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木から落ちた猿

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「バラタ・ユダ」スナルディ著 試訳 その15

ドゥルノが欺かれて死ぬ


 ガトコチョの死を知り、アスティノ勢は歓声をあげ、喜んだ。いっぽうパンダワ側は喪に服した。パンダワ兵のほとんどが涙した。

 パンダワ全軍は居並び突進した。プラブ・プントデウォとアルジュノも狂ったように奮戦した。ガトコチョの父ビモも涙を拭いながら暴れ回った。コラワ側の王たち、アディパティたち、サトリアたちの多くが、彼のゴドの餌食となり死にいたった。

 パンディト・ドゥルノはコラワに陣形を立て直すよう命じた。激戦は一晩中続き、それぞれが眠気におそわれ、ようやく戦闘が止んだ。

 ビモの妻、ガトコチョの母であるデウィ・アリムビがとつぜん現れた。彼女は戦場に散った息子の遺体とともに火に入ることを望んだのだ。アリムビは夫とパンダワ一族全員に別れを告げた。別れを済ませると、彼女は息子の遺体に近づき、拝跪すると、すぐさま愛する息子の遺体と共に火に入ったのである。

 翌日、戦闘が再開された。パンダワ、コラワ両軍の準備は万端、戦闘開始の太鼓が叩かれた。アスティノのセノパティは、パンディト・ドゥルノである。パンダワ軍のセノパティはドゥルストジュムノであった。両軍は命令を受け、動いた。

 セノパティ・ドゥルノがパンダワ軍に包囲された。一斉に矢が放たれたが、彼は平気であった。プラブ・クレスノはビモに、コラワ軍の王モロウォパティ Malawapati を殺すよう命じた。彼は象に乗っており、その象の名はアスウゾトモ。それも一緒に殺すよう命じたのである。命令を果たしたビモは叫んだ。「アスウォトモが死んだ。」

 ビモはプラブ・クレスノの命令を完璧に果たした。ビモのゴドは、モロウォパティ王と共に、彼の乗っていた象をも殺したのである。

 ビモはすぐさま叫んだ。「アスウォトモが死んだ!!」ビモの叫びに続いてパンダワの兵たちも同様に叫んだ。

 パンディト・ドゥルノはその声を聞き、驚愕し、涙した。息子のアスウォトモが死んだと思ったのである。ドゥルノはビモとアルジュノのもとへ行き、知らせが真実であるか確かめた。しかし、二人はプラブ・クレスノから、嘘をつくよう耳打ちされていた。ドゥルノは困惑した。最も信頼する者、プラブ・プントデウォの答えを求めた。彼は、その生涯において人を欺いたことがないからである。

 プラブ・クレスノはスリ・プントデウォにも嘘を言うよう促していた。しかし、プラブ・プントデウォは嘘を潔しとしなかった。今まで嘘をついたことなど無かったからである。

 とうとうプラブ・クレスノはスリ・プントデウォに次のように答えるだけで良いと言った。「エスティ・アスウォトモが死んだ。」エスティ Esti とは象のことである。

 アンディト・ドゥルノがプラブ・プントデウォのもとへ来た。答えは、「エスティ・アスウォトモが死にました。」ドゥルノの耳には「パスティ〈pasti 確かsに〉、アスウォトモが死にました。」と聞こえた。

 ドゥルノは戦車の上で気を失った。天の神々が歓声をあげた。パンディト・ドゥルノは死んだ。

 ラデン・ドゥルストジュムノはすぐさま戦車に近寄り、ドゥルノの首をはねた。その首をぶらぶらさせ、敵陣に投げ込んだのである。

 ドゥルノの首が落ちたのを見て、プラブ・スユドノは驚愕した。他の者たちともども逃げ出したのである。パンディト・ドゥルノはその昔美丈夫であった。その名をバムバン・クムボヨノという。彼は風の国〈海の彼方〉からの者であり、チュムポロルジョ王プラブ・ドゥルポドとは師を同じくする仲間であった。

 ある日スリ・ドゥルポドに会おうとして、異国の馴れ馴れしい態度で話かけた。プラブ・ドゥルポドに呼びかけた。「よう、スチトロ、スチトロ!」

 プラブ・ドゥルポドの若き日の名がスチトロであった。下品な大声を、プラブ・ドゥルポドの甥、ラデン・ゴンドモノに咎められ、彼の怒りをかったのである。

 バムバン・クムボヨノはゴンドモノに叩きのめされた。それで、不具の身体となり、顔も醜く変わってしまったのだ。その後ソコリモの村に落ち着き、パンディト・ドゥルノと名を代え、コラワとパンダワの師となったのである。彼は超能力の人であった。デウィ・ウィルトモとの間にひとり息子のアスウォトモをもうけた。

 アスウォトモは何が起こったのか分からず叫んだ。「エエ、コラワたちよ、なぜ逃げ出すのだ?」

 クルポが答えた。「エエ、アスウォトモ、知らなかったのか、そなたの父がドゥルストジュムノに首をはねられ、死んだのだ!」

 これを聞き、アスウォトモは激怒した。すぐさま小山のような火の矢を放つ。これを見たパンダワ軍は恐れをなす。その猛威は避けきれぬ。

 プラブ・プントデゥオはアルジュノにアスウォトモに対することを命じる。プラブ・プントデウォは、師であるパンディト・ドゥルノの死に涙していた。

 プラブ・クレスノはパンダワ全軍に乗り物から降りるよう命じた。アスウォトモの火矢は、徒歩の者には効かないからである。ビモがスリ・クレスノの命を受け、戦車に乗るアスウォトモと対峙した。兄が焼かれようとしているのを見て、アルジュノも火矢を放った。火矢が静まった。

 アスウォトモは恥て、引き下がった。超能力を増すため、苦行に向かったのである。

 その夜、プラブ・スユドノはアスティノで王たちと相談した。明日のセノパティはアディパティ・カルノに決まった。プラブ・スユドノはアスティノ国を任せる約束もした。アディパティ・カルノは超能力の人。美丈夫でウィジョヨダヌ Wijayadanu という武器を持つ。

 プラブ・スユドノはアディパティ・カルノが同意したので大いに喜んだ。その夜、アディパティ・カルノとその全軍は素晴らしい服を賜った。

 しかし、アウォンゴ軍には心配があった。アウォンゴの妃デウィ・スルティカンティのことである。彼らはアディパティ・カルノは戦場で敗れると見ていたのである。

 その夜、パンダワ一族とプラブ・クレスノは戦場でパンディト・ドゥルノの遺体を探し、火葬に伏した。火がおさまると、声が聞こえた。勝利はパンダワのものであると。プラブ・クレスノ、スリ・プントデウォ、そしてアルジュノは幕舎に戻った。

 朝になり、戦いが開始された。いつものように合図の太鼓が鳴る。すでに両軍の準備は整っていた。

 日中、戦闘は続き、夜になった。両軍の犠牲は多大であった。

 その夜、プラブ・スユドノは王たちと再び軍議を行った。プラブ・サルヨとアディパティ・カルノも列席した。

 アディパティ・カルノは自身の馭者をスリ・スユドノに願い出た。アルジュノの馭者と対抗するため、プラブ・サルヨに馭者を頼みたいというのである。

 これを聞いたプラブ・サルヨは怒った。プラブ・スユドノが拝跪し、涙ながらに、娘婿の願いを聞き届けてくれるようスリ・サルヨに頼んだ。アディパティ・カルノの願いが聞き届けられれば、明日パンダワは全滅させられるであろうと。すべての者がウィジョヨダヌの矢に貫かれるだろう。プラブ・サルヨはややあって怒りを鎮めた。娘婿のプラブ・スユドノへの思いゆえである。彼は馭者となることを承知した。


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(つづく)


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by gatotkaca | 2014-08-31 01:03 | 影絵・ワヤン | Comments(0)

「バラタ・ユダ」スナルディ著 試訳 その14

アディパティ・カルノがセノパティとなる


 アルジュノはプラブ・クレスノの言葉に従った。ブガワン・サプワニは、息子ジョヨドロトの勝利を神に祈り、厳粛な瞑想を行っていた。誰にも彼〈ジョヨドロト〉を殺すことができないように、息子の居場所が悟られないようにと。

 殺されるのは偽のジョロドロトだけで、本物は無事であるよう神に祈願したのだ。さらに敵の反撃をうけたなら、百の敵を殺すことのできるようにとも祈願した。

 とつぜん、ジョヨドロトの首が膝の上に落ちてきて、彼は驚愕した。その首を抱きしめ、じっと見つめ、悲しみに落涙した。

 彼は言った。「おお、我が子ジョヨドロト。そなたは死んだか。なにゆえ死にいたったのか?なぜ、バラタ・ユダで死に急いだのか?この父のありさまを見よ。私はお前の勝利を祈願して、困難なる瞑想に努めていたのだぞ。」

 ジョヨドロトはビモの分身とも言える者であった。ビモが産まれた時、彼は胞衣にくるまれていた。神によって破られた後、その胞衣はボノクリン国へ投げられたのだった。

 ボノクリン国で熱心に瞑想していたブガワン・サプワニは、とつぜんビモの胞衣が落ちて来たので驚いた。彼はその胞衣から赤子を作り、ジョヨドロトと名付けたのであった。ジョヨドロトの容姿はビモやガトコチョに瓜二つで、それは彼がパンダワの縁者であるからだったのだ。

 陽は落ち、パンダワ軍もコラワ軍も幕舎に引き上げた。


 プラブ・スユドノはジョヨドロトの死の知らせを聞いて涙を流した。彼はパンディト・ドゥルノに言った。「叔父上の今のお望みはどのようです?ブリスロウォとジョヨドロトは死にました。私は左右の肩を失ったように感じております。彼らの代わりとなれる者などおりません。」

 悲しみに沈みながら、サン・プラブはこのように言った。プラブ・サルヨ、アディパティ・カルノ、パティ・スンクニ、そしてクルポもそこに同席していた。

 プラブ・スユドノは続けた。「ドゥルノ叔父よ、今何をお考えです?我がコラワの弟たちも死にました。チトロダルモ、チトロユソ、ウパチトロ、ジョヨセノ、レカドゥルジョヨ Rekadurjaya 、ダルモジャティ、スロダルモ、アンサアンサ Angsaangsa 、チトラクシ、皆、ビモとアルジュノによって死にいたったのです。私は悲しい。叔父上よ。彼らの代わりがどこにおりましょうや?」

 チトラクシたちは超能力を持たなかった。生きている間、彼らは己の名誉にのみ関心を持ち、鍛錬も、苦行も、戦略を学ぶことその他に関心が薄かったのだ。


 パンディト・ドゥルノが声をあげ、答えた。「ヒワン・バトロ・グルに愛されるアルジュノに抗することのできる者がありましょうか。ビモの剛勇に抗し得る者は?誰が、プラブ・マツウォパティの剛勇に抗し得るでしょう?プラブ・ドゥルポドに対抗できる者は?ティウィクロモしたプラブ・クレスノと戦おうとする者がありましょうか?クレスノ・ドゥト〈クレスノの使者〉の際、彼はアスティノでティウィクロモを強いられました。我らの中に彼を相手にする勇気のある者は一人もありませんでした。まさにこの五人の偉大なる者が、今我々が敵としている者たちなのです。」

 プラブ・スユドノ。「そうであるならば、アディパティ・カルノこそ、明日、アルジュノとビモの率いるパンダワを相手に戦い得る人であろう。ドゥルノ叔父のご意見を伺いたい。」


 アディパティ・カルノが言った。「準備はできております。王よ。明日、私がパンダワと戦うセノパティとなりましょう。」

 これを聞き、パンディト・ドゥルノはとても喜んだ。

 翌日、再び軍が参集した。コラワ軍は戦場に撃ってでる。プラブ・プントデウォもまた軍を出撃させた。

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 パンダワ軍の陣形は動かなかった。両軍は同じように前進した。その激突は大海の大波がぶつかり合うようであった。

 今回の戦闘は激化していた。互いに突進し、互いに引き合い、互いに蹴り合い、取っ組み合い、追撃し合う。互いに敵を殺そうともみくちゃになる。武器と武器がぶつかり合う。両軍に夥しい犠牲が出る。傷つき泣き叫ぶ馬や象の叫び声が悲痛な響きで耳をつんざく。

 ウルクドロとアルジュノはいつものように奮戦した。二人は超能力の矢を放つ。数千の矢が敵本隊に襲いかかる。巨大で強力なビモの超能力の矢は、その名をバルゴワストロ Bargawastra という。アスティノの犠牲者は数知れぬ。

 プラブ・プントデウォは自身の乗った象を駆り、敵に急迫する。太陽はほとんど沈みかけていた。しかし戦闘はまだおさまらない。戦闘がなおも続く。辺りは暗くなり、敵も味方も区別がつかなくなる。

 戦いの合間に叫ぶ声が聞こえる。「エエ、俺が相手だ。」また雄叫びが聞こえる。「俺はチョムポロルジョの者だ。」

 他にもウィロト、ドゥウォロワティ、アスティノ、海の彼方の国、さまざまな者がいる。王たち、士官たち、戦車に乗る者、象に乗る者、馬を駈ける者、等々々。

 さまざまな灯りが灯され、増えて行く。暗かった戦場が、燃え盛る火の輪の中心のように明るくなる。先ほどまでは見えなかったが、戦車、象、馬に乗った者たちがひしめき合って知る。皆それぞれの幕舎に戻ろうとする。かくて戦いは止んだ。

