbang Wideya 、1765年

 このバリのキドゥンでは、ワンバン・ウィデヤ王子の経験談として、夫の死を追うラトゥ・ラセム Ratu Lasem 王妃の(生きながらの)火葬の儀式が語られている。自決の儀式を準備する4人の女たちの中でも、ラトゥ・ラセムが最も美しく荘厳であったという。
 「白装束に身を包み、車に乗って、サン・ラトゥ〈王妃〉は火葬の場へ向かった。それから彼女は戦死した夫の遺体の前で跪いた。抜き身のクリスで髪を解く。それはもはやこの世に縛られない事の証である。そして彼女は胸を刺し貫く。胸から鮮血がほとばしり彼女のかんばせと唇を濡らす。王妃は夫に対する敬意をかたちにしたのである。
 彼女は忘れることのないヨーガの行をおこない、夫の顔のところまで体を曲げ、ゆっくりと火葬の火の中で焼かれていく。つづいて3人の女たちも炎の中にまっすぐに飛び込んだ。列席したすべての者たちは夫への貞節を示した女たちを称賛したが、ワンバン・ウィデヤ王子は女たちの強靭な心のありようを見て身震いし、ショックをうけて心が張り裂けそうだった。」

 おとぎ話や伝説が娯楽とされているヨーロッパの文学世界における物語や伝説とは異なり、インドネシアの諸島では、カカウィンやキドゥンといった文学はひじょうに重要な意味合いを担っている。そのテキスト構成には、神聖にして難解な宗教的意味合いが読み込まれているのである。
 カカウィンやキドゥンは(当時の)社会のすべての階層、とりわけ女性にとっての行動規範としての機能を担っていた。当時、サティヤなる女性とは夫への貞節を完成させた女のことであり、これを行う事が幸福であったのだ。殉死は再び夫と一体化し永遠を得ることであったのである。
 当時はあきらかに未亡人となった女が生き続ける事はひじょうに困難であった。無益な者とされるのみならず追放され、子供達と共に生きる事ができないリスクを負わなければならない。夫のいない『新しい』人生を生きることは困難であり、しばしば儀式における生贄となる道を選ぶこともある。
 しかし無益な者とされ、追放されても、殉死の儀式を拒否した女性がまったく存在しなかったわけではない。実人生においても、また古典の物語においても、サティヤと呼ばれる女たちの歴史的記録がある一方で、火にはいることもクリスで自決することもせず生き残った者たちもいるのである。
 トメ・ピレス Tome Pires は孤独の中で余生を生きた女性たちの事実の記録(1515年)を残している。
 「結婚せず処女(のまま)のジャワの女性の多くは山頂や森の奥深くに暮らし、その人生を終える。
 いっぽう、夫の火葬の際に殉死しなかった女たちは、社会生活から隠遁し、殉死の儀式を行わなかった他の女たちどうしで集まり、ふつうの生活区域から離れたところで隔離された生活を営んでいる。
 普通の生活から隠遁した女たちはジャワでは数十万人以上あると言われており、社会的な関係も断ち、家族とのコミュニケーションをとることもなく、清浄な生活を営み、孤独に死んで行くのである。」
 キドゥンやカカウィンの物語の中でも、実際の生活におけるのと同様のことが書かれており、そこでは生き続ける事を選んだ女たちは、清浄で孤独な生活を続けるのである。
 カカウィン・クレスナーンタカ Kakawin Krsnantaka 〈クリシュナの死〉(18世紀)によれば、クレスナの死に際して、妃たちは火葬の火の中に身を投じて殉死するが、『殉死』する強さと勇気を持ち得なかった者たちは、普通の世界から隠遁し、隔離された場で残りの人生を過ごしたという。

 「勇気を持ち貞節をしめした女たちの死にざまは語らぬこととしよう。
  かたや生きるつづけることを選んだ女たちは
  森の中に隠遁した。
  樹の皮でできた衣服を身に着け
  賢者の生活に倣った。
  聖なる教えを守って生きるゆえ
  彼女たちはサティヤなる者と呼ばれるのである。」
  (カカウィン・クレスナーンタカ 23.2)

書籍
•Ahmad, Nehaluddin “Sati Tradition - Widow Burning in India: A Socio-legal Examination”, 2009.
•Creese, H, “Ultimate loyalties. The self-immolation of women in Java and Bali”, in: Bijdragen tot de Taal-, Land- en Volkenkunde, Old Javanese texts and culture 157 (2001), no: 1, Leiden, p.131-166.
•Geertz, Clifford, “Negara: The Theatre State in Nineteenth-Century Bali”, Princeton University Press, Princeton, New Jersey, 1980, p. 98-101.
•Hallstrom, Lisa Lassell, “Mother of bliss: ?nandamay? M? (1896-1982)”, Oxford University Press, 1999, p. 56.
 
画像元
•Creese, H, “Ultimate loyalties. The self-immolation of women in Java and Bali”, in: Bijdragen tot de Taal-, Land- en Volkenkunde, Old Javanese texts and culture 157 (2001), no: 1, Leiden, p.132, 145.
•Frontline, "Sati' and the verdict", Volume 21 - Issue 05, February 28 - March 12, 2004 India's National Magazine, www.thehindu.com.
•Wikimedia Commons, PD-ART. 
India, Himachal Pradesh, Kangra, South Asia from LACMA. Shiva Carrying Sati on His Trident, circa 1800 Painting; Watercolor, Opaque watercolor and gold on paper, 11 1/2 x 16 in. (29.21 x 40.64 cm) Made in: India, Himachal Pradesh, Kangra Purchased with funds provided by Dorothy and Richard Sherwood, Mr. Carl Holmes, William Randolph Hearst Collection, and Mr. Rexford Stead (79.1).
•Wikimedia Commons, PD-OLD.
The Bride Throws Herself on Her Husband's Funeral Pyre. Persian, Safavid period, first half 17th century. Attributed to Muhammad Qasim.
 
(おわり)
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 殉死としてのサティーは今日のジェンダー・バイアス(今日でもバイアスは存在する)から見れば、非道徳的な行為に見えるが、上記本文にもあるように当時のイデオロギーの中ではひとつの「救い」でもあった。さらに殉死を選ばない道も存在し、彼女たちの「疎外された孤独な生活」は、単に被差別的境遇と断ずることはできず、ヒンドゥー・ブッダのイデオロギー内では解脱・涅槃を目指す苦行者の生活でもあり、彼女たちには悟りへの道が開かれていたとも解し得るのである。それゆえ、この隠遁の生活を選ぶ事もまた、ひとつのサティアとして認識されているのだと言えよう。
 現代のワヤン上演でも、たとえばスティヨワティ(スティヤワティ)とスガンディニ(スガンディカ)がサルヨ(サルヤ)王を追って殉死する場面は、美しい名場面として認識されている。過去のイデオロギーを盾にとった偏見・差別の肯定は論外としても、古典・演劇に内包される過去のイデオロギーを現代的視点から断罪するのもまた狭量といえるだろう。
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by gatotkaca | 2013-01-16 17:49 | 影絵・ワヤン | Comments(0)

サティー(妻の殉死) インドからインドネシアヘ その1

 インドにはサティーと呼ばれる風習がある。これは夫の死に対して妻が殉死するという風習で、夫の亡骸の燃える火葬の炎の中に、妻が生きながら(!)飛び込んで殉死するという壮絶なものである。下記の記事にあるように現代でも行われることがある。持参金がらみで焼かれる花嫁や、集団暴行を受けて自殺する女性の問題などインドにおける女性問題は根の深いものであると言えよう。インドネシアにもこの風習は伝わっていたようで、現代でこそ行われることはないようだが、カカウィンやキドゥンといった古典文学ではサティア(サティー)が重要な場面としてしばしば現れる。サティアというものを知っておくのもインドネシア古典文学理解には重要であろうと思われる。
 下記の記事がサティー(サティア)の実体と、インドネシア古典文学でのサティアの例をあげ、わかりやすく解説してくれているので紹介する。

元記事はここ

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スティア Setia と女性ーー紀元前500年から2008年の記録

アリタ・CH Arita-CH

『その悲しみにもはや耐えきれず、この先に待つことは何もないかのように、ただちに、彼女(サティヤワティ Satyawati )は死への身支度を整えた。手にしたクリス(短剣)が引き抜かれ、鞘から現れた刃は白い光を放つ。かくて恐れることなく、その刃に身を突き刺すと、赤き香油のごとき鮮血がほとばしる。』
(カカウィン・バラタユダ 45. 1-45)

 ジャワの古の物語『カカウィン・バラタユダ Kakawin Bharatayuddha 』(1157年、ムプ・スダ Mpu Sedah 作)において、サルヤ Salya(サルヤパティ Salyapati )王に嫁いだ、ラクササ(羅刹)僧ルシ・バガスパティ Resi Bagaspati の一人娘、プジャワティ Pujawati 〈スティヤワティ(サティヤワティ)〉の有様はこのように語られる。サルヤは若き日の名をナラソマ〈ノロソモ〉 Narasoma といい、彼はラクササの息子となることを恥じた。夫の心が沈み込んでいることを知り、プジャワティはそのことを父ルシ・バガスパティに伝えた。かくて娘は、父をとるか夫をとるかという二者択一を迫られたのである。父と夫、どちらを選ぶのか。プジャワティは愛する夫、サルヤを選んだのである。その選択を父ルシ・バガスパティは誇りとして、彼女の名をプジャワティからスティヤワティに改めたのであった。サティヤ Satiya (スティヤ Setiya)とは、『the true or loyal one (誠実、また忠実なる者)』を意味する。(『カカウィン・ラマヤナ Kakawin Ramayana 17,62、『カカウィン・バラタユダ』46,1、『カカウィン・スマラダハナ Kakawin Smaradahana 』20,4)

サティヤ(スティア Setia )

 サティヤとはジャワ古語に見られる言葉で、インドのサンスクリット語サティー Sati の形容詞形であり、(誓いを立てた一人の夫(王)に対して)誠実、貞節、忠実であること、高潔、善なることを意味する。サティヤ(スティヤ)という語のより詳しい意味を探るため、まずはサティーという言葉の意味を調べてみよう。

サティー

 インドにおけるサティー Sati の語はデヴィー・サティー Dewi Sati の物語に由来し、この女神は別名ダクシャーヤニー Dakshayani としても知られている。デヴィー・サティー、またダクシャーヤニーは彼女の父ダクシャ Daksha の夫のシヴァ Shiva への侮蔑に耐えきれず、燃え盛る火の中に身を投じて犠牲となったことで知られている。自らを焼き、死んだあと、ダクシャーヤニーは山の王ヒマワン Himawan の娘、パールヴァーティー Parvati として生まれ変わり、再びシヴァの妃となった。

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三叉鉾をもつシヴァ神(1800年頃)


 デヴィー・サティーの、夫シヴァに対する完璧なる貞節の物語は、しばしばインドにおけるサティーの習俗を正当化するために引き合いに出される。このサティーという習俗は、夫の死に際して、その火葬の火の中に生きている妻が最後の忠節の証として自らを犠牲にするものである。

サンスクリット文学における2種のサティー

1. サハマラナ Sahamarana 、サハガマナ Sahamagana 、あるいはアンヴァロハナ Anvarohana
  夫人が、夫の死体を焼く火葬の火の中に木の杭に自らを縛って共に火に焼かれて死ぬこと。
2. アヌマラナ Anumarana
  夫は先に火葬にふされ、妻はその後別の場所で火に入る。時には夫の形見や遺灰などを持って火に入る。
 一方、戦争などの際には、敗北した王や王子の妃は敵の手に落ちることのないように自決(ジャウハル Jauhar )する。ジャウハルはラージプート Rajput の貴族の間で広く行われた慣習である。

スワーミ Swaami (スアミ suami 〈夫〉)とサティヤ(スティヤ)

 インドでは、配偶者に対する女性の貞節の形式が何世紀にもわたって継続され、刷り込まれている。インドでは叙事詩の世紀(紀元前500年から西暦500年頃)に、ダルマシャーストラ Dharmashastra と呼ばれる法に関する書物や、(ダルマ dharma 〈法〉に則った)正しい行動に関する論説が成立し、ブラフマンの男性たちによって設定された宗教的基準として人の行動を規定してきた。
 ダルマシャーストラには、ストリーダルマ Stridharma というイデオロギーが記され、このイデオロギーは妻の善なる生き方を定めており、妻の一人の夫に対する貞節が求められている。
 ストリーダルマのイデオロギーでは、夫にとって女性はある種の『神』であり、サンスクリット語においては、スワーミー Swaami (suami) の語は妻にとって文字通り『神、あるいは師』を意味する。理念的には、ひとりの妻の生の幸福とは、夫を満足させることにあり、また妻にとって懸念すべきは夫に対する献身が不完全・不徹底であることなのだ。
 献身とは、死によっても分つことのできない貞節を示すことなのである。結婚生活における妻の最高の献身の表明は、インドではサティーという形で表されるのである。

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夫の火葬の炎の中に身を投ずる花嫁。17世紀前半、ペルシア、サファヴィー朝時代。(ムハンマッド・カシム所蔵)

