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木から落ちた猿

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アルジュノ・クムバル解説

 前回までで「アルジュノ・クムバル」の物語は終わるが、若干の補遺的解説をしておこうと思う。
 この物語自体はワヤンのラコン〈演目〉のひとつ、「チェケル・インドロロヨ Cekel Indraraya 」に基づいている。このラコンはいわゆるラコン・チャランガン Lakon carangan のひとつである。ワヤンの物語は、インドのマハーバーラタ、ラーマーヤナに直接取材した物語の他におびただしいジャワ独自の物語が付加されて、演目数も膨大なものになっている。インドの物語に準拠した演目を、一般にはラコン・ポコ Lakon Poko、またラコン・パクム Pakemと呼び、そこから派生した新しい物語をチャランガンと呼ぶ(チャランガンからさらに派生した物語をスムパラン Sempalan と呼ぶこともある)。つまりこの物語自体はジャワのオリジナルであるということだ。
 さて、この演目の題名になっているチェケル・インドロロヨという名についてだが、チェケル cekel とはジャワ語で「苦行所で働く者、苦行者の弟子を言い、苦行者の日常の世話や、田畑・耕作地の管理をする者。」である(Ensiklopedi Wayang Indonesia, Bausastra Jawa-Indonesiaによる)。つまりブガワンやルシといったバラモンの世話人・付き人のことらしい。いわゆるチャントリック Cantrik はバラモンの弟子であり、学問以外に仕事はしないのが原則だが、チェケルは苦行所の管理、田畑の耕作といった作業に従事するもののようである。(*前回までのブログ記事ではCEKELをチュクルと読んでいたのだが、チェケルであることが分かりました。本日5/19、前回までのチュクル表記をチェケルに訂正しておきました。)つまり身分が低い者であり、物語中で、スムボドロやララサティが彼に対して、ゴコ Ngoko (目下に使うジャワ語)を用いているという描写があるのはそのためであろう(といってもインドネシア語で書かれているので、違いはわからないけれど)。
 インドロは問題なくインドロ神であり、アルジュノはインドロ神の霊的息子であるから、彼の名に用いるに、何ら不思議は無い。ロヨ raya は「大いなる、無限の、世界、宇宙」という意味。インドロの枕詞的語である。
 このインドロロヨが全身を腐り病でおかされ、本人とはわからないほど変わり果てており、配偶者の献身で回復するというプロットは日本の「小栗判官」や「身毒丸」を思わせて興味深い。青江舜二郎氏は「民俗民芸双書61 日本芸能の源流」(岩崎美術社1971年)において、「身毒丸」の物語がインド起源であることを論考されているが、ジャワの「インドロロヨ説話」も同様の源泉を持っているものなのかもしれない。
 少々不満があるとすれば、回復後のアルジュノを見ている連中、とくにズムボドロが彼をアルジュノと認識しないところであるが、まあ、物語なんだからしかたがないとはいえ、もう一工夫ほしいところではある。
 さて、このラコン自体の基本プロットは、ラコン「パルト・デウォ Parta Dewa」と似通っており、一見したところでは「パルト・デウォ」の方が先行して成立したのではないかと考えられる。以下に「パルト・デウォ」の概要を記す。
 「プラブ・ドゥルユドノはパンダワのいないアマルトを占領し、興奮の絶頂にあった。プラブ・ドゥルユドノの成功は、類い稀なる超能力を有するガウアウ・ランギット Ngawuawu Langit 王宮の、プラブ・スルヤンゴノ Suryanggana の手助けによるものであった。
 スルヤンゴノのプラブ・ドゥルユドノへの手助けは、彼の敬愛する師、パンディト・ドゥルノへの『ピスンスン pisungsung 〈贈り物〉』としてなされた。また、プラブ・ドゥルユドノの娘、レスモノワティとの結婚を望んだことで、コラワたちの士気は高まった。
 残念ながら、プラブ・ドゥルユドノの喜びは長く続かなかった。というのもアマルト王宮の監視を任されていたジョヨドロトがバムバン・パルト・デウォと名乗る超能力の武将の助けを得たポンチョウォロ率いるパンダワの息子たちに敗れたからである。
 パンダワの息子たちはアマルトの支配権をバムバン・パルト・デウォに預け、精神的指導者たる師として任命した。ドロワティのラデン・スティアキもパルト・デウォに師事した。この態勢はアマルトを強固にならしめた。残念ながら、パンダワとスリ・クレスノはまだ現れなかった。バムバン・パルト・デウォはアマルトの支配を望まなかったが、パンダワの不在によるアマルトの守護を引き受けた。プラブ・ニウォト・カウォチョを斃したアルジュノは、褒美としてビダダリたちを与えられ、カヤンガンでプラブ・キリティン Kiritin 〈カリティ〉の称号で王となっていた。
 こうしてこのラコンが生まれた。アルジュノの不在に不安を感じたパンダワは彼を捜そうとしていた。一方、プラブ・クレスノは、アルジュノの出奔に悲しむ兄弟たちへの責任を果たすため、このマドゥコロの武将を捜していた。
 さて、パンダワの息子たちを魅了したバムバン・パルト・デウォとは実は誰なのか?アルジュノがプラブ・カリティとしてカヤンガンにあった時、他のパンダワたちもアマルト国に不在であり、バムバン・パルトデウォはアマルト国を守るために地上に降りたバトロ・コモジョヨの化身した姿であった。アマルトの空隙をコワラたちは襲ったが、バムバン・パルトデウォに撃退された。パンダワたちが帰還するとパルト・デウォも天界へ帰ったのである。」
 「パルト・デウォ」は「アルジュノ・ウィウォホ」の直接の後日談として構成されており、これに対して「チェケル・インドロロヨ」は「アルジュノ・ウィウォホ」や「スムボドロ・ラルン Sumbadra Larung 」(スムボドロがブリスロウォに結婚を迫られて自殺する物語。そのうち紹介したいとおもいます。)の設定を踏まえてはいるが、時間軸は不明確である。いずれにしてもアルジュノの不在による、パンダワ方の困窮をアルジュノとそっくりの姿であるバトロ・コモジョヨが助けるという話である。どちらもチャランガンであり、成立の先後を確定する材料に乏しいが、プロットがより手の込んだものになっている「チェケル・インドロロヨ」の方が新しいのではないか、と筆者は考える。ただ、先に記したように、インドロロヨの病と回復のプロットは、もしインド起源であれば、仏典等のそうとう古いものであり、インドロロヨ・プロットだけはより古いものである可能性はある。となれば、コモジョヨ・プロットとインドロロヨ・プロットの合体で現在の「チェケル・インドロロヨ」というラコンのプロットが成立したことになるだろう。
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by gatotkaca | 2012-05-19 14:20 | 影絵・ワヤン | Comments(0)

アルジュノ・クムバル その8

10.サン・インドロロヨがアルジュノと一騎打ちする

 プラブ・クレスノはこぼれた水を見て聞いた。「この床にこぼれている水は何だね?」
 サン・プラブ・クレスノは続けて言った。「我が妹スムボドロよ、兄王プラブ・ボロデウォはアルジュノ相手にはげしく戦ったが、敗れた。そなたは今やアルジュノの求めに応じてマドゥコロへ行くこととなった。だが、私は不安だ。というのも、彼の態度や様子が以前と全然違っているからだ。尊大に振舞い、戦いへ赴いた。そなたはどう思う?尊大になってしまった夫を受け入れるかね?」
 サン・ウォロ・スムボドロは答えた。「はい。敬愛する兄上、クレスノよ。アディパティ・カルノ兄がドロワティへ私への結婚の申込みを伝えて来た時にはとても困りました。やむを得ず私は、我が夫アルジュノの消息を調べ、いつマドゥコロへ戻るのか明らかにしたいと思いました。ある苦行者を見つけ、教えを乞いました。それによると、ドロワティ国に洪水が押し寄せるゆえ、私はガブスの舟に乗るようにとの忠告を受けました。ガブスの舟の意味するところは、サン・アルジュノがやって来て、まっすぐに謁見所へ向かうということです。もう一つの意味はまだ明らかにされておりません。牢獄で騒ぎが起こったなら、私を守る力を持つ者は、宮廷で育った乾いた米の茎である、というのです。」
 「おお、その苦行者の予言はすごい。」サン・クレスノは言った。「その占い師の家はどこで、その人は誰なのだ?」
 ウォロ・スムボドロは答えた。「その占い師は、バンジャルムラティの苦行所のチェケル・インドロロヨという人です。」
 サン・クレスノはそれを聞いてとても喜んだ。「そこはそれほど遠くないなずだ。彼を呼び、その占い師に会って、この事件の顛末を教えてもらいたい。」
 サン・プトリはとても困ったが、正直に答えた。「ああ、兄王よ。申し訳ありません。怒らないでください。その占い師は本当はこの家にもう来ているのです。」サン・プトリはララサティに命じてチェケル・インドロロヨを呼んだ。ララサティはすぐサン・インドロロヨを呼びに部屋に向かった。彼が参上すると、サン・プラブ・クレスノは頭を下げた。サン・クレスノはすぐさま彼の後ろに行き、占い師の顔を見た。その顔を伺い見ながら言った。「ああ、我が弟よ。そなたが占い師に変装しておるとは知らなかった。アルジュノのように美しい占い師だ。この占い師と二人だけで部屋の中で話がしたい。」
 サン・プラブ・クレスノは、変装した占い師の顔をもう一度見て、言った。「おお、占い師殿、お名前は?何処に住んでおられるのかな?」
 占い師は答えた。「はい、旦那さま、バンジャルムラティ山の苦行所の者、私の名はチェケル・インドロロヨです。」
 サン・プラブ・クレスノは質問を続けた。「チェケル・インドロロヨ、私はそなたに尋ねたい。そなたはドロワティ国に騒動が起こり、宮廷で成長した乾いた米の茎が守護者となるだろう、と予言した。そなたはスマルと息子たちが連れて来たサトリヨはアルジュノではないと思うのかね?」
 サン・インドロロヨは答えた。「はい、旦那様。私はきれいなキドゥン(歌)を用意しました。」
 サン・プラブ・クレスノは言った。「おお、インドロロヨ。ぜひ聞きたい。歌っておくれ。」
 サン・インドロロヨはキドゥンを歌い始めた。その歌はこのようなものであった(この歌はアスモロドノの節で歌えます)。

1. Dulu kala ada janji,
apakah tuan tak ingat,
Rara Ireng dan Pamade,
Mereka tlah dijanjikan,
akan jadi jodohnya,
Janji pada waktu itu,
Tak boleh diubah-ubah.

(あなたが覚えておられぬほど
 昔からの定めがあった
 ロロ・イルン〈スムボドロ〉とパマディ〈アルジュノ〉
 ふたりは結ばれる
 それが定め
 その時の定めは
 変えることは許されない)

2. Pernikahannya sang putri,
Subadra dengan Arjuna,
janganlah sampai dicerai,
Janji para tua-tua,
waktu sang Panduputra,
dibawa oleh sang Pandu,
Mengunjungi Basudewa.

(サン・プトリ、スムボドロと
 アルジュノの結びつきは
 決して離れることはない
 パンドゥ〈アルジュノの父〉が
 サン・パンドゥプトロ〈アルジュノ〉を連れて
 バスデウォ〈スムボドロの父〉を訪ねた時
 長老たちの定めたこと)

3. Dipangku oleh sang aji,
sang putra di pupu kanan,
di pupu kiri sang sinom,
Janji Prabu Basudewa,
Jika sampai saatnya,
sang Retnayu akan daup,
dengan Raden Dananjaya.

(男の子は右の膝上
 サン・シノム〈娘〉は左の膝の上
 王様に抱かれて
 プラブ・バスデウォが定めた
 その時より
 サン・ルトゥナアユ〈美しい娘=スムボドロ〉は
 ラデン・ダナンジョヨ〈アルジュノ〉と結婚する)

4. Sang raja telah mengamini,
sang Arjuna tak menikah,
selain dengan sang anem,
putri bunga di Madura,
demikian nazarnya,
Arjuna sang Pandusunu,
tak kawin slama-lamanya.