 翌日、再び戦いが開始された。王たちが部下に向ける激しい命令の声が耳をつんざく。馬上からの兵たちの歓声が雷のよう轟く。

 ビモは戦場のただ中にあって、ゴドを振り回し、戦車、象、馬に乗る敵どもを打据える。アルジュノが超能力の矢を放ち、アスティノ軍は多大な犠牲を出す。

 アウォンゴ国のアディパティ・カルノの部下ドゥルウォジョヨ Druwajaya が出る。彼は戦車を戦場に進め、猛攻をかける。ゴドを手に、多くの敵を打ち殺す。その活躍を見たビモは、激しい蹴りで彼を弊す。「ビモ・クンティン(小ビモ)」とあだ名されるラデン・スティヤキも撃って出る。

 怒りに高ぶって、スティヤキは戦場のただ中に進む。たくさんの、コラワに従う王たち、ブパティたちが殺される。コラワ勢は怖じ気づく。

 コラワのパルティペヨ Partipeya が立ちはだかる。パルティペヨはスティヤキの胸に矢を射るが、スティヤキは何ともない。矢に当たっても転んだだけだ。スティヤキの息子ソゴソゴ Sangasanga が彼に代わって飛び出し、パルティペヨに対峙する。

 矢の射ち合いとなる。両者は互角だ。ついには取っ組み合いとなる。二人とも同等の超能力である。戦いの場はあちこちへと移り、歓声が飛び交う。

 ビモが来る。ラデン・ソゴソゴを援護して、矢を放つ。パルティペヨの胸に矢が当たる。アスティノの勇者は転がり落ちる。痛みにパルティペヨの怒りが爆発する。

 自身を射た矢がビモのものと知って、彼は矢を射返す。ビモは左肩に矢を受ける。驚き、ビモはバルゴワストロを置き、ルジョポロを手に取る。ラデン・パルティペヨはゴドを食らい、戦車もろとも粉砕される。パルティペヨは死んだ。

 パルティペヨの息子が来る。父の死に復讐しようと、ビモに襲いかかる。彼はビモのゴドに斃れる。アウォンゴの超能力の戦士デストロト Destarata もビモに殺される。戦車ごと粉砕されたのだ。

 ビモはさらに猛り狂う。迫り来る敵はすべてビモに全滅させられた。スンクニの二人の弟、アンゴジャクソ Anggajaksa とソロボソント Sarabasanta は一万の兵を率いていた。その全てがビモを取り囲む。取り囲まれたビモはバルゴワストロを手に取る。

 幾千ものアスティノ兵が超能力の矢バルゴワストロで斃れる。ビモを取り押さえようとするアスティノ兵は、ことごとく粉砕される。スンクニの二人の弟、アンゴジャクソとソロボソントは苛立ち、怒る。ビモに矢を射かけるが、当たらない。ビモに矢を撃ち返され、二人は死んだ。

 スンクニの二人の弟を失い、コラワ軍は意気消沈した。プラブ・スユドノはアディパティ・カルノに近づき、言った。「ビモ、アルジュノそしてスティヤキと戦うのは明日にしよう。」

 アディパティ・カルノは答えた。「怖れてはなりません。王よ。ビモとアルジュノはきっと今日殺します。私自身が奴らと戦いましょう。助けはいりません。」

 アディパティ・カルノの言葉を聞いたクルポは怒った。彼は言う。「エエ、スルヨプトロ〈カルノの別名〉。自惚れるな。他のサトリアたちも聞いておっるのだぞ。ビモやアルジュノといった者たちは、そなたごときには斃せぬ。カタツムリが言葉を喋るようなことがあるなら、そなたの言葉も真実となろうものを。」

 アディパティ・カルノは激怒し、弓を取り、クルポに向けた。

 アスウォトモは叔父が矢を向けられたのを見て、矢が引かれるより早く、怒りの叫びを発した。「エエ、スルヨプトロ、俺が相手になってやる。」

 プラブ・スユドノはすぐさまアスウォトモを抑え、言った。「やめろ。」そしてサン・プラブはアディパティ・カルノへ戦場へ向かうよう命じた。

 素早くアディパティ・カルノは戦場のただ中へ向かった。超能力の矢を放つ。幾千もの超能力の矢が放たれる。幾千もの矢が天を覆い、戦場に降り注ぐ。数千のパンダワ兵がその矢に射られて死ぬ。

 矢を受けて傷つく者も少なくない。これを見て、プラブ・プントデウォがアルジュノを詰った。「そなたは何をしているのか。なぜスルヨプトロの前に立たぬ。見よ、兵たちは怖れ、振り向きもせず逃げて行く。すぐに行くのだ。スルヨプトロを射殺すのだ。プラブ・クレスノに止められているとでも言うのか?」

 アルジュノはプラブ・クレスノの前に立った。「陛下、陛下はアディパティ・カルノと戦うのは誰が相応しいとお考えですか?」

 プラブ・クレスノは答えた。「今はまだ、そなたがスルヨプトロと戦うときではない。彼に対抗し得るのはガトコチョだけだ。彼は荒々しさと、熟達を併せ持つ。」

 アルジュノはすぐさまガトコチョを呼び寄せる。彼は言った。「我が子ガトコチョよ、そなたが伯父カルノに立ち向かうのだ。」

 ガトコチョは拝跪し、言った。「もちろんです。」かれはすぐさまアルジュノに従い、プラブ・クレスノに対面した。拝跪し、言った。「あらゆる人の敬意を受ける伯父上、あなたから特別なお役目を賜わり、大いなる幸運を感じております。」

 アルジュノが続けた。「我が子ガトコチョよ。超能力の者に対するには、英知をもってしなければならない。無類の勇猛さをそなえる者には、さらなる勇猛さをもって対しなければ対抗し得ない。荒々しさと熟達を兼ね備えた者には、更なる荒々しさと熟達で抗しなければならないのだ。この今、そなたの対峙する者は、伯父アディパティ・カルノなのだ。正義を知る者よ。」

 プラブ・クレスノ。「されば、我が子よ。そなたにアディパティ・カルノと対峙することを命じる。」

 ラデン・ガトコチョは拝跪して、言った。「準備はできております、伯父上。王の命令とあらば、ガトコチョは死を前にしても揺らぐことはありません。伯父アディパティ・カルノを前にして、決して逃げることはない。千人のアディパティ・カルノを前にしてもガトコチョはそれと対峙することを良しとするでありましょう。伯父王に我が拝跪を捧げます。敵を殺すため、王の恩寵を賜りますよう。この戦いで私が死のうとも、伯父王が天界へ導いてくださると私は信じます。生き残ることを望みはしません。伯父アディパティ・カルノは大いなる超能力の人なのですから。」

 最後の言葉を聞き、プラブ・クレスノの内心は千々に乱れた。自身の命令が過ちであるかのよう、おおいなる後悔に似た感情がわく。おおいなる哀れみと後悔の念がわき起こる。アルジュノはプラブ・クレスノの無念の感情を察した。彼もまた、彼にとってはまだ子どものように見える、この王子におおいなる哀れみを感じたのだ。パンダワ一族皆が、不安を感じていた。

 ガトコチョはすぐさま出陣し、空に飛び上がった。アディパティ・カルノとの対決である。この一騎打ちは夜に至った。

 とつぜん、四人のラクササがガトコチョに挑んできた。ルムブソノ Lembusana 、サレムボノ Salembana 、コロスルンギ Kalasrenggi 、そしてコロガスロ Kalagasura である。各々の軍勢を引き連れている。四人のラクササは殺された。その首はことごとくガトコチョにねじ切られたのである。

 すべてのガトコチョ軍は戦場で奮戦した。アウォンゴ全軍は恐れをなした。無理も無い、天からガトコチョの放つ数千の矢が降り注ぐのである。幾千の矢がガトコチョの口、腕、手のひらから放たれる。

 アディパティ・カルノは自軍の者が幾千と斃されるのを見て恐怖した。報復の矢を天に放つが、届かない。アディパティ・カルノは次第に恐ろしくなる。

 空からのガトコチョの猛威はさらに続く。アディパティ・カルノは、雷のよう轟くガトコチョの挑戦の雄叫びに苛立つ。ついにアディパティ・カルノは超能力の矢、クント Kunta を天に放つ。矢は過たずガトコチョの臍に刺さり、その臍に吸い込まれた。

 アディパティ・カルノとその軍勢は、ガトコチョが傷を受けたことを知った。天から大量の血が降ってきたからである。

 傷を受けたガトコチョは己の死を悟った。アディパティ・カルノの戦車目掛けて墜落して行く。敵もろとも粉砕されることを願って。しかしアディパティ・カルノは敏感に察知し、素早く戦車から飛び退いた。戦車と馭者、馬はことごとくガトコチョの身体に打ち付けられ、粉砕した。

 ガトコチョは死んだ。ガトコチョは大いなる超能力の人であった。敵の首を搔き切ることに長けていた。妻はアルジュノの娘デウィ・プルギウォ。プラブ・アノム・ガトコチョ Prabu Anom Gatotkaca はプリンゴダニ Pringgadani の王であり、ビモとデウィ・アリムビの息子である。

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Raden Gatotkaca

(つづく)



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by gatotkaca | 2014-08-30 03:59 | 影絵・ワヤン | Comments(0)

「バラタ・ユダ」スナルディ著 試訳 その13

 対峙するやまずスティヤキが弓引き絞り、ブリスロウォの戦車に矢を射る。戦車が粉砕される。馭者と馬が同時に弊れる。ブリスロウォは激怒する。すぐさま跳び退くや、弓引き絞り、矢を放つ。スティヤキの戦車に当たり、スティヤキの戦車も粉々となる。スティヤキが跳ぶ。かくて好敵手ブリスロウォとスティヤキの決戦が始まる。


 互いに弓を放り投げ、武器をゴド〈棍棒〉に持ち代える。ゴドによる一騎打ちが始まる。

 激闘となる。突進し、つかみ合い、投げ合う。上背、体格に劣るスティヤキは形勢不利となる。

 スティヤキの攻撃は敵ブリスロウォに届かない。ついにスティヤキは地に倒れ臥した。ブリスロウォが一方的になる。絶体絶命だ。ブリスロウォがスティヤキに止めを刺そうとした時、スリ・クレスノはアルジュノにささやいた。「ブリスロウォの左肩を射てくれ。やつが掴んでいるスティヤキの髪を離すように。」

 アルジュノはすぐさまブリスロウォの左肩に矢を射る。モンドロコのサトリアの左肩がくだける。ブリスロウォは驚く。

 彼は叫んだ。「エエ、パンダワよ、卑怯だぞ。」アルジュノは答える。「パンダワは卑怯ではない。そなたらすべてに勝るオンコウィジョヨを、コラワは大勢で取り囲んで殺した。それを真似ただけだ。」

 スティヤキは、ブリスロウォが左肩を傷めたのを見て、すぐさまブリスロウォの首を狙って矢を放った。ブリスロウォは斃れ、その首は飛んだ。

 ブリスロウォはプラブ・サルヨの息子で、マディヨプロ Madyapura のサトリアである。笑いを好む人であった。スムボドロを恋い焦がれていた。死ぬまで妻を持たなかった。

 ブリスロウォの死を見て、それを聞き、パンダワ勢に歓声があがった。コラワ勢はその死に酬いるため猛攻をかけた。幾千の矢が射かけられた。パンダワ勢も黙ってはいない。アルジュノは縦横無尽に攻め、ビモ、ドゥルストジュムノ、ガトコチョ、ナクロ、そしてサデウォ、全軍がコラワを攻めたてる。

 コラワ兵は圧倒され、ジョヨドロトを護っているところまで退いた。コラワ軍が再び矢を射かける。

 ウルクドロは弓を捨て、ルジョ・ポロの名で知られるゴドを構える。彼は突き進む。数えきれぬほどのコラワ弊が、彼の犠牲となる。コラワ兵の死体があたりに散らばる。コラワの陣形チャクラ・ビューハは崩れさる。

 天に放たれたアルジュノの幾千の矢が、コラワに数えきれぬ犠牲者を出す。コラワ・アスティノの兵たちは、猛り狂ってパンダワ軍を攻めようとするが、火に飛び込む蛾のようなものだ。すべてが死ぬ。

 ルジョ・ポロの攻撃で幾多のアディパティと戦車、象が粉砕される。ビモの猛攻は千の象のようだ。

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Raden Setyaki

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Raden Buriswara



ジョロドロトがアルジュノに殺される


 ウルクドロの攻撃を受けたコラワ兵は全滅した。ジョヨドロトを護るコラワの部隊は薄くなってしまった。

 パンダワ軍が猛追する。ジョヨドロトの護衛が維持し難くなってきた。

 コラワたちはプラブ・スユドノに兵を返し、都に入るよう進言した。ジョヨドロトの父ブガワン・サプワニはこの提案に反対した。逃げ隠れすれば、プラブ・スユドノの名に傷がつくからである。プラブ・スユドノはクサトリアの本分を守らねばならぬ。ブガワン・サプワニはさらに厳かなる瞑想を続けた。この大戦争バラタ・ユダにおいて、息子ジョヨドロトの命が守られてあるようにと。ブガワンの願いは神に聞き届けられ、百人の偽のジョヨドロトが戦場に出現した。彼らが本物のジョヨドトロを取り囲んで護った。

 ブガワン・サプワニはパンダワの守護者がウィスヌ神の真性の化身、プラブ・バトロ・クレスノであることを失念していたのだ。百人の偽ジョヨドロトが取り囲んでいようと、プラブ・クレスノには、どれが本物か分かるのだ。

 バトロ・クレスノを欺くことはできない。あまたの敵のアディパティや兵たちを斃したアルジュノはすでに疲れきっていた。アルジュノの手にかかった者は数千。太陽が沈み始め、プラブ・クレスノは不安を覚えた。ジョヨドロトはまだ見つからぬ。武器を携えた軍勢の中に隠れたままだ。プラブ・クレスノはチョクロをかざし、太陽を隠した。

