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アンデ・アンデ・ルムトの物語 Ande-ande Lumut

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 この物語もパンジ物語のひとつとして有名なものである。我が師、松本亮の『悲しい魔女 インドネシアの物語』(1986年筑摩書房刊)でも紹介されているから、ご存知の方もあるかと思うが、というよりそちらを読んで頂くのがすじなのだが、この本は現在絶版らしいので、一応このブログでも紹介しておく。興味のわいた方はぜひ『悲しい魔女』を読んで頂きたい。子ども向けの体裁をとってはいるが、インドネシア全般の民話とワヤンの物語を紹介し、なおかつインドネシア文化の内奥を記した名著である。

 ここではResourceful-Parentingというサイトで紹介されていたものを訳す。
 元の記事はこちら


アンデ・アンデ・ルムトの物語(東部ジャワの民話)

 昔々、クディリKediriとジュンガラ Jenggala というふたつの王国がありました。ふたつの王国はもともとはカウリパン Kahuripan というひとつの国だったのです。アイルランガ Erlangga 王が自分の息子たちが、兄弟同士争うのをさけるため、その国を二つに分けたのです。けれどもアイルランガ王は亡くなる前に、ふたつの国は、いずれひとつに戻らなければいけない、と言い残しました。

 それで二人の王たちは、王国を一つに戻すため、話し合い、ジュンガラ国の王子ラデン・パンジ・アスモロバグン Raden Panji Asmarabangun とクディリ国の王女デウィ・スカルタジ Dewi Sekartaji を結婚させることにしたのです。

 クディリ王の側室である、スカルタジの継母はスカルタジとラデン・パンジの結婚を望んでいませんでした。というのも、彼女は自分の実の娘をジュンガラ国の王妃にしたいと考えていたからです。そこで彼女はスカルタジとその母を捕まえて閉じ込めてしまいました。

 スカルタジとの結婚のために、ラデン・パンジがやって来た時には、王女はすでに行方不明になっていたのです。ラデン・パンジはとてもがっかりしました。継母がスカルタジの代りに、自分の娘を王子に薦めましたが、ラデン・パンジは断りました。

 そのあと、ラデン・パンジは放浪の旅に出てしまいました。名前もアンデ・アンデ・ルムトと変えました。ある日、彼はダダパンという村に着きました。そしてボ・ランド・ダダパン Mbok Randa Dadapan という夫を亡くした女の人と知り合いました。ボ・ランドは彼のお母さんになり、二人は一緒に暮らしたのです。

 そのあと、アンデ・アンデ・ルムトはお母さんに頼んで花嫁候補を探していることを皆に知らせてもらいました。するとダダパンのまわりの村々から娘たちがぞくぞくとやって来てアンデ・アンデ・ルムトに結婚を申し込みました。でも彼のお嫁さんとして認められる人は誰もいませんでした。

 さて、スカルタジの方は継母から逃れることが出来ました。彼女はラデン・パンジに会いたいと思っていました。彼女はさまよい歩いて、ある夫を亡くした女の人の家に辿り着きました。その人には三人の娘がおり、娘たちの名は、クレティン・アバン Klething Abang (赤いクレティン)、クレティン・イジョ Klething Ijo (緑のクレティン)、クレティン・ビル Klething Biru (青いクレティン)といいました。彼女はスカルタジを子どもとして迎え入れ、クレティン・クニン Klething Kuning (黄色いクレティン)と名付けました。

 クレティン・クニンは毎日家の掃除や、着物の洗濯、台所の食器洗いなどをさせられました。ある日、クレティン・クニンが疲れ果てて泣いていると、一羽の大きなコウノトリが飛んで来ました。クレティン・クニンが怖くなって逃げ出そうとすると、コウノトリは言いました。『怖がらなくても良いんですよ。私はあなたの手助けに来たのです。』

 コウノトリが羽ばたくと、クレティン・クニンが洗おうとしていた着物がすっかりきれいになっていました。台所の食器もきれいになっていました。こうしてコウノトリは帰っていきました。

 コウノトリは毎日クレティン・クニンの手伝いに来てくれました。ある日、コウノトリはクレティン・クニンにアンデ・アンデ・ルムトのことを話し、結婚の申込みに出掛けるように、と言いました。

 クレティン・クニンはあっかさんにダダパンへ行くお許しをもらおうとしました。おっかさんは仕事がすべて終わったら、と言いました。彼女はクレティン・クニンがやりきれないほどの着物を洗うようにといいつけました。

 そのいっぽうで、おっかさんは自分の三人の娘をアンデ・アンデ・ルムトの花嫁候補として出掛けさせました。途中に大きな川がありました。渡ろうにも橋も舟もありません。娘たちが困り果てていると、彼女たちに近寄って来る大きなラクササ(怪物)のカニがいました。