(王は同意した
 サン・アルジュノは結婚しない
 アルジュノ、サン・パンドゥスヌ〈アルジュノ〉は
 永遠に結婚しない
 マドゥラの花たる娘
 その娘以外の者とは
 誓いはこのようであった)

 そのキドゥンを聞いたサン・クレスノは、顔に平手打ちされたかのように感じて驚いた。サン・クレスノは彼に言った。「立派な占い師殿よ、あなたにサン・アルジュノと一騎打ちしてほしいと言ったら、承知するかね?」
 サン・インドロロヨは答えた。「おお、旦那様。私を誰だとお思いなのです?不幸な小さき者にすぎません。無敵のクサトリア、サン・アルジュノと戦うなど。しかしプラブ・クレスノ王がわたしにサン・アルジュノと戦えとお命じになるなら、喜んで。」
 サン・クレスノはウォロ・スムボドロに言った。「さあ、妹スムボドロよ。私はそなたの占い師、インドロロヨにアルジュノ相手に戦うよう頼んだぞ。」インドロロヨは手を引かれて謁見所へ向かった。ブグラランにいた全ての者はサン・プラブ・クレスノに導かれてやって来たサン・アルジュノを見ておおいに驚いた。ほとんどの者にはどちらが本当のアルジュノなのか区別がつかなかった。新たにやってきたクサトリアは、プラブ・ボロデウォと戦っているアルジュノと同じ姿であった。サン・ボロデウォは、影と戦っているようで、彼を斃すことが出来ず、疲れ果て、力尽きてしまった。木にもたれかかっている敵をスンジョト・ナンゴロとアルゴロで打ち、砕け散ったと思ったが、彼は平気で、立っていた。プラブ・ボロデウォは力尽きて気を失い、倒れてしまった。パティ・プラゴトとプラボウォは、王が倒れたのを見て、すぐさま担ぎ上げ、謁見所の中に運び込んだ。
 チェケル・インドロロヨは命じられて戦いの場に進み出た。ゆっくりと二股のブリンギンの木に向かって行った。戦いを見守る者たちはとてもビックリして、二人のアルジュノを見た。彼らは同じ姿、同じ動きで、金のように光り輝いていた。その有様を見たコラワたちは驚愕した。サン・アルジュノはアルジュノに近づくと、親しげに抱き合った。遠くから見ていた多くの者は、彼らが激しく戦うだろうと思っていた。
 サン・バトロ・アスモロはアルジュノに言った。「ハイ、弟アルジュノよ。そなたは私に苦労をかけるのがうまいな。五年もの間どこへ行っていたのだ?あちこちとそなたを探したが、見つからなかった。今やそなたは我が前に立っておる。コラワたちは我らが本気で戦うと思っておる。さあクリスを交えよう。」双子のように見える二人は、負けじと突き合った。
 バトロ・アスモロはアルジュノに言った。「そなたがカサトリアン・マドゥコロからいなくなったと聞いて、私はそなたを探してチョクロクムバンの天界を出た。森の中で、スマルさんと息子たちが泣いていた。私を見て彼らはそなただと思ったのだ。だから私はそなたになりすました。スマルさんから、アディパティ・カルノが、そなたの妻を要求してドロワティ国へ来たと聞いた。プラブ・スユドノがスムボドロとブリスロウォを結婚させようとしてのことであった。私はそなたを探すのを止め、すぐにソロワティ国へ来たのだ。アディパティ・カルノの邪魔だてをするためにな。この王宮広場でそなたと出くわすとは思いもしなかった。そなたは前からこの謁見所に来ていたのか?」
 アルジュノは答えた。「いいえ、敬愛する我が主よ。私はウォロ・スムボドロに呼ばれて、昨日ここへ来たばかりです。」
 サン・バトロ・アスモロは質問を続けた。「五年もの間、どこへ消えていたのだね?」
 サン・アルジュノの答えるには、「五年の間、私はバンジャルムラティ山で、チェケル・インドロロヨと名乗って苦行しておりました。」そして彼に自身の経験を始めから終わりまで話して聞かせた。
 サン・バトロ・アスモロは言った。「おお、弟アルジュノよ。どうする?この戦いの決着をつけなければならない。見物している連中に我々の秘密を知られないようにするにはどうしたら良いと思うかね。」
 サン・アルジュノは答えた。「はい、敬愛する主よ。私が死ねば良いと思います。」
 サン・バトロ・アスモロは微笑みながら言った。「おお、弟アルジュノよ、私は何度もそなたを探したのだ。やっと会えたのに、殺してくれなどと言いおって。私の考えでは、そなたが私を殺す方が良かろうと思う。しかし死体は放っておかず、すぐに焼き払うのだ。」
 かくてサン・アルジュノはサン・アスモロの体にクリスを突き刺した。傷からたくさんの血が流れ、大地に倒れ伏したのである。すばやくサン・アルジュノは手をこすり合わせた。たちまち火が巻き起こり、サン・アスモロの死体を焼き払い、すべてが消え失せた。サン・バトロ・アスモロはチョクロクムバンの天界へ帰ったのである。
 プラブ・クレスノの息子、ラデン・ソムボが来て、ラデン・アルジュノに言った。「アルジュノ叔父、父サン・プラブ・クレスノからバライルンへお越し下さるようにとのことです。兄王ボロデゥオ陛下には、先のアルジュノ殿が実はバトロ・コモジョヨ(アスモロ)であったことをお知らせしました。こちらにいらっしゃる、叔母上ウォロ・スムボドロがバンジャルムラティの苦行所からお呼びになったチュクル・インドロロヨこそがアルジュノ殿が本当のアルジュノ叔父である、と。」
 ラデン・ソムボは笑った。サン・アルジュノは微笑んでバライルンへ伺候した。サン・カルノとコラワたちはアルジュノが謁見所に伺候するのを見て、コラワ軍にドロワティ国を去り、アスティノプロ国への帰還を命じた。
 アルジュノはプラブ・ボロデウォに拝跪すると、彼は涙を流して言った。「アドゥ、弟アルジュノよ。家族に迷惑をかける悪い癖はこれで終わりにするのだ。何の知らせも無く行方知れずになるなどとはな。そなたはサン・ギリノト(バトロ・グル)から比類無い超能力を授かった者に相応しい。今やそなたは王を超えるクサトリアである。多くの妻を持ち一族で最年長の息子を持っておるからな。そなたの兄ウルクドロと甥のガトコチョはそなたを探しに出て今日にいたるも帰って来ておらぬ。」
 プラブ・ボロデウォが話し終える前に、とつぜん嵐がおこり、アルヨ・ウルクドロとラデン・ガトコチョが現れた。サン・ボロデウォはアルヨ・ウルクドロに聞いた。「アルジュノを探して何年がすぎたことか、アルジュノがドロワティ国へ帰って来たことを誰から聞いたのだ?」
 「はい、プラブ・ボロデウ兄よ。私がアルジュノを探しに出て五年になります。その間私はドノロジョ山で苦行しておりました。祖父ルシ・アビヨソがアルジュノのドロワティへの帰還を知らせてくれました。我が子ガトコチョはルシ・アノマンの命で苦行しておりましたが、アルジュノのドロワティへの帰還を知らされたのです。私は祖父アビヨソからドロワティ国がバトゥバラン国の王、プラブ・ポロシヨの数えきれぬほどの軍に取り囲まれたゆえ、こちらへ行くようにとの命を受けたのです。」
 アルヨ・ウルクドロの知らせを聞いたプラブ・ボロデウォは、到来した敵を迎え撃つ準備を整えた。彼はアルヨ・ウルクドロに言った。「ハイ、弟セノ〈ウルクドロ〉よ。まずは息子ガトコチョと共に休まれるが良い。長い道のりを来て疲れておるであろう。」
 しかしサン・ブロトセノは答えた。「はは、ラクササども相手に戦うのは、疲れを癒すのにちょうど良い。」
 プラブ・ボロデウォは弟プラブ・クレスノに言った。「ハイ、弟クレスノ、またアルジュノよ。王宮の内でそなたの妻に会いに行くが良い。わしは我が弟スティヤキと共にラクササ軍を迎え撃つとしよう。サン・ウルクドロも行きたがっておる。ガトコチョはドロワティ軍を率いて戦場に向かえ。」サン・クレスノとアルジュノは王宮の中に入る。サン・アルジュノは長く離れていた妻と会ってとても喜んだ。
 サン・ボロデウォはラクササ軍を迎え撃ち、多くの敵が戦場に散った。ラデン・ガトコチョとスティヤキは恐れを知らず、大暴れし、多くのラクササたちが死に至った。戦いは激しく、打ち合い、殴り合い、突き刺し合って、逃げ出す機会のあった者以外は生き残る者は無かった。彼らはあわてて国へ戻って行った。
 敵が一掃されると、プラブ・ボロデウォは王宮に入り、プラブ・クレスノと妻たちに会った。ウォロ・スムボドロも兄王のもとへ向かった。
 サン・プラブ・ボロデウォはラクササ軍との戦いの様子を話した。新鮮な飲み物と美味な食事が並べられた。
 間もなくアビマニュを連れたウォロ・スリカンディがやって来て、ウォロ・スムボドロとアルジュノに五年振りに会った。ラデン・アビマニュは父に拝跪し、サン・アルジュノはやさしく彼を抱きしめた。苦しみはようやく消え去ったのである。
 ドロワティ国で、アルジュノが家族たちと再開した後、彼はプラブ・クレスノとプラブ・ボロデウォに暇乞いし、喜びに満ちてマドゥコロへ帰って行った。プラブ・ボロデウォもまた清々しい気分でマドゥロ国へ帰ったのである。

(アルジュノ・クムバル おわり)
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by gatotkaca | 2012-05-18 04:13 | 影絵・ワヤン | Comments(0)