 まだ隠しきれぬ。黄金色の光が漏れ出ている。かくてバトロ・クレスノはチョクロの力を広げ、太陽に向けた。日が沈んだかのように、辺りは暗くなる。

 プラブ・クレスノはパンダワたちに命じた。薪を集め燃やすようにと。集められた薪が燃やされ、あちこちからその炎が見えた。

 パンダワ軍は整然と撤退する。あたかもサン・アルジュノが自ら火に入ろうとするのを見届けるためであるかのように。ジョヨドロトは陽が沈み、死の恐怖から解放されたと思った。あちこちでアルジュノが火に入るとの噂が流れ始める。

 コラワ全軍は大喜びだ。我先に駆けつけ、叫ぶ。「アルジュノが死ねば、パンダワは我を失う。残りは雑魚だけだ。寄り集まっているだけ。ビモは怖れるに足らん。アルジュノに匹敵するほどではないぞ。」

 その時、ジョヨドロトは護衛の囲みから身を乗り出し、目当ての者を見定めようと、あちこちを見回した。

 その動きをプラブ・クレスノは見逃さなかった。サン・プラブは指差し、アルジュノに命じた。「あそこを見よ。ジョヨドロトがいる。すぐさまパソパティの矢を射るのだ。奴がこちらに気づく前に。」

 アルジュノは尋ねた。「どれが本物なのですか?王よ。」プラブ・クレスノは、サン・アルジュノの弓を引っ張り、ジョヨドロトに狙いを定めさせ、言った。「あれだ、早く撃て。」

 護衛がジョヨドロトに殺到し、アルジュノはつま先立ってジョヨドロトを見定める。パソパティが放たれ、ジョヨドロトの首に命中する。ジョヨドロトの首が飛び、絶命する。プラブ・クレスノは、すぐにアルジュノにジョロドロトの首をソロトモ Sarotama の矢で射るよう命じた。ソロトモの矢は、その首をジョヨドロトの父の膝に運んだのだった。


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Raden Jayadrata

(つづく)



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by gatotkaca | 2014-08-29 08:37 | 影絵・ワヤン | Comments(0)

「バラタ・ユダ」スナルディ著 試訳 その12

 プラブ・プントデウォはオンコウィジョヨがコラワたちに嬲り殺しにされたことを知った。オンコウィジョヨの死を見たスティヤキ、ガトコチョ、そしてドゥルストジュムノは猛り狂った。彼らはオンコウィジョヨの死に報復することを心に決め、コラワの陣形を粉砕した。命がけの猛攻をかけ、大地が震動した。

 プラブ・プントデウォと息子のポンチョウォロが援軍に駆けつけた。戦闘は激しさを増した。そして夜が訪れた。

 戦っていた者すべては、それぞれの幕舎に戻った。コラワ陣営は血気盛んであった。

 プラブ・クレスノと共に南の山の麓でプラブ・ガルドパティと戦っていたアルジュノは、ガルドパティを斃すことができた。二人はその後すぐに幕舎に戻った。北の海岸でウレヨソと戦っていたビモもウレヨソを斃した。彼が幕舎に戻ったのは、アルジュノ一行とほぼ同時であった。

 幕舎に戻ったアルジュノは、一族の者たちの泣く声を聞いた。母デウィ・クンティと二人の妻ウォロ・スムボドロとスリカンディが泣き続けていた。オンコウィジョヨの妻たち、デウィ・シティ・スンダリとウィロト王の娘、妊娠八ヶ月の身であるデウィ・ウタリは、カラスのように慟哭していた。


 アルジュノは愛する息子オンコウィジョヨの死を聞き、茫然自失となった。プラブ・クレスノが注意した。「クサトリアたる者が、子を失って悲しみに沈むなら、そのあるべき姿を見失うことになるだろう。その者は「クシク kesiku 〈師・神よりの祝福・援助を拒み、不運にみまわれること〉」となる。神に仇なす者となるのだ。」

 アルジュノはスリ・クレスノに拝跪し、許しを乞うた。そしてスリ・プントデウォの足元に伏して、オンコウィジョヨが如何にして死にいたったのか尋ねた。

 プラブ・プントデウォは答えた。「そなたの息子の死は、コラワの陣形「チャクラ・ビューハ」を破った結果だ。ジョヨドロトによって本隊から切り離され、取り囲まれてしまったのだ。我らは皆、彼の死の現場から離されてしまったのだ。ドゥルストジュムノ、ガトコチョ、そしてスティヤキが特に奮戦してジョヨドロトに対抗したが、かなわなかった。オンコウィジョヨは、まずアスティノの王子レスモノモンドロクモロ、カルトスロ、そしてスチャスウォロを斃した。我々は彼を守ろうと奮戦し、多くのコラワ勢を犠牲に供したが、ジョヨドロトだけは逃した。」


 これを聞き、アルジュノは誓った。「明日までに、ジョヨドロトを我が手で死にいたらしめられなければ、夕べには私自身が炎に焼かれるであろう。」

 アルジュノの誓いは戦場にあまねく伝わった。プラブ・スユドノとすべてのコラワたちもこれを聞いた。ジョヨドロトに帰還命令が出された。

 翌日陽が沈むまで、彼は姿を見せないよう言い渡された。明日一日は神に祈り、身の安全を願ってブガワン・サプワニの恩寵を乞うようにと。戦場でオンコウィジョヨから手に入れた矢を使い、超能力が増すよう願いを捧げた。

 プラブ・スユドノと王妃デウィ・バヌワティも、皇太子レスモノモンドロクモロの死を嘆いた。


 王宮は悲しみに満ちていた。高貴なるサトリア、ラデン・レスモノモンドロクモロはアスティノ国の王位後継者であった。しかし超能力には劣っていた。というのも、努力を厭い、注意深くなく、苦行を厭うので、恥をかくことも少なくなかったからである。

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Raden Lesmana Mandarakumara

 覇気は落ち込んだ。彼レスモノモンドロクモロは妻帯していなかった。しかしプラブ・スユドノは、明日になればアルジュノは自ら火に入ることになるだろうと考え、喜んでいた。コラワたちが明日まで、ジョヨドロトを全力で護るからである。

 プラブ・プントデウォと一族たちは悲しみにとらわれていた。オンコウィジョヨが死んだ。デウィ・シティ・スンダリは、夫の後を追い、その身を守るため、一刻も早く自らの身を炎に焼くことを望んだ。

 一族の皆は認めなかった。というのも、パンダワ上層部では、その時未だ戦勝の手段を見出していなかったからである。デウィ・ウタリもまだ赤ん坊を産んでおらず、夫の後を追って殉死することを許されなかった。

 プラブ・クレスノはアルジュノに尋ねた。「エエ、どうしたというのだ。コラワはすでにそなたの誓いを耳にしておる。明日一日中、ジョヨドロトは姿を現さないに違いない。そなたが自らの身を焼くまで、彼は戦闘参加を許されることはないだろう。」


 アルジュノは答えた。「分かっております。王よ。」

 スリ・クレスノは続けた。「瞑想し、そなたの誓いが果たされるよう、神に祈りを捧げるのだ。他に道は無い。」

 アルジュノは答えた。「そのようにいたしましょう。」

 スリ・クレスノが意見を述べた。「明日、そなたが戦場に向かう際、私の戦車に乗りたまえ。そちらの戦車の方が良い。四頭立てだからな。前の二頭はチプトウロホ Ciptawelaha とアブロプスポ Abrapuspa という馬だ。後ろの二頭はスカント Sukanta とセノ Sena という。彼らに武器を当てられる敵はおるまい。私はそなたにポンチョジャンニャ Pancajannya という名のゴングを与えよう。それをあまり遠くない位置に置くのだ。チョクロの手助けもある。そなたの矢パソパティ Pasopati はジョヨドロトを斃するために使うのだ。誰もが明日は運命の日であることを知っている。むろん困難な道である。というのも、ジョロドロトの父、ブガワン・サプワニは今にいたるも息子の無事を神に祈り続けている。神は彼の願いを聞き届ける。そなたが、一晩中、より熱心に、より厳かに、全身全霊をもって神に祈りを捧げるなら別だ。うまくいけば、〈サプワニの祈りを〉破ることができるだろう。」

 アルジュノは拝跪した。その場を辞し、すぐさま瞑想に入る。思念を集中し、五つの思念に対峙し、欲望の九つの出口たる孔「ババハン babahan 」を閉ざす。五感はその活動を止め、生きていながらにして死んでいるかのようになる。

 ほどなくして、ヒワン・バトロ・グルが顕現した。ただ首から上が見えるのみであった。

 バトロ・グルは言った。「そなたの望みを叶える。ジョヨドロトの死を許そう。パソパティの矢を使うのだ。スリ・クレスノの戦車に乗れ。そなたの近くにポンチョジャンニョのゴングを置くのだ。」

 アルジュノは瞑想を終え、すぐさまプラブ・クレスノに会い、これを報告した。「ヒワン・バトロ・グルの宣託は、少しも違わず、すべては陛下のお言葉通りでした。」

 プラブ・クレスノは微笑むのみであった。そして言った。「さあ、夫の後を追うシティ・スンダリの手助けに参ろう。」

 デウィ・シティ・スンダリはすでに死装束に身を包んでいた。亡き夫の後を追う覚悟をしていたのである。しかし、亡き夫の後を追おうと望みながら、許されなかったデウィ・ウタリをしばし慰めなければならぬ。

 すでに月は天に高く、デウィ・シティ・スンダリにはもう時間がなかった。彼女はウタリに言った。「あなたは妊娠しておられる。妊娠している女は、夫に殉死することは許されません。あなたが殉死を怖れているなどと誰が言うでしょうか。そんな者は誰もいません。妊娠している女が、殉死するなど許されるはずもなく、もしすれば、それは罪を負うことになるでしょう。あなたは妊娠八ヶ月の身なのです。私はお別れし、パンチャカ・パベラン pancaka pabelan 〈炎の祭壇:pancaka =燃えさかる火の祭壇、pabelan=終わり、港〉に向かいます。」

 デウィ・ウタリはすすり泣きながら答えた。「アビマニュにお伝えください。私はとても悲しいのです。子を宿し、その子がまだ産まれていないゆえ、私は王たちから夫の後を追うことを許されませんでした。神に対する罪であると言うのです。真実、アビマニュへの愛ゆえに、殉死を選ぶ方が私は嬉しい。願わくば、長くこの世に留まってはいたくない。どうかアビマニュに頼んでください。天界インドロロカ Endraloka から手を差し伸べ、道をお示しくださいと。いいでしょう?シティ・スンダリ。」

 デウィ・ウタリを慰めると、デウィ・シティ・スンダリは父母に暇ごいした。別れを告げられた者たちは、感動し、深い悲しみに沈んだ。皆一言もものを言わなかった。

 かくてシティ・スンダリは戦場に向かい、夫の遺体のところへ赴いた。オンコウィジョヨの遺体は、愛する妻、デウィ・シティ・スンダリと共に焼かれたのである。

 すべてが終わり、列席した者たちは幕舎に戻る。月がかすみ始める。あたかも夫に殉じて炎に身を投じた妻を悼むように。

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Dewi Utari & Dewi Siti Sundari

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 陽が昇る。太鼓、ゴング、鉦の音が聞こえ始める。プラブ・クレスノのゴング、ポンチョジャンニャが叩かれる。その振動が広がり、音が響き渡る。王たちは各々の軍勢と共に戦場に出そろい、戦いの準備はすでに整っている。そのありさまはまさに大海のようである。

 遅れてコラワの軍勢が現れる。その数は、いつにも増して膨大なものである。彼らは以前と同様に、チャクラ・ビューハ〈車輪の陣形〉を整えているが、その顔ぶれは違う。今回はジョヨドロトの姿は無い。彼はコラワにかくまわれているのだ。コラワ軍のチャクラ・ビューハは完璧に整えられていた。

 戦列は目に見えて深くなっている。今回、パンダワもまたチャクラ・ビューハで対抗した。

 ドゥルストジュムノが右翼である。ビモは左翼に陣取る。首たる位置にはアルジュノがプラブ・クレスノと共に戦車で陣取る。その戦車は四頭立てである。前の二頭はチプトウロホとアブロプスポ、後ろの二頭はスカントとセノサクティ Senasakti という名である。


 ポンチョジャンニョのゴングの音を聞いた神々は、天に集まって並び、芳香をまき散らしながら、天上から戦場を眺める。

 パンダワ軍の後方からはデウォドゥント Dewadenta という名のゴングの音も聞こえる。パンダワ陣営は二つのゴングの音に士気が倍増する。戦闘への覇気が広がる。彼らは肉に殺到するラクササたちのように暴れ回る。コラワの陣形は大混乱に陥る。


 ほどなく戦車に乗ってモンドロコの王子ラデン・ブリスロウォ、バヌワティ王妃の弟が前進し、崩れた陣形を立て直そうとする。大声一喝、スティヤキに一騎打ちを挑む。「エエ、スティアキ。何処におる。ここで超能力をぶつけ合おうぞ。」

 その挑戦の雄叫びを聞いたスティヤキはすぐさま戦車に乗り込みながら答えた。「エエ、ブリスロウォ、今日こそはお前と戦いたいと思っていたところだ。逃げるなよ。」


(つづく)

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by gatotkaca | 2014-08-28 01:43 | 影絵・ワヤン | Comments(0)

「バラタ・ユダ」スナルディ著 試訳 その11

ビモ・アルジュノ分断作戦


 その夜コラワは戦闘指揮官〈を決める会議を行った〉。会議の結果、ビスモに代わるセノパティはパンディト・ドゥルノに決定した。その夜、アスティノでは一晩中雨が降り、多くの人々が、幕舎から血が流れ出ているのを見た。この兆しを見た王たち、アディパティ、多くのサトリアたちは喜んだ。それは戦いに勝利する兆しだったからである。その夜コラワの者は誰も眠らなかった。

