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木から落ちた猿

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ジャワ文字とアジ・ソコの物語

 ジャワ島のジョクジャカルタやスラカルタ(ソロ)の王宮(クラトン Kraton )を訪れると、建物や門などにジャワ文字がしるされている。また街中の通りの名もラテン文字とジャワ文字で表記されていることがある。ジャワ文字は基本の文字が20あり〈デントウィヤンジョノ Dentawiyanjana 〉、これに母音符号〈サンダンガン Sandangan 「衣装」を意味する〉や複合子音、子音変換、句読点等々の符号がつく。以下に基本の20字を載せる。
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      http://commons.wikimedia.org/wiki/File:Hanacaraka-jawa.pngより〉


 日本の「いろは歌」がパングラム*であるのと同様、ジャワ文字の「ホノチョロコ」もパングラムになっていて20文字をこの順で並べると短い物語になる。5文字づつ区切って四連、一連は2+3音節からなる。
* pangram=パングラム (pangram) は、アルファベットを使用する言葉遊びである。ギリシア語で「すべての文字」という意味がある通り、すべての文字(26個のアルファベット)を使い文章を作るのが目的である。同じ文字を複数回使用するのはよいが、短い文章の方がよい。あるいは、少し長くても他に意味のあるものは評価される。

ホノ・チョロコ Hana caraka 二人の使者がいた
ドト・ソウォロ data sawala 互いに対立した
ポド・ジョヨニョ padha jayanya (彼らは)(戦いにおいて)力が拮抗していた
モゴ・ボトゴ(ngaは鼻濁音) maga bathanga これこそ(彼らの)遺体である

 各々の語の詳細は:

hana / ana =ada ある
caraka = 使者(直訳すると「信頼された者」)
data = 持つ
sawala = 違い(不一致)
padha = 同じ
jayanya = “力”
maga = “これこそ”
bathanga = その遺体

となる。
 このホノチョロコの物語の元ネタとしてアジ・ソコという物語があるので紹介する。もっともホノチョロコとアジ・ソコのどちらが先に成立したのかはよくわからない。ホノチョロコがあって、それに合わせてアジ・ソコ物語ができたという可能性もある。ともかく、アジ・ソコとは次のような物語である。http://id.wikipedia.org/wiki/Aji_Saka による〉

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アジ・ソコ Aji Saka

 アジ・ソコとはジャワの伝説で、アジ・ソコという名の王によってジャワの地に文明がもたらされたという物語である。この物語はジャワ文字の神話的起源を物語るものでもある。

起源
 アジ・ソコはブミ・マジェティ Bumi Majeti の出身といわれている。ブミ・マジェティ自体は神話上の国であるが、アジ・ソコはジャムブドゥウィパ Jambudwipa(インド)のシャカ族(スキタイ)の出身であるとする解釈もある。というのもアジ・ソコとは『シャカの王 Raja Shaka 』を意味するからである。この伝説はジャワ島にダルマ Dharma (ヒンドゥー・ブッダの教えと文化)が到来したことを象徴している。しかし、ソコ Saka という語がジャワ語の saka あるいは soko に由来するという解釈もある。この語は重要、基盤、起源といった意味を持っている。であるから、この名は『起源たる王』、また『最初の王』を意味するということになる。この神話はジャワ島を支配していた邪悪なラクササ(羅刹)王を打倒し、この島に文明、秩序、規範をにもたらした英雄の降臨を語る。またこの伝説では、アジ・ソコが釈迦暦(Tahun Saka )を制定し、ジャワでヒンドゥー暦を採用した最初の王であることにも言及している。メダン・カムラン Medang Kamulan 王国をモデルとしているか、あるいはメダン王国の歴史記録と関連があると思われる。