アルジュノ・クムバル その7

9.ララサティがチェケル・インドロロヨを呼ぶ

 デウィ・ララサティは苦行者を呼ぶために、光のようにすばやくバンジャルムラティヘ出発した。彼をバノンチナウィへ案内するのは至難のわざだった。旅はとても大変なものだった。というのも苦行者はずっとララサティから離れようとするからであった。前に進むように言われるといやがり、手を放すと歩くのを止めてしまう。ララサティは無理矢理彼の手を引いて引っぱり、バノンチナウィに辿り着いたのであった。ララサティに案内され、苦しそうなため息をつきながら、とうとうサン・チェケル・インドロロヨはウォロ・ゥムボドロに対面した。サン・プトリ・スムボドロはやって来た者を見て驚いた。青白い顔は赤味を帯びていたが、まだ光り輝いていた。サン・インドロロヨはかがみ込んで座り、彼女の前に身を投げ出した。サン・プトリ・スムボドロは歓迎の言葉を述べた。「やって来てくれたあなたに祝福のありますように。私はとても困っているのです。それであなたをここへお呼びしたのです。私の悲しみのわけは、夫のことなのです。予言によれば、パンゲラン・アルジュノはドロワティへ帰られるとのこと。この国に大きな洪水が起こった時に。その時あなたは私にガブスの舟に乗るようにとご忠告されました。その時が来たのではないですか?私は、あの夜いなくなったパンゲラン・アルジュノが、今戻って来ているという知らせを聞きました。彼は直接、兄プラブ・クレスノと対面し、無礼な態度で臨み、プラブ・クレスノの怒りをかいました。彼は夫を縛り上げるよう命じました。激しい戦いがおこり、コラワたちが敵わなかったので、プラブ・クレスノがスンジョト・チョクロを手に進み出ました。パンゲラン・アルジュノはプラブ・クレスノと戦うつもりは無く、自身の身柄を委ねました。今、彼は鉄の牢獄に捕らえられています。兄王はサユムボロを催すことになさいました。コラワたちが牢に捕らえられているサン・アルジュノを殺すことができたなら、私は妻としてアルヨ・ブリスロウォに渡されます。ガブスの舟とはどんな意味なのでしょう?ドロワティ国に洪水がくるのでしょうか?」
 チュクル・インドロロヨは答えた。「大洪水とは、ドロワティ国に押し寄せる、アスティノ国のコラワ軍を意味する。ガブスの舟は、プラブ・クレスノの前にパンゲラン・アルジュノが直接やって来るが、妻と会うためにバノンチナウィへは行こうとしない、希望は断たれるだろう、ということを意味する。」
 ウォロ・スムボドロはやさしく言った。「あなたの説明は本当の事です。私の夫はいつもとは様子が違っている。放浪から帰って来たなら、彼は謁見所へ行ったりしません。必ずタマン・バノンチナウィへ来るはずです。さあ、今は私が他の者の手に委ねられないようにするためには、どうしたら良いのか教えてください。望まぬ結果になるくらいなら、私は死を選ぶだけです。」
 チェケル・インドロロヨは答えた。「我が予言は二通りの意味を含んでいる。鉄格子の中に囚われているサン・アルジュノが原因でドロワティ国に騒動が起こること。そしてサン・プトリを守る事ができるのは、王宮の中で育つ、一個の枯れた米の茎だけである、ということだ。」
 サン・プトリ・スムボドロはまた尋ねた。「王宮で育つ枯れた米の茎とは、何のことですか?」
 サン・インドロロヨは答える。「おお、サン・プトリ。私にはそれを解き明かすことはできません。というのもサン・デウォ・アグンによってまだ秘密とされているからです。」
 サン・プトリ・スムボドロは言った「もし言えないのであれば、私の運命はどうなるのでしょうか、争いはおさまるのでしょうか?」
 サン・インドロロヨはやさしく答えた。「はい、グスティ・プトリ。両方とも平和に収まりますよ。」
 サン・プトリはほっとした。そして言った。「ああ、チェケル・インドロロヨ。病があなたを苦しめているのですか?ずっと座ったままで、ため息をついていらっしゃる。」
 「私はクディス・ブシという疥癬に全身を冒されたのです。それ以来、とてもかゆくてため息をついて嘆いているのです。噛まれて、針で刺されているように熱いのです。」
 サン・プトリはまた言った。「治療しようとはなさらないのですか?」
 「おお、グスティ・プトリ。何度も優れたドゥクン〈呪い師・医者〉に見てもらい治そうとしたのですが、誰も治す事は出来ませんでした。その後、私は病を治すことが出来る人がいるというワフユ〈天啓〉を得たのですが、それができる人はまだ見つかりません。」
 サン・プトリは質問を続けた。「その治療法を私に言ってみてください。それができれば、あなたの病は治るのでしょう?」
 「天からの声によれば、私の病を治すには、アンゴロカシ(ジュマット・クリウォン〈ジャワの暦のクリウォンの金曜日〉)に、逆子で(足から産まれた)、へその緒を首に巻き、えなと一緒に産まれた美しい娘が噛み砕いてくれたシレ〈キンマの葉〉を体に塗ることだというのです。」
 サン・プトリはそれを聞いてとても驚き、心の内に言った。「その娘がドゥクンとなるのかしら?」サン・プトリは言葉を続けた。「真実そのような生まれの娘とは、私自身のことだわ。」
 サン・インドロロヨは慈悲を求めて言った。「ああ、グスティ。放っておいてください。美しい娘さんに私のドゥクンとなってもらうよりは、私は病気のままのほうが良いのです。こうなったのにはわけがあるのです。私はこの世にいるのに相応しくないのです。」
 サン・プトリは甘やかに言った。「さあ、チェケル・インドロロヨ。心配することはありません。私があなたを助けてあげます。服をお脱ぎなさい。あなたの病気を観てあげますから!」
 「グスティ・プトリ。私は服を脱ぐことはいたしません。肉にへばりついてしまっているのです。」ルシ・インドロロヨは恐れ入って言った。「お許し下さい。服を脱げないのは、かさぶたでへばりついてしまっているからなのです。」
 サン・プトリは優しく言った。「疥癬で服がはりついてしまうほど、あなたは長い間マンディ〈水浴〉していないのでしょう?」
 「はい。グスティ・プトリ。五年の間水に触れておりません。冷たいのが怖いのです。」
 サン・プトリはララサティを呼んで言った。「さあ、ララサティ、インドロロヨを沐浴場へ案内してください。清らかな水に入れて、膿を柔らかくするように。」
 デウィ・ララサティは拝跪して言った。「おお、グスティ。放っておくべきです。濡らしたらもっとくさい臭いがひどくなるでしょうから。」
 「だからです。彼を沐浴させて臭いを和らげるのですよ。」スムボドロは言った。
 「さあ、疥癬さん。すぐに立ってください。」ララサティは彼に命じた。「あなたを沐浴場へ案内してあげます。でもうつさないように、私から離れてなきゃだめよ。かゆくて眠れなくなっちゃうから。」
 チェケル・インドロロヨはそこに座ったまま動かなかった。ララサティはすごく離れて二本の指で彼の手をつまんだ。ルシ・インドロロヨは身を投げ出したまま、座った場所から動こうとしなかった。
 サン・スムボドロはやさしく言った。「疥癬のかゆみが和らぐように沐浴しましょうね。」
 チェケル・インドロロヨは言葉を返した。「ああ、グスティ。私をつかむ手がとてもざらざらしているのです。だから私は彼女から離れてしまうのです。」
 その言葉を聞いてララサティは苦行者の手をつまみながら、高い声で言った。「まあ、あなたは私をスリル〈お妾さん〉って呼んだでしょう。それはパンゲラン・アルジュノが私を呼ぶときの呼び名だわ。あなたのどこに、そんなふうに私を呼ぶ権利があるの?しかも私の手がざらざらだなんて文句を言って。見てごらんなさい、たこがある?あなたの手みたいに疥癬だらけじゃないわ。それじゃ風が触っても病気になってしまうわ。」
 サン・プトリは言った。「では私がご案内いたしましょうか、いかがです?」
 彼は答えた。「つるつるの手であれば良いのです。痛くないですから。」
 サン・プトリは優しく言った。「さあ、あなたの手を。私がご案内いたしましょう。」チェケル・インドロロヨの手が握られ、ゆっくりと引かれた。彼は震えながら喘いで、苦しそうに立ち上がった。呼吸が落ち着くと、やっと歩き出した。人気の無い〈guntai〉道をサン・プトリから離れて進み、やがて彼女に近づいた。右肩をいだかれてやっと立って、苦しそうにため息をつきながらゆっくりと歩いて行った。ララサティは後ろから胸をはってついて行った。ララサティは心の内でつぶやいた。「ああ、ご主人、他の人を受け入れるなんて。しかも疥癬だらけで、服がかさぶたではりついているような男を。普段ならパンゲラン・アルジュノ以外の男の人と連れ立っているなんて見たことが無いわ。」
 部屋に着くと、サン・プトリは言った。「さあ、インドロロヨ。まずは水瓶の水に浸かってください。疥癬が柔らかくなったら、水で洗い流して、薬になるというシレをあげますから。」
 苦行者は穏やかに言った。「ああ、グスティ。水瓶に入って水に浸かる必要はありません。あなたが噛み砕いたレシを水の中に入れて、その水を私の体に注いでいただければ十分だと思います。こそれだけで病は癒される、と予言の声は言っていましたから。」
 サン・プトリは心の内で微笑んだ。シリを噛み砕いてスパ〈シリを噛み砕いたもの〉にして水瓶の中に入れ、言った。「さあ、インドロロヨ。誰かに水をかけてもらいたいですか?一人でマンディしますか?私かララサティが水をかけてあげましょうか?」
 苦行者は弱々しく答えた。「ワフユによれば、スパを作ってくれた人にマンディしてもらうようにとのことでした。」
 サン・プトリはやさしく言った。「では、私があなたをマンディさせてあげなければいけないのね?」サン・プトリは柄杓で水を掬い、チェケル・インドロロヨにかけてやった。最初の一杯で、かさぶたが砕け、はがれて流れていった。二杯目の水ですべての疥癬が崩れていき、三杯目で疥癬は洗い流され、きれいな肌が戻ったのであった。
 インドロロヨの疥癬はすっかり洗い流され、肌は金箔を貼ったように黄味を帯びた。ぼうぼうの髪と、麻のズタ袋のような服が残っていた。サン・プトリはララサティに命じて替えの新しい服を用意させた。
 サン・プトリはチェケル・インドロロヨに言った。「髪の毛を梳っ油を塗ったら、シノム・プングラウィト(バッティックの柄の名)のバティックに着替えてください。」
 苦行者はやさしく、しかしはっきりとした声で、「はい。グスティ・プトリ。予言によれば、私の髪を梳るのも、治療をしてくれた人でなければなりません。そうすれば、私は完全に治るのです。この新しいシノム・プングラウィトのバティックの腰布も粗野です。グスティ・プトリが替えの衣装をご用意くださるなら、不十分であってはなりません。カムプ〈裾巻き〉(カイン・ドドト)にはリマル・クタンギ(上等のカイン)、下履きにはチンデ・プスピト(絹織りの布)、タリ・ピンガン(腰巻き)には緑のビロードにパトロクスモの花(刺繍の模様)の刺繍されたもの、クルック(冠り物)には青い色のものを、クリスはガムビル、クトンクン、ムラティの三色の花の鎖状の金の装飾がされたもの、髪飾りは花模様の金で装飾されたもの、香油はジャエンカトン(つけると姿を消す力を持つ)を。」
 サン・プトリはチェケル・インドロロヨの要求を聞き、とても驚いた。というのも、彼が望むものはすべてサン・アルジュノがアマルトへ参内する時や大きな祝典に参加する時の装いであったからである。
 サン・プトリは親しげに言った。「ああ、インドロロヨ、あなたのお望みはすべてが、あの夜いなくなってしまったお方がアマルト国に参内する時の正装と同じですわ。あなたがお求めになったジャエンカトンの香油は、パンゲラン・アルジュノ以外の人が使えば、その人を滅ぼすものです。クリス・プラングニとソロトモの矢はアルジュノがカサトリアンからいなくなった時に持って行かれました。」
 サン・インドロロヨは言った。「さよう、グスティ・プトリよ。サン・アルジュノの許しを得ない者は、必ずやその身が砕け散る。けれど私はご主人から、すでにそれらを無効にする許しを得ています。失われたクリスと矢は、サン・プトリの寝室に戻って来ていますよ。」サン・プトリはそれを聞いておおいに驚いた。「あなたはいつ、夫と会ったのです?」彼女は聞いた。
 チュクル・インドロロヨは答えた。「サン・アルジュノがマドゥコロを出たとき、バンジャルムラティの苦行所で待ち合わせ、お言葉をいただきました。そなたが我が妻ウォロ・スムボドロに呼ばれたなら、そなたは私の衣装とジャエンカトンの香油を使ってよろしい。もしそんな話は聞いていないと言って、サン・プトリがそれらをそなたにあたえようとしなかったら、そなたはバンジャルムラティへ帰って良い、と。私はグスティ・プトリに大いなる感謝を捧げます。あなたは私の病を治してくださいました。グスティ・プトリは私に十分なお返しをしてくださいました。」
 サン・プトリは心の内に思った。「この人には何か秘密があるようだわ?何か隠しているようだわ?態度が不思議すぎる。もし彼の望みに同意しなかったら、きっと怒ってすぐにここを出て行ったでしょう。彼の本当の役目を果たす前に。私に魔法をかけたのかしら?私はあの人に触るのに、躊躇しなかった。あの人の望みをみんな受け入れて、協力してしまった。いわれるままにあの人の病気を治してあげた。きっとまたやるでしょう。私が経験しなければならなかったことはすべて、おそらくサン・デウォト・アグンの思し召しだったのだわ。」
 それから彼女はチュクル・インドロロヨに言った。「さあ、ルシ・インドロロヨ、もっと私に近づいてください。あなたの髪を梳ってさしあげましょう。縮れて、ばらけてもつれ合っています。きれいに整えてあげましょう。」油をつけ、きれいに結い上げた。ララサティはとても驚いた。サン・プトリはまるで夫にしているかのように心を込めて、世話をしていた。主人の様子を見てララサティは頬杖をつき、考えを巡らせたが、わけが分からなかった。そのうちサン・プトリはサン・インドロロヨの頭に白い痣があるのを見つけた。それはあの夜いなくなった夫の目印だった。サン・プトリは、やっぱりそうだと思い、納得した。彼女は心の内に思った。「ララサティに手を引かれた時に、彼はざらざらしているからといって断り、私が案内した時にはすぐについて来た。私は好意をもって迎え、彼の膿だらけの手にふれるのに、嫌がる気持ちは無かった。クドゥス・ブシの病気の人を受け入れ、その臭いにも麝香の香りを嗅ぐように感じていた。もつれた髪の毛を梳る時も、怖くなかった。その間彼は私に微笑みかけようとしなかった。おそらくこの人はまだ秘密を明かすつもりが無いのだわ。失望しないように、そのままにして、知らぬふりをしているほうが良いでしょう。ゴコ〈目下の者への言葉〉を使いすぎたのは、本意ではないけれど、このままにしておきましょう。」
 それから彼女はララサティに命じた。「さあ、ララサティ、あの夜いなくなったあなたの主人の服を持って来てください。」ララサティはすぐさまサン・プトリの命令を実行した。サン・アルジュノの衣装がウォロ・スムボドロに渡された。サン・プトリはサン・インドロロヨに言った。「さあインドロロヨ、あの夜いなくなった主人の服をあなたに。」サン・インドロロヨは心の内に思った。「アビマニュの母〈スムボドロ〉はもう私が彼女の夫であることに気付いたのだろうか?けれど彼女の真意はまだ分からない。躊躇無く私の治療をし、嫌がらずに私の体に触った。この秘密を推し量るのはとても難しい。」
 ララサティはずっとぼんやりしたままだった。彼女は心の内に思った。「この人が、あの夜いなくなったパンゲラン・アルジュノなのかしら?多分本当にパンゲラン・アルジュノなのだわ。でも、なぜご主人スムボドロはまだ彼にゴコを使っているのかしら?わからないことが一杯で、頭がこんがらがってしまうわ。」
 サン・プトリはインドロロヨに言った。「さあ、チェケル・インドロロヨ、食事にいたしましょう。バンジャルムラティの苦行所から歩いて来て、お腹がすいているでしょう。」
 サン・インドロロヨは答えた。「はい、グスティ・プトリ。私の食べるに相応しいものであれば、食事をしたく思います。」
 サン・プトリは言葉を続けた。「インドロロヨ、あなたのお好みは何?ご飯は何にする?おかずは?」
 「私の好きなものは、あつあつのナシ・グリ、スカマンディの選びぬかれた米、野菜は熟したクルウィ、しょうがのサムバル、真っ黒な黒鶏の最初の卵です。」
 サン・プトリはララサティに命じて、チェケル・インドロロヨの言った通りのものを用意させた。召使いたちは忙しく立ち働いて調理した。そうして料理が苦行者の食膳に並べられた。食べるひまもなく、とつぜんサン・プラブ・クレスノが食事部屋へ入って来た。サン・プトリはあわててララサティに命じてインドロロヨをサン・プトリの部屋にかくまった。水瓶と小鉢からこぼれた水が床を濡らした。