 翌朝、アスティノ軍は再び戦場に出発した。皆、今日のセノパティはパンディト・ドゥルノであると聞いていた。

 銅鑼、金、太鼓が耳をつんざくように叩かれ、雷のような兵たちの歓声が、それに混じり合った。大いなるアスティノ軍がクルセトロの戦場に着いた。皆、戦いの準備はできていた。この日、パンダワ側は陣形を変えず、「ガルダ・ムラヤン」のままであった。


 コラワ側は陣形を「ガジャ・メタ Gajah Meta (荒れ狂う象)」に代えた。プラブ・スユドノはジョヨドロト、アディパティ・カルノと共に〈象の陣形の〉背に陣取った。コラワ百王子は象の牙、それぞれ50人が配置された。象の口となったのは、プラブ・ボゴドゥント Prabu Bagadenta とその軍隊である。彼はゴドを手に、象に乗っていた。セノパティ・ドゥルノは頭である。思念を週チュして軍を差配し、決して後退しないことを決心していた。


 両軍の衝突は大海の大波がぶつかり合うようであった。銅鑼と太鼓の音、軍勢の歓声が混じり合い、空を裂く稲妻のよう、雷鳴が轟く。


 パンダワ軍がドゥルノの陣形に突撃する。アルジュノが矢を放つ。アルジュノの弓から幾百の矢が、雨のごとく降り注ぎ、コラワ軍を攻め立てる。続いてビモも矢を放つ。幾千ものコラワ兵が矢に弊れる。ビモは続けてゴドで猛攻を加える。ゴドに撃たれて多くの士官たちが斃れる。

 コラワの陣形「ガジャ・メタ」が壊れる。牙が削がれ、頭に据えられた者たちも慌てふためく。象の口を担っていたプラブ・ボゴドゥントはセノパティを残して、ゴドを握りしめると、自信の乗った象を前進させる。アディパティ・カルノとジョヨドロトは持ち場に留まる。超能力の王〈ボゴドゥント〉は象を前進させ、アルジュノの戦車に迫る。アルジュノにゴドを投げつけ、ゴドはアルジュノの胸に当たる。

 アルジュノは気を失い、戦車から転落する。スリ・クレスノが助けに駆けつけ、アルジュノにウィジョヨクスモの花を掲げる。アルジュノは意識を回復し、弓を掴むと、矢を放つ。矢はプラブ・ボゴドゥントの胸を貫き、同時に象と象の馭者も貫く。三者は同時に弊れた。

 パンダワ軍が進撃する。ビモがゴドを振り回し、コラワ軍は散り散りになり、逃げ去る。太陽が沈み始め、再び夜が来る。

 戦っていた者たちは、そでぞれの幕舎に戻る。その夜、コラワ軍は悲しみに沈んだ。

 次の日の戦闘開始の合図が鳴る。けたたましく鳴る様々な音が混じり合う。プラブ・スユドノは煌めく装飾の施された王冠を付け衣装を整えている。街を出発し、クルセトロの戦場に出陣する。アスティノ兵たちの歓声は地滑りする山のようだ。皆、戦闘の準備を整え、敵の到来を待ち受ける。

セノパティ・ドゥルノはスリ・スユドノに言った。「王がパンダワの殲滅を望まれるなら、一日でも良い、アルジュノとビモを離ればなれにするしか手はありません。二人の兄弟を引き離さなければ、パンダワを崩壊させること叶わず、彼らを死にいたらしめることはできませぬ。」

 コラワ方の王のひとり、プラブ・ガルドパティ Prabu Gardapati が答えた。「さようであるならば、私がアルジュノに挑戦し、彼をパンダワ本隊から引き離します。さすればビモと離ればなれとなりましょう。」

 そしてパティ・スンクニとウレソヨ Wresaya がビモに挑戦することに決まった。コラワ軍は行動を開始した。コラワの陣形は「ガジャ・メタ」。パンダワも同様であった。


 両軍の激突は、向かい合う大海の大波がぶつかり合うようであった。プラブ・ガルドパティは象に乗り、南にいるアルジュノに向かい、挑戦の雄叫びをあげた。「エエ、アルジュノ、お前がまことの戦士であるなら、我が挑戦を受けよ。さあ、あの山の麓で戦おうぞ。誰にも邪魔されず、思い切り戦えるようにな。我が挑戦を受けぬとあれば、お前は真の戦士ではない。我はカピトゥ Kapitu 国の王、並ぶ者なき超能力の偉丈夫と名高き、プラブ・ガルドパティだ。」


 挑戦の声をあげながら、プラブ・ガルドパティは軍を止めず、山の麓へ進んで行く。その挑戦を聞き、アルジュノはスリ・クレスノと共に戦車で追撃した。


 アルジュノの追撃を見て、プラブ・ガルドパティは挑戦の声をあげ続けながら、象の足を速めた。スリ・クレスノもアルジュノも全速力で追撃する。彼らはビモと引き離されてしまったのだ。いっぽう、パティ・スンクニとウレヨソはビモに挑戦し、北へ逃げて行く。ビモはやすやすと怒りにまかせて追いかけて行く。


 スリ・クレスノなく、アルジュノなく、ビモもいないパンダワ本隊は、戦いで死者が続出した。その日、プラブ・ガルドパティ、スンクニ、ウレヨソらは直接の戦いを避けた。戦闘は長引き、母隊と完全に分断されてしまった。

 その日のパンダワの陣形は「スピット・ウラン Supit Urang 〈ザリガニの陣形〉」であった。ドゥルストジュムノが右のハサミ、ガトコチョが左のハサミである。プラブ・プントデウォは頭に陣取り、その他の王たちが後続に付く。パンダワのセノパティは、アルジュノの息子オンコウィジョヨであった。

 オンコウィジョヨはザリガニのひげ部分に陣取っていた。陣形は整った。コラワ陣営はすでに準備万端、天はにわかにかき曇った。

 オンコウィジョヨ率いるパンダワ軍が前進する。銅鑼、鉦、太鼓の音と兵たちの歓声が一つになり、天を切り裂いた。

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 パンダワ、コラワ両軍は騎兵を動かした。軍勢の声と混じり合って、象、戦車が前進する。雷鳴のごとき大音響が響き渡る。

 オンコウィジョヨはチョクロを射放つ。コラワ軍の陣形「チャクラ・ビューハ Cakra Byuha 〈車輪に陣形〉」が崩壊する。多くの者が死にいたる。生き残った者たちがプラブ・スユドノのもとへ避難する。コラワ全軍はザリガニのひげとなって猛攻を加えるオンコウィジョヨと、敵に獰猛に襲いかかる軍を前に恐れをなす。

 オンコウィジョヨは、彼が勇猛果敢で、戦略に長けた、並ぶ者なき戦士であることを証明した。

 アスティノ陣営のボノクリン国のサトリア、ジョヨドロトがパンダワ軍を押しとどめ、オンコウィジョヨを包囲することに成功した。アルジュノとデウィ・ウォロ・スムボドロの美しき息子は、コラワたちに取り囲まれ、総攻撃を受けた。

 取り囲み、袋叩きに加わった者たちは、スダルゴ、スダルモ、ウィルヨジョヨ、スセノ、サトルジョヨ、ジョヨサクティ、ジョヨウィコト、ジョヨダルモ、ウパチトロ、チャルチトロ、チトロダルモ、チトロセノ、チトラクシ、チトロディルガントロ、チトロムルティ、チトロウィチトロ、スラスディルゴ、ディルゴスロ、ユタユニ、ユタユト、セノチトロ、ドゥルゴアモン、ドゥルゴパティ、ドゥルゴアンソ、ダルモ、ドゥルガント、ドゥルガントロ、ダルモユド、ユドカルティ、ドゥルソソノであった。またジョヨドロト、レスモノモンドロクモロ、そしてカルトストが続いて取り囲み攻めたてた。カルトストがオンコウィジョヨの矢に撃たれ、死んだ。


 オンコウィジョヨは取り囲まれ、袋叩きにあってもすこしも怖れなかった。つづいてスチャスロウォがオンコウィジョヨの矢に射たれ、斃れた。

 プラブ・スユドノとデウィ・バヌワティの息子ラデン・レスモノモンドロクモロが、オンコウィジョヨを狙って矢を放った。しかし、それより速くオンコウィジョヨが矢を放ち、レスモノモンドロクモロの胸を射抜いた。彼は弊れた。

 オンコウィジョヨの反撃はさらに勢いを増し、プラブ・スユドノのいる中央部へと突き進み、矢を射放つ。

 ラデン・ジョヨドロトは、アスティノの王子レスモノモンドロクモロがオンコウィジョヨの猛攻に弊れたのを見て、プラブ・スユドノと共にこの死に報復することを決心した。彼はオンコウィジョヨに狙いを定め、矢を放った。コラワ全員がそれに続いて矢を放つ。右から、左から。前から後ろから。その全てが的を外すことはなかった。

 胸に、腰に、肩に、背中に、そして腿に、オンコウィジョヨは傷を負った。しかし彼は少しもひるまなかった。さらにプラブ・スユドノのいる中央部を目指して進んだ。スユドノもろとも死ぬ覚悟であったのだ。あまたの馬、象、戦車がオンコウィジョヨの矢に粉砕された。

 オンコウィジョヨは最後の力を振り絞り、弓を力の限り引き絞った。敵の反撃の矢がさらに数を増し、雨のように降り注いだ。

 オンコウィジョヨの身体は、数百の矢に貫かれた。あたかも、彼に心寄せる、たくさんの美女たちに引っ掻かれたように。

 オンコウィジョヨは崩れ落ちながらも、右に左に動き回るが、矢の集中砲火を浴びる。敵に囲まれ、袋だたきにあい、矢を浴びせられても、アルジュノとデウィ・ウォロ・スムボドロの息子、プルマディとデウィ・ロロ・イルンの息子は前進を止めない。ただ愛らしい乙女たちに会い、取り囲まれているようにしか感じていない。その身体はもはや傷だらけであり、「アラン・クランジャン arang kranjang 〈籠の目〉」のようだ。

 しかし、彼は後退することを知らぬ真のサトリアであり、古今東西の国家の戦士の鑑である。その勇猛果敢さは少しも衰えることは無い。沈着冷静に、しかし素早く動き、時代を超えたセノパティの規範たる性質を持つ。類い稀なる資質の持ち主なのだ。

 それでもオンコウィジョヨはまだ誇らしげに挑戦の雄叫びをあげる。アルジュノの息子オンコウィジョヨまたの名アビマニュは、全身に矢を受けながらも、途切れ途切れに挑戦の声をあげる。「エエ、コラワよ、俺を殺したければ、一斉にかかってくるのだ。俺は少しも引き下がったりなどせぬ。俺はパンダワの血族だ。多くの傷を受け、死に近づくほどに、我が心は喜ぶのだ。戦場で敵に囲まれ、死にいたるはサトリアの定めなのだ。」


 オンコウィジョヨの身体から流れ落ちる血が、戦車を染める。それはあたかも死という運命で混ぜ合わされた黒こげの炭のように見えた。矢が一杯に刺さったオンコウィジョヨの目は、それらがきちんと並び、付けまつ毛をしたかのように見える。矢が一杯に刺さったオンコウィジョヨの頭は、造花のヒマワリ kanigara あるいは白いチュムパカの花 Sumarsana のよう。矢が一杯に刺さったオンコウィジョヨの胸は咲き誇る花々のようだ。オンコウィジョヨは死んだ。煌めく宝石のサトリアは戦死した。それを見るすべての者で悲痛を感じない者はいないであろう。

 その時、霧雨が降り始める。たくさんの蜜蜂たちが花を探し求めるように。オンコウィジョヨよ、幼き日の名ラデン・アビマニュよ、アルジュノとデウィ・ウォロ・スムボドロの息子よ。

 オンコウィジョヨの第一夫人は、プラブ・クレスノとデウィ・ルクミニの娘、デウィ・シティ・スンダリである。シティ・スンダリには子がなかった。第二夫人はウィロト国王プラブ・マツウォパティの娘、デウィ・ウタリである。オンコウィジョヨ戦死の時、デウィ・ウタリは妊娠八ヶ月であった。

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(つづく)


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by gatotkaca | 2014-08-27 13:00 | 影絵・ワヤン | Comments(0)

「バラタ・ユダ」スナルディ著 試訳 その10

ルシ・ビスモの死


 陽が沈んだ。戦場は静まりかえる。戦っていたすべての者たちは、それぞれの幕舎に向かう。彼らすべてが疲れきっていた。

 サン・プラブ・マツウォパティは、戦場に散った三人の息子を思い、泣いた。すでに三人の遺体とは対面していた。すぐさま清められ、葬られた。


 サン・プラブ同様、妃も戦場に散った三人の息子を思い、深い悲しみの中にあった。デウィ・レコトワティ妃は、悲しみに涙しながら、三人の息子たちの遺体を代わる代わる抱きしめた。「ああ、我が子よ。なぜ一時に三にとも死んでしまったの?誰が父上に代わってウィロトの王になるというのです?ねぇ、起き上がって、母を呼んでください。ねぇ、ここに母がいるのですよ。なぜ皆押し黙っているの?なぜ一緒に死んでしまったの?なぜ、この母の悲しみを慰めるために、一人くらいは残ってくれなかったのです?ああ、我が子セト、ウトロ、ウラトソンコ。私の魂を支える三人よ。おお、神よ、我が魂を引き抜いてください。」

 プラブ・パンドゥデウォノトの息子たちが、死装束を携え、敬意を捧げる礼を尽くすと、ようやく王妃の涙は止まった。三人の遺体は皆に囲まれ、涙が注がれる。かくて遺骸は衣に包まれ、妃の祭壇 pancaka へ昇った。