インドにおける女性とサティー

 自己犠牲としてのサティーの習俗が、インドを起源として他の文化圏にも取り入れられたものであるという確証は無い。インドでの女性の自己犠牲に関する最古の記録は、アレキサンダー大王のインダス遠征に随行したギリシアの歴史家、カッサンドリア Cassanderia のアリストブルス Aristobulus が紀元前326年に記したものである。彼はタキシラ Taxila (現在のパキスタン地域)の街で、女性が自己犠牲を行う習俗を目撃したと記している。
 インドの歴史書や、サティーの習俗を内包する文学作品の多くは、他国の人々の興味を惹くこととなった。18世紀末から19世紀の初頭、英国の植民地時代には、サティーについて書かれた書物から直接エキゾティックな物語が発展したが、サティーの習俗は非難されることとなった。
 1829年、英国政府のインド総督ベンティンク Bentinck 卿(1828〜1835年在職)はサティーの習俗を禁止し、20世紀に入ってからの1987年のサティー(禁止)法によって強化された。とはいえ、実質的な法規制にもかかわらず、この習俗は21世紀にいたるもまだ続いている。2008年10月13日のチェチャル Chechar 村の事件の報道では、ラルマティー・ヴェルマ Lalmati Verma という名の71歳になる未亡人が、夫のシヴァンダン・ヴェルマ Shivandan Verma の火葬の火の中に入ったという。

20・21世紀のサティーの記録

日付        名前               年齢
1987年9月4日   ループ・カンワール Roop Kanwar  18歳
2002年8月     クットゥ・バーイ Kuttu Bai   65歳
2006年       ヴィディヤワティー Vidyawati  35際
2006年8月     ジャーナクラニー Janakrani   40歳
2008年10月13日  ラルマティー Lalmati       71歳
 

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結婚式後のループ・カンワールと夫


サティーとサティヤ、インドからインドネシアへ

 サルヤ Salya 王の死の知らせを聞いて、サティヤワティ Satyawati はすぐさま彼の後を追った。心許した女官、スガンディカ Sugandhika を連れて、サティヤワティは戦場に向かう。血の川を渡り、腐りはてた死体につまづき、サルヤの遺体をさがし続ける。
 絶望の淵に沈み、彼女はクリス〈短剣〉で己の身を刺し貫く覚悟を定める。神々は彼女を哀れんで、サルヤの横たわる場所を示した。気丈にもサティヤワティは夫を生き返らせようとした。彼女を残していった夫を叱り、夫が彼女を本当に愛したことはなかったのだと非難した。そして泣きながら懇願する。天界に架かる吊り橋であなたをお待ちします、と。
 かくてサティヤワティは自らのクリスで胸を刺し貫いて死に至る。忠実なる女官、スガンディカはサティヤワティの胸からクリスを引き抜き、自らの胸深くに刺し入れたのである。

 カカウィン・バラタユダ(1157年)でムプ・スダが書いたサティヤワティの最後の献身の物語は、(かつて)インドネシアで行われたサティーの習俗を描いている。カカウィン・ラマヤナ Kakawin Ramayana (9世紀)からスンダのキドゥン Kidung にいたるまで、古代インドネシアのさまざまな文学において、妻が究極の献身として死におもむくさまが描かれる。これはかつてインドネシア社会で行われてたであろうサティーの習俗を反映していると言える。サティーの語は、後に『サティヤ』という語になり、夫と終生離れることなく、その死に際しては殉死して忠節を貫く女性を示す言葉となったのである。

インドネシア女性のサティヤ

 ジャワの社会においては、少なくとも9世紀以来、サティーの伝統が存在していたと考えられる。インドネシアにも女性のサティヤとしての自己犠牲の方法が数種定められており、インドにおけるそれとは少々異なっている。
1. 生きながら火の中に入って殉死する(インドで行われているものと同様)。
2. クリスによる自決。または共にいる者に刺させる(通常は女性の一族の男)。
3. クリスで自決した後、遺骸を荼毘に伏す。
4. 川や海に身を投げて殉死する。
 インドネシアにおいてどれほどの人数が、またどの地域でサティヤが行われたのかは不明である。しかし、歴史的記録によれば、殉死の伝統が最も大規模であったのはジャワ島とバリ島である。女性の殉死の伝統があるのは、他にはブリトゥン Belitung 島〈スマトラ東海岸に位置する島〉だけであった。

1416年

 サティーの風習は9世紀からインドネシアに存すると考えられているが、サティーに関する最古の記録は、鄭和(チェン・ホー Zheng He (Cheng Ho ))の遠征に随行した通訳、マ・フアン Ma Huan によってモジョパイト時代の1416年に書かれたものである。
 マ・フアンは1413〜15年の第三次明国遠征軍と共にジャワ島を訪れた。彼が目撃した事件として、モジョパイトの首都、ウィルワティクタ Wilwatikta で犠牲に供される女性の最後の様子を描いている。

 『その地域では一般的に、裕福な男性、村長や貴族が亡くなると、妻や側妾たちは彼女たちの夫に対して拝跪し、言う。
 「我らの死は、あなたと共に」
 火葬の日が来ると、彼らは木材で高い火葬用の台を建てる。二三人の者に付き従われた妻や側妾が拝跪し、炎が燃え立つのを待つ。そして頭を草や花で飾り付け、五色でデザインされたカイン Kain (布)を身に着け、妻と側妾たちは薪の山の頂上に続く階段を登って行くのである。彼女たちはしばしの間、泣き、叫び、踊り、それから夫の遺体が燃やされ、その火の中に身を投げた。彼女たちは共に生き、そして死んだ者への最後の献身として自らの身を火に投ずるのである。』

1436年

 フェイ・シン Fei Hsin も鄭和の遠征に随行した一人である。彼は第七次鄭和遠征の際にジャワ島を訪れた。彼は1436年の記録に、妻が夫の遺骸と一緒に生きたまま火葬にふされたことを記している。
 『村長が高齢のために亡くなった時、妻と側妾たち皆は嘆き悲しみ、それぞれ共に死ぬことを誓った。
 火葬が行われる日が来ると、妻、側妾、侍女たちは草と花々で飾られた冠をつけ、色とりどりのカインで着飾った。
 彼女たちは手をつないで海岸の静かな場所へ向かい、そこで砂浜に横たわった夫の遺骸の傍らに横になり、野犬たちに引き裂かれるのを待った。
 犬たちが遺体の肉をきれいに食べ尽くした時は、吉兆とされるが、遺体が食べ残された場合、女たちは悲しみの歌を歌って嘆くのである。
 それから薪が積み上げられ、女たちは皆夫の遺体と共に炎に焼かれるのである。』

1515年

 16世紀にアジアに住んだ(1512〜1515年、マラッカ)ポルトガル、リスボンの薬剤師、トメ・ピレス Tome Pires は、スンダとジャワで夫の死に付き従った常軌を逸した女性たちの様子を事細かに記している。
 スンダの社会においては王や貴族の妻たちが、夫の死に際して自らも火に入って殉死することには一定の『必然性』がある。身分の低い男性であってもこれと同様の事が行われるが、この場合は妻自身が自ら望んだ時だけ行われる。しかし、死を選ばなかった者たちは家族や社会から隔離され、『のけ者』となり追放され、阻害された生活を強いられ、再婚することもできないのである。
 一方、ブラムバンガン Blambangan やガムバ Gamba (スラバヤ〜パナルカン Panarukan )を含むジャワ社会においては、王や貴族が亡くなった時、妻や側妾たちは夫の後を追ってクリスで自決したり、生きたまま焼かれたり、あるいは海に入水する(これは社会で一般的に行われている)、と彼は記している。

1524年

 フェルディナンド・マゼラン Ferdinand Magellan の遠征に随行したヴェネチアの学者アントニオ・ピガフェッタ Antonio Pigafetta は、自ら望んで殉死する女性たちの意志と動機について記している。
 その記録の中で彼は、ジャワにおいては権力者が死ぬと、最も愛された妻は生きながら夫と共に火に焼かれる運命にあると記している。
 『花輪で飾られた籠の中の女性は、四人の男たちに運ばれる。彼女は落ち着いた表情で、笑い、彼女の死に涙する両親を慰撫し、言う。
 「今夜私は旦那様と一緒に夕餉をいただき、おそばで眠るのです。」
 火葬のための薪が積み上げられると、彼女はもう一度両親に同じ言葉を投げかけて慰め、燃え盛る炎の中に自ら飛び込むのである。』

16世紀末

 世界を旅した英国の探検家トーマス・キャヴェンディッシュ Thomas Cavendish は、16世紀末にジャワとバリを訪れた。彼はポルトガルサイドからの情報として、ブラムバンガンでは女たちが、亡くなった夫を追って殉死する、と話している。
 ピガフェッタの記録(火に入る)とは異なり、女たちはクリスを自身に刺して自決するが、火に入って死ぬことはない、とカヴェンディッシュは記している。
 『王が逝去すると棺に遺体が収められ、後に火葬された際には同じ棺に灰が入れられる。死の五日後に火葬が行われ、妃と側妾たちは定められた場所で王を追って殉死する。
 年長の妻、あるいは寵愛された妻がボールをある方向へ投げる。転がったボールが止まったところに妻や側妾たちが集まる。
 東を向き、クリスを構え、彼女たちは自らにクリスを突き立てる。血がほとばしり、その表情に痛みを刻んで、彼女たちの日々が終わりを迎えるのだ。』

1633年

 貿易商会会長のヤン・オーステルウィック Jan Oostrewijk は、最初のオランダ人目撃者であった。彼はバリを訪ねた際に女性の殉死を目撃している。
 ヤン・オーステルウィック自身の目撃談として、二人の王子の火葬の際、王子たちの後を追って76人の妻たち(第一王子に42人、第二王子に34人)が生きながら火葬の火に入って殉死した。何人かの女たちはまずクリスを自身に突き立ててから炎に入り、他の女たちは生きながら炎の中に飛び込んで行ったと彼は記している。
 二人の王子の火葬とは別に、ヤン・オーステルウィックはある王の火葬も目撃している。そこでは、王に従う22人の女官たちが(一族によって選ばれ任命された)護衛官にクリスで刺され、王の後を追って死の世界に投げ込まれる。


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夫の死に殉死するバリの女たちのオランダの最初の報告。1597年東インドへの初航海の報告書から。

1736年4月6日

 アブラハム・パトラス Abraham Patras (第24代蘭領インド総督)宛の報告には、ブラムバンガンの支配者バグス・パティ Bagus Patih が死んだ時、彼は9人の妻たちと一緒に火葬にふされたと記されている。

1813年と1820年

 スコットランドの医師、管理官、作家でもあるジョン・クロフォード John Crawfurd は、ミント Minto 卿のジャワ進軍の際、スタンフォード・ラッフルズ Stamford Raffles に同行した。その後1811年11月に彼はジョクジャカルタの宮廷の食客となった。食客として彼はジャワ語を学び、ジャワ貴族や文学者たちと個人的な関係を確立し、バリとスラウェシの大使館で働いた。
 1813年、彼はカランガスム Karangasem の貴族、ワヤハン・ジャランテグ Wayahan Jalanteg (ワヤン・ジランティク Wayan Jlantik )の火葬に際して20人の女性が火に飛び込んで殉死したと記している。
 数年後、ジョン・クロフォードはブレリン Blelling (ブレレン Buleleng 、バリ北部)の王から、父親であるカランガスムの支配者が亡くなった際に、74人の女性が殉死したという報告を得ている。

1829年

 バリの大使、ピエール・デュボア Pierre Dubois は、1829年、バンドゥン王、グスティ・グデ・グラ・パマチュタン Gusti Gde Ngurah Pamacutan の火葬を詳細に記している。
 この火葬に際しては、7人の女性が殉死し、その中には年老いて白髪になった王の乳母も含まれ、主人の死を追うのに4秒もかからなかったと言う。
 デュボアは記している。火葬にあたって、7人の女たちはそれぞれ家族と共に火葬の高台へ向かった。
 最初の女性は父のクリスを取り、腕に傷をつけ、クリスを父に返す前にその血を額に塗った。
 それから彼女は両手を胸の前で交差させ、炎の中に飛び込んだ。女たちのうち5人は同様の儀式を行い、残りの一人はクリスを突き刺して死ぬことを選んだ。
 近親の者たちに囲まれ、彼女は父の手からクリスを受け取り、肩口からまっすぐクリスを突き立て心臓まで刺し貫いた。それから父と兄弟たちが炎の中に投げ入れた。

1846年

 スイスの探検家・植物学者のハインリッヒ・ゾーリンゲル Heinrich Zollinger は、ロムボク島である女性が殉死した様子を記している。
 『白い衣装に身を包んだ女は、兄にクリスで刺された。しかしその傷では死にはいたらず、親族の男にさらにクリスで刺されて死んだ。それから一族の者たちが死んだ女を炎の中に投げ入れた。』

1847年

 1847年12月20日、ヘルムズ Helms はバリ島ギヤニャール Gianyar の王、デワ・マンギス Dewa Manggis の葬儀に列席した。その記録において、ヘルムズはデワ・マンギスの3人の妻が白装束に装飾品で身を飾り、天蓋に覆われて火葬の場へ向かったと記している。火葬の火が燃え上がり大きくなると、3人の女たちは炎の中に飛び込み、すでに灰になった夫と共に灰となったのである。

 上記のように、インドネシアでは多くの女性たちが普通ではない心持ちを有して、サティヤが人生の一つの型となっていることが明らかになった。以下では、文学やキドゥンの物語が女性のサティヤの原理をどのように補強してきたかを明らかにしていきたい。これらはインドネシの社会生活に長い間根付き、女性たち自身の心情にも深く影響を及ぼして来たのである。

(つづく)
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by gatotkaca | 2013-01-15 12:19 | 影絵・ワヤン | Comments(0)

カカウィン・アルジュノ・ウィウォホ その11

詩編28

1.  サン・アスラパティ〈ニヴァータカヴァチャ〉が戦場で斃れた後、
   彼は再び矢を放ち、その軍隊と戦車、全てを焼き払った
   ルシ・ムチュクンダ Mucukunda の誓いにより
   殲滅されたカーラヤヴァナ Kalayawana のように 1)

1)名称一覧参照。

2.  霧雨が降りしきり、天には鮮やかな明かりが射していた
   おだやかな風が吹き、雲は雨をはらんでいた
   太陽のまわりに光が輪になっている
   すべては王がこの世を去った証である

3.  傷つき死した神々やアプサラたちに
   スラーナタ〈インドラ〉が命の水を注ぐ
   彼らのすべてが起き上がる
   健やかに麗しく善き姿に戻る

4.  敗れること無きスラーパティの帰還である
   すべての者の顔は喜びに晴れやかだ
   サン・ダナンジャヤとバタラ・インドラ
   二人は喜ばしく兵法について語り合う

5.  神の兵士たちに車が近づき
   敬意に満ちた態度と言葉で迎えられる
   かくて戦いについて語られる
   まこと激しい様であり
   語るに多くの言葉は無い

6.  帰還する軍の道筋に説明はいらないだろう
   さまざまな勝利の証が運ばれ
   スラーパティの到着にインドラロカは騒々しい

詩編29

1.  そうして彼らは帰還し、喜びをもって勝利を祝ったが、言葉は無かった
   そしてパンドゥーの息子〈アルジュナ〉は聖なる森、その名をナンダナ Nandana へ赴いた
   そこにはさまざまな心楽しませるものがあり
   十の感覚 deria 1)の完全なる滋味があった

2.  かくて王に推挙され、彼はインドラパダ Inderapada の王となった
   七日七夜彼はスラーパティと交替し、それこそがインドラ神の褒美であった
   カヤンガン〈天界〉での一夜は半月の長さであり、昼もまたそのようであった 2)
   それゆえ七ヶ月間、彼は英雄的行為の果実を受けることを許されたのである

1)Kesepuluh derianya : 五感と五種の体の部位。彼は戴冠の喜びを受けるため、森へ行く。現代でもまだそうであるが、王は通常王位に就く前にまず自身を浄める。2)Semalam di Kayangan lamanya setengah bulan dan demikian pula harinya : つまり地上と比べて。

3.  良き日にその仕事を行うために、スラーナタは王の謁見所を出た
   ルシたち、シッダたち、そして神々が招集された
   スララヤのパンディタたちは必要なすべてを差し出し整え終わっていた
   八正道に達した者にとっての良きものである!