(つづく)
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by gatotkaca | 2012-05-17 06:41 | 影絵・ワヤン | Comments(0)

アルジュノ・クムバル その6

8.プラブ・ボロデウォがドロワティへ出発する

 プラブ・ボロデウォはパティ・プラゴトに、王妃の守りとして二人の息子ウィルムコとウィソトを残して、全軍でドロワティ国へ随行するように、と命じた。プラブ・ボロデウォは宮殿に入り、コラワたちは営舎に向かった。
 次の日、軍はすばやく準備を整え武器を装備して王に随行してドロワティ国へ向かった。プラブ・ボロデウォは戦士の装いで、愛用の象プスポドゥントに乗っていた。パティ・プラゴトが出発の号令を発した。パティ・プラボウォは、先発隊として武器を整え、輝く衣装を着た四百人の部隊を率いた。その後ろにパティ・プラゴトに率いられた四百人の兵士が続いた。馬に乗ったアルヨ・ブリスロウォと並ぶパティ・スンクニたちに従う隊列が続く。続いてアルヨ・チトロジョヨ、チトロ・チトロその他の部隊。ディルガスト、ディルゴ・ディルゴその他。ダルモジョヨとダルモ・ダルモその他、スルトユドとスルト・スルトその他、アルヨ・ドゥルキヨとドゥルボロその他、みな馬に乗っている。道中のことは省いて、今や彼らはドロワティ国の領域に入った。
 アディパティ・カルノがプラブ・ボロデウォを出迎えた。彼はプラブ・ボロデウォに事の経緯を報告した。今は鉄の牢獄に閉じ込められているアルジュノを相手に戦った時のことを。サン・プラブ・ボロデウォは笑いながら、アルジュノに対してどのように戦うか聞かせた。
 ラデン・ソムボとアルヨ・スティヤキはあわててマドゥロの王の到来を迎え、後に従った。サン・プラブ・クレスノは兄プラブ・ボロデウォの到来を見て、席から立ち、喜びにあふれてプラブ・ボロデウォを出迎えた。兄王に玉座に座るようすすめた。アディパティ・カルノとコラワたちは賓客用の館に入って座り、司令官や大臣たちはブグラランに座して、二人の兄弟王に対面した。
 互いに挨拶を交わした後、プラブ・ボロデウォは言った。「弟クレスノよ。プラブ・スユドノから、ブリスロウォの願うスムボドロとの結婚の件について、私に任せたいという書状を受け取った。その書状の中には、アルジュノがドロワティに戻って来て、スムボドロをマドゥコロへ連れ戻したいと求めているとも書かれていた。アルジュノの到来は礼儀を無視したものであり、それゆえアディパティ・カルノとコラワたちの怒りをかった。けれどどんな武器でもアルジュノを屈服させることはできなかった。そなたがスンジョト・チョクロを掴むと、アルジュノは身を任せ、そなたの怒りは鎮まった。そなたは今やサユムボロを催し、ブリスロウォがスムボドロと結婚できるには、コラワたちが、今鉄の牢獄に閉じ込められているアルジュノを殺さなければならないこととなった。これらが本当なら、私はアルジュノ本人と会いたいのだが。」
 サン・プラブ・クレスノも、アルジュノを殺すと決めることは出来なかった、と言った。プラブ・ボロデウォは続けて言った。「クレスノ、恐縮する必要は無い。私は檻の中のアルジュノを自分で見てみたいのだ。」
 プラブ・ボロデウォは座を立ち、武器を抜き放ったアディパティ・カルノとコラワたちを引き連れて牢獄へ向かった。牢屋にはしっかりと鍵が架けられ、開く事はできなかった。牢屋の外からプラブ・ボロデウォは強い口調で叫んだ。「よお、アルジュノ。マドゥロの兄はそなたが恋しいが、そこに入る事ができん。どうだな牢屋の中の気分は?暗いか、明るいか、暑いか、寒いか?」
 牢屋の中から返事があった。「ここはとても暑くて、とても暗い。」
 サン・プラブ・ボロデウォは笑って言った。「はは、そなたはまだ正気のようじゃ。その証拠に暑さや暗さは分かるようだ。五年間の放浪も終わったな。わしはそなたが出奔する以前にも増して超能力を得たと聞いた。なぜそなたは牢屋の外に出て来ないのだ?」
 牢屋の中で返事があった。「この牢屋はとても頑丈だ。どうやったら外へ出られるのだ?けれど兄王が命じてくだされば、私は外に出られるのだが。」
 サン・プラブ・ボロデウォは牢屋から聞こえる言葉を聞いて、びっくりした。怒りを込めてかれは言った。「そなたは何と傲慢なのか。もしこの牢屋から出られたなら、そなたをわしの師にしてやろう。」
 牢屋の中の者はその言葉を聞きくと、突然、サン・ボロデウォの前に現れた。マドゥロの王はこれを見て驚愕し、コラワたちもビックリした。プラブ・ボロデウォは胸を打たれ、地面に倒れ、かろうじて立ちあがった。パティ・プラゴトとプラボウォは殴られてビックリし、逃げ出した。コラワたちは怒りをつのらせ、互いに言い合った。「どこだ。やつはどこにいる?」アルジュノはスマルとその息子たちと一緒にブリンギンの檻の下に座っていた。サン・プラブ・ボロデウォは怒りを込めて言った。「おい、コラワたち、我が一騎打ちに手を出してはならぬ。一対一でやってやる。そなたらの助けはいらん。見ているだけで良い。遠くから我が戦いを見て、歓声をあげるのだ。」
 サン・プラブ・ボロデウォはすぐさまスンジョト・アルゴロを掴み、進みでた。コラワたちは騒々しい歓声をあげた。プラブ・ボロデウォは叫んだ。「おい、アルジュノ、我が敵よ。わしを殺すことはできぬぞ。さあ我がアルゴロの一撃で粉々になるがいい。」
 疑いなくアルジュノは彼の前に立っていた。渾身の力を込めてプラブ・ボロデウォは、強力なスンジョト・アルゴロを敵に向けて振り下ろした。まちがいなくアルジュノを粉々に打ち砕いたと思ったが、サン・アルジュノは彼の前に何事も無く立っていた。プラブ・ボロデウォの怒りは増し、スンジョト・ナンゴロを取り、敵の頭に引っ掛けた。アルジュノの首は消し飛んだと思われた。サン・アルジュノに、三度に渡ってスンジョト・ナンゴロが振り下ろされたが、彼は平気であった。プラブ・ボロデウォは激しく暴れ回わる。サン・アルジュノはブリンギンの樹にもたれかかっていた。彼はアルジュノを粉砕したと思ったが、遠くへ放り投げられてしまった。サン・アルジュノは彼の前に立ったままだった。コラワたちは叫び声をあげ、止む事は無かった。

(つづく)
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by gatotkaca | 2012-05-16 00:58 | 影絵・ワヤン | Comments(0)

アルジュノ・クムバル その5

6.アディパティ・カルノがプラブ・クレスノと会見する

 アスティナプラのコワラたちに付き従われたアディパティ・カルノは、プラブ・クレスノのもとに到着した。彼らは互いに席をすすめ、無事を伝え合った。アディパティ・カルノはプラブ・クレスノ宛のプラブ・スユドノからの申込の書状を差し出した。書状はプラブ・クレスノに読まれ、彼は心の内で思った。「プラブ・スユドノのスムボドロへの申込は、アルヨ・ブリスロウォと結婚させてくれということに違いない。アルジュノがカサトリアン・マドゥコロからいなくなって五年も経っているからな。だがブリスロウォがまだウォロ・スムボドロを慕い続けていたとは、まったく驚いた。ずいぶん前にあやつがウォロ・スムボドロとの結婚を切望したときは実現しなかったが。今度は憧れのスムボドロと結婚できそうかな?」
 プラブ・クレスノは続いて言葉を発した。「まずは、関係者たちに、このスムボドロへの結婚の申込を承諾するべきかどうか、相談してみなければならぬ。この件について供に責任を持つべき兄、プラブ・ボロデウォと相談しなければならない。」アディパテ・カルノはこの返答を喜んで受け入れた。
 プラブ・クレスノの言葉が終わらぬうちに、思いもよらず一人のクサトリアがやって来た。彼はアルジュノと瓜二つの姿で、プラブ・クレスノの面前に立った。アルジュノらしき者の出現は見ている者たちをとても驚かせた。このクサトリアはアスティノ国からの賓客たちを無視した振る舞いで現れたので、ちょうどそばにいたアディパティ・カルノにぶつかり、彼の耳を傷つけたほどであった。彼はプラブ・クレスノに向かって頭を下げたが、アルジュノの出現に驚く、アディパティ・カルノとコラワたちに背を向けたままだった。
 サン・プラブ・クレスノもまたとても驚いたが、アルジュノの普段と違う、礼をわきまえぬ振る舞いに怒りを感じてもいた。なぜ彼は、ドロワティ国王、つまりサン・プラブ・クレスノの前に参じている年長の兄弟たちに意を払わないのだろう。かくてサン・プラブは激して言った。「おいアルジュノよ、そなたはどこから来たのだ?五年もの間、家族を置き去りにして。我が前に何をしに現れたのだ。」
 アルジュノのそっくりさんは答えた。「はい、プラブ・クレスノ兄よ。私は我が心のおもむくまま、五年の間カサトリアン・マドゥコロを去り、世界を彷徨っていました。我が妻、スムボドロがドロワティ国にいるという話を聞いて、すぐに兄王陛下の前に参上しました。スムボドロをマドゥコロへ連れて帰りたいのです。」
 サン・プラブ・クレスノはアルジュノの者の願いを聞いてとても驚いた。怒った声でプラブ・クレスノは言った。「そなたの言葉は、戦いを挑む者のように粗野である。人にものを頼む言い方ではないぞ。そなたの妻を私はドロワティに連れて来たが、そなたは礼も言わぬ。そなたはものの順序をわきまえぬようだ。五年もの間、妻を放っておいたままにした。これは夫婦たる者の行いではない。そなたは自分勝手に我が妹を扱おうとする。我が妹がそのような扱いを受けるのは快くない。さて、弟アディパティ・カルノよ。私はクリスの材料を差し上げる。タリピンガン〈腰紐〉の模様にしたいが、まだ出来ておらぬ。これをそなたの兄、プラブ・スユドノにお任せする。このことはそなたの誠実さにお任せする。」
 サン・アディパティ・カルノはプラブ・クレスノの条件を理解した。ジョヨジョロトとドゥルソソノに目配せして命令を伝えた。彼らはアディパティ・カルノの命を実行した。アルジュノを捕らえようと、コラワたちは一斉に攻撃をしかけた。
 プラブ・クレスノは従者たちと供に宮廷に入り、ウレスニウィロ、またの名スティヤキと他の臣下たちに争いに加わらないように、と命じた。アルジュノは、もう縄でしっかり縛り上げられていた。アディパテ・カルノは彼に言った。「さあ、アルジュノ、縛り上げられた気分はどうだ?」縛られている者は答えた。「ああ、とても暑いな。」
 サン・アディパティ・カルノがまた言った。「パンダワの真ん中、アルジュノにはすごい超能力があると聞く。それが本当なら、この縄を解いてみるがいい。もしできたら、俺はお前の弟子になってやろう。」
 サン・アルジュノは、微笑みながら縛り上げられた縄をほどいてしまった。木の枷もひとりでに地面に落ちた。アディパティ・カルノはとても驚き、動くことも口をきくこともできなかった。
 アルジュノは優しく言った。「さあ、カルノ。私の足に跪くのだ。押し黙ったままではいかんぞ!」サン・カルノは胸を突かれ、地面に放り投げられた。ジョヨジョトロも打ちのめされ、転げ倒れ、ドゥルソソノは睨まれただけで痛くなって逃げ出した。他のコラワたちも慌てふためいて逃げ出した。戦おうとしたコラワたちもいたが、彼らは影と戦っているような感じであった。仲間同士でつかみ合い、殴り合い、ぶつかり合うだけだった。怒ってアルジュノを捕まえて縛ろうとした者もいたが、自分の仲間を縛り上げてしまった。ドンド、ゴド、パル、チョンドロソ、アルゴロ、その他いろいろな武器を使ったが、どんな武器も影と戦っているようにすり抜けてしまうのだった。ゴドやパルで打ち砕いたかと思うと、いつの間にか後ろに立っている、というありさまだった。
 アルヨ・シンドゥパティは攻撃を止めるよう軍に命じた。敵はどこに行った、と聞かれた時、サン・アルジュノは二股のブリンギンの木陰でポノカワンたちと共に座っていた。
 アディパティ・カルノはすぐさま軍にサン・アルジュノに向けて矢を放つよう命じた。数えきれないほどの矢が激しい雨のように降り注いだが、一つとして的に当たるものは無かった。矢に当たってブリンギンの葉が粉々になった。幹も枝も放たれた矢によってばらばらになった。不思議にも的にされた人は気持ち良さそうに座ったままだった。
 サン・アルジュノは嵐を起こし、その激しさに矢は放った者たちに跳ね返って来た。大騒動と混乱が起こった。というのも矢に当たった者は一人も無く、武器は持ち主のもとへもどったからである。
 サン・プラブ・クレスノはバライルン〈王宮のホール〉の不思議な戦いを見て怒りがわいてきた。チョクロの矢を手に取り、アルジュノに挑戦した。アルジュノはプラブ・クレスノがチョクロを放とうとしているのを見て、すぐさまサン・プラブ・クレスノに跪いた。拝跪しながら彼は言った。「おお我が主よ。王陛下がチョクロを放つということは、我が魂をハリロカ〈天界〉へ送るつもりだということです。我が魂をハリロカへ送ることができるのは、王陛下だけです。」
 サン・プラブ・クレスノは慈悲を乞うその言葉を聞いた。風に吹かれたようにサン・クレスノの怒りは消え失せた。サン・プラブは優しく言った。「私はそなたと超能力の一騎打ちをしたいと思うが、アルジュノよ、そなたは拒むのであるな。」
 サン・アルジュノは答えた。「はい、我が主よ。私は王陛下を相手に戦うには相応しくありません。」サン・プラブ・クレスノは怒りを鎮め、言った。「私はそなたの普段とは違う態度を見た。そなたはすぐにそなたの妻に会うことはならぬ。そなたは尊大な言葉遣いで我が前に現れ、私を驚かせおった。今、私はそなたがバノンチナウィへ行き、そなたの妻と会うことを許そう。」
 アルジュノの答えるには、「はい。我が主よ。愛しい我が妻と会うのはとりあえず止めておきます。まずは我が心にあるコラワに対する気持ちを満たしてからにしましょう。私はコラワを相手に一騎打ちを所望します。私を負かし得る者が現れるまで。」
 アルジュノの答えを聞いたサン・プラブ・クレスノは不安になって言った。「そなたは妻と会って、マドゥコロへ連れ帰ると言い、今や私はそれを許した。だが、そなたはそうせずに、することがあるという。そなたがまず望むのはサユムボロ〈嫁取り競技〉であるというのだな。コラワたちがウォロ・スムボドロを欲するなら、まずそなたを殺せと。」サン・アルジュノはスマルとその息子たちと一緒に、鉄の牢獄に入れられた。