 その夜も月の光は輝き、すべての王、アディパティ、そしてパンダワたちの見守る中、三つの遺体は火に焼かれたのである。

 プラブ・クレスノが英雄を天界へ送る祈りを読み上げる。彼らの献身、すなわちバラタ・ユダの戦場における死に証しが与えられた。その灰は塵となり天界へ昇っていった。

 ウィロトの三王子の遺体が焼かれ、プラブ・マツウォパティと王妃は、王たちに付き添われて幕舎に戻った。

 幕舎で、スリ・クレスノはセトに代わるセノパティ決定の会議を招集した。選ばれたのはチュムポロルジョ国王プラブ・ドゥルポドの息子、デウィ・ドゥルパディとデウィ・スリカンディの弟であるラデン・ドゥルストジュムノであった。

 陣形は「ガルダ・ムラヤン Garuda Melayang 」〈羽ばたくガルダ鳥〉に決定した。王たち、アディパティ、ブパティ〈大臣〉たちも賛成した。かくてラデン・ドゥルストジュムノは祭壇に昇り、香が焚かれた。

 セノパティ任命の儀式が終わると間もなく太陽が昇り始めた。かくて戦いの合図が鳴り渡る。

 コラワ全軍は戦場に出発した。パンダワ陣営は「ガルダ・ムラヤン」の陣形をとる。鳥の頭の部分にはプラブ・ドゥルポドが据えられた。

 プラブ・クレスノはアルジュノと共に戦車に乗る。セノパティ・ドゥルストジュムノは右翼に、左翼はビモである。ラデン・スティヤキはガルダ鳥の尾羽に、ガルダの背には王たちにしっかりと守られたプラブ・プントデウォがいる。

 パンダワが「ガルダ・ムラヤン」の陣形をとったことを知ったコラワは、すぐにそれに倣う。中央にはモンドロコ王プラブ・サルヨ、パティ・アルヨ・スンクニが鳥の頭となる。セノパティのビスモは左翼となり、パンディト・ドゥルノが右翼となる。ドゥルソソノは尾羽である。その他の王たち、アディパティたちはプラブ・スユドノを護って背となる。

 セノパティ・ビスモは素早く軍を前進させ、パンダワの陣形を崩そうと矢を放つ。ビスモの弓から数えきれぬほどの矢が雨のように放たれる。パンダワの真ん中ラデン・アルジュノがすぐさま迎撃の矢を放つ。

 パンダワの「恐るべき者 panenggak 」ラデン・ウルクドロ、つまりビモは大いに怒り、ルジョ・ポロ Rujak Polo の名で知られるゴドをふるって進撃する。数えきれぬコラワの兵たちが、そのゴドの犠牲となる。ラデン・ウルクドロのゴドの打撃を受け止める力のある者は一人としていない。

 ビモのゴド、ルジョ・ポロの犠牲になった者は幾百にもいたった。ビモ・クンティン〈小ビモ〉とあだ名されるラデン・スティヤキの援護で、犠牲者はさらに増す。

 アスティノ軍は個別に撃破され、アディパティ・カルノ、カルパ Karpa 、プラブ・サルヨ、ドゥルソソノそしてジョロドロトらは、ビスモとドゥルノのいる翼部に助けを求める。

 プラブ・クレスノは戦車の馭者に前進を命じ、アルジュノに近づいた。アルジュノが戦闘に昂揚して超能力の矢を使い始めたからである。


 アルジュノは雨のよう矢を放つが、すべてビスモの矢に迎撃されてしまうのだ。アルジュノの矢とビスモの矢の戦いは天をも揺るがせる。

 ビスモはパンディト・ドゥルノに離れるよう求めた。超能力を発しようというのだ。ビスモはすぐさま呪文を込めた矢を放つ。数千の矢がビスモの弓から放たれ、天を覆い敵を襲う。パンダワに多大な犠牲が出た。

 この隙に、コラワ軍はカルポ、サンクニ、カルノそしてサルヨの援護のために前進した。

 ラデン・アルジュノはすぐさま迎撃の矢を放ったが、効果は無かった。多くのパンダワ兵がビスモの矢に斃れた。


 降り注ぐビスモの矢に、パンダワ兵たちは恐慌をきたした。コラワ軍はセノパティ・ビスモの超能力に大喜びだ。歩を進め敵を攻撃する。パンダワの兵たちは逃げようとしたが、多くの者が死んだ。斃れたのはパンダワ方の多くの王やアディパティだけでなく、アルジュノの美しい息子、デウィ・ウルピ Dewi Ulupi の子、バムバン・イラワン Bambang Irawan も斃れた。

 バムバン・イラワンは、アルジュノとデウィ・ウルピの息子である。ウルピはヨソロト Yasarata の苦行所のパンディト、ルシ・カンワ Resi Kanwa の娘である。イラワンは長く母と共に苦行所に住んだ。必要な時のみパンダワの国へ赴いた。

 息子の死を見たラデン・アルジュノは嘆いた。大いなる悲しみに沈んだ。矢を放つ手が止まり、ほとばしる涙は止まることもなかった。

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Bambang Irawan



ビスモがスリカンディの手により弊れる


 プラブ・クレスノは義弟アルジュノが泣き続けるのを見て、すばやく戦車から降り、ビスモに向けて神の武器チョクロを引き絞った。

 ビスモはチョクロに狙われていることがわかると、落ち着いた様子で戦車から降り、スリ・クレスノに近づいて行く。

 敬意を持って言った。「おお、我が主よ、御身の放つチョクロにより我が命が絶たれるとは、何たる幸運。我が身はスロロヨ〈天界〉へ招かれることでありましょう。」

 アルジュノはスリ・クレスノがチョクロを引き絞りビスモを狙っているのを見て、すぐさま戦車から降りた。スリ・クレスノに近づき、拝跪し、その手を引きながら、サン・プラブに思いとどまるよう懇願した。プラブ・クレスノはチョクロを放つのをやめた。再びアルジュノと共に戦車に乗り込み、アルジュノにスリカンディを呼ぶようささやいた。

 スリカンディが夫の近くへ来た。スリ・クレスノは、スリカンディにビスモを狙って矢を撃つようささやいた。すでに戦車に乗り込んでいたビスモは、スリカンディの矢が彼を狙っているのを見て、不安を感じた。死のときが来たことを感じたのである。かつて、誤って放たれた矢によって死んだ、妻デウィ・アムビコの誓いの言葉を想起したのである。

 ビスモはアマルト王プラブ・プントデウォに手を振り、命を助けてくれるよう呼びかけたが、プラブ・プントデウォはただ顔を伏せ、聞こえぬふり、見えぬふりをした。

 デウィ・スリカンディは夫のアルジュノに呼ばれ、戦車に乗り込んだ。そこからスリカンディはビスモの胸を狙って矢を放ったが、矢は貫通しなかった。

 アルジュノは猛烈な速さで、ビスモの胸に刺さったスリカンディの矢のしっぽに向けて矢を撃った。ようやくスリカンディの矢が、ビスモの胸を貫いた。ビスモは戦車から落ち、斃れた。パンダワ軍が歓声をあげた。

 ルシ・ビスモ、若き頃の名をデウォブロトは、かつて誤って放った矢で死なせた妻、デウィ・アムビコの故に死んだ。この今、大戦争バラタ・ユダにおいて、彼は亡き妻からの報いを被ったのである。妻の魂は言った。いつの日か大戦争バラタ・ユダにおいて、チュムポロルジョの女戦士を介して復讐を遂げるであろうと。チュムポロルジョの女戦士とはスリカンディその人である。

 パンダワ軍の歓声は止まず、神々が天上から花を散布する。コラワ軍は意気消沈した。多くの者たちが慌てて逃げ去った。セノパティの死を見守ろうとする者は一人も無かったのである。

 パンダワ側のプラブ・プントデウォが、パンダワ軍に武器を収め、戦闘を止めるよう命じた。ビスモの死を悼むためである。サン・プラブ自身がすぐさまビスモの遺体に駆け寄り、拝跪した。プラブ・スユドノ、アルジュノ、ナクロ、そしてサデウォがつづいた。皆、ビスモの死に涙した。


 他のコラワの者たちも涙したが、近くにビモがゴドを振り回しているのに恐れをなし、近寄れなかった。

 両軍のアディパティたちはそれぞれ武器を収め、ビスモの遺体の周りに集まった。プラブ・プントデウォはビモを呼び、武器を収めさせようとした。しかしビモは来ることを拒んだ。彼はゴドを握りしめ、あたりを警戒して離れたところに立っていた。

 プラブ・スユドノは武器を収め、戦闘を止めることを命じた。

 ビスモはしばし意識を取り戻し、飲み物を求めた。プラブ・スユドノは飲み物を差し出したが、ビスモはなかなか受け取ろうとしなかった。ビスモはアルジュノに、矢にしたたる水を求めた。プラブ・プントデウォはアルジュノに、ビスモの願いに沿うよう命じた。

 アルジュノは承知した。アルジュノは言葉通りの水をビスモに与え、ビスモはその水を飲んだ。かくて彼は死んだのである。

 王たちはセノパティ・ビスモの死を悼んだ。清められた遺体は、布を巻かれ、火に焼かれるための準備がなされた。

 太陽が沈み、月明かりがさす。ビスモの遺体は焼かれ、灰は天界スロロヨに昇った。その夜、一晩中パンダワとコラワは共に静まり返っていた。武器を振り回す者はなかった。全ての者たちは幕舎に控えていたのである。

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Resi Bisma

(つづく)


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by gatotkaca | 2014-08-25 00:09 | 影絵・ワヤン | Comments(0)

「バラタ・ユダ」スナルディ著 試訳 その9

戦闘開始


 パンダワ、コラワ両陣営の戦闘準備は万端整った。その夜、彼らは十分な休息をとった。翌朝、陽が昇るやいなや戦闘開始の合図のグンデル gender 〈ガムラン楽器の一種〉、ゴングの音が響き渡った。

 両軍はそれぞれの幕舎を出発した。彼らの雄叫びは天を裂くかのようであった。ゴングや他の音さえも聞こえなくなるほどであった。

 パンダワ軍は西から東を向いて居並び、コラワ軍は東から西を向いて居並ぶ。両軍の翼部は南では山々を切り裂き、北では海を切り裂く。

 両軍の中では各々が視界に入るとはいえ、遠くからはまだまだ次々と軍勢が現れる。


 アスティノのセノパティ、ビスモが選んだ陣形は「ウキル・ジャラドゥリ wukir jaladri 」と呼ばれるものであった。ウキルとは山を意味し、ジャラドゥリとは海を意味する。すなわちこの戦術は、戦車や象の部隊を岩のごとく固めて山とみなし、海に例えられる部分は、指揮官ビスモと王たち、アディパティたちが別々の翼部で波のように自由に動く陣形である。


 いっぽう、セノパティであるセトに率いられるパンダワ側は「ブラジャ・ティクスナルンギド braja-tiksnalungid 〈鋭い雷光〉」と呼ばれる陣形を採った。すなわちビモ、アルジュノ、そしてスリカンディ並びにその軍を前衛に配し、その後ろにドゥルストジュムノとスティヤキの軍勢が後ろに伸びる左右の翼となって、セノパティ・セトの近くに配置された。

 プラブ・プントデウォとプラブ・クレスノは王やアディパティたちの中央に据えられた。


 パンダワの真ん中ラデン・アルジュノは敵軍に叔父たち、兄弟たち、長老、自らの師の姿を見て、心の波立つのを押えきれなかった。

 彼はプラブ・クレスノに言う。「王よ、できるならば、このバラタ・ユダを王のお力で止めてくださいますよう。私は敵軍に、一族や師のあることが耐えられませぬ。」

 スリ・クレスノは答えた。「神の定めたる大戦争バラタ・ユダは、もはや押しとどめることかなわぬ。一人のサトリアとしてバラタ・ユダの戦場に果てることは、最上の死に方であり、天界に召されるであろう。そなたは想起せねばならぬ。プラブ・プントデウォが責務を負っていることを。それはパンダワの権利として国を取り戻すことである。そなたは兄の手助けを望まないのか?そなたが師と戦うことは既に運命付けられていたことなのだ。そなたがそれに抗う必要は無い。そなたが戦場で師と戦うまいとしても、避けることはできない。そなたはまず、拝跪することから始めるのが良かろう。」


 かくてプラブ・クレスノはアルジュノに、既に始まってしまった大戦争バラタ・ユダを回避することはできないと説得した。

 軍勢の雄叫びがあがり、金と笛の音が轟いた。ゴング、銅鑼、太鼓の音が鳴り渡り、象たちの足音、馬の蹄の音、疾駆する戦車の音が耳をつんざく。馬のいななきと象の雄叫びが、兵たちの雄叫びと、そこここで混ざり合い、両軍の激突する声が不気味に響く。それは、あたかも大地を埋め尽くす山々が地滑りするようである。


 アスティノとパンダワ両軍の衝突と混乱の大音響は、二つの洪水が激突するかのよう、両者が後退することなどありえない。両軍の兵士たちが傷つき弊れていく。

 戦場は血に溢れ、王たち、クサトリアたち、アディパティたちも多くが弊れる。セノパティ・セトの弟ウィロト国の王子ウラトソンコが、超能力のパンディト・ドゥルノと戦い斃れた。

 ラデン・ウラトソンコはウィロト国王マツウォパティの末子である。

 ウラトソンコはタシクルトゥノ Tasikretna の王プラブ・タシクロジョ Prabu Tasikwaja の娘、デウィ・シンドゥダリ Dewi Sindudari を妻した。ブルカピトゥ Bulukapitu 国のラクササ王プラブ・プロウォト Prabu Prawata に敗れて亡くなった王から託されたのである。


 パンダワ方のウラトソンコが戦場に散ると、戦闘は大混乱となった。破壊された戦車は十を超え、死んだ象は数百を超えた。乗っていた象と同じくらいの王も弊れた。武器と戦車のぶつかり合う音が谺し、戦場の熱狂はいや増した。