4.  アルヤ・ダナンジャヤが到来し、宝石に飾られた玉座に迎えられた
   彼は王冠を被りバタラ・インドラの装飾品をすべて身に付けていた
   そのカイン〈腰布〉の表にはアナンタの暦が描かれ
   サファイアの青とルビーの赤に彩られ、艶やかで美しい

5.  スーラ王 raja sura 、ヤマ、バルナそしてクヴェーラが彼のそばに座した
   サンカラと太鼓の音が轟き、神々の賛美する歌が鳴り響いた
   七仙の長、ヴァシシュタが立つ
   マントラが唱える声が導き、パンドゥーの息子を神の命の水で祝福する 1)

6.  サン・アルジュナは即位し、行進し、スラー 2) たちが従う、
   アスマラ神の宮殿よりも美しい建物に向かう
   眺めの良い庭園の真ん中の輝く宮殿の中へ
   そこで待つ恋人は、スプラバ、彼女は千の星々と花々の素晴らしさを一身に集めた人

1) Merestoni : 語幹は restu 、慈悲。Merestoni は restu を与える。この言葉はマレイの書物において頻繁に用いられている。2)Sura : 神。

詩編35 1)

1)詩編30、31、32は改竄〈原文 dalam canda 、canda はふざける、冗談を意味するが、ここでは序文との兼ね合いで改竄という意味で取る〉されて喪失した。詩編34にも改竄が見られ、とくに詩編35の改竄は詩編33、34にもまたがっている。

1.  天界で王の息子はスプラバと共にさまざまな喜びを味わい
   互いに話しの尽きること無く
   瞬く間に七ヶ月が過ぎる
   かくて彼はスラーパティの足下に拝跪して別れを告げる

2.  彼はこのように言った「バタラよお許しあれ、私はインドラ神にお許し頂き地上に帰りとうございます」
   「おお、我が息子、そなたの兄弟と母への愛は明らか、私に遮ることはできない
   そなたをとどめ置き、罪の無きことを願う、というのもそなたに借りを返さねばならなかったのだから
   この父の願いは、我が息子の勝利が後の日に宮廷詩人の手で世にも美しい作品として描かれることだ

3.  我が子よ、つねに高貴なる心を持ち続けよ、幸福を得たからといって心変わりしてはならぬ
   そなたはつねに苦行のうちにあるような心持ちでいなければならぬ
   仲間を忘れではならぬ
   八正道に達したマハーヨーギとなっても、喜びに過ぎたることの無きよう
   五感が解き放たれ、再び愚か者となり、また〈初めから〉始めなければならない

4.  そなたはブリンギンの樹やガジュマルの樹が伸びて崩壊した神殿が多くあることを知っておくのだ
   まだ小さいうちに引き抜いておけば、その樹は大きくならなかったであろう?
   そのようにそなたは、欲望を制御し、そなたの心の中に育たぬよう努めなければならない
   あまりにも成長してしまえば、明らかに英雄性を支配し、破壊するに至るだろう」

5.  ヒアン・インドラの言葉はこのようであり、そしてサン・アルジュナは立ち上がり、出発した
   サン・マータリが彼の乗る武器を完備した車を御した
   すぐに車は飛び、風よりも速く、思考のごとくであった
   愛の宮殿では恋人を失ったスプラバが嘆き悲しんでいた

詩編36

1.  サン・アルジュナ、真の英雄は地上に降り立った
   ヴァダリ Wadari の苦行所の森に至り、そこで兄弟たちすべてに〈迎えられた〉
   彼らの喜びはまさしく洪水のようであった、サン・アルジュナは海に降りた雲のようであった 1)
   手短に語れば、彼らは地上の全てを制することを話し合ったのである

2.  アルジュナ・ヴィヴァーハの物語はここに終わる
   ムプ 2)・カンワはこのカカウィンを編み、世に示したばかりである
   その心は定まらず、というのも彼は王を戦場へ案内することの許しを得ようとするからである 3)
   スリ・アイルランガ(王にすべての賞賛あれ)!大地の主、承認なさる者よ 4)

アルジュナ・ヴィヴァーハ終結

1)Laksana mega yang menuruni tasik : 空に昇って、元に還る。2)Mpu : 宮廷詩人、プンデタ、鍛冶屋の称号。3)Hatinya bimbang, karena setelah itu ia berharap boleh kemedan perang mengiring raja : ムプ・カンワは心を決めかねている。というのも、おそらくそれは王が望んだことではないからである。彼はきっと、後でその戦いを描くために、王に従ったのである。もし王が許可していたなら、ムプ・カンワの禁制は善と判断される。というのも、ムプが戦いを描くことに有能と看做されれば、王の許可は詩人への賞賛を意味するからである。4)Seri Airlangga mengabulkannya : 王の最初のムプ・カンワのカカウィンへの見解は善しとするものであった。 Junjungan Tanah : ここでは Tanah は negeri 〈国〉を意味する。ムプ・カンワの意図は、アイルランガ王国はまだ版図が定まっていないが、さらに拡大し、ジャワの地を平定することである。

名称一覧〈アルファベット順〉

アイラヴァナ Airwana :ビダダラ
アイルランガ Airlangga :東部ジャワの王。序文参照。
アナンタ Ananta :大地を支える蛇
アルダナリ Ardanari :一体となったシヴァとその妃ウマー。
アルジュナ Arjuna :パーンダヴァ(パンドゥーの息子たち)の三男。兄弟は、ユディシュティラ、ヴリコーダラ〈ビーマ〉、ナクラ、そしてサハデーヴァである。
アルジュナ・ヴィヴァーハ Arjuna Wiwaha :アルジュナの結婚。
アスマラ Asmara :愛の神。
アスラパティ Asurapati :ラークシャサの王。
バジラーナ Bajrana :ビダダラ
バイラヴァ Bairawa :憤怒相のシヴァ
バルナ Baruna :海の神、西方を支配する
バラタ Barata :一族の名。パーンダヴァはこの一族の後裔。
ブラフマ Berahma :神。
ブラフマロカ Berahmaloka :ブラフマの天界。
ボーマ Boma :ラークシャサ。ヴィシュヌ神と大地の娘の子。バライ・プスタカ刊の「サン・ボモ・サーガ」を参照。
チトラーンガダ Citranggada :ビダダラ。
チトラーラタ Citrarata :ビダダラ。
チトラーセナ Citrasena :ビダダラ。
ダナンジャヤ Dananjaya :アルジュナ。
ダルマータマジャ Darmaatmaja :パーンダヴァの長子、アルジュナの長兄。彼は公正の神、ダルマ神の子として育てられ、またダルマ神の魂の子である。ダルマータマジャはダルマの息子を意味する。
ドゥシュケルタ Deskerta :ニヴァータカヴァチャの大臣。
ドルパディー〈ドラウパディー〉 Dropadi :パーンダヴァ共通の妻。アルジュナを見よ。
ドゥワイパーヤナ Dwaipayana :パーンダヴァの祖父。彼らが困窮にある時、訪れてに世界の秘密を助言として与える。
イルヴァナ Erwana :インドラの象。
ハピット Hapit :月の名前。
ハスティナープラ Hastinapura :バラタ族の母国。パーンダヴァが王位継承権を持つが、同じバラタ一族の子孫、カウラヴァ一族に追放される。
ヒマーラヤ Himalaya :インド北方の山脈。
ヒラニヤカシプ Hiraniyakasip :ヴィシュヌに殺されたラークシャサの一人。
インドラ Indera :神。神々の王とされる、最高位の神。雷雨の神とされ、東方を司る。
インドラ・デーヴァ Indera Dewa :神々の王。インドラを見よ。
インドラギリ Inderagiri :インドラ山。アルジュナの苦行所。
インドラキラ Inderakila :アルジュナの苦行する山。
インドラロカ Inderaloka :インドラの天界。
インドラパダ Inderapada :インドラの天界。
イシュヴァラ Isywara :シヴァ。
ジャヤンタ jayanta :インドラの息子
カイラーシャ Kailasya :シヴァのおわす山。
カヤンガン Kayangan :インドラの天界。
カラケーヤ Kalakeya :ルシによって殺されたラークシャサの一族。
カラヤヴァナ Kalayawana :ムチュクンダが火でその人差し指から生み出した。
カーマ Kama :アスマラを見よ。
カンワ Kanwa :このカカウィンの作者。アイルランガ王の時代に生きた。序文参照。
カパット Kapat :月の名前。「第四の月」。
カララヴァークテラ Karalawaktera :ニヴァータカヴァチャの大臣。
クインドラアン Keinderaan :インドラの場所。
ケルダクシャ Kerudaksya :ニヴァータカヴァチャの大臣。
クムバカルナ Kumbakarna :ラーヴァナの兄弟。巨大な身体で、彼は起きている時より寝ている方が長い。バライ・プスタカ刊、「スリ・ロモ・サーガ」参照。
クヴェーラ Kuwera :富の神。北方を司る。
マニマンタカ Manimantaka :ニヴァータカヴァチャの国。たくさんの宝石のあるところを意味する。
マータリ Mtari :インドラの御者。
メガナーダ Meganada :インドラジット。ラーヴァナの息子。スリ・ロモ・サーガを参照。
メール Meru :神々のおわす山。ヒマーラヤ山脈の頂上にある。シュメールとも呼ばれる。
ムチュクンダ Mucukunda :カラヤヴァナを参照。
ムルカ Murka :ラークシャサ。
ナンダナ Nandana :インドラの庭園。
ニヴァータカヴァチャ Niwatakawaca :ラークシャサの王。強力な鎧をまとった者を意味する。
パシュパティー Pasyupati :シヴァ。パシュパティーの矢はシヴァがアルジュナに授けた。
パンドゥー Pandu :パーンダヴァの父。アルジュナを参照。
パールタ Parta :アルジュナ。アルジュナの母、プリターの息子を意味する。プリターはクンティーの別名。
斧持つラーマ Rama yang berkapak :著名な物語の英雄〈パラシュラーマ〉。
ラティー Ratih :アスマラの妻。
ルドラ Rudera :シヴァ。
サルジュ Salju :雪の山〈Gunung Salju〉、ヒマーラヤ。
シャクラ Syakera :インドラ。
シャンカラ Syankara :シヴァ。
シヴァ Syiwa :最高神。
シヴァロカ Syivaloka :シヴァの天界。
スバドラー Sbadera :アルジュナの妻。
スンダ Sunda :ラークシャサ。その兄弟、ウパスンダと共に一人のビダダリゆえに戦う。その戦いで二人とも死んだ。
スプラバ Superaba :ビダダリ。
スララヤ Suralaya :スラーたち、神々のところ。クインドラアン。
スラーロカ Suraloka :同上。
スラーナタ Suranata :スラーの王、インドラ。
スラーパダ Surapada :神々の場。クインドラアン。
スラーパティ Surapati :スラーの王、インドラ。
スーリヤロカ Suryaloka :太陽の神、スーリヤの天界。
ショルガロカ Sorgaloka :クインドラアン〈天界〉。
トリプラ Tripura :シヴァに殺されたラークシャサ。または三界。
ティロッタマー Tilottama :ビダダリ。
ウルピー Ulupui :アルジュナの妻。
ウパスンダ Upasunda :スンダを見よ。
ヴァダリ Wadari :森の名。
ヴァシシュタ Wasyista  :ルシ。
ヴィラクタ Wirakta :ニヴァータカヴァチャの大臣。
ヴリハシュパティ Werehaspati :神々のプンデト。
ヴィシュヌ Wisynu :神。
ヴィシュヌロカ Wisynuloka :ヴィシュヌの天界。
ヤマ Yama :死の神。南方を司る。
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by gatotkaca | 2012-04-17 16:53 | 影絵・ワヤン | Comments(0)