7.アディパティ・カルノがアスティノ国に援軍を要請する

 サン・プラブ・クレスノパドマノドはブグラルアンの玉座に座し、アディパティパティ・カルノとジョヨドロト、ドゥルソソノを呼んだ。彼らが参上すると、プラブ・クレスノは言った。「すべての兄弟たちよ、プラブ・スユドノ兄に我が言葉を伝えていただきたい。アルジュノは私が牢屋に入れた。ブリスロウォとウォロ・スムボドロの結婚をお望みなら、彼は今や鉄の牢獄に捕らえられているアルジュノを殺さなければならない。アルジュノの超能力がどれほどのものかは、説明するまでもなく諸君が自身の目で見たであろう。」
 アディパティ・カルノは答えた。「はい。クレスノ兄よ。私自身はアスティノに帰る必要はありません。この事件は私がプラブ・スユドノ兄に知らせます。おそらく彼自身がダヤン・ドゥルノを伴って来ようとするか、あるいは私をアスティノに呼び戻すでありましょう。」かくてプラブ・クレスノは王宮に入った。アディパティ・カルノとコラワたちは営舎に行った。アディパティ・カルノはすぐさまプラブ・クレスノの言葉を始めから仕舞いまで記した書状を書いた。書状を委ねられた使者はアスティノプロへ出発した。
 サン・プラブ・クレスノはタマン・バノンチナウィへ入った。ウォロ・スムボドロはララサティにかしずかれて座っていた。プラブ・クレスノの到来を見て、彼女はとても驚いた。彼女はすぐに立ち上がって兄、プラブ・クレスノを出迎えた。彼らが座り、挨拶を交わすと、プラブ・クレスノはスムボドロに言った。「ハイ、我が妹スムボドロ。そなたに知らせることがある。アディパティ・カルノがプラブ・スユドノの使者としてドロワティにやって来た。そなたとアルヨ・ブリスロウォとを結婚させたいとの申込みをするためだ。彼はアルジュノが五年もの間マドゥコロを留守にしていると聞いたのだ。今にいたるも、アルジュノがまだ生きているのか死んでしまったのかはっきりした情報は無い。私はこの件についてはプラブ・スユドノに任せると返答した。ブリスロウォはかつて、そなたが生娘であった頃、妻にしたいと結婚を申し込んだが、実現しなかった。デウィ・ドゥルゴの手助けを受け、そなたを手に入れようと、盗っ人にまで成り下がった。二度に渡る努力は失敗に終わった。今もまだ彼はそなたを妻にしたいという思いを抱き続けている。これもサン・デウォ・アグンの思し召しなのか?
 使者たちが座して会見しているところへ、不意にアルジュノがやって来たのだ。彼はアスティノの使節たちにおかまいなしに、私にそなたをマドゥコロへ連れ帰りたいと要求してきおった。不審なことに、その態度、振る舞いは、ふだんの彼とはおおいに異なっていたのだ。アディパティ・カルノとコラワたちはひじょうに怒り、カルノは割り込んで来たアルジュノを捕らえるよう合図した。アルジュノはコラワたちに縛り上げられ、私は宮殿に入った。王宮前広場では激しい戦いが起こっていた。あげくにアスティノ軍の多くの者が傷つけられたのだ。アディパティ・カルノではその騒ぎを収めきれなかったので、やむなく私が割って入ることになった。私がスンジョト・チョクロを持っているのを見てアルジュノは我が前に来てその身を任せた。ああ、我が心は彼を敵とすることはできなかった。それで私はそなたに会わせてやることにしたのだ。その時アルジュノは心からそれを望んでいるように見えたのだ。しかし、私が許したにもかかわらず、彼は自身の望みを叶えようとはしなかった。というのも、まずはコラワたちとの戦いを済ませたいというのだ。私は再び怒りが込み上げて来た。今や私は彼を鉄の牢獄に捕らえ、サユムボロを催すことにした。コラワたちがアルジュノを殺すことができたなら、そなたはプラブ・スユドノに委ねられる。おそらくこれは、そなたがモンドロコの息子の妻になるという、サン・デウォ・アグンの思し召しなのであろう。今やコラワたちは、この件をプラブ・スユドノに知らせるためにアスティノに戻った。アディパティ・カルノは王宮前広場でことの成り行きを見張っている。もはやどうなろうと私の知るところではない。」サン・クレスノの言葉を聞いてウォロ・スムボドロはおおいなる怒りを感じ、不安のあまり涙を流した。
 プラブ・クレスノが王宮に入った後、ウォロ・スムボドロはララサティを呼んで言った。「ああ、ララサティ、すぐにバンジャルムラティへ向かってください。チェケル・インドロロヨを呼んでください。私が彼とお会いできるように。彼が拒んだら、無理にでも連れて来て欲しいのです。」いそぎララサティは暇乞いし、バンジャルムラティへ出発した。
 さて、アルヨ・ドゥルジョヨとドゥルムコはアスティナプラに着くと、真直ぐスユドノ王の宮殿に向かった。アディパティ・カルノからの書状がプラブ・スユドノに渡され、スユドノは黙ってそれを読んだ。スユドノは動揺し、しばし言葉も無かった。書状はダヤン・ドゥルノに渡され、彼もそれを読み、続いてパティ・スンクニも読んだのである。
 サン・プラブ・スユドノは困り果て、ぐずぐずと言った。「おお、ルシ・ドゥルノ師父よ。我らが働かねばならぬのか?他の国の手助けを求めなければならぬのだろうか、アルジュノを負かすことのできる者を探さねばならぬのか?アディパティ・カルノを呼び戻した方がいいのだろうか?それから他国の援助を乞い、アルジュノを殺せる勇者がいるだろうか?」
 ダヤン・ドゥルノは言葉をつないだ。「アディパティ・カルの以上の超能力の強者を見つけるのは容易いことではありません。アスティの第三のセノパティ〈戦闘指揮官〉であってもこの仕事はできない。他のコラワ軍の者にできる者がいますか?我らに助けを与えてくれるのは、ただ一人、マドゥロ国王プラブ・ボロデウォだけです。偉大な超能力の師から教えを受けたアルジュノを屈服させることができるのは、ナンゴロとアルゴラの武器だけです。」
 パティ・スンクニもダヤン・ドゥルノの意見に同意した。プラブ・スユドノはパティ・スンクニに、アディパティ・カルノからプラブ・ボロデウォに事を委ねる旨の書状を運ぶよう命じた。アルヨ・ブリスロウォはマドゥラ国へ招かれ、泣きながらプラブ・ボロデウォに会いに向かった。パティ・スンクニは残っていた軍を招集し、マドゥラへ随行した。
 間もなくコラワ軍はマドゥラ国の領域に到着した。パティ・プラゴトはアルヨ・ブリスロウォを連れたアスティノプロの軍が現れたことをプラブ・ボロデウォに知らせた。彼らは街の外で止まり、王から呼ばれるのを待った。パティ・プラゴトはアスティノの客たちを迎え入れるよう命じられた。サン・プラブ・ボロデウォは宮殿から出て、謁見所の玉座に座してアスティノのコラワたちを迎えた。パティ・スンクニはアルヨ・ブリスロウォに伴われて、二通の書状を届けた。プラブ・ボロデウォの前でコラワたちは拝跪し、アルヨ・ブリスロウォはすすり泣きながらプラブ・ボロデウォの前に座った。プラブ・ボロデウォは二つの書状を読んだ。王は、書状の内容とコラワたちの到来をわけが分かった。プラブ・ボロデウォはパティ・スンクニに言った。「ブルスロウォがスムボドロの夫となるのが、サン・デウォ・アグンの思し召しなのだろう。今や弟バトロ・クレスノはアルジュノを我が手に委ねた。アルジュノはかならずや我がナンゴロによって死にいたるであろう。」次の日、プラブ・ボロデウォはドロワティ国を目指して出発した。王国守護のわずかな者を残して、全軍が付き従った。

(つづく)
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by gatotkaca | 2012-05-15 12:46 | 影絵・ワヤン | Comments(0)