 傷つき泣き叫ぶ者たちが、不気味な空気を増幅させるのだ。雨のように矢が降り注ぎ、幾百もの騎兵が斃れる。

 軍を率いるものは千を数え、象に乗る兵は万を数える。戦車に乗る者は万、馬に乗る者も万を数える。歩兵は四万。戦闘の雄叫びは真昼まで続き、アスティノの指揮官たちも多数斃れはじめた。

 その最中、ウィロト王のもう一人の息子も斃れた。セノパティ・セトの弟ウトロが、超能力のモンドロコ国王プラブ・サルヨとの戦いで斃れたのだ。

 パンダワ方のラデン・ウトロはウィロト国王プラブ・マツウォパティの真ん中のむすこである。故人はプラブ・タシクロジョの娘デウィ・トゥルタワティ Dewi Tertawati を妻に持っていた。タシクロジョの息子をさらおうとした、ラクササ王プラブ・プロウォトの息子ラデン・ギリクスモ Raden Girikusuma という、超能力の悪しき者を征した褒美として彼女を貰い受けたのである。


 弟たち、ウトロとウラトソンコの死を見たセノパティ・セトは激怒した。瞬く間に、弟二人を亡くしたのである。彼の軍勢が押し進む。獲物を狙う虎のように、肉に食らいつくラクササのように。軍勢の進撃と共に、ラデン・セトが弓を引き絞り、矢を放つ。狙うはモンドロコ国王プラブ・サルヨである。しかし、彼は逃げ、馭者と戦車を射抜くにとどまった。凄まじい矢の勢いに、馭者も戦車も粉々になって大地に崩れ落ちる。コラワのカルトマルモが行く手を遮り、セトと一騎打ちしようとするが、早々に敗退する。戦車はセトの矢に粉砕され、カルトマルモは転げ落ちる。

 コラワたちは驚愕する。セトの怒気に圧倒され、散り散りに逃げ去る。セトの怒りに晒され、おびただしい者たちが墓場行きとなる。敵国勢は我先に逃げ去る。

 ビスモとパンディト・ドゥルノが助けに入る。プラブ・サルヨの末子、ブリスロウォの弟ラデン・ルクモロトが、父プラブ・サルヨを助けようと駆けつける。ルクモロトは戦車を駆って、セトの進撃を遮ろうとする。セトが再び矢を放つ。その矢が、アスティノ王妃デウィ・バヌワティの弟ラデン・ルクモロトの胸を貫く。コラワ側で戦ったルクモロトは、戦車の上で弊れた。

 ウィロト軍はセトの指示のもと、いっせいに攻撃した。彼らの怒りは、傷ついた雄牛のようであった。コラワに付き従う王やアディパティたちの多くが弊れた。

 そのありさまを見たアスティノ軍は震え上がった。散り散りに逃げ、まるで虎に見つめられている鹿のようであった。恐慌をきたしたアスティノ軍は、指揮官たちでも止めることが困難であった。どうしようもない。ラデン・ガチコチョ、ドゥルストジュムノ、オンコウィジョヨ他の者たちがセトを支援するために、アスティノ軍に対峙した。

 そのありさまを見たビスモは猛攻をかけ、コラワの面々もそれに続いた。ついにビスモがセトと対峙した。セノパティ対セノパティだ。ビスモがセトに向けて矢を放つ。降り注ぐ雨のよう、ビスモの矢が天を覆い、そのすべてがセトに命中する。セトはびくともせず、傷一つ受けない。ビモとアルジュノが、セトの支援に駆けつけ、セトに雨のよう襲いかかる矢を薙ぎ払う。そしてビスモに向かって雨のごとき矢を放つ。

 これを見てプラブ・スユドノがビスモの助けに入る。プラブ・スユドノの胸に当たる。しかし彼は堪える。痛みを感じるだけである。堪えながら、すぐさま退却する。コラワたちが駆けつけ、プラブ・スユドノの退路を開く。

 セノパティ・ビスモは、アスティノ軍がセトの怒気に押されて後退するのを見て、おおいに怒る。彼は戦車の上に立ち、セトに向けて幾百もの矢を放つ。

 ラデン・セトが矢を打ち返し、ビスモの肩に命中する。しかしビスモには効かない。セトの矢は打ち砕かれる。矢を打ち砕かれたセトは大いに怒る。ゴドを握りしめ、戦車から降り、ビスモに飛びかかる。

 ビスモにセトのゴドが迫る。飛び退き身を守ったが、戦車の馭者と馬は粉砕された。セトの怒りは頂点に達した。そこここへ跳び、ゴドで打ってかかる。戦車や象に乗ったアスティノ軍の王たちは、セトのゴドの攻撃で戦車、象もろとも粉砕される。

 五人の王たちが戦車の粉砕と共に弊れた。象もろとも粉砕された者もその数五、多くのアスティノのアディパティが斃れた。

 セトの超能力は比類ない。アスティノ軍は散り散りに逃げ去る。セトの怒れるさまは、まさしく怒れる千のラクササのよう。ビスモもそのさまに恐れをなす。彼は戦場から退こうとする。

 とつぜんビスモは空よりの神の声を聞く。「エエ、ビスモよ、なぜ戦場を退こうとする。ウィロトの王子はそなたの手で斃されなければならぬと知れ。」

 これを聞き、ビスモはすぐに引き返す。火の矢を放つ。狙うはセトの胸である。その胸が貫かれ、セトは斃れる。アスティノ軍の歓声が雷鳴のよう轟く。逃げ散っていた者たちが、喜び、小躍りしてすぐさま戦場に戻って来る。ラデン・ドゥルソソノは踊りを舞う。ラデン・ジョヨドロトは歌う。ジョヨスセノ、ジョヨウィコト、スルトユド、ユツユニ、スディルゴ、スディロ、レコドゥルジョヨ、ウィルヨ、そしてカルトマルモが小躍りしながら歓声を上げる。

 パンダワ軍は悲しみに打ち拉がれる。恐れ、悲しむ。彼らのセノパティは戦場に散ったのだ。パンダワの指揮官のほとんどすべてが、居並び進撃する。コワラに先制攻撃をかける。ウィロト国王プラブ・マツウォパティは、息子たち三人が三人とも戦場に斃れたとの報告を受け、ただちに大臣パティ・ニルビトと共に戦場に撃ってでる。

 ビスモは矢を受ける。サン・プラブの放つ矢はあたかも雨の降り注ぐようである。ビスモも矢を打ち返す。超能力の矢と、超能力の矢の打ち合いである。

 後続のパンダワたちも怒り心頭、同時に進撃し大暴れする。彼らは内心に思う。祖父たるプラブ・マツウォパティと共に斃れるのであれば、それは喜びであると。

 パンダワたちはコラワに先制攻撃をかける。アスティノ軍はひるむ。幸い太陽は夕焼けとなりはじめ、あたかも「乳離れ menyapih 」するかのように戦闘は徐々に収まる。まずは休息をとるのだ。そしてまた明日の朝には続きが始まる。

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Raden Seta



(つづく)


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by gatotkaca | 2014-08-23 12:29 | 影絵・ワヤン | Comments(0)

「バラタ・ユダ」スナルディ著 試訳 その8

パンダワは戦争の準備を整える


 プラブ・クレスノとスティヤキを乗せた馬車はウィロト国に到着した。帰途の道すがら、サン・プラブは涙を止めることができなかった。


 パンダワの軍勢がサン・プラブの帰還を迎え出た。ウィロトの王宮では王たちが我先に迎え出て、アスティノ来訪の成果を聞きたがった。

 プラブ・クレスノは静かに話し始めた。「コラワは和平を望んでおらぬ。戦いを挑んできた。彼らは国を分ける気が無い。私には四人の神々の手助けもあった。ヒワン・カンウォ、ヒワン・ナロド、ヒワン・ジャノコ、ヒワン・ロモパラスだ。神々は交渉の最初から最後まで立ち会ってくださった。神々は我らの立場を承認された。さらには、デウィ・グンダリ、ルシ・ビスモ、パンディト・ドゥルノ、そしてスリ・サルヨもスユドノ陛下に国を二分するよう諌言なさった。しかしすべての努力は水泡に帰した。それどころか彼ら〈コラワ〉は私を害そうとしたのだ。」

 列席したすべての者はこれを聞き、唖然とし、言葉も無かった。プラブ・プントデウォ、ウルクドロ、アルジュノ、ナクロとサデウォも同様であった。


 かくてプラブ・プントデウォと弟たちは、デウィ・クンティの言葉に従い、自らの権利を行使するため、戦争で国を奪い取る事を決定したのである。

 すべての者が戦争に同意した。ウィロトの王子たち、セト、ウトロ、ウラトソンコも、チュムポロルジョの王子ドゥルストジュムノも戦争に同意した。王たち、摂政たち、その場に居並ぶ者たちは、各々自ら進んで戦争に同意した。


 翌朝、戦闘準備を整えた軍を参集させる合図のゴングの音が荒々しく響き渡った。王たちは各々の軍勢を整えた。

 全軍準備万端、ウィロト国を後にした。軍勢の数は数えきれないほどだ。兵たちの制服は煌めき、世界を照らす太陽のよう。軍勢は大海の波のよう、あるいは押し寄せる森、山のようである。

 居並ぶ兵たちが道に溢れる。赤の軍服は赤で混じり合い、黄色の軍服は黄色で集まる。緑の者たちは緑に、黒は黒、青は青、紫は紫、白は白で整列する。色分けされていない者は一人も無い。

 戦場へ向かう軍勢の雄叫びは雷のよう轟き渡る。さまざまな軍旗と幟がはためき、あたかも千の山が燃え立つようだ。

 ヒワン・バトロ・インドロ Hyang Batara Endra が天から芳香を散き、カヤンガンに住むすべての神々がそれにつづく。神々は叫ぶ。「生きよ、パンダワ。勝利を祈っておるぞ。アスティノ国を取り戻すのだ。」


 パンダワ軍の先頭を行く者は、パンダワの恐るべき Panenggak サトリア、ラデン・ウルクドロである。彼はまた、ビモの名で知られる者。背の高いビモだけは徒歩で進み、むろんその武器はゴド〈棍棒〉・ルジャポロ Rujakpolo である。ビモ、すなわちラデン・ウルクドロは生涯乗り物に乗らず、馬車にも、馬にも、象にも乗らぬ。

 大海を渡るときも、谷を下るときも、山に登るときも、河を渡るときも、ビモはつねにその足で歩を進める。古来歩兵は戦場の中核であり、輝く星である。

 ビモは歩みを進めながら、敵に挑戦の雄叫びをあげる。ビモに率いられた軍勢の行軍は、あたかも大地が揺れ動くようだ。森に住む生き物たちは、軍が近づけば散り散りに逃げ去る。

 ビモの軍勢に続くパンダワの軍勢は、アルジュノ、またの名プルマディの率いる軍である。完璧なる美丈夫アルジュノは煌めく装飾に彩られた戦車に乗り、まさに燃えさかる山のようである。

 アルジュノ軍の軍服は、燃え盛る炎のごとく輝き、アスティノ国の王たちを一気に燃やし尽くすかのようである。

 アルジュノ軍のはためく軍旗には、一匹の口を開いた猿が描かれている。かくて天は暗くなり、かき曇る。雷鳴が轟き、軍勢が戦場にあるかのようだ。

 続くパンダワの軍勢は、双子のサトリア、ナクロとサデウォの率いる軍である。プラブ・パンドゥデウォノトとデウィ・マドリムの双子の息子は紫に彩られた戦車に乗る。二人はあたかも、真夜中にアスティノの処女たちのもとを訪ね、アスティノ王宮を訪れようとする、双子のコモジョヨ Kamajaya 神〈夫婦和合の神〉のようだ。


 ナクロとサデウォの軍勢に続いて、ウィロト国の三人の王子が率いる軍勢が進む。セト、ウトロ、ウラトソンコの軍である。

 それに続くのはチュムポロルジョ国の軍である。率いるのはチュムポロルジョ国王プラブ・ドゥルポドの末の息子、デウィ・スリカンディの弟ラデン・ドゥルストジュムノである。

 その後ろには国王プラブ・ドゥルポド自らが率いるチュムポロルジョ国軍が続く。プラブ・ドゥルポドは象に乗り、摂政、大臣たちが周りを取り巻く。チュムポロルジョ軍の総数は数えきれない。

 その軍勢の後ろには、スリカンディの姉、アマルト王妃デウィ・ドゥルパディの姿も見える。彼女は黄金の傘をさし、髪はばらけたままである。結い上げられていないドゥルパディ妃の髪が風に吹かれ、波打ち、あたかも手を振るかのようだ。人は想起するであろう。彼女が戦場でドゥルソソノの血でその髪を洗うまで、決して髪を結い上げないと誓ったことを。

 デウィ・ドゥルパディの後ろには、美しい戦車に乗った彼女の妹、デウィ・スリカンディが見える。デウィ・スリカンディはアルジュノの妻であり、超能力の人。戦闘と戦術に長けた人である。

 ようやくアマルト国の王、プラブ・プントデウォ、またの名プラブ・ユディスティロ Yudistira の姿が見える。サン・プラブは象に乗り、黄金の傘をさし、側近 abdi dalem たちが脇をかためる。

 スリ・ユディスティロはジマト・カリモソド jimat Kalimasada をしっかりと握りしめる。サン・プラブはまさしく最上の王である。人は、彼こそが後の大戦争の帰趨を定める者であることを認める。彼はまさしく偉大なる人である。そしてジマト・カリモソドが敵を滅ぼし勝利を得るのだ。

 アマルト王の後ろには、プラブ・クレスノ自身が率いるドゥウォロワティ国の軍勢が続く。ドゥウォロワティ軍の軍旗は白地で、瞑想するチャントリック cantrik 〈聖者の弟子〉が描かれている。プラブ・クレスノは美しく彩られた戦車に乗る。煌めく宝石を鏤めた傘をさしている。