カカウィン・アルジュノ・ウィウォホ その10

詩編24

1.  山の王〈シュメール山〉の南の麓に至り、スラーナタ〈インドラ〉は軍に停止を命じ、休ませた
   敵の火が明らかに山の周りに届いていたからである
   神々とアプサラたちに出会った者は皆あわてて逃げ去った
   彼らはラークシャサ軍に囚われ、食われ、略奪されるのを免れた者たちだった

2.  突然マニマンタカ王へ向けた斥候が激しく攻撃された
   逃げる者たちは追いかけられ、彼らは捕らえられた
   司令官はおらず、失神した彼らは武器を持たない案内と一緒だった
   それを見て驚いた者は撤退しながら防衛したが、ラークシャサの大群が押し寄せて来た
   スラーパティの軍は蟹の頭の陣形を取り強く繋がって敵を抑えた

3.  スラーナタ〈インドラ〉自身が主力部隊を率いて、中央で戦いを束ねた
   その〈蟹の頭の陣形の〉口の部分はダナンジャヤ王子だ、彼は戦いにおいて神々の頭領になったかのようだった
   その友、気高きチトララタは象に乗って、彼の戦車に近づいた
   象、馬そして戦車に乗った神々、徒歩の神々は皆彼のもとに参集し、その数、億に達した


4.  彼らは丘や渓谷に挟まれた平野の戦場に広がった
   水の少ない乾燥した砂漠の全体に、噴火する山から粉塵が向かい、岩石が漂う
   彼らの西側の渓谷を超えることができずに止まり、敵の前に待ち伏せる
   そこが防衛の最前線であり、彼らは低木に身を隠していた

詩編25

1.  サン・チトラーンガダとチトラセーナは山の麓に右翼となって展開した
   左側にはサン・ジャヤンタと強力な部隊が突き出るように布陣して、
   敵をしっかり捉えようと防衛の手を伸ばした
   危険を受け止め、突破出来ず破壊を受けぬよう、兵が堅固に固められた

2.  ラークシャサ軍が轟音と共に侵攻して来たのを見て、陣形が整えられた
   辺りを圧する歓声を発して、〈軍の〉轟は万の稲妻のようだ
   戦車は威容を示して止まること無く、馬はいななき、象が叫び、旗がはためく
   切り裂く剣先は火花を散らし、光を放つ

3.  武器が洪水のように溢れ、ラークシャサたちはあたかも沸騰して波立つ海のようであった
   大地が揺れ動き、裂け、崩壊し、振動するようだ
   太陽は暗く、世界は塵に曇り、大風が渦巻いて膨らむ
   聖なるメール山は崩壊し、海は荒れ、大地は呆然として崩れ落ちる

4.  ラークシャサたちは高潮のように押し寄せて戦い、一斉に大暴れし、危険を顧みない
   彼らは荒々しく攻め立て、激しく打ちつけて、暴れ続けた
   神々の軍も機敏に戦い、戦場の中央で拮抗した
   噴火する火山のように両軍は激突し、退く者はなかった

5.  もはや太鼓の音も聞こえなかった、罵り合う声で〈? geretak geretuk〉
   剣が打ち合い、象に向かって投げられる槍の音が鳴り響くゆえ
   敵の首を切る叫び、波のように押し寄せる援軍の轟で

6.  チャクラ〈円盤状の武器〉、矢、槍は使われなかった、というのも殺到した〈敵に〉妨げられたからである
   しかし剣と槍は使われ、クリスと短い槍で人々は突き刺された
   他の者は武器を忘れて噛み付き合い、ぶつかり合い、縛り合った
   窒息して死ぬ者多数、最後には短剣とクリスで首を落とされた

7.  両軍は何千人も互いの数を減らし、象や馬は億に至るまで減った
   槍を備えた美しい戦車は壊れ、折り重なり、崩れ、潰えた
   とうとう英雄たちは折り重なる死体の山の上で戦い始めた
   血の海を渡り、大混乱となり、激昂し、酔ったようになった

8.  シッダたちとルシたちは空から見物しようとしたが、怖くなり逃げ去った
   彼らは恐怖に目を閉じ耳を塞いだ
   上空に揺れ動き、炎を発してきらめくさまざまな武器で天空が焼かれたからである
   スーリヤの天界 Suryaloka は混乱し、太陽は消え失せ、寒くなった

9.  かく有様に、またこの時嵐が吹き下ろしラークシャサたちを打ちのめした
   攻撃されたことに気付かぬ者が山の裾野から闇雲に飛びかかられた
   サン・チトラーンガダとチトラセーナが侵入し、サン・ジャヤンタが追いかける
   アスラの軍の群れは狂乱し、混乱し、崩壊する

10.  多くの者が追い立てられ、取り囲まれて、大暴れし、激しく攻撃する者もあった
   逃げようと殺到したが、後ろが渓谷だったので、押し合いながら引き返して来た
   岸に立つ者たちは崩れ、叫びながら落ちていった
   サン・パールタとインドラ神が急襲したからである

11.  四人のマニマンタカの大臣たちのうち、二人は一緒に首をはねられた
   殺され、捕らえられたラークシャサの司令官たちは数えきれず、百万を超えた
   ビダダラの英雄たちはハヤブサのように攻撃する
   その時彼らはラークシャサの英雄たちのさらなる強さに驚愕する

12.  ラークシャサ王の侵攻に皆逃げ戻る
   彼の前にあるもの全てに向け、燃え盛る怒りが満ちていた
   彼は突如として現れ、攻撃し、世界を焼き尽くそうとする火のようであった
   アスラたちの多くが迅速に応え、敵は打ち砕かれ灰燼に帰した

詩編26

1.  アスラパティ〈ニヴァータカヴァチャ〉の侵攻で、神々の軍は狂乱し、死体が積み重なり、蹂躙された
   戦いに参加しようとする者は道を見つけられず、彼の前に立つ者はその強さに槍を投げ出して逃げまどう
   ヤマ〈死の神〉のごときラークシャサたちは頭を素早く回して、首を絞め、殴り掛かり、噛み付いた
   体中の毛と目から矢や棍棒といった武器が大量に飛び出し続けた

2.  像、戦車、馬も溶けて塵となり、戦うが敵わず、あたかも山に殴られたようであった
   神の軍はあわてて逃げ、散り散りとなり、恐怖に立ちすくむ者あり、慌てふためいて逃げ去る者もあった
   神々の王の軍の蟹の頭の陣形は崩れ去り、まずそのはさみが引きずられ混乱状態となった
   跪きながらサン・アルジュノの参戦を求め、軍の殿は撤退し、彼に望みを託した

詩編27

1.  王の息子〈アルジュナ〉は、しばしマントラを唱えて瞑想し、パシュパティーの矢を身に付けた
   突然武器を備えた七百万のラークシャサの姿をした炎が上がった
   彼らは矢の切っ先から完全に出て、波打ち、空に飛び上がった
   荒々しく取り囲み、ラークシャサたちと戦車の全てを焼き払った

2.  マニマンタカの聖なる王〈ニヴァータヴァチャ〉は、バタラ・バイラヴァ Bairawa 〈シヴァ〉の恩寵を求めて沈思した
   彼は全滅したラークシャサ軍の灰の真ん中に立ち、傷つかず、避けもしなかった
   彼が思念集中すると、突然その口からまた、さらに悪辣なラークシャサの軍が出現した
   整然と攻撃し、強力で、先に消された者たちより十倍の凄まじさであった

3.  同じ凄さと同じ恐ろしさの〈軍が〉四、五回同じように現れた
   先程使われたバタラ・シヴァの矢がサン・ニヴァータカヴァチャから放たれたトリプラ Teripura のサクササたちをその無限の力で殺した
   サン・アルジュナは〈ニヴァーヤカヴァチャの不死身の〉秘密を攻めようとした
   マニマンタカ王へのバタラ・イシュヴァラの恩寵を失せしめようと考えたのである 1)

1)つまり、マニマンタカ王の超能力を消すために彼を欺こうと考えたのである。

4.  神々の軍は震え、敵の偉大な超能力を見て死に物狂いで逃げた
   サン・パールタも撤退するふりをして、散り散りの軍の殿となった
   あたかも困惑し、逃げ延びようとしているふりをして、彼は力をためて戻り、囲まれ、攻撃を受けた
   目の前のラークシャサたちが矢、棍棒、チャクラ、そして槍を雨のように降らせた

5.  それは無謀な行いに見え、サン・ニヴァータカヴァチャは槍を取りながら、サン・アルジュナを左手の人差し指で指して言った
   「ちぃ、人間よ、高慢なるそなたは全世界の破壊者たるわしに対して無謀であった、
    我こそは大地の所有者、我こそは三界の主なるぞ、
    わしがそなたをナラカ〈nawaka =地獄〉に戻してやる!」彼は言った

6.  しかしパンドゥーの息子〈アルジュナ〉はすでに最強の矢を準備していた
   鋼鉄の矢、シ・プンキット・バダン si Pengkit Badan がその名である
   神への瞑想の祈りを捧げながら
   彼は槍に傷ついて戦車の中に倒れ伏しているふりをしていた
   マニマンタカの王は彼の消滅を願って侮蔑の呪いを叫んだ

7.  騙され欺かれた彼は、恩寵の場所を開いた
   無駄無く彼は射ち、サン・アルジュナによって、彼の口は最強の矢で一杯になり、彼は戦車に前のめりに倒れた
   尊大さが隙を作り、その隙が悪果を招いたのだ
   その超能力が消え失せ、この世にある全てのものと同様、死すべき者となったのである

(つづく)
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by gatotkaca | 2012-04-16 23:01 | 影絵・ワヤン | Comments(0)

カカウィン・アルジュノ・ウィウォホ その9

詩編21

1.  ニヴァータカヴァチャは威風堂々
   約束を違え、欺いた者たちに大いに怒る
   もはや約束の貢ぎ物などいらぬ、彼の欲するものは戦いのみ
   力と勇猛さをもって戦うのだ

2.  その大臣たちは、四人、忠実で、名を知られた貴族の出だ
   ケルダクシャ Kerudaksya 、ドゥシュケルタ Dusykerta 、ヴィラーカ Wiraka 、そしてカララワクテラ Karalawaktera である
   すべての者はヒラニヤカシプ Hiraniakasipu の後裔であり、カーラケーヤ Kalakeya の一族である
   彼らは真に戦闘のイルム〈知識〉を持つ者たちだ

3.  彼らはかつてシュメール山から降りて来た神々である
   今はヒアン・シャクラ Hiang Syakera 〈インドラ〉だけが彼らを破ることの出来る者だ
   力なき人間の従者を引き連れて、まこと彼らは高慢となった
   それにもかかわらず彼らは少しも迷わず、
   インドラの天界を奪える〈と考えている〉

4.  ラークシャサ王の出発は死のしるしである
   彼は光り輝くダイヤモンドの車に座す
   恐ろしき象に引かれ、その側面は縞模様
   大地を引き裂いて進む

5.  彼は大いなる怒りを抑えて座す
   一人のビダダリがその足を支え、もう一方の足はぶらぶらさせている
   その熱くなった心をもう一人のビダダリが扇いでいる
   怒りの炎がその目に赤くくすぶっている

6.  大いなるアスラ軍の様はすさまじい
   百ラクサ〈10,000〉のラークシャサが王を守る
   彼らは虎、馬、獅子そして驢馬にも乗っている
   さまざまな武器が毛皮から飛び出している

7.  その頭には蛇革の旗がたくさんあり
   光輝く魔法の宝石の冠
   その数一千と八十、色とりどりである
   ラークシャサ王の旗は大地に架かる虹のようである

8.  ケルダクシャとドゥシュケルタが先導となり、二人の威容は同じである
   二人は同じ血族、同じ武器を持ち、同じ旗、同じ乗り物に乗る
   彼らはスンダ Sunda とウパスンダ Upasunda の息子
   力に頼む英雄である
   激しさ恐ろしさとがその身に纏われている

9.  進軍するラークシャサたち全てがその武器は万全
   空を飛ぶ者あり、歩く者あり
   巨大な象の皮の旗には象牙が付いている
   鮮やかに明滅する曇天の雲のようだ

10.  軍の先頭に立つ二人は〈軍隊という〉戦車の御者のようである 1)
   ヴィラクタ Wirakta とカララワクテラは同様の美しさ
   ラークシャサの化身の巨大な象に乗る
   彼らは打撃戦が得意で、同じダイヤモンドの棍棒を持つ

11.  たくさんのラークシャサの英雄が軍の躯であり 2) 彼らは徒歩である
   戦士の他に億の司令官があり
   輝く毛の獅子の皮の旗が
   風に吹かれる波のようにうねる

1)Sebagai sais : 軍隊を戦車に喩えている。2)Tubuh balatentera : 軍の主要な部分。

12.  主だった者でないラークシャサたちは全て
   四つの門から街を出て止まること無く
   森や谷と一緒に動く山のように進む
   その足音は海鳴りのようであった

13.  もはや樹々の立つ森は無く、すべては破壊された
   大風に吹き飛ばされ壊されたかのようだ
   馬や車輪に踏みつけられ、潰されて壊れてしまったのだ
   地鳴りが起こり、森が倒壊し、雷鳴が轟き、荒々しい旋風が起こる

14.  それはマニマンタカ国のすべてが瓦解し溶解するしるしである
   シュメール山の南側は大騒ぎだ
   巨大なラークシャサ軍が殺到して地震が起こる
   天界の彼らが通過した所すべてが破壊され、叩きのめされた

詩編22

1.  出陣するラークシャサ王のことはさておき、目的を達したパンドゥーの息子〈アルジュナ〉のことを語ろう
   〈彼は〉神々を招集したサン・ヒアン・スラーパティ〈インドラ〉に拝跪した
   長々と話されたが、明らかでなく、尋ねられることが多かった
   勝利の故、幾度も声が高鳴った