アルジュノ・クムバル その4

5.デウィ・ララサティがサン・アルジュノを探す

 ウォロ・スムボドロがドロワティ国に来てから時は過ぎたが、サン・アルジュノがどこへ行ったのかは分からないままだった。彼女はララサティを呼び、夫を探してくれるよう頼んだ。ララサティは平民の女の衣装を着て出発した。彼女は山を登り、谷を降り、大きな森を抜けてあちこちへ旅した。長く旅を続け、彼女は小さな山の頂きに着いた。その山は小さいけれど、そこからの眺めはとても美しいものだった。そこにはたくさんの葉を持つ樹々が茂っていた。その間から光が溢れ出ている、きれいな小屋が見えた。デウィ・ララサティはその美しい様を見て不思議に思い、心の内で言った。「あの小屋の中に何があるのかしら?きっと苦行者がいるのだわ。苦行者が輝いているのよ。」
 デウィ・ララサティは、二人の女官を連れてその山に登っていった。彼女は光が何から出ているのか知りたいと思ったのだ。彼女が山の頂上に着いた時、小屋の中にひとりの苦行者が見えた。苦行者は瞑想して座していた。伸びた髪は編まずに結んでいるだけだった。乾いた麻袋で出来た服は長かった。見えるのは背丈ほども伸びた髪だけで、顔は両の手で覆っていた。苦しそうなため息の音だけが聞こえた。ララサティは心の内に問うた。「病人なのかしら、それとも苦行者なの?」
 それで彼女はその人にやさしく尋ねた。「はい、師父、お顔を上げて私を迎えてくださいませ!いつまでもため息をついているだけではいけませんことよ!」声を聞いてその人は座ったまま手を広げた。そしてようやく美しい娘がやって来たことに気付いた。悲嘆にくれた声で彼は、客にようこそを言った。「あなたの到来に祝福のあらんことを。あなたを見るのは初めてですね。どこからいらしたのでしょう。何のためにここへ来られたのか。あなたのようなうら若い女の方が、一人で山に登ってこられたのですか?」
 デウィ・ララサティは答えた。「はい、師父よ。私はマドゥコロの娘。我が主人ウォロ・スムボドロの命で我らの夫、ラデン・アルジュノを探しております。彼がカサトリアンからいなくなって、もう長いのです。私の名はララサティ。サン・アルジュノの若い妻です。私からもお聞きしたいのですが、あなたのお名前は?あなたは病気を患っておられるのでしょうか、それとも苦行をなさっておられるのですか?私はあなたが座して瞑想され、病人のようにマントラを唱えていらっしゃるのを聞きました。お見受けしたところ、あなたは瞑想して苦行している方のように見えますが。」
 聞かれて答えるには、「本当のところ、私は苦行者などではありません。ただの病人にすぎません。私の全身はくまなく黴菌に侵されてしまい、この疥癬はクディス・ブシに違いありません。どんな薬も効かないのです。とても痛い。果てしなく。この病のせいで、私はずっと苦しいため息をついております。病にかかってからもう五年になります。その間、一滴の水も飲まず、一粒の米も食べておりません。疥癬を掻き続けなければなりませんから。」
 デウィ・ララサティは微笑みをたたえて答えた。「まあ、鳥肌が立つようですわ!あなたのお話を聞いて、とても驚きました。あなたが五年間も病に苦しんでおられるということは、苦行者と同じことですわ。五年もの間、飲まず食わずで病に苦しんでいらっしゃる。マハルシと呼ばれる苦行者以上です。私の言葉をお聞き下さい。私はバノンチナウィの娘、グスティ・ウォロ・スムボドロに命じられて、パンゲラン・アルジュノがまだ生きておられるか、それとも逝去なさったのかを明らかにしなければなりません。そのマドゥコロのクサトリアは家と家族を残してどこかに消え、五年の歳月がたちました。第一夫人は私に彼を探す仕事を与えられました。私は山に登り、谷に降り、旅をしましたが、いまだ望んだ答えを見つけられません。ふつうでないほどの努力と骨折りのあげく、私は何も得ることが出来ないままで帰らなければならないのでしょうか?そうしたら、不意に、この山から溢れ出る光を見たのです。そしてこの小屋で苦行する師父と出会ったのです。これは神のお導きに違いないと思うのですが?師父よ、私にお言葉を。サン・パンゲラン・アルジュノはまだ生きておられるでしょうか、それとも亡くなられたのでしょうか。あなたのお考えはどうでしょう?」
 苦行者はやさしく答えた。「やぁ、可愛い娘よ。あなたが私に真実を明らかにしてほしいと思うのであれば、満たさなければならない条件がある。それはふつうの者にとっては容易いが、貴族の娘たる者にとってはとても大変なことだ。そなたはクサトリアの妻。きっとこの重い仕事を請け負うことには承知しないだろう。」
 デウィ・ララサティは微笑みながら答えた。「尊敬する師父よ。言ってください。どんな条件なのですか?どんなに重くとも、やりとげて見せます。一所懸命にやってみせます。」
 苦行者は、美しい娘の口から出る言葉を聞き、心の内で微笑んだ。そしてデウィ・ララサティに言った。「大切な条件とはこうだ。それは召使いが主人に乞われてするように為されなければならない。」
 ララサティは笑って言った。「ああ、師父よ。そんなことを私に求めてはなりません。金や他の物、何でも言ってください。あなたのお望みの物は何でも、きっと差し上げます。」
 苦行者はもう一度言った。「先程言ったように、この条件は貴族たる女性には為し難いことだ。出来ないというなら、無理はしなくて良い。そなたは東へ、私は西へ。別れ別れになるだけのこと。」
 その言葉を聞き、ララサティは心の内に思った。「ああ、この人の意志を変えることはできないのね。条件を果たせるかどうかは、私次第ということなのね。」一瞬だけ、わけも無く、疥癬を患った苦行者に拝跪して、彼女は言った。「ああ、師父よ。私はあなたに敬意を捧げます。」
 苦行者はやさしく言った。「よろしい。そなたが心を込めて為したなら、聞きたいことを言ってみよ。」すぐさまデウィ・ララサティは畏まって言った。
(この部分はトゥムバン・キナンティの節で歌われた)
1. "Abdimu bersembah sujud,
Disuruh oleh sang dewi,
Subadra sang Retnaningdyah,
Kusma Banoncinawi,
Permaisuri Madukara,
Putri ari Dwarawati.

(ドロワティ〈ドゥウォロワティ〉(王)の妹
 マドゥコロ(の主〈アルジュノ〉)の妻
 バノンチナウィの花〈娘〉
 サン・ルトナニンディヤ〈娘〉、スムボドロ〈スバドゥラ〉
 (その)サン・デゥイのご命令を受けた
 あなたのしもべが拝跪いたします)

2. Kupohon kasih sang wiku,
Tkah lima tahun sang swami,
tak ada tanda sedikit pun,
Dipungut sang dewata,
Hilang hinggah hari ini.

(私はサン・ウィク〈僧侶〉の御慈悲を乞います
 サン・スワミ(夫)は五年の間
 何の手がかりも無く
 神がくれにあったのか
 今日にいたるまで消え失せてしまった)

3. Tak ada warta tertentu,
Masih hidup atau mati,
Hamba mohon penerangan,
Andai kata telah mati,
Di manakah jenazahnya,
Akan kuambil sendiri.

(行方がわからず
 生きているのか死んでしまったのか
 私は知りたい
 死んでしまったのなら
 遺体はどこにあるのか
 私が引き取りたいのです)

4. Jika ia masih hidup,
Di mana tempatnya kini,
Bilamanakah timbulnya,
Kembali ke Dwarawati,
Kami mohon penjelasan,
Akhir kata Lawasati."

(もしまだ生きているのなら
 今どこにいるのか
 ドロワティに戻られるのか
 私たちは知りたい
 ララサティの話は終わりです)

(苦行者の答えもまたトゥムバン・キナンティで歌われた)

1. Sabda petapa, tersenyum,
"Hai ketahuilah, Mbok Selir
Kesatria sang Dananjaya
Sebenarnya belum mati,
Masih dalam rahasia,
tempatnya pun tersembunyi.

(苦行者は微笑んで言う
 「では、教えよう、ボ・スリル〈夫のいない妻〉よ
 クサトリア、サン・ダナンジョヨ〈アルジュノ〉は
 真実まだ生きている
 彼の隠れているところは
 まだ秘密の中にある)

2. Di tangan Dewata Agung,
Kembalinya belum pasti,
Jika datanglah saatnya,
Sang Dananjaya kembali,
Bersaan banjir besar,
Harap Dyah Banoncinawi.

(偉大なる神の手の中にあり
 戻るときはまだ決まっていない
 その時が来れば
 サン・ダナンジョヨは帰って来る
 ディヤ・バノンチナウィ〈ウォロ・スムボドロ〉の望みの
 大いなる洪水と共に)

3. Menaiki kapal gabus,
Pulang lekas kembali,
Gustimu sangat menharap,
Pulangmu ke Dwarawati,
Habis kata sang petapa,
Berkatalah Larasati."

(ガブス〈コルクに似た木〉の舟に乗って
 すぐに帰ってくる
 そなたの主人は望んでいる
 ドロワティへのそなたの帰りを
 苦行者の言葉は終わる
 ララサティへの言葉は)

(ララサティは言う)

1. "Sangat terharu hatiku,
kau menyebutku mbok selir,
Teringatkan kepadanya,
Yang lenyap di malam hari,
Betapa sikapmu juga,
Kepada diriku ini."

(私の心は大きく揺れ動く
 あなたがボ・スリルと呼んだから
 あの人を思い出す
 夜に消えた人を
 私に何も
 知らせないまま)

(苦行者はまた言う)

1. Kata sang petapa tersenyum,
"Apa sungguh anda ini,
Selir dari sang Arjuna,
Lekaslah pulang kembali,
Jangan kamu lama-lama,
Tinggalkanlah pondok ini."

(苦行者は微笑んで言う
 「アルジュノのスリルよ
 さあ早くお帰り
 この小屋にいつまでも
 残っていてはいけないよ」)

(ララサティが続ける)

1. "Jika ditanya padaku,
Bagaimana jawab kami?"

(「私に尋ねられたら
 どう答えればよいのでしょう?」)

(苦行者はまた言う)

1. "Katakanlah nama hamba:
Cekel Indralaya resi,
Bertapa dalam asrama,
Di Gunung Banjarmelati."

(「私の名を言おう
 ルシ・チェケル・インドロロヨだ
 バンジャルムラティ山の
 アシュラマ〈修行所〉で苦行している」)

(ララサティが答える)

2. "Ya Paman, 'Ku mohon undur,
Selamat tinggal di sini,
Segera aku berangkat,
Meninggalkan Banjarmelati,
Meneruskan perjalanan,
Menuju Banoncinawi."

(「ああ、師父よ。私はお暇乞いいたします
 ここを去って
 すぐに出発いたします
 バンジャルムラティを去り
 旅を続け
 バノンチナウィへ向かいます」)

 間もなくララサティは、裏門を通ってドロワティ国に到着し、バノンチナウィで、彼女の帰りを待ち望んでいたウォロ・スムボドロと会った。体験したことを、最初から最後まですべて話した。あちこちを彷徨ったあと、最後には、疥癬、クディス・ブシを患った苦行者と出会ったことを。苦行所の名はバンジャルムラティ。その苦行者は全てを明らかにしてくれるけれど、条件がある。その条件が満たされなければ苦行者は教えてくれようとしない。とうとうララサティは苦行者に求められたことをした、と。ウォロ・スムボドロはララサティの話を聞き、自分がそれを体験したかのように心が満たされたのであった。

(つづく)
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by gatotkaca | 2012-05-14 05:37 | 影絵・ワヤン | Comments(0)

アルジュノ・クムバル その3

3.ブリスロウォがウォロ・スムボドロとの結婚を求める

 モンドロコ国王の息子、ラデン・ブリスロウォは、アルジュノがカサトリアン・マドゥコロからいなくなり、ウォロ・スムボドロがプラブ・クレスノにドウォロワティ国へ連れて行かれた、という知らせを聞いた。マドゥコロに残されたのは、デウィ・スリカンディとアビマニュだけであった。慌てて彼はアスティノ国へ出発し、義兄弟のプラブ・スユドノに会った。彼は恋い焦がれるウォロ・スムボドロと結婚したいと頼んだ。その振る舞いはまるで狂人のようだった。ゲラゲラ笑いころげたかと思うと泣き出したりした。サン・プラブ・スユドノは、昼も夜もだだをこね続ける義兄弟に同情し、早くウォロ・スムボドロと結婚させてやりたいと思った。願いを叶えてやらないと、彼は自殺しかねない。時おり彼はクリスを抜き放ち、サン・スユドノの目の前で自分を突き刺そうとしたりした。王はダヤン・ドゥルノとパティ・スンクニを呼び、こう言った。「おお、父なるダヤン・ドゥルノとスンクニ叔父よ。知らせはどのようです、アルジュノは本当にいなくなったのですか?」
 ダヤン・ドゥルノが答えた。「おお息子、プラブ・スユドノよ。まさしくアルジュノはカサトリアン・マドゥコロを去ってもう五年になる。おそらく彼はセトロゴンドマユの魔物に食われたのであろう。いまだアルジュノがマドゥコロへ戻ったという知らせは無い。ウルクドロとガトコチョが探すよう命じられたが、帰って来ておらぬ。多分彼らもバタリ・ドゥルゴのラクササに食われたのであろう。ウォロ・スムボドロもプラブ・クレスノにドロワティ国へ連れられて行った。アルジュノがもし生きておるのなら、たとえアルジュノが大地の中に隠れようとも、サン・プラブ・クレスノが探し出しているはずだ。そなたの意見はどうかな?弟スンクニよ。」
 パティ・スンクニは優雅に答えた。「おお、ルシ・ドゥルノのご意見は私の考えと同じです。アルジュノがまだ生きておるのなら、すでにプラブ・クレスノが見つけているはず。アルジュノを探していたウルクドロとガトコチョがまだ戻っておらぬのは明らか。おそらく彼らは、セトロゴンドマユのデウィ・ドゥルゴのラクササ軍の餌食になったのでありましょう。」
 サン・プラブ・スユドノは続けて言った。「弟ブリスロウォよ。以前彼女がまだ処女であった時、ウォロ・スムボドロとの結婚を望んだ時は、実現しなかった。今や彼女は未亡人となった。ブリスロウォの願いはさらに強いものになっている。望みが叶わなければ、自殺しかねないほどにな。」
 サン・ドゥルノは言葉を足した。「私の考えでは、ブリスロウォは神がかっている。彼の願いに同意するが良かろう。すぐにあなたはドロワティに使いを送り、デウィ・スムボドロとブリスロウォの結婚を願い出るのです。ちょうどアディパティ・カルノがあちらにおります。明朝アウォンゴに戻る予定です。」
 すぐにパティ・スンクニは彼らと会い、かくて王の前に参じた。
 サン・プラブ・スユドノはアディパティ・カルノに言った。「弟アディパティ・カルノよ。私はそなたの到来を待っていた。重大なことを話すためにな。我らが弟ブリスロウォが今や、愛に苦しみ、ウォロ・スムボドロとの結婚を切望している。ウォロ・スムボドロと結婚できないなら生きる気力も無くなり、死ぬ方がましだというのだ。
 私の考えでは、そなたより使者に相応しい者は他に無い。そなたに頼みたい。ドロワティへ赴き、叔父プラブ・クレスノに申込の書状を届けてくれまいか。もし言葉足らずであったなら、我らの目的の成就はそなたに任せたい。アディパティ・バナクリン、カルトマルモとその他コラワの軍隊を必要なだけ連れて行くが良い。」
 かくてアディパティ・カルノはドロワティへの供として軍隊を動員した。申込の書状はアディパティ・カルノに委ねられた。アルヨ・ドゥルソソノも付き従い、強力な敵にも対抗できるよう、より堅固な隊列となった。ドロワティ国へ向かうコラワたちの行軍が始まった。