 スリ・クレスノは微笑んでいる。あたかもこのように言っているかのようだ。「エエ、コラワよ、我こそが戦争の帰趨を制する者と知れ。」と。

 プラブ・クレスノの一行は、まるで婚礼の行列のようだ。スリ・プントデウォが花婿で、アスティノ国が花嫁である。婚礼の次第が終われば、アスティノ国が花嫁として差し出されるだろう。戦争に参加する他の王たちは、仕事を控えた一家の長であるスリ・クレスノの手伝い役のごとくである。

 むろん、プラブ・クレスノは、あらゆる人々を導く、尊崇の的である。ここに参集する者たちは、大戦争バラタ・ユダにおいて戦死すれば、地上の罪から解放され天界へ昇ることができると堅く信じている。これこそ王たちがパンダワ側につき、戦死することを厭わぬ理由である。彼らの目にはプラブ・クレスノこそが、天界へ昇る者と地獄へ堕ちる者を決定する裁定者として映っているからである。

 後に続くのは、ラデン・スティヤキ率いるドゥウォロワティ軍である。レサンプロ国のサトリア、ラデン・スティヤキと共にアディパティたちの一団も参集する。その数は数えきれぬほどである。スティヤキ率いるドゥウォロワティ軍は道に溢れる。その雄叫びは大地を揺すり、海をかき混ぜる。その軍勢に続くのは、完璧なる美丈夫アルジュノの息子、ラデン・オンコウィジョヨまたの名ラデン・アビマニュの率いる軍勢である。

 アビマニュは黄金の戦車に乗り、チョクロ〈車輪〉を描いた青い傘をさす。アビマニュ率いる兵たちは美しい花々の描かれた軍服に身を包む。

 続くは、アマルト国王の息子ラデン・ポンチョウォロ率いるパンダワ軍だ。ラデン・ポンチョウォロも戦車に乗り、それには青々とした孔雀が描かれている。彼は玉虫色の傘を掲げる。兵たちの軍服が輝く。その軍旗はすべて黒色である。


 パンダワ軍はクルセトロの荒野にいたる。あたかも押し寄せる洪水のごとくに。王たち、アディパティたちが途切れることなく続く。

 すぐさま幕舎が建てられると、各々がそこに座す。全ての者が落ち着いたところで、デウィ・クンティがクルセトロの荒野に迎え入れられる。彼女は義弟のラデン・ヨモウィドゥロ、プラブ・パンドゥデウォノトの弟に付き添われている。

 かくて、息子たちパンダワとデウィ・クンティの家族は対面し、涙を流す。流れる涙につづくのは喜びの思いだ。

 ラデン・ヨモウィドゥロは別れの挨拶をし、アスティノに戻る。デウィ・クンティはクルセトロに残った。パンダワの幕舎には王宮のごとく美しい建物がしつらえられ、デウィ・クンティが迎えられた。


セトがパンダワのセノパティに選ばれる


クルセトロのプラブ・クレスノのおわすドゥウォロワティの幕舎もまた、美しく建てられた。プントデウォ、ビモ、アルジュノ、ナクロ、サデウォはその時、プラブ・クレスノの幕舎に参集していた。

 他の王たちも同様であった。彼らはスリ・クレスノの指示を待ち受けていた。プントデウォがプラブ・クレスノに尋ねた。「兄王よ、ご指示ください。今日の我々の戦闘指揮官、セノパティには誰が相応しいのでしょうか。」

 ウルクドロとアルジュノも、プントデウォに重ねて尋ねた。プラブ・クレスノは答えた。「アマルト王よ、本日のセノパティには、セトを選ばれるよう。」

 皆が賛成した。ラデン・セトはウィロト国王プラブ・マツウォパティの長子だ。彼は勇猛で超能力の人である。

 かつてポンチョロルトノ Pancalaretna 国で、王子のバムバン・マランデウォ Bambang Malandewa を相手とする武術競技があり、ラデン・セトが参加した。彼は見事マランデウォを敗り、王女のデウィ・カネコワティ Dewi Kanekawati を獲得したのだった。


 プラブ・スユドノは、敵がすでにクルセトロの荒野に幕舎を建てたとの報告を聞き、すぐさま準備を整えるよう軍に命じた。

 プラブ・ダストロストロの弟、ラデン・ヨモウィドゥロもスリ・スユドノに、パンダワ方の王たち全てがクルセトロに参集し終えたことを伝えた。

 間もなくアスティノ軍は、クルセトロの戦場にむけて街を出発した。アスティノの大軍は平野にあふれ、押し寄せる洪水のようであった。

 コラワに味方する王たちの数は数えきれぬほどである。彼らもまたすぐさま各々の幕舎を建て、それは王宮のよう壮麗であった。ビスモがセノパティに選ばれた。

 ビスモは若き頃の名をデウォブロトといった。彼はルシ・スンタヌの息子である。スンタヌはパンディト〈僧侶〉であったが、後にアスティノ国王となり、プラブ・スンタヌと称した。

 ビスモは若い頃、彼の行き先すべてに付き従うことを望んだ、妻のデウィ・アムビコを誤って死なせてしまった。デウィ・アムビコの魂は彼に言う。いつの日か大戦争バラタ・ユダにおいてアムビコの魂は、チュムポロルジョの王女を介して復讐を遂げるであろうと。


(つづく)


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by gatotkaca | 2014-08-22 10:00 | 影絵・ワヤン | Comments(0)

「バラタ・ユダ」スナルディ著 試訳 その7

クレスノの到来は、アスティノから温かく迎えられる


 プラブ・クレスノの一行がクルセトロの荒野に到着したと聞き、プラブ・スユドノはすぐさま歓迎の準備を命じた。シティンギル Sitinggil 〈王宮の建物の一部で高層のオープンスペース〉から宮殿の扉まで絨毯が敷き詰められた。アスティノの長老たちが賓客を迎えるために並んだ。

 居並ぶ長老たちは、ルシ・ビスモ、パンディト・ドゥルノ、そしてプラブ・ダストロストロである。彼らはサン・プラブ・クレスノが、パンダワの王権回復交渉の使者としてやって来たことを歓迎しているようだった。長老たちは、これでプラブ・スユドノがパンダワに王権を戻すであろうことが確実になると期待していた。

 その中で、プラブ・スユドノとパティ・スンクニは落ち着きを失っていた。彼らの目にはプラブ・クレスノとパンダワが二つにして一つの存在と映っていたからである。見かけは二つだが、実は一つなのだ。コラワ一族のすべてが、王宮に参集していた。


 プラブ・クレスノの一行は街に入った。偉大なる客人を乗せた馬車はアスティノで最上の道を進む。アスティノ国の人々は、ドゥウォロワティ王の顔を一目見ようと道の左右に侍る。

 アスティノの住人たちは、地位ある者も平民も道ばたのあちらこちらにごった返す。パンダワの使節としてやって来たドゥウォロワティ王を見るのに遅れまいとして、前へ前へと場所を争うのである。


  パンダワの使節たる偉大な客人、スリ・クレスノを迎える役を担うアスティノの長老たちは、客人を王宮の内へ誘った。

 長老たちはプラブ・クレスノの到来よりずっと早く迎えに出ていた。ほどなくプラブ・クレスノ一行が到着した。パンダワの使節たる人は、四人の神々と共に馬車を降りた。

 コラワたちは一斉に立ち上がり、敬意を表した。プラブ・スユドノはすぐさまスリ・クレスノと四人の神々に座を勧めた。長老たちは我先に到来を言祝ぐ挨拶を述べた。

 食事と飲み物が供され、プラブ・スユドノが勧める。「プラブ・ドゥウォロワティ兄よ、お疲れを癒すお食事をどうぞ。」

 プラブ・スユドノはまた言った。「王陛下、我らの用意した宴に、ご遠慮は無用です。」

 プラブ・クレスノ、「若き王よ、そのうちにな。」プラブ・クレスノは長老たちの視線を柔らかく躱しながら、休息の間へ向かうため、プラブ・スユドノに挨拶した。

 プラブ・スユドノ、「どうぞ王陛下、あまねく世界の賢者たる王よ。」

 プラブ・クレスノ、「王の心がつねに晴れやかでありますよう、そして我が責務が果たされますよう。」

 表に出て、プラブ・クレスノは四人の神々に告げた。まずは広間でくつろぎ、明日になってから、仕事にかかることにすると。

 プラブ・クレスノはすぐさま、パンダワの母、叔母デウィ・クンティの部屋に赴き、叔母に拝跪した。

 デウィ・クンティは涙した。甥であるスリ・クレスノに会えて、あたかも息子たちパンダワと再会したかのように感じたのだ。デウィ・クンティは泣き続けた。彼女は気がかりなこれからのことを尋ねた。

 彼女は愛する甥に、たくさんの助言を与えた。スリ・クレスノはマドゥロ国王プラブ・バスデウォの息子である。そしてプラブ・バスデウォは、デウィ・クンティの兄なのだ。

 デウィ・クンティは、スリ・クレスノの仕事がつつがなく、良い結果に終わることを期待して胸がいっぱいだった。悲しみのあまり、パンダワの母は、涙でとぎれとぎれになりながら話した。

 助言を聞き終え、プラブ・クレスノはその場を辞し、別の居間に向かった。そこはラデン・ヨモウィドゥロの部屋である。そこではじめて、プラブ・クレスノは供された食事と飲み物に手をつけた。


プラブ・クレスノの使節は失敗に終わる


かくてプラブ・クレスノは表に出た。プラブ・スユドノはすぐさま兄弟たちと相談し、その中にはアディパティ・カルノも入っていた。

 プラブ・スユドノは、プラブ・クレスノが宴の食事に手をつけなかったので不機嫌だった。

 プラブ・スユドノは言った。「プラブ・クレスノは我らの用意した宴に疑念を持ったに違いない。構わぬ。ドゥルソソノよ、兄弟たちに準備させよ。秘密裏にスリ・クレスノに対する兵を準備させるのだ。疑われてはならぬ。ドゥウォロワティの者どもを殲滅するのだ。やつらはパンダワどもと同じだ。」

 宴が終わり、王たちと長老たちはそれぞれの宿泊所へ戻っていった。プラブ・スユドノはすぐにデウィ・バヌワティ妃に会うため、王宮に入った。


 アスティノ王妃デウィ・バヌワティは激しい気性ながら、とても可愛らしく、物腰柔らかである。その身体はほっそりしている。彼女はせわしなく動き回る。すると、ますます輝く。声を荒げると可愛い。怒るともっと可愛い。カイン〈腰巻き〉とクムバン kemban 〈胸当て〉だけ着て、何も飾りを付けずにいると、とても可愛い。一挙手一投足が柔らかさと可愛らしさを引き立てる。お香も、香水も無くとも、その身体から発する芳香は宮殿の外にまで満ちあふれている。


 すでに太陽は沈みかけていた。夜が訪れる。鳥たちは、月明かりに晒されるのを怖れるかのように、隠れ場所を探す。天には月と星々が現れる。その光が王宮の壁に戯れ、壁を飾り立てる。夜の王宮の雰囲気は、ヒワン・インドロの王宮のよう、厳かで美しい。


 風が眠りに就こうとする鳥たちの声を運び、宮殿に入って王宮の香の芳香と混ざり合う。とりわけデウィ・バヌワティのいるプラボヨソ Prabayasa 〈praba は翼、yasa は大きいことを意味する。王宮の応接間〉は金で彩られ、特別な雰囲気を醸している。

 アスティノ王妃デウィ・バヌワティの居間は、その夜とりわけ美しかった。西側には美しい花園があり、金でできた囲いの手すりには宝石が埋め込まれ、レンガの石は白檀でできている。

 庭の真ん中には金の建物がたつ。その生け垣には真珠とダイヤモンドが鏤められている。

 パンダワの使節として現れたプラブ・スリ・バトロ・クレスノとの会議を控えた明日を前にして、プラブ・スユドノは、そのような雰囲気の中にいた。


 日が昇る。アスティノの王宮では、庭の花を摘む女たちの声が喧しい。プラブ・スユドノは衣服を整え、謁見所へ向かう。そこにはすでに王たちや、ダストロストロ、スリ・サルヨ、といったアスティノの長老たち、アディパティ・カルノその他の者たちが参集していた。

 プラブ・スユドノはすぐさま叔父ヨモウィドゥロに、スリ・クレスノを迎えに行くよう頼み、パティ・スンクニとアディパティ・カルノにプラブ・クレスノの到来を迎える準備をするよう求めた。かくて偉大なる客人はアスティノ王宮に向けて出発した。

 プラブ・クレスノはただちに衣服を整え、ドゥウォロワティの兵たちはすでに警戒怠り無く準備していた。馬車の準備は整っており、すぐに出発した。

 王宮への道すがら、一行はパティ・スンクニとアディパティ・カルノの迎えを受けた。

 一行はアスティノ王宮へ進んだ。


 王宮に到着し、プラブ・クレスノは座を勧められた。列席者たちはそれぞれの座についた。プラブ・クレスノは顔を上げた。

 四人の神々もすぐに到着した。ナロド神、ジャノコ、ロモパラス、そしてカンワである。ルシ・ビスモとパンディト・ドゥルノが四人の神々の到来をプラブ・スユドノに報告した。

 プラブ・スユドノは四人の神々に拝跪し、座を勧めた。神々は、アスティノの長老たちの席を選んだ。王たちは、王の席に、クサトリアたちはクワトリアの席を選んだ。

 大気が止まり、音もない。しばらくしてスリ・クレスノの声が響いた。「ダストロストロ叔父よ、この今、私が参りましたるは、一族の和解のため。物別れに終わるは許されぬ。すべてが一つとならねばならぬ。争いはあってはならぬ。争えば、我らを良く思わぬ周囲の者たちの物笑いの種となるだけである。結果がどうあれ、私はそれを持ち帰り、我が弟アマルト王に伝えることになる。アマルト王の願い,アスティノ国半分の返還を実現する事が我が責務である。」