概略
 ジャワ島が釘うたれてすぐには、〈 dipakukan 釘を打つ。大地は釘を打たれて生ずる〉まだその島は人の住める状態ではなかった。最初にこの島に住んだ者たちはデノウォ Denawa (ラクササ)族であり、彼らは邪悪で、人を食うことを好む者たちであった。この島の最初の王国はラクササ王プラブ・デウォト・チュンカル Prabu Dewata Cengkar の統べるメダン・カムラン Medang Kamulan であった。このラクササ王は独裁者で、国の民、人間を食うことを常としていた。

 あるとき、アジ・ソコという賢い若者が、独裁者プラブ・デウォト・チュンカルを倒すためにやって来た。アジ・ソコはブミ・マジェティの出身であった。ある日、彼は二人の家臣ドロ Dora とスムボド Sembodo にジャワ島へ赴くことを伝えた。彼が出発した後に、アジ・ソコの宝物を守るようにと命じて。アジ・ソコ以外の者、誰一人としてそれを開けてはならない。ジャワに着いて、アジ・ソコはメダン・カムランの都を目指した。そしてデウォト・チュンカルに挑んだ。激しい戦いののち、アジ・ソコはついにプラブ・デウォト・チュンカルを南の海(インド洋)に追いやることができた。しかし、デウォト・チュンカルはまだ死ぬことはなく、バジュル・プティ Bajul Putih (白いワニ)に姿を変えたのであった。かくてアジ・ソコはメダン・カムランの王となったのである。

ラクササ蛇の物語
 あるとき、ダダパン Dadapan 村のある老女が、卵を見つけた。彼女は米倉に卵をおいた。しばらくすると卵は消え、代わりにその倉の中には巨大な蛇が一匹いた。村人たちが蛇を殺そうとすると、不思議なことにその蛇がしゃべった。「私はアジ・ソコの子です。彼のもとへ連れて行ってください!」かくて彼は王宮へ届けられた。アジ・ソコは、その蛇が南の海のバジュル・プティ〈白ワニ〉を敗り、殺すことができたなら息子として認めよう、と言った。蛇は承知し、双方とも驚くべき強さで、激しく戦い、ついに蛇は白ワニを殺したのであった。
 約束通り、蛇はアジ・ソコの息子として認められ、ジョコ・リンルン Jaka Linglung (愚かな男の子)と名付けられた。ジョコ・リンルンは王宮で飼われている生き物をみな餌食にしてしまった。王は罰として彼をプソンゴ Pesanga の森に追放した。身動きできないように縛り付けられ、口に入ったものは何であれ食べなければならない、とアジ・ソコは言った。
 ある日森で九人の男の子が遊んでいた。にわかに雨が降り、彼らは雨宿りの場所を探した。幸いにも洞窟を見つけ、八人の子がその中に入った。皮膚病を病んでいる一人は一緒に入ることを拒まれた。とつぜん洞窟は閉じて出口がなくなった。八人の少年たちは洞窟の中に消えてしまった。それはまさしくジョコ・リンルンの口であったのだ。

ジャワ文字の起源
 アジ・ソコがメダン・カムランの王となってしばらく後、彼は故郷のブミ・マジェティに使者を送った。忠実なるドロとスムボドに、彼の宝物をジャワへ届けさせるよう伝えたのである。使者はドロと謁見し、アジ・ソコの意向を伝えた。ドロはアジ・ソコの命令を伝えるためスムボドを呼んだ。スムボドは宝物を渡すことを断った。というのも「アジ・ソコ自身以外の者はその宝物を手に取ってはならない」という彼の命令を覚えていたからである。ドロとスムボドは互いに相手が宝物を盗もうとしているのではないかと疑い合った。ついに戦いとなり、力は拮抗して二人とも死んでしまった。いつまでたっても宝物が届かないので、アジ・ソコは不審に思い、ブミ・マジェティに帰った。アジ・ソコは二人の忠実なる家臣たちの遺骸を見ておどろき、ようやく二人の間に誤解が生じて悲劇が起こったことを知った。二人の家臣の忠誠を記念して、アジ・ソコは詩を作った。それがジャワ文字のホノチョロコ hanacaraka となった。