4.アディパティ・カルノがドロワティへ出発する

 ダヤン・ドゥルノはアディパティ・カルノに軍を強化するよう注意した。もしプラブ・クレスノが申込を拒否したなら、はげしい戦いが起こるにちがいない。パティ・スンクニはアルヨ・ドゥルソソノにコラワ全軍の半分を率いて行くように申し出た。すべての準備が整い、彼らはアスティノ国を後にしてドロワティ国へ向かった。軍の先頭は武器を整えたアルヨ・カルトユド、さまざまな武器を携えたアルヨ・カルトマルモの率いる隊が続く。
 戦車に乗ったアディパティ・カルノが騎兵に伴われている。アルヨ・ドゥルソソノとアルヨ・ジョヨドロトは馬に乗って隊を従える。武器を携え、素敵な衣装を着ている。遠くから見ると燃え盛る森のようだ。

 さて、ここは天界、カヤンガン・チャクロクムバンである。サン・ヒワン・コモジョヨ、またの名をバトロ・アスモロは、美しい妃、デウィ・ラティを前にして玉座に座している。彼は妃に言う。「さあ、妹ラティよ。教えておくれ。そなたの弟アルジュノがカサトリアン・マドゥコロを後にしてもう長い。マドゥコロに残っているのはスリカンディとアビマニュだけだ。ウォロ・スムボドロはプラブ・クレスノにドロワティ国へ連れて行かれた。今やブリスロウォがまたもやスムボドロに恋慕し始めた。それゆえ、プラブ・スユドノにウォロ・スムボドロへの結婚の申込を頼んだのだ。私の考えでは、アルジュノはもう亡くなってしまったのだ。武器を装備したアディパティ・カルノと軍隊が、プラブ・クレスノ宛の申込の書状を運んでいる。申込が拒否されれば、きっと大きな戦いが起こるだろう。」
 デウィ・ラティは答えた。「アルジュノはどこへ行ってしまったのでしょう?」
 ヒワン・アスモロは答えた。「ああ、妹よ、私は世界の隅々まで見渡したが、アルジュノを見つけられなかった。今やアディパティ・カルノはドロワティ国への道半ばにある。だから私がドロワティ国へ行くことにする。アディパティ・カルノと同時にドロワティ国へ着くように。」
 サン・コモジョヨはかくてチョクロクムバンを後にして出発し、マルチョポド(地上)に降り立った。空から森に入って行こうとする四人の者が見えた。彼らは誰であろう?他でもない、彼らこそスマル、ガレン、ペトル、バゴンだ。不意にヒワン・アスモロはアルジュノのポノカワン(従者)たちの前に立った。彼らはサン・アルジュノが来たと思った。スマルはわめきながら、彼の足を抱いた。「アドゥー、旦那さん、あなたは何処から来たんです?私どもはあなたが恋しくて、長いこと探していたのですぞ。」
 ヒワン・アスモロはアルジュノのように答えた。「私はあなたがまだぐっすり眠っている時に行こうと思ったのだ。あなたが目を覚ましたら、きっと驚くだろうと心配したのだ。さあ、あなたの主人ウォロ・スムボドロが連れて行かれたドロワティ国へ行こう。彼女が恋しいよ。」
 スマルと息子たちは一緒に答えた。「おお、旦那さん、私たちはあなたの命令に従います。サン・ウォロ・スムボドロもきっとあなたを恋しがっているでしょう。」
 森の真ん中で彼らはバトゥバラン国のラクササ軍と出会った。彼らはプラブ・コロシヨに遣わされた者たちだった。その王はデウィ・スムボドロと結婚する夢を見たのであった。目覚めてから彼は家臣にデウィ・スムボドロへの結婚の申込をしにドロワティ国へ行くよう命じた。森の中で彼らは迷ってしまった。どれが正しい道なのか。隊列を突き崩した五人を見て、烈しい戦いとなった。ヒワン・アスモロは強力な矢を放ち、ラクササたちの軍は嵐に吹かれてとても遠くへ飛ばされてしまった。

(つづく)
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by gatotkaca | 2012-05-13 08:14 | 影絵・ワヤン | Comments(0)

アルジュノ・クムバル その2

2.ラデン・アルジュノがブガワン・カンウォの娘婿となる

 旅の途中、ラデン・アルジュノまたの名をラデン・パマディは、ラウ山の南の麓に着いた。彼は河の源泉を探したが、見つけることができなかった。というのも河が七つの支流に分かれていたからである。彼は誰かに尋ねようと思ったが、そこには見渡す限り村一つとして無かった。彼はさらに河の源泉を調べ続けた。
 苦行を完成させたプンデト(僧侶)がいた。その名はブガワン・カンウォ、彼の苦行所はヨソロトといった。呪文を完成させたゆえに、心に浮かべたことは何でも必ず実現した。彼にはとても美しい一人の娘がいた。まさしく山の娘ではなかった。背の高さはその体に相応しく、顔は甘やか、とても魅力的で、目は星のように光を放ち、着飾った人形のように美しく、彼女を見た者は誰であろうと思い焦がれる。いつも微笑みをたたえ、光輝くきれいな白い歯が見える。心持ちは落ち着き、彼女がその唇を噛めば、その歯は清らかな水のように見える。胸は広く、乳房をたたえ、その動きは敏捷で素早い。彼女が話せば甘い雰囲気がただよう。山の娘の名はエンダン・ウルピという。
 多くの弟子たちはその娘を手に入れたいと願うが、彼女の気を引くことの出来た者は誰もいない。彼女はいつも父を手本として付き添い、苦行を好み、つねに父の命に服して従っていた。
 ある夜彼女が熟睡していると、夢を見た。その夢の中でとても美しい神を見たのである。その神は愛の神、ヒワン・アスモロであり、彼女に一振りの小さなクリスを与えた。クリスを受け取ると、それは一人のクサトリアに変わった。太陽のように光り輝くその人の名はラデン・パマディ、パンダワの真ん中である。それから彼女はそのクサトリアと結婚した。表しようもないほどうれしく思い、彼女はサン・アルジュノに寝所へ導かれた。不意に彼女は驚き、眠りから覚めた。娘はそれが夢であったことに気付き、とてもがっかりした。ひじょうに悲しみ、夢での出来事を思ってぼんやりしていた。
 その日の朝、彼女は泣きながら父の足下にすがった。サン・ルシ・カンウォは、娘が嘆きのわけを尋ねた。山の娘は答えてわけを話した。彼女が美しいクサトリアと出会ったことを。始めから終わりまでサン・プンデトに全てを話した。やさしい声で彼は娘に言った。「おお、かわいい娘よ、心を痛めることはない。そなたの夢はサン・デウォ・アグンの賜物である。真実そのクサトリアがそなたの夫となるなら、わしがきっとその者を見つけてやろう。女官たちと家で心穏やかに待っておるがよい。わしは探して来てやろう。」
 サン・ルシはかくて弟子たちに守りを命じて出掛けて行った。サン・プンデトは空に飛んだ。そこから世の隅々を眺めたが、一人として見えない。北西に光り輝く虹が架かっているのがみえるだけだ。ラウ山の麓に、供を連れずにいるクサトリアが一人、あちこち探しているように見える。彼はすぐさまそのクサトリアのそばへ降り立った。サン・アルジュノは、サン・プンデトと出くわし、おおいに驚いた。サン・ルシは腰掛けるよう勧められて、アルジュノは言った。「ああ、なんたることか、サン・ルシが私に会いに来られるとは。あなた様はどこからおいでになられたのですか、お名前は?」サン・ルシは答えた。「おお、ここは我が苦行所です。我が名はブガワン・カンウォ。わしもあなたに尋ねたい。あなたは何処からのクサトリアであられるか?森の中、供の一人も連れずにおられる。」
 サン・アルジュノは答えた。「私の名はパマディ。パンダワの真ん中です。私は河の源を探しに参りました。私の見たところ、河は七つの支流に分かれ、どれが源流なのか定め難いのです。」
 サン・ルシは言葉を続けた。「実際この河の源は十一の流れの合わさったものである。一番の源は、私の苦行所の近く、スロンガン山にある。」
 「おお師父、ルシよ。私はそこへ行きたいのです。手助けしてください。」サン・プンデトは彼の願いに同意した。かくて彼らは空へ飛び上がった。瞬く間に彼らはヨソロトの苦行所に着いた。
 「ここで少しお待ちなさい。大切な話があるのです。お願いがあるのです。」
 サン・パルト、またの名サン・アルジュノは、サン・ルシの願いに従った。サン・プンデトはサンガル・パムジャンへ向かって真直ぐ歩いて行った。弟子たちは、サン・ルシが美しいクサトリアを連れて来たのを見て驚いた。
 アルジュノに座るようすすめてから、サン・ルシは心中神に祈りを捧げた。すると間もなく天のビダダリたちが降りて来て、さまざまな食べ物を運んで来てくれた。サン・アルジュノはこのプンデトが特別な人であることを目の当たりにして、おおいに驚いた。まさしく彼は、その思いを実現させることのできる、神に愛されるプンデトなのだ。
 サン・ルシは言った。「さあ、山の食べ物を、飽きるまで召し上がりなさい。」
 サン・アルジュノは出されたものを喜んで食した。それからサン・ルシは彼に言った。「おお、サン・アルジュノ。私があなたをこの苦行所へ連れて来たのには、大切な目的があるのです。私には一人娘があり、名はエンダン・ウルピと申します。夢の中で彼女はあなたと愛し合い、妻となりました。ですからあなたに娘を娶っていただきたい。彼女は妻に相応しくないかもしれないが、側室でも結構です。しょせんは山の娘にすぎませんから。どうか彼女の姿を見てやってください。」
 エンダン・ウルピは恥ずかしがりながらも、父に命じられて彼の前に現れ、父の後ろに座った。もっと前へ出るように命じられ、後ずさりして、また家の中に戻ってしまった。
 サン・ルシはサン・アルジュノに尋ねた。「さあ、息子よ、あなたはどのようにお望みか?我が子エンダン・ウルピは、あなたにお任せできますかな?」
 サン・アルジュノは答えた。「おお、父なるブガワンよ。我が心はおおいに彼女に魅かれております。」
 かくてサン・パルトはエンダン・ウルピと結婚した。新婚の二人は互いに愛し合った。七日たって、サン・アルジュノはサン・ルシに言った。「おお、父よ、私は暇乞いいたします。河の源を探し、苦行を続けたいのです。私はお願いいたします。我が妻が男の子を産んだなら、バムバン・イラワンと名付けてくださいますように。女の子であったなら、サン・ルシにお任せいたします。」
 それからサン・アルジュノは河の源を見つけ、河の中に身を漂わせた。サン・パルトは食べもせず、眠りもせずに苦行した。獣たちも彼を煩わせるものはなかった。水に住むものたちは彼の平安を見守った。かくてサン・アルジュノは、美しい眺めのバンジャルムラティ山で苦行を続けたのである。静かな場所で、パルトの苦行は長く続けられた。

(つづく)
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by gatotkaca | 2012-05-12 01:06 | 影絵・ワヤン | Comments(0)

アルジュノ・クムバル その1

 サネシ・パネによるインドネシア語訳「カカウィン・アルジュノ・ウィウォホ」で、ラコン『ミントロゴ』のあらすじの最後に、「アルジュノがどのように地上へ戻り、アマルトへ帰ったか、それはラコン『パルト・デウォ Parta Dewa 』において語られることとなる。」とあった、その『パルト・デウォ』の物語をもとにした「アルジュノ・クムバル(二人のアルジュノ)』〈ウィロアトモジョ著バライ・プスタカ刊、1977年〉を紹介する。子ども向けの本ではあるが、なかなか面白かった。
 これは「アルジュノ・ウィウォホ」の後日談としての物語で、この本では「パルト・デウォ」の発展形「チュクル・インドロロヨ」という物語と混ぜ合わせた構成になっている。「アルジュノ・ウィウォホ」自体は「マハーバーラタ」『森林編(ヴァナ・パルヴァン)』のエピソードを再構成して成立したが、後日談として「ムストコウェニ」、そのまた後日談として「ペトル王になる」、「アルジュノ・ウィウォホ」の事前の物語として魔王ニウォトカウォチョの誕生に関わる「カンディホウォ」、「ニルビト」などさまざまな物語が展開した。これらの本説と展開は後日検討することとして、まずは「アルジュノ・クムバル」をどうぞ。