2.  サン・パールタ〈アルジュナ〉の言葉によれば、アスラの王はすでに出陣し、彼の到来を迎え撃つ準備が必要である
   「スリ・インドラ神におかれましては、彼の軍を迎え撃つ準備をなされるのが善いと存じます、
   メール山の麓はアスラの軍に埋め尽くされ神の地はすべて彼らに蹂躙されるでありましょう、
   神々は皆退き、スラーパティのご加護を求めてやって来ることは明らかです」

3.  「おお、我が息子よ!我らはそなたを待つのみ、皆の者はすでに戦いとなることを解っておる
   敵が出陣して来たならば、全ての砦に見張りを立て守りを固めねばならぬ
   破壊されたところからは全ての見張りと衛兵をすばやく撤退させるよう
   されど、多くの者に心づもりさせねばならぬ

4.  攻められようが攻めようが変わらぬのが偉大なる英雄の心意気というものではないか?
   洞窟の中で襲われても、獅子に敗れることなく
   虎に出会えば、虎が死ぬ
   領土をわきまえず、迷わず目的に向かう者、彼の者は危険を知らぬ」

5.  ヒアン・シャクラの言葉はそのようであった
   チトラーンガダは言った「スリ・インドラ神の言葉はまさしく真実なり
   聖典の教えをはっきりと想起せよ
   我らが以前サン・ボーマ Sang Boma に敗れ、後にメガナーダに敗れた理由は
   不意に襲われ準備も出来ず、考える間も無かったからである

6.  今や敵はすでに出陣した
   我らは出来るだけ速く〈敵と自陣の〉途中で迎え撃つのが良い
   これには二つの利がある、士気を高め、シュメール山の南側全ての助けを得ることばできること
   すでに戦いの準備は終わり、神の一族全てに怠りはない
   我らは立派に戦い、勝とうが負けようが、戦いの責務を果たすのだ」

7.  サン・チトラーンガダの言葉はそのようであり、スラーパティは神々と共に承認した
   皆に知らされ、全ての者は出発した
   サン・パールタの知り得た秘密はインドラ神との二人の間だけで話された
   敵の放ったたくさんの間諜に知られないためであった

詩編23

1.  サン・ヒアン・スラーパティ〈インドラ〉は轟をあげる神の軍隊と共に街を出た
   彼はあらゆる宝石で飾られ、火山のような姿の巨大な象、エルワナ Erwana に乗る
   煌めく武器を携え、頭上にはガルーダの形の傘が雲のように広げられ
   その王冠からは太陽のように光を放っている

2.  たくさんのシッダとルシたちがバタラを讃える叫びをあげて歓迎した
   神に花々が投げられ、雲も無いのに突然雨が降った
   その道程に良きことあらんと、瑞兆が多く見られ、躯は震える
   世界は太鼓、サンカラ、銅鑼、タンバリンの轟に満ちた

3.  ビダダラ 1) 、神の軍の司令官、多くの者たちが制服に身を包み進んで行く
   装甲兵は数万を数え、
   列をなし、プンディトは数千にいたる
   神の旗は絹、野生の象が描かれ、金の縁取りがされている
   光に縁取られた曇天の雲のように

1) Bidadara : アプサラ、半神。

4.  チトラガーンダの顔にはあらゆる宝石とエメラルドが付けられ
   屈強の兵たちは億を超え、その全ては剣術に長けている
   その旗は全て赤く、携えた鋼鉄の槍は蛇のように長い
   金粉を施した房が揺れて、大地は炎に焼かれたようだ

5.  スラーパティの後ろにはチトラセーナが美しい出で立ちで弓を持つ
   宝石を散りばめた鮮やかな赤い幕が引かれている
   鋼鉄のクリス〈短剣〉と短剣の部隊が回り、目にまばゆいばかりだ
   百八の旗が空にはためき、水銀のように煌めく

6.  スラーパティの長子、サン・ジャヤンタ Jayanta は宝石で飾られた車に乗る
   磁石よりも強くなれるよう、マントラ〈呪文〉を唱えた
   神の旗は樹の皮、端は湾曲し、金の縁取り、
   麝香〈の香り〉をまき散らし、華麗である

7.  そのアプサラ軍の多くは帽子を被り、司令官は槍を携える
   他の戦士たちは剣を高く掲げ、背に負う者もある
   全員がトポン〈かぶり物の一種〉を被り、房の付いた上着を着て、首には花輪を掛けている
   素早く進み、高揚して、ボレ 1) の粉と金粉を付け、雄叫びを挙げる

8.  パンドゥーの息子〈アルジュナ〉は殿〈しんがり〉だ、宝石を散りばめた〈戦車〉に乗る
   御者の名はサン・マータリ Matali 、素早い判断で車を御す
   その旗は白、虹のよう、弧を描く光を発する
   王冠は輝き、鎧は彼の前に虹が出たかのように様々な色に輝く

9.  若きガンダルヴァ 2) の前には、弓持つ歩兵がその数、九百人
   そのほかに象や馬に乗る者一億人、クリスを携えている
   はためく旗はガルーダの羽、太陽に近づく雲のようだ
   炎のように分かれて渦巻き、大地を脅かす

1)Boreh : 黄色の粉。2)Gandarwa : 半神、インドラの天界の歌い手

10.  サン・チトララタはスラーパティに命じられ、アルジュノを助け、つねに傍らに備える
   スララヤに住まうすべての神々も王の息子の後ろに従う
   さまざまな武器を持ち、雲のようなもの、曲がりくねったものもある
   軍勢は太陽に照らされた山々の峰のよう、満ち潮の海のようである

11.  街の外には群衆が集まり、時をおくにつれ増えて行く
   雲の上を進んでいた軍勢は地上に降りる
   シュメール山の麓に降り、それは一かたまりの海のようだ
   空が崩れ落ちたように激しく揺れ動き、九番目の星の王は粉砕する
   スラーパティの軍勢は九千の月と太陽のように光を放つ

12.  世界は七度パシュパティー〈シヴァ〉によって創造されたかのようだ
   軍勢は整列し、大いなる力を示し、凄まじい
   馬、戦車、象たちのたてる塵も行進している
   谷も丘も、山も森も踏みつけられて平になった

(つづく)
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by gatotkaca | 2012-04-15 16:09 | 影絵・ワヤン | Comments(0)

カカウィン・アルジュノ・ウィウォホ その8

詩編18


1.  「私は喜ばしい、あなた、ここでお会いすることは、約束されていたことのように思われます
   マニマンタカ Manimantaka は、なんと美しいことでしょう!
   来る前から、この国にお仕えすることになるのを知っていたような気がします
   スララヤもここほど楽しくはありません
   その輝かしさも色あせてしまいました

2.  アスラの王〈ニヴァータカヴァチャ〉が戦われたなら
   スララヤは明らかに破壊され、滅び、殲滅され、悲惨な姿となりましょう
   かようなるわけで私はここに参りました、王の蓮華のおみ足をお護りするために
   しもべとしてこの身を任せ、献身いたします、どうか私を虜囚となさいませんよう」

3.  「おお、美しき方、宝石よ、サン・プラブ〈王〉は、あなたのお言葉を聞きどんなにかお喜びになるでしょう!
   蜂蜜のよう艶やかなあなたは、まさしくハピット Hapit 月においでになった
   あなたへの愛に思い焦がれ、枯れかけた植物が雨を恋い慕うようであったのです
   わたくしがお知らせして参りましょう、王のご機嫌を伺ってまいります」

4.  二人の者がやって来て、挨拶し、ひとりはスプラバと話を続けた
   知らせに行った二人目のアプサリは、ニヴァータカヴァチャに手短に話した
   「お許しあれ、王様、スプラバがあなたさまのお世話をすることをのぞんで、今ここにやってきました
   スララヤから降りて来たばかりで、今は庭にいらっしゃいます、労って下さいますよう

5.  彼女がここに参りまたのは、結婚を申し込まれます以前より、王をお慕い申し上げていたからなのです
   されどサン・ヒアン・シャクラ Syakera 〈インドラ〉は彼女を手放さず、とうとう彼女は逃げて来たのです
   スプラバが主人に見捨てられたのはあきらかです
   おそばに置き、虜囚とはなさらぬが賢明かと存じます」

6.  そのように言い、ニヴァータカヴァチャを近くに呼んだ
   幸福な心持ちで彼はつややかに笑い返し、その顔は晴れやかだった
   長いあいだ思い焦がれた恋人がやって来たのだ
   思いもよらず、知らせも無しに
   彼はしばし押し黙り、その心には幸福が刻まれていた

7.  そして言った「わしはなんとも幸せだ、インドラ神の国の宝石が来てくれたのだから
   スラロカ Suraloka の美を手に入れ、〈我が手中に〉移った」
   彼はそのように言って、喜び、庭へ迎えに出た
   静かにそこへ来て、お付きの者はなかった

8.  彼が庭に着くと、深い森も昼のように明るく照らされていた
   月の光に輝く宝石〈スプラバ〉の光が加わっていたからである
   彼もガラスの窪みの所に向かい、やって来たばかりのアプサリを見た
   甘やかで美しい拝跪をしてスプラバはしなやかに王に跪いた

9.  ニヴァータカヴァタがガラスの窪みに座ると
   ビダダリはあたかも恋い焦がれていたように迎えた
   侍女たちはすべて去り、彼は恥ずかしがることはなかった
   マニマンタカの王はビダダリに頭を上げるよう言った

10.  「宝石よ、その姿に我が心は打ち震え、落ち着かなくなる
   二日が過ぎ、我が主よ、我が右の眉が動いている
   喜びと幸福のしるしがたくさんある
   わしは夢をみた、そなた、蜂蜜に浸された者
   本当に不思議だ、そなたが来てくれるとは思わなかった

11.  そなたの美しさを見て、わしはこの世におらぬようだ
   そなたのわしへの愛は、枯れ木に巻き付いた花の小枝の愛のよう
   そなたは、悲しむ椋鳥のために落ちて来る雲の露のよう
   そなたは、チュチュル鳥への愛のため降りて来た月のよう」

12.  欲望に熱くなった、サン・ニヴァータカヴァチャの言葉はこのようであった
   そして卑しきさまとなりアプサリに接吻しようとした
   スプラバはやんわりと断った
   かくて慈悲を乞うて拝跪しながらこう言った

詩編19

1.  「お許しあれ、プラブ〈王〉、お怒りになってはなりません
   王のご加護をお願い申し上げます
   わたしは売られた 1) ビダダリのように思われます
   明日までお待ちください

2.  どうか甘えた感情はお棄てになって口を閉ざしてください!
   聖なる王 Sang Nata は忍耐を求められますよう
   わたしは王にお仕えすることを旨としております
   その思いは決して変わりませぬ

3.  ビダダリが美しくあるは
   王のご加護があってこそのもの
   聖なる王は恩寵をお受けになりました
   それを傷無く、とこしえのものとするには、八正道をお持ちになることです 2)

4.  我が君の力は世 3)にあまねく
   ブラフマロカ Brahmaloka 〈ブラフマン神の天界〉にも匹敵いたします
   ヴィシュヌロカ Wisyunuloka 〈ヴィシュヌ神の天界〉、シヴァロカ Syiwaloka 〈シヴァ神の天界〉の二つも引き下がるでありましょう
   インドラにいたっては、恐れるばかりです

1)dijujur : dibeli(売られた)の古法。2)Kebaikan yang delapan : 完全性を目指すために人が持たなければならない八つの徳。3)Buana : 世界。様々な生き物のいる所。

5.  その奇跡的なお力の源はなんでしょう
   苦行で五感を統治なさって手に入れたのでしょうか?
   きっと千年もヨーガを行われたにちがいない
   そうしてルドラ神があなた様に愛を与えられたのでしょう」

6.  「我が主よ、聞かれよ!
   我が苦行で得たものは少なくない
   ヒマーラヤ山のふもとの洞窟、
   そこはすさまじい四つの噴火口 1) の閉じたところ

1)Letusan : 山から岩と溶岩が噴出するところ。

7.  そここそが、わしが永遠なる完全性、ルドラに拝跪したところだ
   バタラは慈悲にあふれる方でもある
   そこで、わしは我が望みの全てを祈願した
   バタラはわしに地上と天界 sorgaloka を支配する力を与えられた

8.  我が超能力が隠されたところ、
   バタラの報酬は我が舌先にある
   ブラフマンもヴィシュヌも我を恐れる
   そなた、このことは他の者に話してはならぬぞ」

9.  かのように語り、かくて〈謀は〉見落とされた
   愛欲のゆえに、彼はその行為〈の意味する所〉を知り得なかったのだ
   甘やかさに心をとろけさせられ
   ここには欲望は災厄を呼ぶということがどういうものかが見える

10.  かくてパンドゥーの息子もともにそれを聞き
   彼もまた約束を想起した
   門へ飛び、その上に立った
   彼が突進により〈門は〉破壊されたのである

11.  宮殿には悲鳴がおこり、騒乱状態となり
   多くの女たちが、黄金の家を壊された
   マニマンタカの王は驚き、
   怒りに我を忘れるにいたる

12.  恋人はすぐに助け出された
   油断をついて、素早く飛び
   サン・パールタは天空に飛び去った
   敵はまんまと欺かれたのである

詩編20

1.  国中が大騒ぎとなり
   サン・ニヴァータカヴァチャは知らせを受けた
   しかし彼は涙するたくさんの人々を無視し
   押し黙り、しかめ面をしていた

2.  宝石が失われたことは間違いない
   比類無く、一度は手中にしたのに?
   捜してもすでに煙のように消え失せていた
   彼は欺かれたことを知った

3.  これはバタラ・シャクラ〈インドラ〉の謀略に違いない
   迷うこと無く彼は真実を知った
   しかし彼は喋らなかった
   その心に恐れは無かった

4.  傲慢さが心に蘇った
   その心はメール山のような大きさとなった
   恐ろしいラークシャサの軍隊が
   その夜、命令も受けずに整列した

5.  市場はごった返し
   広場には人が大勢集まった
   ラークシャサの大王の命令が知らされ
   軍隊はスラーナタ Suranata 〈神々の王〉と戦うために出発した