 ダストロストロは答えた。「我が子、王の言葉はすでに承知しておる。」

 列席した四人の神々が言う。「プラブ・クレスノの負う責務はまさにその通りである。すべては一族のさらなる繁栄のため。」

 ルシ・ビスモとパンディト・ドゥルノは、声を強めて四人の神々の言葉を認めた。プラブ・スユドノだけが驚嘆しているように見えた。顔色が不機嫌なさまとなり、うつむいた。

 プラブ・スユドノの叔父ラデン・ヨモウィドゥロも、プラブ。クレスノに強く賛同した。すべての安寧のためにと。

 母スリ・デゥイ・グンダリは泣きながら息子に言った。「息子よ、プラブ・ドゥウォロワティのお望みを叶えてさしあげなさい。あなたには、一族の安寧を求める方が良いのです。」

 プラブ・スユドノは振り返って叔父、パティ・スンクニを見た。さらに父ダストロストロを。サン・プラブの口からは一言も発せられなかった。

 アウォンゴのアディパティ・カルノが目配せして、サン・プラブにこの場を去るよう促した。プラブ・スユドノはサスミト sasmita 〈隠された意味〉に答え、アディパティ・カルノの意図を理解した。彼はすぐさま交渉の場を辞した。パティ・スンクニと、バンジャルジュングトのサトリア、ラデン・ドゥルソソノが後に従った。


 プラブ・スユドノはコラワたちに戦いの準備を命じた。アスティノの軍勢はすでにあらゆる武具を順していた。馬、馬車、象、その他、その数は数えようも無い。セノパティとなったのはボノクロンのサトリア、ラデン・ジョヨドロトである。このサトリアこそが、脅威にされされた際の、アスティノの誇りであった。

 北、南、西、そして東のアスティノ軍は、今か今かと命令を待ち受けていた。

 デウィ・グンダリは、夫のプラブ・ダストロストロに暇乞いした。プラブ・スユドノに暴虐をやめさせ、賓客を亡き者にしようなどという、礼節を弁えぬ態度を叱責するためである。

 とつぜんラデン・スティヤキが会議場に入って来て、スリ・クレスノに報告した。「我が君、外ではアスティノ軍が、陛下を含めた我らが兵を殲滅しようと準備を整えております。スユドノは明らかに悪しき者。コラワの兵はみな、戦闘の準備万端であります。武器を携えた兵たちの多くがすでに王宮の中にはいっております。」

 これを耳にしたプラブ・クレスノは激怒した。彼はすぐに会議場を後にし、王宮前広場に向かい、かくてティウィクロモしたのである。身体は山のように変わり、、まるで怒れるバトロ・コロ Batara Kala のようだ。身体中から火を吹き出す。この世のあらゆる人間の力と、スロロヨ Suralaya 〈天界〉の神の力のすべてが、スリ・クレスノの身体に集まった。プラブ・クレスノの人としての性質は消え去った。彼はラクササに姿を変え、あちらこちらに跳躍して挑戦の雄叫びをあげる。

 大地は震動し、海水は沸騰する。海に住む魚たちは嘆き悲しむ。

 プラブ・クレスノは自身が真にバトロ・ウィスヌの化身であることを証明する。この世にあるあらゆる武器が、その手に握られてある。


 コラワ百王子は恐れおののき、アスティノ全土の数百万の者は恐怖し、半死状態となる。言葉を発する勇気のある者はだれ一人としていない。彼らの武器持つ手が震える。プラブ・スユドノとアディパティ・カルノは平静を失い、ただ死を望むのみ。

 ビスモとドゥルノは嘆く。おずおずと、ティウィクロモしているプラブ・クレスノに近づき、拝跪する。

 四人の神々も現れた。彼らはスリ・クレスノに近づき、理性を取り戻すよう嘆願した。サン・ヒワン・バトロ・スルヨが地上に降下し、他にもたくさんの神々が乗り物 diragantara に乗って花々を撒く。

 バトロ・スルヨは嘆いて、スリ・クレスノに注意を促す、「エエ、プラブ・クレスノよ、怒りを発し続けてはならぬ。サン・プラブがコラワを滅ぼそうとするなら、すべてが崩壊し、無駄になってしまうこと必定だ。サン・プラブはこの世の他の者たちのことを想起し、慈悲深くあらねばならぬ。サン・プラブはウルクドロとドゥルパディの誓いを想起しなければならぬ。ことにドゥルパディは、戦場に流れるドゥルソソノの血でその髪を洗うまでは、生涯髪を結い上げることはしないと誓ったのだ。もしサン・プラブが怒りのままにあるなら、ビモとドゥルパディの誓いは果たされぬことになるのだぞ。」

 かくてバトロ・クレスノは王宮に別れを告げた。四人の神々は喜び、プラブ・クレスノに同行した。

 外に出て、四人の神々は辞してカヤンガンに戻った。プラブ・クレスノはそのまま、叔母デウィ・クンティのところへ向かった。


 デウィ・クンティに会うと、彼女はスリ・クレスノに涙ながらに尋ねた。「我が子プラブよ、あなたのお仕事はどのようでしたか?成果はありましたか、何がおこったのです?」

 プラブ・クレスノ、「スユドノは一族の安寧を招き寄せようとはしませんでした。彼はアスティノを二分しようとはしなかったのです。他に道はありません。戦争が起こらざるをえないのです。」

 これを聞いたデウィ・クンティは、途切れ途切れに言った。「スユドノの望みがそうであるなら、そのようにしかならないでしょう。もう私たちが考えるべきことではありません。あなたの弟プントデウォに伝えるだけです。最上の道は閉ざされてしまった。権利を行使するため、国を力ずくで取り戻すという意図を封じ込めてはなりません。


 それが義務というものです。権利を明らかにするため、国を取り戻そうとする戦いの中で弊れるなら、必ず天界へ昇ることができる。まさしく、私から我が子たる王に対する言葉はこのようです。戦争は行われなければならない。」

 プラブ・クレスノは承知し、拝跪した。馬車に乗ると、アディパティ・カルノ。ヨモウィドゥロ、そしてヨモウィドゥロの息子サンジョヨ Sanjaya が同乗した。

 道すがらプラブ・クレスノはアディパティ・カルノに、バラタ・ユダが起こったら、パンダワに味方するよう頼んでみた。しかし、アディパティ・カルノは望まなかった。彼の心はコラワに味方することに決まっていた。彼は言った。かつてアルジュノと超能力を競った時に誓ったのだと。

 馬車は進み、郊外に出た。アディパティ・カルノは別れの挨拶をし、すぐに馬車から降りた。

 そこからアディパティ・カルノは母に会いに行った。母デウィ・クンティである。デウィ・クンティは目から涙をこぼしながら、尋ねた。「あなたの兄スリ・クレスノから何か言われたのですか。」

 アディパティ・カルノ、「アスティノから離反するようにと。バラタ・ユダが起こったなら、パンダワにつくようにと。」

 デウィ・クンティ、「そのほうが良いのです。従うのが良いのです。そうすれば、あなたは弟たちと一緒になれる。バラタ・ユダこそが最上の死に場所だから。あなたのため、生も死も、弟たちと共にある方が良いのです。」

 デウィ・クンティは涙ながらにそのように言った。しかしアディパティ・カルノは答えた。「母よ、クサトリアたるもの、唾を吐きかけられるようなことをしてはならぬのです。死のうと生きようと、約束を反古にしてはならぬのです。私はすでにアルジュノと戦うと誓った。さらに私はプラブ・スユドノから多大な庇護を得た。恩に報いることをせぬなら、私は笑い者となる。掟破りのサトリアと言われる。悪しき見本となるでしょう。」

 これを聞いたデウィ・クンティは、ただただ泣くばかりであった。彼女は、この一人の子は親の言葉に従うことはないと感じていた。コラワを守ることを強く願っているのだ。

 アディパティ・カルノは拝跪を捧げ、その場を辞し、帰って行った。



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by gatotkaca | 2014-08-21 06:36 | 影絵・ワヤン | Comments(0)

「バラタ・ユダ」スナルディ著 試訳 その6

大戦争バラタ・ユダ


ここから後のバラタ・ユダの物語は、クディリ Kediri 王国のジョヨボヨ Jayabaya 王の有名な宮廷詩人 pujangaga であるエムプ・スダ Empu Sedah の作品に沿うことにする。

 以下の物語はエムプ・スダによって1079年頃に書かれた。この版を用いる理由は、その時代の国家のありようを感じ取る事ができることによる。それだけではない。一番の理由は、バラタ・ユダの物語には、スラカルタ Surakarta とヨグヤカルタ Yogyakarta の版に時折異説があることにもよる。しかしエムプ・スダの版は、これら異なる版よりもずっと以前のものである。


クレスノ使者に立つ


 ある日、プラブ・プントデウォ率いるパンダワ一族が、ウィロト国に参集した。この会議には、ドゥウォロワティ国王プラブ・クレスノ、ウィロト国王プラブ・マツウォパティ、チュムポロルジョ国王プラブ・ドゥルポドも列席した。

 この会議の目的はパンダワ側がコワワ側に、アスティノ国半分の返還を訴えるための手段を講じることにあった。パンダワは、プラブ・クレスノにコラワへの交渉役を引き受けてもらえるよう頼んだ。パンダワ側の戦争準備はすでに整っていた。プラブ・クレスノも、戦闘準備の整ったドゥウォロワティ軍を率いて来ていた。

 そればかりではない。ジャワ島のみならず、ジャワ島以外の国々の王たちも、軍を率いてこの大戦争に参加することを決定していたのである。セノパティたち、兵たちの準備は万端、それぞれパンダワと共に戦うつもりであった。

 すべての者たちが、覚悟を決めていた。大戦争バラタ・ユダで戦死することは、正義を護るために死ぬことであり、天界に昇れるのだと。

 プラブ・プントデウォは、プラブ・クレスノに言葉をかけた。「我らの導き手であられる王陛下よ、我らは自身の王権を取り戻したい。アスティノ国の半分を。それが我らの願いなのです。」

 スリ・クレスノ、「我が弟たる王の意向がそのようであるならば、和平のため、友愛の長く続く事のため、私自身が、かの国の半分を求めるためアスティノ国へ赴くことにいたしましょう。」

 プラブ・クレスノは、かくて自身の乗り込む馬車の用意を命じ、アスティノ国へ向かった。ラデン・スティヤキが同行した。

 スリ・クレスノを乗せた馬車は、驚くべき速さでアスティノ国を目指し、瞬く間にアスティノ国へといたったのである。


アスティノへの道は悲しみに覆われている


 プラブ・クレスノの車が横切る。道の左右に侍る人々は押し黙ったままだった。それは、彼らが生活する国々に、戦争のおとずれを示す証しであったからだ。

 村で聞こえるのは、人々の熱気でおこる風に吹かれて揺れる、ブリンギンの葉音だけであり、それはあたかも嘆きの声のようであった。恋人からの返事がもらえない恋する男のように。

 開き始めたアスティノ国の門は、パンダワの使者の到来を歓迎して手を振るように見えた。門扉が挨拶のため拝跪するように見える。木々の葉、道の左右に伸び芳香を放つチュムパカの花、それらが風に揺れ、アスティノ王妃デウィ・バヌワティが手を振っているようだ。そしてラデン・アルジュノはいないの?とプラブ・クレスノにたずねる。

 スリ・クレスノの乗る馬車の車輪の音が、装飾の煌めきに相まって、あたかも王妃に答えるかのように軋む。あなたの愛するサン・アルジュノは来ていません。彼はウィロト国に残っているのです。彼の兄弟たちもひとりも来ていないのですよと。

 道の端の樹の一枝が、風に揺れ動く。あたかもがっかりしたサン・デウィの姿のように。不機嫌に顔をそむけ、運命に思いを馳せる。なぜアルジュノは自分の国を取り戻すために、アスティノ国へやってこないのか?

 飛び交う鳥たちも、そっとさえずる。なぜ彼は来ていないの?彼、アルジュノは。風に吹かれて石に落ちた花びらもまた、あたかも来客にパンダワたちが入っていないことを残念がってるかのようだ。

 枝にぶら下がるコウモリたちは、心細げに翼をうごめかせる。彼らが話せるなら、こう尋ねたであろう。「なぜパンドゥデウォノトの息子たちは、自分たちで国を取り戻しにこないのか?」

 花を探してあちこちに飛び回る甲虫たちは、水に波紋を立て、残念がっているようだ。どうしてスリ・クレスノはアルジュノと一緒ではないのかと。石にはりついた苔たちは、アルジュノに恋して群がる女たちのだれ一人として来ていないことを、残念がっているのを知られたくないようだ。

 あまりに長く話しすぎたようだ。しかし、不穏で、悲しげ、不安な雰囲気は、道の端々から沼地にいたるまで、あたり一面に広がっていたのである。


四人の神々が馬車に同乗する


 スリ・クレスノの乗る馬車は、クルセトロ Kurusetra の荒野に入った。とつぜん、四人の神々がカヤンガンから降下し、スリ・クレスノの傍らに座した。

 その神々は、ジャノコ Janaka 神、ロモ・パラス Rama Parasu 神、カンワ Kanwa 神、そしてバトロ・ナロドである。彼らはプラブ・クレスノに言う。我らはスリ・クレスノの努めを手助けするためにやって来たのだ。

 プラブ・クレスノは四人の神々を見て驚いた。スリ・クレスノは拝跪した。神々は言った。「サン・プラブ、王よ、急ぐ必要はない。我ら四人もお供しよう。」

 馬車はゆっくりと進んだ。スリ・クレスノが、神々と話す暇をもうけたのである。そして、パンダワとコラワの争いを解決するためには、どうすれば良いのかが話し合われた。

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(つづく)




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by gatotkaca | 2014-08-19 06:19 | 影絵・ワヤン | Comments(0)