 『俺の名はユユ・カンカン Yuyu Kangkang 。あんたたちは向こう岸に渡りたいのかね?』

 彼女たちはもちろん渡りたかったのです。

 『それなら、何かご褒美をおくれ。』

 『お金が欲しいのかい?いくらだね?』おっかさんが尋ねました。

 『お金なんかいらないよ。あんたの娘たちはとってもきれいだ。娘さんたちにキスしてほしいんだ。』

 娘たちはユユ・カンカンの言葉にびっくりしましたが、他に方法はありません。しかたなく承知しました。ラクササガニは娘をひとりづつ背に乗せて川を渡ると、お礼にキスしてもらいました。

 ボ・ロンドの家に着くと、彼女たちはアンデ・アンデ・ルムトに会いたいと言いました。

 ボ・ロンドはアンデ・アンデ・ルムトの部屋をノックして言いました。『息子よ、見てごらん。きれいな娘さんたちが、あなたと結婚したいと言ってやって来たよ。どの子をお嫁さんにするか、選びなさいな。』

 『お母さん。』アンデ・アンデ・ルムトは言いました。『あの娘たちに言って下さい。私はユユ・カンカンのお手つきを、お嫁にする気はないよって。』

 おっかさんと三人の娘たちはアンデ・アンデ・ルムトの答えを聞いてびっくりしました。あの人はどうして、彼女たちがラクササガニと会ったことを知っていたのだろう?彼女たちはがっかりして帰りました。

 家では、クレティン・クニンはコウノトリの魔法の力をかりて、仕事を終えることができました。コウノトリは彼女に一本の杖をくれました。

 おっかさんはクレティン・クニンに、アンデ・アンデ・ルムトに会いにいくためのお許しをくれるよう頼みました。おっかさんはしかたなく許してくれましたが。クレティン・クニンの背中にニワトリの糞をなすりつけました。

 クレティン・クニンは出発しました。大きな川に着きました。ラクササガニは彼女を向こう岸に渡してやろうとやって来ました。

 『きれいな娘さん、向こう岸に渡りたいのかい?お手伝いしましょうか?』ユユ・カンカンが言いました。

 『けっこうですわ、ありがとう。』クレティン・クニンはそう言って、はなれていきました。

 『ちょっと待って、お金はいらないから、ちょっとキスして‥‥あ痛っ!』

 クレティン・クニンはコウノトリにもらった杖でユユ・カンカンを殴りつけました。ラクササガニは怖くなって逃げてい行きました。

 クレティン・クニンはまた川に近づくと、杖をもう一度ふりました。川の水がふたつに開いて、彼女は川をこえることができました。

 クレティン・クニンはボ・ロンドの家に着きました。ボ・ロンドは鼻をつまみました。といのも、クレティン・クニンの服からはニワトリの糞の臭いがしていたからです。娘を招き入れるとアンデ・アンデ・ルムトの部屋に行きました。

 『アンデ、息子よ。きれいな娘が来たけれど、あなたが見るまでもないわ。臭くって、ニワトリの糞の臭いがするの。帰ってもらいますから。』

 『お会いしましょう。お母さん。』アンデ・アンデ・ルムトは言いました。

 『でも‥あのこは‥。』ボ・ロンドが言いました。

 『あのこは、ユユ・カンカンの手を借りずに川を渡って来たただ一人のこです、お母さん。あのここそ、ずっと待っていた娘なのです。』

 ボ・ロンドはだまって、アンデ・アンデ・ルムトと娘に会いに行きました。

 クレティン・クニンはアンデ・アンデ・ルムトを見てびっくりしました。彼こそ婚約者のラデン・パンジ・アスモロバグンだったのです。

 『スカルタジ、とうとうまた会えたね。』ラデン・パンジは言いました。

 ラデン・パンジはこうして、スカルタジとボ・ロンド・ダダパンを連れて、ジュンガラ国へ帰りました。ラデン・パンジとデウィ・スカルタジは結婚し、クディリとジュンガラの二つの国はまたひとつになったのです。


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 この物語はアジアのシンデレラ物語類型のひとつとして、『シンデレラ 9世紀の中国から現代のディズニーまで』アラン・ダンダス編/池上嘉彦・山崎和恕・三宮郁子 訳(1991年紀伊国屋書店刊)でも紹介されている。そこで紹介されているヴァージョンではパンジ物語とはされておらず、ルムトと黄色のクレティンはパンジとスカルタジにはならないが、三人の色違いのクレティンやコウノトリ、怪物蟹のユユ・カンカンといった話素はすべて揃っている。この物語も、もともとは別のものだったのが、時代を下ってパンジ物語とされたという可能性もあるだろう。わざわざ『シンデレラ』などど比較せずとも、『パンジ物語』自体がさまざまなヴァージョンを有しているので、文化人類学、また比較文学的研究素材としても十分興味深い素材であるといえるだろう。
 とはいえ、西洋人が見ると『パンジ物語』もシンデレラになるのかと興味深くはある。私などがみると、『パンジ物語』はシンデレラというよりは『君恋し』なのだが。

(おわり)
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by gatotkaca | 2012-12-15 22:56 | 切り絵 | Comments(0)