6.  翌日には王も現れ
   軍隊は喜びに満ちて参集した
   押し合いへし合い、騒々しく群がった
   グンダン Gendang 〈太鼓〉とサンカラ 1) がけたたましく鳴り響いた

7.  百万スラクサ Selaksa 〈laksa=10,000〉の雷鳴のよう
   彼らのうなり声は、獅子のごときであった
   世界が逃げたがっている
   サン・ニヴァータカヴァチャの軍を恐れて

1)Sangkala : 古代ジャワ語ではシャンカ Syangka 。スルナイ〈ダブルリードの笛〉の大きなもの。

(つづく)
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by gatotkaca | 2012-04-14 20:30 | 影絵・ワヤン | Comments(0)

カカウィン・アルジュノ・ウィウォホ その7

詩編15

1.  かくて王子〈アルジュナ〉は最上の四つの滋味のジャムゥ〈薬草〉を受けとった
   愛欲の旨味だけは感じられなかった、というのも彼にとってしばし禁忌のものだったからである
   彼が勝利し、ラークシャサ王を斃すまでは
   間もなく彼は敬愛するインドラ神の足下に拝跪できるようになった

2.  喜んでサン・アルジュナとスプラバは共に拝跪した
   その姿はすばらしく、あたかも一体となったかのようであった
   「やあ、我が子らよ、お二人に平安あれ!
   そなたらの目的が達成されるよう!」
   二人の恋人たちへのバタラ・インドラの言葉はこのようであった
   彼らは言葉無く、しかしその目は心の内を見つめていた

3.  彼らは天を漂い、冗談を楽しみ、心は恋情にあふれていた
   それぞれが飛ぼうとする前にしばし見つめ合った
   王子は言った「妹よ、前をお歩きください、そのようなスレンダン〈肩掛け〉をしてはなりません」
   「あなたはカイン〈腰布〉の裾で象られた妹を見上げようとなさっている

4.  もしあなたが前を行かれるなら、私を見るために振り返らなくてはなりません
   ですから私たちは一緒に行きましょう、あなたが私を導くことができるように
   もしあなたが後ろにいるならそれも良いですわ、あなたがしもべのように見えますもの
   ほどけてばらばらになったら、あなたのサングル〈束髪〉を直せとお命じになればよいわ

5.  そう言うと、スプラバは前を行き、解っていないようなそぶりで間違った返答をした
   「あなた、王子よ、遠くまで来たわね、見て!
   スララヤの部隊がメール山を取り囲んでいるわ
   南はバラタ一族の領土よ、でもハスティナープラ Hastinapura はどっち?」

6.  サン・アルジュナは迫害を受けている宮殿を見て心を悲しませた 1)
   四人の兄弟たちと忠実なるドゥルパディー 2) の悲しみが思い起こされた
   「愛する者を求める人の嘆きに構うことはしないで頂きたい、それはあなたではないのだ」
   彼はそれだけ答えるとビダダリの目を見つめた

1)Sang Arjuna sedih hatinya melihat istana-istana pengaiaya : パンダワはコラワに無理強いされ、ハスティナープラを去った(名称一覧を参照)。『アルジュナ・ヴィヴァーハ』は彼らが母を残してバラタの国を去ったあとの物語である。2)Keempat saudaranya dan Dropadi : 名称一覧、アルジュナとドゥルパディーを参照。

7.  彼らは旅を続け通り過ぎた土地の素敵なさまが描かれる
   渓谷に流れる河は雪の山をいかにして海まで下っていったのか?
   砂浜を経て、椰子の樹々を通り、眠っているように見える象の群れに出会う
   遠くから鳥たちが波のように押し寄せ見る者の心を魅く

8.  そのへりが、細かい砂粒のように当たる
   波に洗われ遠ざかって行く白い石のようにその素晴らしさはさまざまだ
   揺れる花あり、アンソコ angsoka の花、シュロがあり、足下の大地に層をなし、沐浴しているものもある
   その根は彫りつけられるか縛られているかのように、平らな石をつかんでいる

9.  静かな聖地は、最上のプンディトでなければ、たどり着ける者はいない
   されど静かなる人だけが石の下で、肉体を望んで死にいたらしめることができるのだ
   静かなるブラフマナは聖なる場所にあり、また苦行する人もそこへ来ることを厭わない
   彼らは鹿皮の上着を着て心地よく、森を鹿と共に彷徨う

10.  野生の象が素晴らしく見え、虎に拝跪するようだ
   跪いて水を吸い込み、鼻から吹き出す
   ばらけた山芋の花の下に隠れる麝香がいる
   思いやりがあるかのように虎の目がしばしばする

11.  夢の中のような建物がある
   何のために建てられたのか?
   彫刻の施されたチャンディ〈祀堂〉は壊れ、涙しているかのように立っている
   アンソコの樹が近くに枝を広げ、足下の大地は河に崩される
   ガディン gading 椰子は隙間なく伸びて、風にそよいでいる

12.  その河の縁をさまよっているのは彼ら二人の他にはない
   彼らは素晴らしい様を眺めるだけであった
   雲が雨を降らせに集まって来た
   その頭に瞳は見た、天を飾る線のような光のまたたきを
   その女に注意しないと近づいて来て後ろから噛み付かれる

詩編16

1.  苦行所を見れば、蛇の印でそれと知れる
   そこには牛が寝転び
   白い台があり、丸い傘がある
   河からの蒸気で建物は煙っている
   その苦行所は壁といい、門といい、神の持つそれと見紛うばかりである

2.  以前ルシを誘惑したビダダリたちもそこではおとなしくなり、キリ 1) になることを誓う
   河に捧げられた花があり、米蔵の近くで火が燃え上がる
   その甘い眼差しは消えること無く、訪れる者の意見に同意する
   苦行所の森の中で話すことは許されないから、彼女らはその眉に触れるのだ

1) Kili : 女の苦行者。

3.  丘から湧き出る河は、湖となり、流れ続けて、谷が始まる
   谷の頂上から降り注ぎ、雲が積み重なる
   スララヤの河岸から生まれ出で
   川下には赤いアンソコの花が開き、麗しい景色だ
   魂たちの鳥が楽しげに水浴びし
   そして汚れを落として羽を広げる

4.  樹の花と蕾はまだ満開にはいたらず
   憧憬は詩人によって紡がれ讃えられる
   この時サン・ダナンジャヤとその恋人はそこに至り、愛ゆえに熱を帯びた
   彼らはムクドリのあいさつを受け花の蕾が手招きする

5.  旅を終えて、彼らは敵の宮殿を見た
   朝七時、太陽の光は雨を横切って注ぐ
   薄暗く弧を描く線のようなものが風に吹かれて天のふもとに見える
   月によりかかるジャスミンの花輪のように鳥が飛んでいく

6.  マニマンタカ Manimantaka の国に雨が降り
   それでも太陽の光は黄金の壁と門に輝く
   街の真ん中には白い建物がたくさん建っている
   栄光の果実は、スララヤの美しさに十倍する

7.  太陽は沈んだが、月明かりで昼のように明るい
   王子とその恋人は漂いながら近づいていく
   「聞かれよ、妹よ、騒がしい音がする
   大いなる宴のしるしに違いない
   快楽を好むラクササが宮殿で高慢に騒いでいる」

8.  サン・アルジュナがそう言うと、美しいアプサリは話した
   「本当ですわ、王子!彼らは明らかに喜んで神々の王を攻めるつもりです
   武器を修理し、広場ではげしく模擬戦をしている
   七日もたてば、彼らは神のところへ攻めてくるでしょう

9.  ああ、王子よ、バタラ・インドラの命はまさに困難で危険なもの
   私は心配で恐ろしい、これから捨てられて、敵に拝跪させられるのです
   私を手に入れようとしているあの邪悪なる者を見る私のおぞましい気持ちを聞いてくれる人は誰もいない
   辱めと悲しみを抱くより罪を得て死ぬ方がましだわ

10.  でも運命は許してはくれない、まして私は命令された身
   手助けに差し伸べられる手のないことを受け入れ
   粗暴な命令のなすがまま、うつろな空気をつかんで放心しているだけ 1)
   アプサリの言葉はこのようで、嗚咽し、泣いたふりをした

1) Hamba dititahkan memeluk yang tidak terdekap. Hanya melemaskan saja menangkap-nangkap diudara yang kosong : アルジュナを揶揄している。スプラバが言いたいのは、アルジュナに助けてもらいたいということである。

11.  「何をもって、スラーパティの命令ゆえに辱めを受けるなどとおっしゃるのか?言ってみてください
    ましてや私が目の前におりますのに、前をご覧なさい、恐れることはありません
    かの悪漢に受け入れられたら、命令を果たすのです、恐れてはなりません!
    私の考えではあなたはその姿を甘やかにされるのが良いでしょう

12.  あなたが成功し、彼が秘密を明かしたならば
   かの山の頂の洞窟でのようになされば、あなたはきっと勝利なさる」
   サン・ダナンジャヤは言い、恋人の束髪を直してやった
   彼女は顔をしかめた、でも怒っているのではない、喜びのゆえだ、笑顔からのものであった

詩編17

1.  多くを語ることは無益なことだろう
   感情を押し殺し、恋情を押さえつけて
   努めて話を打ち切り
   かくて彼らは目指す場所に着いたのである

2.  プリの傍らの庭園で彼らは止まった 1)
   女たち2)が宮殿 mahligai から出て来て前庭で月の光と戯れる
   ヒアン・インドラが以前送った女たち
   彼女たちもまた遊びに興じる

1)puri : mahligai=宮殿。2)Istri-istri : 本来の意味「おんな」として用いられる。今もこの語は女を意味する一般的な言葉として使われる。

3.  神聖な外観の建物がある
   イチジクの樹の近く、そこにサン・パールタ〈アルジュナ〉は行く
   こっそりと話ができるからである

4.  ガラスの窪みがとても美しく、明かりを変化させる
   多くのアプサリは彼女を見て不審に思う
   それゆえ彼女らは近づいて来て彼女を見て、挨拶する者もいる
   「地上の宝石よ、あなたは誰?」と彼女は尋ねた

5.  王子は、アプサリの誰ひとりとして彼を見ることができない
   というのも瞼の化粧墨の不思議な力が彼にはたらいているからである
   力なく疲れたさまのアプサリだけが見えている
   疲れ、足をひきずり、弱っているがその目は光輝いている

6.  同情して、彼女を見て近づいてきたのは三人の者であった
   神々の王、インドラのもとから送られてきた女たちであった
   「誤り無くば、私たちはあなたを存じております」と言った
   そして真実を知った彼女らはまた言った

7.  「ご主人さま 1) 、あなたがここにお連れになった仲間はどなたです?
   あなたはここに光のように降りてこられました
   スリ・インドラは迷っていらっしゃる、と私たちは感じていました
   サン・プラブの欲する者はあなた、スプラバです、ご主人さま!

1)Masku : Masは謙譲語。ジャワ古語だけでなくマレー語にもある。

8.  それこそラークシャサ王がヒアン・インドラに怒っている原因なのです
   あなたが与えられないことに他ならない
   サン・アルジュナがあちらに来たから、彼はますます怒っております
   それゆえアスラの王は攻撃しようとしているのです

9.  サン・ヒアン・インドラはもう恐れておられませんか?
   ショルガロカで如何なさっておられます?話してください、ご主人様! 」
   彼女らはそういった、喜びに泣きながら
   スプラバ心を鼓舞して、言った

(つづく)
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by gatotkaca | 2012-04-13 15:29 | 影絵・ワヤン | Comments(0)

カカウィン・アルジュノ・ウィウォホ その6

詩編10

1.  「三界の守護者たる御身によって、無益なる者の拝跪がお聞き入れありますように
   わたくしは、あなたの足下に身も心も捧げて拝跪いたします
   あなたは、木より生じる火、乳から生じる油
   あなたは、善を語る者あれば、はっきりと顕現される

2.  あなたは、どこにでも存在し、あなたは到達し難い、最上の真実の核である
   あなたは、存在と非存在、最大と最小、罪と聖性の中の玉座にある
   生命の起源にして現象の終焉
   あなたこそが創造主
   存在と非存在、その全ての世界、精神の由来にして到達点

詩編11

1.  あたかも水を溜めた瓶に対する月のよう
   月は清く聖なる水に映る
   あなたは被造物に対してこのようである
   あなたはヨーガを行う被造物の内に姿を現す

2.  あなたは見ることのできないもの
   あなたは感じることのできない感覚
   あなたは到達することのできない到達点
   最上なる真実としてのシヴァはいつも閉ざされてはいない

詩編12

1.  彼の祈りの尽きる前に、パラマルタ・シヴァは言った
   「我が子よ、明らかにそなたは目的を達した
   わたしはそなたに超能力の矢を授ける
   その武器の名はパシュパティー Pasyupati 、見よ!」

2.  サン・ヒアン・イシュヴァラの言葉はそのようであった
   その手が炎の中から出てきた
   彼が矢を握っているのがはっきり見える
   高貴なる矢がサン・ダナンジャヤ Dananjaya に与えられた
   それは火のすがたであり、そして矢に形を変えた

3.  サン・ダナンジャヤはその恩寵を賜り、敬意を込めて拝跪した
   弓と冠も授けられ、それは二つと無いものであった
   彼には全ての戦いの知識が教えられた
   教え終え、それを用いることを許し、バタラ・シヴァは姿を消した