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 アジ・ソコ伝説のシムボリックな意味を解説した記事があったので、ついでに紹介しておく
 http://www.joglosemar.co.id/hanacaraka/hanacaraka.html による〉

アジ・ソコ伝説のシムボリックな意味
1. ブミ・マジェティ Bumi Majeti からの人。マジェティ Majeti は次の頭文字からなる。
  Ma = Keterima(受け入れ)
  Jet = Grenjet (誠実な願い)
  Ti = Pangesti (厳粛な祈り)誠実な願いをもち、厳粛な祈りを捧げる人は神に受け入れられるということを意味する。
2. アジ・ソコ Aji Saka にはドロ Dora とスムボド Sembodo が仕えている。
  神の被造物たる人間はつねに二つの性質を持つことを意味する。
  悪しき性質=ドロ、善なる性質=スムボド
3. 彼はジャワへ赴く。
  ジャワ:つねに神を信奉する賢者は、彼によって護られてある。
  プソコ:家宝、また聖なるもの。
4. メダン・カムラン Medang Kamulan
  カムラン Kamulan はMula=始まり。
  生の始まりを創りし創造主を信奉するところ。
5. ダダパン村の女が卵を米倉に入れる。卵は消え、蛇が現れる。
  この段は成人女性が妊娠していることを象徴し、赤子が生まれる。
6. 蛇/赤子が父であるアジ・ソコのもとへ連れて行かれる。
  赤子は親の保護を受けなければならないことを意味する。
7. 子が白ワニを殺し、ジャコ・リンルンJaka Linglung (愚かな男の子)と名付けられる。
  この段は次のように解される:
  子供は成人前であり、彼がリンルン(愚か)であるのは親に依存していることを意味する。
  彼は白ワニを殺し、自身の生を統べる自立した人間となる。
  デウォト・チュンカル Dewata Cengkar :自身の生を統べることのできないまま育った者は、親を悩ませる者となる。
8. ジョコ・リンルンは森に捨てられ、頭を動かすことができないほどきつく縛られる。これが象徴するのは:
  彼は自身の食料と必需品を探す。これは彼が働くことを意味する。彼は必要を満たすため頭脳を駆使する。プソンゴ Pesanga の森のプソンゴは9を意味する。
  彼は世界の八方、どこでも働くことができるが、あることを忘れてはならない。それは神の祝福である。それ無くば、物事はうまく運ばない。
9. 9人の少年たち。病に冒され汚れていた一人は洞窟に入ることを許されなかった。
  生きるために必要とされるすべてのものは、善き行いの成果であらねばならない。汚れたものは禁じられる。

デントウィヤンジョノ dentawiyanjana (20の文字)の象徴的意味
ホノチョロコ Hanacaraka :使者がいた(カップル=創造主たる神の創りたまいし男と女)
ドトソウォロ Darasawala :彼らは命令を果たす力を持つ
ポドジョヨニョ Padajayanya :双方とも同等に勝者たり得る。彼らは互いに協調して生きる
モゴボトゴ Magabatanga :彼らは神にすべての意志を捧げている。その魂と身体は神(スマラ Sumarah )に属している
 これは人間の生の始まりとその存在を象徴しており、すべては神聖である。事象はイ、エ、オ、ウといった文字を付加されることで変化する。これらの文字はジャワ語では「サンダンガン」(衣装)と名付けられる。

 子供が成人する。彼らは肌と肌の触れ合い(性的関係)の喜びを感じ始める。彼らは病や災いをもたらす邪悪な所行、不正、欺瞞、欲望、貪欲、残酷性をふつうに繰り返す。多くの人々は、目、鼻、口、耳、肌をとおして五感を展開している。彼らは純粋なる生を忘れているがゆえに、その命の光はぼやけて、不明瞭になってしまっている。彼ら人間は寒さや暑さの中で生活しはじめ、そこには悲しみや幸福がある。さらなる罪と災厄を防ぐため、生命の規範(パウグラニン・ウリプ Paugeraning urip )が導入された。それで人々は彼の創造主を忘れないように願い、彼に従って振る舞うことを望んだ。とりわけ結婚、家族の責任、人間関係その他において。