Arjuna Kembar
Wiroatmodjo
Balai Pustaka 1977(catatan ketiga 2000)

序文

 ウィロアトモジョ作のチャランガン(創作)の物語、『アルジュノ・クムバル Arjuna Kembar (二人のアルジュノ)』は、正義と悪徳が争い、最後には正義が勝利するパンダワとコラワの争いを描いた物語に基づいています。
 この物語では、アルジュノは後の日のバラタユダに勝利できるよう、比類無い超能力を得るために五年間の苦行をしています。
 アルジュノと瓜二つの姿の、ある神によって助けられる話が、美しい物語に編まれています。このワヤンの物語で読者は、ワヤンの演目とその表裏にある人生への見識をより深く理解できるでしょう。

バライ・プスタカ

はじめに

 ワヤンの上演は、広い範囲の教育を含んだものといえます。ワヤンの『ラコン(演目)』は徹夜で上演されるのがふつうです。お年寄りたちは言います。ワヤンのラコンというものは、人間がこの世に生まれてから最後に死ぬまでの、喜び、悲しみを描いたものなのだ、と。ワヤンの物語の中では正義と悪の戦いが描かれ、最後にはかならず正義が勝ちます。
 ワヤンのラコンはアストドソパルウォ Astadasaparwa の書から取り上げられています。これはスラカルタ王宮の文学者、R・Ng・ロンゴワルシト Ranggawarsita がプストコ・ロジョ・プルウォ Pustakaraja Purwa という題でジャワ語に翻訳したものです。
 ロモ物語というものもあり、クカウィン・ラマヤナ Kekawin Ramayana から取材したものです。これは、R・Ng・ヨソディプロ Yasadipura が、スラット・ロモ Serat Rama の題でジャワ語に翻訳したものです。
 先の二つの書の中にあるワヤンの物語は、『パクム pakem 』と呼ばれ、その他の物語は『チャランガン carangan 』と呼ばれます。
 ラコン『アルジュノ・クムバル Arjuna Kembar 』は、チャランガンの物語に含まれます。この本の中に出て来るいくつもの名前は、ワヤンが好きな人たちにとっては、外国人の名前ではありません。
 私たちがまだ若い頃は、映画を観るよりもワヤンを観ることの方に心を魅かれました。ワヤンの物語を読むのが好きな人はあまり多くありませんでした。それはお年寄りの世代にはひじょうに好まれるものだったのです。
 このワヤンのラコン(物語)の作者は、子供達にも容易に、芸術のさまざまな要素を含むワヤンを観たいという気持ちを持ち、その物語を読むことができるようになることを望んでいます。
 バライ・プスタカと教育文化省(Dep. P & K)が、子供たちを『読書』へ誘い、先生やご両親たちの十全な手助けとなり得ますように。

ソロ、1976年7月1日

作者

アルジュノ・クムバル Arjuna Kembar(二人のアルジュノ*)
ウィロアトモジョ Wiroatmodjo

*kembarは双子を意味するが、ここでは物語の展開にそって「二人の」とした。

主な登場人物
アルジュノ:パンダワ五王子の三男。無敵の武芸者。
ウォロ・スムボドロ:アルジュノの第一夫人。
スリカンディ:アルジュノの第二夫人
ララサティ:アルジュノの妻妾。
チェケル・インドロロヨ:謎の苦行者。
アビマニュ:アルジュノの息子。
プントデウォ:パンダワ五王子の長男。
ウルクドロ:パンダワ五王子の次男。
サデウォ:パンダワ五王子の五男(双子の兄ナクロがいる)
ガトコチョ:ウルクドロの息子。
アビヨソ:パンダワたちの祖父。
アノマン:ラマヤナで活躍した超能力の猿。
ブガワン・カンウォ:聖者。
エンダン・ウルピ:カンウォの娘。
スユドノ:パンダワたちの従兄弟。コラワ百王子の長男。パンダワと敵対する。
ドゥルノ:パンダワとコラワの武芸の師。
スンクニ:スユドノの大臣。
アディパティ・カルノ:スユドノの右腕。実はパンダワたちの兄。
ブリスロウォ:スユドノの義弟。スムボドロを慕っている。
ドゥルソソノ、カルトマルモ他:コラワ百王子。
プラブ・クレスノ:アルジュノの盟友。スムボドロの兄。
ボロデゥオ:クレスノ、スムボドロの兄。
サン・ヒワン・コモジョヨ:愛の神。アルジュノとそっくりな姿をしている。
デウィ・ラティ:コモジョヨの妃。
スマル、ガレン、ペトル、バゴン:アルジュノの従者。ポノカワンと呼ばれる。

1.アルジュノ、カサトリアン・マドゥコロを去る〈kasatrian=クサトリアの居住地〉

 ある夜、ラデン・アルジュノ(彼はラデン・ジャノコ、またダナンジョヨとも呼ばれる)は、カサトリアン・マドゥコロを去った。それを知るものは一人も無かった。このことは秘密であったのだ。神々にも分からないことであった。賢者であるドロワティ国の王、プラブ・クレスノもサン・アルジュノがどこへ行ったのか分からなかった。これはサン・デウォ・アグンの思し召しでアルジュノに託された仕事であった。
 サン・アルジュノは苦行することがとても好きであった。苦行して、パンドゥの後裔たるパンダワたちが、大戦争バラタユダで勝利できるように、と祈願するのである。その願いがアルジュノに一族を残して苦行に出る決意を促した。夜明けに彼はカサトリアン・マドゥコロを出て行った。妻たちが眠りから覚めた時、彼女たちはとても心配した。というのも夫が寝所からいなくなっていたからである。誰も予期しないことであった。スマル、ガレン、ペトル、そしてバゴンたちポノカワンでさえ。彼らは主人と離れたことがなかったが、彼らもおいて行かれていた。庭にいったのだろうか?それとも水浴場へ行ったのか?すぐさまウォロ・スムボドロにアルジュノがカサトリアンから消えてしまったことが知らされた。スムボドロはすぐさま寝所へ入ったが、もぬけのからで、アルジュノは見つからなかった。驚いたことに、彼のクリスと矢も無くなっていた。アルジュノは本当に一族を残していなくなったのである。スムボドロ、スリカンディ、ララサティ、スラストゥリら妻たちはそろって悲鳴をあげ、官女たち、召使いたちもみな泣き出した。カサトリアンは悲嘆にくれたのである。
 大臣のパティ・スチトロや他の大臣たち、村長たちは頭の中が混乱した。彼らはすぐに集まり、不慮の危機に備えて準備した。役人や兵隊たちは主人を捜すためにあちこちに散った。
 すぐさまララサティがドロワティのプラブ・クレスノに、アルジュノがカサトリアン・マドゥコロからいなくなったことを知らせるために遣わされた。アマルト国王、プラブ・プントデウォはアルジュノがカサトリアンからいなくなったと聞き、ショックを受け、あわててマドゥコロへ向けて出発した。役人や民たちはアルジュノを捜すよう命じられた。
 サン・ウルクドロ、またの名ブロトセノは、兄プントデウォに会い、弟を捜し、サン・アルジュノを連れ戻すまでは帰って来ることはならぬ、と命じられた。これは彼らに対して怒ったデウィ・ドゥルゴの仕業なのか?ウルクドロの息子、ガトコチョも、叔父を捜すよう命じられた。プリンゴダニ国にやって来たブロトセノの息子への言葉はこのようだった。「よう、ガト、そなたはクンダリソドへ行き、ルシ・アノマンに、アルジュノがどこへ行ってしまったのか尋ねるのだ。俺はサプトアルゴの苦行所へ行き、祖父アビヨソにアルジュノの行方を尋ねる。」ガトコチョは素早くクンダリソドへ空を飛んで行った。クンダリソドの苦行所へ着くと、ルシ・アノマンに拝跪した。ガトコチョは彼に抱きしめられ、尋ねられた。「息子よ、クンダリソドへ来た目的は何かね?」彼は答えた。「おお、伯父上、ルシよ。私はアマルト国王、伯父プラブ・ユディスティロに命じられ、夜の間に寝所から消え失せた、叔父アルジュノがどこへ行ったのか尋ねにまいったのです。」
 ルシ・アノマンは答えた。「おお、我が息子ガトコチョ、真実そなたの叔父アルジュノはまだ生きておる。しかし、わしは彼がどこに行ったのか明かすことはできぬ。それは神々にも分からぬことだ。というのもサン・アルジュノはある仕事をしている最中なのだ。わしはこの世界をあまねく見渡したが、アルジュノを見つけることはできなかった。祖父ルシ・アビヨソに会いに行ったそなたの父ウルクドロも、アルジュノの行方をまだ知ることができてはいない。」ガトコチョは言った。「何の成果も無く帰るくらいなら、私はここに留まりたいのですが。」サン・アノマンは微笑み、言った。「おお、我が息子よ。そなたの願いを許可しよう。さればそなたはアグニョノ山でしっかりと苦行にはげむのだ。その時が来たら、わしがそなたに知らせてやろう。」
 ウルクドロは何か得るところがあっただろうか?彼がルシ・アビヨソに対面した時、サン・ルシは彼に尋ねた。「おお、我が孫、ウルクドロ。ここへの道々滞りなかったかな?残して来た一族たちは如何かな?そなたは、兄プントデウォの使いで来たのかね?」
 ウルクドロは答えた。「はい。我が祖父、アビヨソよ。残して来た皆は息災でおりますが、アルジュノだけがおりませぬ。彼はカサトリアンを去り、何処へ行ったかを知る者はいません。それで、私は、あなたにこの問題について聞いてくるよう、兄プントデウォに命じられたのです。我が息子ガトコチョは、私の命令で、アルジュノがどうなったのかを聞きに、ルシ・アノマンのところへ行きました。私は急いであなたのもとへ参りました。祖父上であればアルジュノがどこへ行ったのか教えてくださるに違いないと思ったのです。」
 サン・ルシ・アビヨソは答えた。「おお、我が孫ウルクドロよ。ルシ・アノマンも私も、今は何も言えない。アルジュノの居場所については、スロロヨの神々も知らないことなのだ。アルジュノの居場所は聖なる神によって秘せられている。時が至れば、彼はまた現れるであろう。彼を捜す必要はない。それよりも、そなたはドノロジョ山で苦行をする方が良かろう。後で弟アルジュノに会うであろうから。」そこでブロトセノは、プトゥット・ジョヨロボの名で、厳しい苦行を行うことにしたのであった。
 マドゥコロの使者たちがドロワティ国へ到着した。彼らはサン・プラブ・クレスノに、アルジュノが夜の間に寝所から消え失せたことを知らせた。プラブ・クレスノは、息子のソムボに伴われてすぐさまマドゥコロへ出立する準備を整えた。そこへアマルト国からプラブ・プントデウォも来て一緒になった。サン・クレスノは、ウォロ・スムボドロとスリカンディに、アルジュノがマドゥコロからどのようにいなくなったのかを尋ねた。スリカンディが答えた。「おお、プラブ・クレスノ兄よ。私たちはパンゲラン・アルジュノを捜して庭や寝所を見たのですが、見つけられませんでした。クリス、そしてパソパティとソロトモの二つの矢を持って行きました。」
 サン・クレスノは言った。「二つの矢を持って行ったのであれば、彼はきっと遠い所へ行ったのだろう。スマル兄と息子たちをカサトリアンおいて行ったのが不思議だ。彼らは主人と離れたことが無いのに。」
 サン・プントデウォが続けて言った。「これはバタリ・ドゥルゴの仕業ではありますまいか。民を苦しめたので、アルジュノに怒っているのか。ブロトセノとガトコチョに彼を捜すよう命じました。」
 サン・プラブ・クレスノは言葉を続けた。「スムボドロは私が女官たちと一緒にドロワティへ連れて行くのが良いだろう。スリカンディはアビマニュと共にマドゥコロに留まるように。スラストゥリも一緒だ。」ウォロ・スリカンディはウォロ・スムボドロと離れることを不安に思った。華麗な輿に乗ってスムボドロとララサティ、プラブ・クレスノはドロワティへ出発し、プラブ・プントデウォはアマルト国へ帰った。カサトリアン・マドゥコロはその宝石を失って物寂しいさまとなった。ラデン・サデウォがカサトリアン・マドゥコロを見張る役目を受け、パティ・スチトロが補佐した。彼らは交代でマドゥコロの安全を見張り、予想できるすべてに備えて警戒を怠らなかった。
 サン・プラブ・クレスノはドロワティ国に到着するとすぐ宮殿に入り、ウォロ・スムボドロとララサティはタマン・バノチナウィに停めおかれた。

(つづく)
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by gatotkaca | 2012-05-11 10:15 | 影絵・ワヤン | Comments(0)