4.  神々とシッダたちもすべていなくなった
   王子は地上ではないかのように感じていた
   かようなる喜びで、姿が変わったかのようであった
   彼は手本となる:彼は堅固なる心でその目的を達成した

5.  断食、ヨーガ、苦行を行わない者があれば
   強く力を求め、与えられるよう神に強いる
   そうすると、その目的は逆になり、彼は困難に苦しむことになる
   欲望を押さえつけられ、悲しみに打ちひしがれることとなる

6.  徳を求める者にとって、元来報いと罪はそのようである
   堅固な心で宗教の書の本質をつかみ、大いなる英知をつかむ
   賢い者の心の中には不動の心だけがある
   それゆえ彼は形を持たない存在に到達し、幸福を得る

7.  徳を持たない者はどうするか
   良い道具を用いるれば良い!
   悪しき道具を用いる者の得るものは悪しきことである
   信仰心無き苦行は
   もともとの人生に疲れを加えるだけである
   その心の求めるものすべてを見出した者はパンドゥーの息子に倣うが良い

8.  さて、サン・パールタは願いを叶えたあと
   幸せな心で帰還しようとする
   彼は、帰れば、迎えてくれる、愛するものたちを思い起こす
   人間というものの性〈さが〉に支配され、その心は愛に満ちあふれたのである

9.  その時二人のアプサラ 1) がやって来た
   その姿は素敵に美しく、彼を呼んでくるよう命じられたのだ
   毛織りの衣装とあらゆる宝石で飾られた靴を運ぶ
   そしてスラーパティの書簡がサン・アルジュナに受け取られた

1)apsara : ビダダラ bidadara 、半神。

10. 「この父の書簡が息子に届きますよう、そして我が愛が息子に受け入れられるよう
   そなたの手助け無きまま、災いに脅かされている父はお願いする
   我らはラークシャサ、ニヴァータカヴァチャ Niwatakawaca を殺さねばならぬ
   我が息子こそが、比類無きその矢で〈ラークシャサ王を〉滅することのできる者と定められたのだ

11.  バタラ・インドラの書簡はそのようなものであり、褒美は良きものである
   サン・アルジュナの顔は、四人の兄弟への慈愛に蒼白となる
   留まることはならず、悲嘆にくれる
   旅立つ者として?
   それゆえ彼はひとり押し黙り、その目からは涙が流れた

12.  使いの者たちは言った「お与えください!お貸し下さい、名高き超能力を、神の王のため
   スロロヨが崩壊せぬよう、お護りあれ
   あなたは力なきものを助けるのにまこと相応しい」

13. それゆえ、彼は黙って拝跪し、その心は落ち着いていた
   「勇敢さと善なる心を賞賛される者であっても、本当に難しいことだ
   魂を賭けた者でも敗れるかもしれない
   でありますから、すべては神におまかせするのがよいでしょう」

14.  鄭重な敬意を込めた言葉で巧みな話であった
   かくて王子も立ち上がり、支度をした
   毛織りの上着と一対の空飛ぶ靴が身に着けられた
   二人のアプサラは彼を導き、武器を運んだ

詩編13

1.  王子〈アルジュナ〉は苦行所の森に別れを告げ
   インドラキラ山の頂に拝跪した
   彼は幸福を得たこの場所を忘れることはないだろう
   善なる者がそうであるように

2.  出立する者は愛しさをこめて振り返る
   山の斜面のチュマラ cemara 〈樅の木〉の樹々が彼に触れる
   呼び声が聞こえる、悲しみにくれる密林の、その悲しみが雲に覆われていく

3.  彼は東に向かって飛ぶ
   高貴なるサン・アイラーヴァナ Airawana 、バジラーナ Bajrana と共に
   通り過ぎる土地土地は描ききれない
   というのも朧げで、はっきり目に映らないからである

4.  彼らはスララヤに近づく
   最上なる星々の王とすべての星がそこにある
   天上の王国は輝かしく、苦しみはない
   敬虔にして忠実なる人間が幸福を味わう所


5.  星々、太陽、月が輪となって
   人間界からは小さく見える
   本当は大きいのだが、遠くにあるゆえ
   中間世界 dunia tengah 〈三界のうち、人間界〉からははっきりとは見えない

6.  星はとても小さく、かすかにしか見えない
   月よりも高く、遠くにあるから
   月から太陽の距離は
   太陽から地上までの距離のようだ

7.  天のありさまと美しさを
   彼らはこのように語った
   サン・アイラーヴァナは王子に説明する
   この世に生きていない、夢のような感覚だ

8.  五感は冴え渡る
   メール山の東側が急に雲に覆われる
   大きな壁、四つの門、あらゆる宝石が散りばめられている
   太陽と月も恥ずかしがるほどだ

9.  スララヤには昼も夜も無い
   ここにあるものすべてが光り輝いているからである
   トウンジュン・マラム tunjung malam 〈夜咲く蓮〉に〈夜を〉尋ねるだけ 1)
   そして雷鳥が恋人に別れを告げるなら〈夕刻だ〉

1)Hanya bunga tunjung malam menyatakannya, Serta belibis, kalau berpisah dari kekasihnya : トゥンジュン・マラムは夜に花開き、雷鳥 belibis は夕刻に巣から出て来る。

10.  感嘆は尽きること無く
   サン・アルジュナの目にしたものを描くことはできない
   彼は到着し、喜びに満ちて拝跪する
   チュマラ 1) にせかされ、いそいで命を拝する

1)Cemara : 蚊除け、形がチュマラの樹と似ており、女性が増毛に用いる。またチュマラの樹は、アルジュナが早く彼に近づくようにと、インドラが彼のチュマラ〈蚊取り線香の器か?〉に触れていることを表す。

詩編14

1.  カパット Kapat 月の最初の雨を迎えて喜びにうちふるえる
   枯れかけた森の植物のように
   五感すべての喜びをもって王子の到来を歓迎した
   ビダダリたちもまた、その愛の花の開くのを感じ
   到来の知らせを雷のごとく耳にした

2.  彼が入って行くと、アプサリたちの歓迎を受けた
   彼女らは〈彼を〉見るや、その場を立って、彼を出迎えに行き、甘い視線を注いだ
   赤い唇を笑顔に結ぶ
   サン・アルジュナの愛を求めて

3.  ビダダリたちの歓喜のさまを長く語りすぎたかもしれない
   サン・ダナンジャヤが到来し、ウルハスパティ Werehaspati と方策を話していた
   インドラ神の玉座に歩みを進める
   他の神々も同席していたが、そう多くなく、〈身分の〉低い者はいなかった

4.  サン・アルジュナは敬意をもって迎えられ、バタラ・インドラの言葉を聞いた
   「ごきげんよう、我が息子、力なき者すべてに勝利をもたらす者よ!
   さあ、上座に座られよ!
   不足無く、幸運でおられるよう!
   父は、災いに立ち向かうを善しとするそなたに、敬意をもって挨拶を送る

5.  それというのも、私は災厄と破壊におそわれ、おののいている
   超能力のラークシャサ、シ・ニヴァータカヴァチャが三界を手に入れようとしている
   彼は祈願を達成し、ラークシャサ、ルシ、神、ジンによって殺されることがない
   されど人間の男によって滅せられる、とはヒアン・イシュヴァラのお言葉である

6.  我らがそなたに助けを求めようしている、との知らせを聞き
   彼は森の苦行所のそなたを殺すよう、荒々しいラークシャサに命じた
   アスラは猪となり、そなたは狩人の姿のヒアン・イシュヴァラと共にそれを殺した
   かくてそなたには恩寵が授けられたのだ

7.  すでに報償を受けたゆえ、
   我らはそなたに手助けを乞う
   ラークシャサは神聖なるすべてを滅しようとしている
   彼がスララヤを破壊しようと目論んですでに長く、残虐さは増している
   そのラークシャサの相手となれ、我が子よ、我が全き守護者よ」

8.  ヒアン・インドラの言葉はこのようであり、王子は拝跪して答えた
   「どうして神々の王の命に背けましょうか!
   バタラが我が名を呼ばれることがすでに恩寵
   プラブ〈王〉の足もとの塵で顔を拭うことを許されますなら、何ほどのこともありませぬ

9.  何を為せば良いのでしょう、いかようなるご命令でしょう?
   お考えをお話しください、しもべたるわたくしに勝利するための方法をお話しいただけますよう」
   心を固めたサン・ダナンジャヤは、このように尋ね、神々の王は命じた
   ブガワン・ウルハスパティが入って話しはじめた

10. 「 旦那様、インドラ神とすべてのルシの目的はすでに定まりました
   スララヤを破壊しようとしてやって来る敵を防ぐこと
   我らは押し寄せる敵を果敢に攻撃する
   あなたの勇猛さと超能力だけが、我らを守る寄る辺となるのです

11. されどニヴァータカヴァチャはひじょうに賢く、超能力にあふれ、注意すべき者
   百度討とうとも、彼は生き返る
   その超能力を消し去るには秘密があります
   それを知らねばなりませぬ、彼を相手にむなしくならないよう

12.  彼がバタラ・インドラに懇願し、与えられなかったアプサリがおります
   他のビダダリが届けられたが、彼の者の心は満足せず
   彼はいまだその人を慕っているのです
   真に誤り無く、彼のビダダリはラティーと同等の美しさ
   彼女がニヴァータカヴァチャに差し出されねばならぬは、疑いなく明らかです

13.  彼が秘密を明かすよう、努めなければなりません
   彼の恩寵の性質を明らかにするのです
   されどさきに述べたスプラバが彼に触れることは許されません
   ラークシャサの王が彼女に話したなら、すぐにあなたに知らせます
   彼女はあなたに従わなければなりません
   さあ、我が子よ、彼女と共に出発するのです!

14.  また敵の居場所がどのような所なのかを見られるよう
   危険、街の障壁、軍の編成の様子を確認するのです
   この毛織りの上着、靴そして瞼の化粧墨で姿を消すことができます
   我らは我が子を信じる、あなたは災厄を止めることができると

15.  されど善なる子よ、まずは疲れを癒し神々の王のジャムゥ jamu 〈薬草〉を受けられよ
   務めを果たした後は、あなたの望むものは求めるだけ許されるましょう
   すべてのルシはまさしくあなたに寛容を持って答えるでありましょう」

(つづく)
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by gatotkaca | 2012-04-12 18:19 | 影絵・ワヤン | Comments(0)

カカウィン・アルジュノ・ウィウォホ その5

詩編7

1.  瞑想に入り、静かに座するアルジュナのことはさておき
   バタラ・インドラの敵、勇猛にして強力なる者のことに心を移そう
   アディパティ〈領主〉、大臣たちは、死を恐れぬ強力な軍隊の招集を完了した
   力にまかせ、カヤンガン〈天界〉を破壊し、そのすべてに騒動を起こそうとする者に対して

2.  ショルガロカ〈天界〉のあちこちが破壊されたが、彼らの努力と救済で修復された
   報酬も褒美も、彼らは控えめで思いやりに満ちているから、インドラロカへは届かなかった
   しかし、彼らはスラーパティの救いのあることを知っていた
   神はどうやってラークシャサに応じるのだろう?
   ゆえに彼らは心を配り、三界 1) に偵察を放ったのである

1)Dunia yang tiga : 上位世界、中間世界、下位世界。すなわち、神々と半神の世界、人間とラークシャサの界、そしてナラカ Naraka 〈地獄〉。

3.  ひそかに偵察たちが知らせをもって来た
   サン・パールタはインドラキラで苦行しており、神々を呼び、恩寵を得ようとしている
   勇猛で名高いアスラはそれを聞き
   シ・ムルカ Si Murka が攻撃し、苦行者の首を切ろうとしている

4.  手短に語れば
   彼はインドラキラに到着し、うろうろして
   サン・アルジュナを見つけられず、怒りのあまり混乱し、逆上した
   「この山を粉砕してくれる」と言うや、彼は巨大な猪となった
   それは眠れるクムバカルナ〈ラーヴァナの弟、巨大なラークシャサ〉のようにすさまじく、
   山は揺れ、その頂は崩れ落ちた

5.  サン・パールタは幸福なる瞑想から覚醒した
   洞窟の扉も激しく揺れ、やまぬ地揺れに崩壊した
   かくて彼は弓と矢を携え、外に出た
   そして彼は、山を傷つけ、石を巻き上げ、倒し、崩潰させている猪を見た

6.  「これは大いなる試練だ」彼は心の内に言い、微笑み、自身の力を信じた
   注意深く冠を着け、修行者の衣服を取る
   かの猪は大いなるラークシャサの化身であろうと考えながら
   いささか離れて彼は立つ、大風が逆巻き樹々を薙ぎ倒す
   かくてサン・パールタは立ちつくす
   まさしくバタラ・イシュヴァラ〈シヴァ〉の到来である

7.  彼〈狩人=シヴァ〉はシッダ 1) やルシたちとともに歩む
   カイラーシャ山から降り、下界の動きの善し悪しを眺める
   サン・アルジュノがヨーガ 2) を修めたからには
   バタラ・イシュヴァラは彼に応じなければならない
   ラークシャサは荒ぶり、彼は狩りに取りかかろうとする

8.  彼は猪を見て、弓を抱え、シッダやルシたちの列が従う
   まさしく狩人の王だ
   何をしにきたのか?
   サン・パールタは彼らを見て、心の内に思う
   「敵が増えたのか?」
   猪が攻めよって来る
   彼もシ・リダ・マウット 3) を射放った

1)Sida : 最上の真実に到達した者。ルシの仲間。sida-sidaと複数形で使われる場合はルシたちを意味し、神々を意味する場合もある。2)joga : 詩編1-5、マハーヨーギを見よ。3)Lidah maut : 矢の名。 


詩編8

1.  矢は放たれ、その腹に当たる
   サン・ヒアンも同時に矢を放ち、また当たる
   猪の傷はひとつだけ
   ふたつの矢はひとつになる

2  パールタは獲物を仕留めた矢を抜こうとする
   するどい一瞥と激しい声がする
   サン・ヒアン・シャンカラ Syangkara は言う
   「勇敢なるそなたはなぜ、あわてて矢を抜こうとする?