 人間は神に祈らなければならない。それは神を信奉し、それを五感に命ずるということを意味する。

 人間はときおり断食をしなければならない。それは神の定めであり、五感をコントロールすることを意味する。

 五感の欲望は自身と他者に有益な行為にのみ向けられるべきなのだ。

 デントウィヤンジョノの「サンダンガン」(衣装)は悪の誘惑を表している。

 邪悪な誘惑である「サンダンガン」を捨て去ることができるなら、生の浄化を求めることは容易くなる。この哲学を示すジャワ語の専門用語が「グラチュト・ブソノ Ngracut-Busono 」(ngracut = 脱ぎ捨てる;busono = 衣装)なのだ。

注:書物において、ジャワ文字は左から右へ引かれた線の下に書かれる。これはジャワ人が控えめな人 low profile people であることを象徴している。

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 ワヤンの世界にもアジ・ソコの物語があるようで、エンシクロペディア・ワヤンにはアジ・ソコが立項されている。

アジソコ Ajisaka

 ワヤンでは、神々のプソコ(聖なる武器)の制作者であるエムプ・アンガジャリ Empu Anggajali の子である。エムプ・アンガジャリの仕事は神々を満足させたので、バトロ・グル Batara Guru はスラティプロ Suratipura という名の王国を賜わした。しかしその国は長く続かなかった。あるときスラティプロは敵の攻撃によって壊滅した。深刻な事態に、エムプ・アンガジャリは息子アジソコにジャワ島へ行くことを命じた。
 アジソコが来たとき、ジャワ島の人々は圧政のもとにあった。彼らの王は、名をデウォトチュンカル Dewatacengkar といい、人を餌食とするのを好んだ。国の住民たちを助けるため、アジソコはサン・ラジャ〈王〉と対峙し、ひとつの条件が満たされれば、餌食になると提案した。アジソコの魂の代価として、彼の頭巾と同じ広さの土地を与えるように、と。願いは聞き届けられた。
 望みの土地を測るため、彼らは王宮の広場に出た。アジソコは頭巾を外し、地面に広げた。地面に広げられると、頭巾はどんどん広がり続けた。頭巾がどんどん広がっていくので、プラブ・デウォトチュンカルは押しやられた。ついには南海の崖まで退き、デウォトチュンカルは落ちて死んでしまった。
 かくてジャワ島の人々に推挙され、アジソコは王となり、プラブ・ウィドヨコPrabu Widayaka またプラブ・イソコ Prabu Isaka と称した。
 アジソコの物語は上記のものだけでなく、民間の伝説や他のワヤン諸本も存在するが、ラコン lakon〈演目〉として上演されることはほとんどない。
 ある民間伝承によれば、アジソコがジャワ文字「ホノチョロコ」を創ったのだという。さらに、ジャワ民族の一部では、アジソコが今日のジャワ民族の祖であるといわれている。

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 ラコン「アジ・ソコ」のワヤンでの上演はまれのようだが、ワヤンでアジ・ソコの父とされているアンガジャリは、ワヤンの著名人物ガトコチョと関わるエピソードを持っており、「ガトコチョの誕生 Lahire Gatotkaca 」に登場するようだ。牙持つラクササ〈羅刹〉姿で生まれたガトコチョは、天界を脅かす魔王との対決を要請され、鍛えられるべく天界の火山チョンドロディムコ Candradimuka に投げ込まれる。その際、ガトコチョの世話をして彼に超能力を授けるのが天界に迎え入れられていたアンガジャリだという説がある。
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by gatotkaca | 2014-02-25 16:28 | 影絵・ワヤン | Comments(0)