3.  山の森の樹の皮を着て、髪を飾る役立たずの者よ
   これは罪深く、残酷なる殺しだ
   それを見たいとでも言うのか
   お前はビク 1) の法に従う者ではないのか?
   いつも武器を携えているのか?お前は地獄に堕ちるぞ

1)Biku : 仏教における僧侶。他の部分でも、ムプ・カンワは〈ヒンドゥー教〉シヴァ派だけでなく、仏教の宗教『要素』や哲学を取り上げている

4.  お前の師もまた、お前のせいで地獄に堕ちるだろう
   お前は十善戒 1) をいささかも知らぬ
   これは我が獲物だ、世間知らずめ
   礼儀を知らず、気が狂って、殺されるに相応しく、世の習いを知らぬ

1) Suruh sepuluh : 仏教における十の戒律。殺すなかれ、真実を語らねばならぬ、盗んではならぬ、など。

5.  バタラの言葉は王子〈アルジュナ〉の耳に痛かった
   彼は怒り、ゆっくりと、そしてはっきりと答えた
   「おい、言葉に気を付けろ!
   お前はパールタを知らぬと見える!気を付けろ!

6.  まさしくお前は恐ろしげで粗暴に見える
   斧持つスリ・ラーマ〈パラシュラーマ〉に倣ったのか
   彼が辱められぬよう
   矢を射放ってくれる!

7.  まことお前の言葉は耳障りだ
   私に許しを乞うなら
   もう怒らないでやろう
   しかし私に拝跪せぬなら殺してやる」

8.  狩人に対するサン・アルジュナの言葉はこのようであった
   矢が雨のように降り、シッダたちは叫んだ
   〈矢が〉一斉に攻撃し、取り囲み、彼〈狩人〉を突き刺した
   されど彼は恐れず、しっかりと立っていた

9.  矢が嵐のように放たれる
   明らかに百はあるようだ
   飛来し、敵を殲滅し、恐ろしい
   ヒアン・シャンカラは動かないが、それにもかかわらず傷ひとつつかない

10.  彼らは一騎打ちをはじめた
   すさまじく矢が飛び交う
   サン・ヒアンはシ・ブラン・ストゥンガ Bulan Setengah 〈半月〉の矢を放つ
   標的に至らず
   大地に当たる

11.  ヒアン・シヴァ・パラマルタ 1) の怒りはふくれあがり、戦う
   シ・プンチャック・グヌン・バトゥPuncak Gunung Batu〈山の頂きの石〉の矢が放たれる
   石の矢は、山の大きさにしてとてつもなく長い
   サン・パールタも激怒し、土を掴んで放り上げた

1)Hiang Syiwa Paramarta : パラマルタは最上の真実を意味する。

12.  シ・ブシ・バジャック Besi Bajak 〈鉄の鋤〉の矢が降る
   メナラ〈尖塔〉の大きさの鉄の切っ先が千以上ある
   激しく飛び、バタラ・シヴァの矢とぶつかり合う
   戦場に雷鳴が轟く

13.  ヒアン・シヴァは山の石の矢が滅せられるのを見て驚く
   彼は素晴らしい、炎の矢として名高い武器を取る
   それはかつて三界を焼き尽くしたものだ
   王子はそれゆえ気を引き締める

14.  殲滅の矢が打ち返され大地に激しさが増す
   戦場に入道雲が立つ
   風は激しく吹きすさび、光が明滅し、雨が落ちる
   炎は消され、絶えて、滅せられる


詩編9

1.  サン・ヒアン・ルドラ Rudera 〈シヴァ〉は大いに怒り、縄の武器を放つ
   矢は蛇の鎖の形、残酷なるその口が開かれる
   同時にシ・タリン・カラ 1) の矢が飛ぶ
   サン・パールタはおののき、弓を満月に引き絞る

1)Si Taring Kala : ここではkalaは時間を意味する。〈訳者:バトロ・コロの牙ではないだろうか?〉

2.  ガルーダの矢が射放たれ、蛇の矢を防ぐ
   無敵の矢、シ・タリン・カラはサン・アルジュナに命中し、彼は倒れる
   当たって彼の弓は砕け、冠は粉々になり、ダイヤモンドがまき散らされた
   怒りにかられて彼は攻撃し、折れた弓で打ちかかろとする

3.  サン・ヒアンは気合いを込め、彼らは互いに近づき、その武器を置いた
   つかみ合いになるまで、しばし策を練る
   バタラがサン・パールタを捉え、大地に投げつけた
   サン・アルジュナは受け止め、素早く応戦し、バラタの足をつかむ

4.  彼が引っ張ろうとした時、その足は消え失せた
   花々の雨が降りしきり、賞賛の歓声が聞こえた「ジャヤ!ジャヤ!〈jaya=勝利〉」
   バタラは淡い光を放って見え、サン・パールタが拝跪すると、はっきりと輝きはじめた
   ヒアン・アルダナリ Ardanari が、あらゆる宝石をちりばめた玉座に顕現したのだ


5.  作法を心得たパンドゥーの息子は跪き、拝跪した
   彼はまた略式礼拝 puja ringkas を知っていたので、ヒアン・ルドラからやや離れて対峙した
   規定に則り、手を持ち上げて、きれいにマントラを唱え、花を捧げた
   祈りは終わった、そのお言葉を聞かれよ

(つづく)
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by gatotkaca | 2012-04-11 06:45 | 影絵・ワヤン | Comments(0)

カカウィン・アルジュノ・ウィウォホ その4

詩編4

1.  さまざまな方法でパンドゥの息子〈アルジュナ〉の苦行を妨げようとする
   太陽は沈み、月がそれに代って
   アプサリたちの姿をうれしそうに見つめる
   光がさしこみ、急に雲に隠れる

2.  かくてビダダリたちは、サン・アリア・パールタを求めて洞窟に入った
   誘惑しようとしてさかさまに、彼女らは愛おしさにとらわれた
   その心の苦しみを歌う者あり
   ある者は唇をふるわせて、口笛を吹き、足の指で音を鳴らした

3.  サン・アルジュナを想ってパンダンの花 bunga pudak を摘む者あり
   その胸に身をおき、抱きしめ、話しかける
   「我が子よ、そなたは私を恐れてはなりません
   たしかに我が望みは過ぎたるもの
   愛しい父なるそなたは、我が愛という心を知らぬ」
   彼女はそう言うのだった

4.  サン・アリアのそば近くの者は
   手探りして彼の手をつねる
   彼女らはさまざまに手を尽くす
   サン・パールタの心を魅くために

5.  されどサン・パールタの信心は堅い
   その五感は目の前の誘いに応じることはない
   聞くことも見ることも定まらぬ
   彼の清浄は何ものにも染まらない

6.  彼を取り巻くビダダリたちは望みを失った
   彼女らが誘惑を続けて三つの夜が過ぎた
   それでも彼はかわらず、静かなままであった
   彼女らは手を取り合って帰っていく
   パールタを心の内に描きながら

7.  〈天界に〉到着し、彼女らは美しい宝石〈原文molek gemelai 、gemala=魔石の誤植か?〉、サン・ヒアン・インドラに拝跪した
   おこった出来事を話した
   カヤンガン〈天界〉のすべてが喜び、サン・アルジュナを讃えた
   多くの者がインドラキラに向かって敬意を表した


詩編5

1.  スラーパティとすべての神々は喜んだ
   パンドゥーの息子の苦行が完全であるとの知らせを聞いて
   ラークシャサ王の首は彼の前にさし出されたようなもの
   されどいまだ喜びに染まるとは決まっていない

2.  瞑想のうちにあるがゆえにサン・パールタは静謐
   もし彼が永遠の幸福の実を選べば、地上の力を忘れさるだろう
   さすればバタラ・インドラの目的は達成されぬゆえ、彼は一人で出立した
   彼は弱々しく、腰の曲がった老いたルシ 1)に姿を変えた

1)Resi : マハーヨーギ。詩編1-5を見よ。しばしば神はルシに含まれ、その逆もある

3.  すぐさまバタラは思念を固めるにいたる
   雲に覆われた彼の苦行所を見つける
   雨の日であり、その寒さはふつうでなく
   彼は杖に寄りかかって震えている
   彼が洞窟の扉に佇み、あたかも、サン・アルジュナが中にいるとは知らぬげに
   雨宿りしているようであった

4.  長い間挨拶も無く、かくて彼は咳き込み、咳払いした
   サン・パールタの心は定まらず、しばし躊躇した
   サン・プンディタに見つめられ、彼は礼節をもって応じた
   何処から来て、何処へ行くのか、と彼は尋ね、ルシは答えた

5.  「聖地を巡礼し、山や森を彷徨い歩いている者
   こちらから光が見え
   光のあるところに苦行するアジャルが座している
   我が子よ、お許しあれ、あなたの苦行を妨げるつもりはありませぬ

6.  あなたの苦行は、私の見るところでは、奇妙だ
   殺しの道具を傍らに置くとは
   修行者の衣装のそばに、矢と剣がある
   それは快楽と権力を求める者のしるし
   残念ながら、あなたは魂の解放 1)を望んでおらぬ

7.  あなたが激しい苦行をするのなら
   あなたは徳というものに向いているのが良い
   もしあなたが地上の果実を選ぶのなら、あなたは道に迷うだろう
   苦行者が毒の水を飲むために、命の水 2)を捨てるとは!

1)Kelepasan jiwa : 世俗、五感〈の欲望〉からの解放。かくて人は幸福を得る。2)Air hidup, : 原文アムルタ amerta 。神々の飲み物で、永遠の命を得ることのできるもの。

8.  長く考えて来たことだが、手短に言えば、地上には狂気が満ちている。
   天国といったようなものを求めても、得られるのは超能力くらいのものだ
   五感の苦しみ、暴力のみ、悲しみを生むだけだ
   自分自身を知ることの無い者は欲望によって盲目となる

9.  ワヤンを観て嘆くのは愚かなこと
   動き回り、話をさせられるのは
   しょせん細工された皮にすぎないと人は知るゆえに
   それこそ欲望に魅かれる人のたとえだ
   それこそ無知で愚かなこと
   世界は戯れにすぎず、〈そこに〉幸福は無い

10.  サン・プンディタの英知と教えはこのようであった
   対してサン・パールタはこのように言った
   「プンディタの言葉は真実である
   しかしクシャトリア1)の精神は、名声と英雄的行為を第一に求める
   それこそが魂の解放への道なのだ

1)ksatria : 貴族、王の血を引く者、英雄。

11.  生きてある間に肉体と魂から解き放たれる者はいない
   ニルヴァーナ〈Nirwana=涅槃〉、それは思考し得ず、死、それは目的である
   最後まで最善を尽くせば、喜びがある」
   サン・パールタはルシに敬意を払ってこのように答えた

詩編6

1.  「我が子よ、そのような考えを放っておいてはひじょうに危険だ
   欲望を肥やすなら、あなたはとても邪悪になる
   あなたもそれに手を貸して、五感を増長させてはならない!
   あなたはだんだんと侵され、不幸の中を漂うこととなる

2.  野の獣を食べたいとの思いが過ぎれば、狩人は虎となる
   魚を食べたいとの思いが過ぎれば、釣り人はワニになる
   あなたが思う全てによってあなたは縛られる 1)
   あなたが空を思えば、あなたは空となる」

1)ヒンドゥー教、仏教によれば、人は世界に何度も生まれ変わる。その姿と位階は生きていた時の徳と罪によって決定される

3.  パンディタはこのように言って王子の心を射た
   その言葉の内の最上の真実を目にして
   ついに彼は真なる解放を悟った
   スリ・ドゥワイパーヤナ seri Dwaipayana 〈パーンダヴァ五王子の祖父〉が彼に諭したことを想起したのである

4.  間をおかずに彼は言った「敬愛するパンディタのお言葉は真実です
   しかし私は名高き兄、スリ・ダルマータマジャ Darmaataja 〈ユディシュティラ〉への
   献身と愛によって編まれている者
   我が苦行は、兄が世界を制することのため

5.  世界をより良く豊かにすることが彼の望み
   それこそ私が苦行する目的
   サン・ヒアン 1)の恩寵を得られなければ
   帰ることなく、私は死ぬだけです」
   その言葉はこのようであり、ルシは顔色を変えた

6.  彼はインドラの姿に戻り、王子を拝跪させた
   バタラは彼の手を取り、彼に愛をそそいだ 2)
   「我が子よ、恐れるな!我を見よ、このスラーパティを!
   バタラ・ヒアン・ルドラ〈シヴァ〉はそなたを愛するにちがいない

7.  わたしはそなたを迷わせるためにビダダリたちを送り込んだ
   そなたの五感の堅固なるがゆえに
   そなたはバタラ・イシュヴァラ〈シヴァ〉に愛されるにちがいない
   されど、わたしはそなたがプンディタであり続けることを憂う
   つねに達観し、世を顧みることなければ
   我が目的を達成することはできなくなる

8.  そなたは真に勇敢に、このまことの戦いを続ける
   その心を鍛え、統合せよ、さすれば大いなる幸福へと至るであろう
   わたしはカヤンガン〈天界〉へ戻るとしよう」
   拝跪され、時をおかず、彼は煙のように消え失せた

1)Sang Hiang : ここではシヴァ神。2)yang kasih sayang kepada puteranya , 名称一覧を参照。アルジュナを指す。

(つづく)
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by gatotkaca | 2012-04-10 16:25 | 影絵・ワヤン | Comments(0)