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木から落ちた猿

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2013年 05月 30日 ( 1 )

ワヤンとその登場人物〜マハバラタ 第33章

33.アルジュノはドン・ジュアンではなく偉大なサトリアである

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 アルジュノには多くの誤解がつきまとっている。いわく彼は「thukmis bathuk klimis 〈優男・女のような美男子〉」である。ドン・ジュアン Don Juan 〈ドン・ファン〉である等々。アルジュノは実際にはドン・ジュアン、つまり美女に目がない「mata kerajang 〈女たらし〉」とは言えない。なぜか?ワヤンというものは「象徴的言語」であり、実際の歴史を演じるものではないからである。それは「非物質・非外面的 tan wadag 」な霊的性質を持つものなのだ。であるから、これを外面的に捉えてはならない。ワヤンとは我々自身の「人生・生命の言語」なのである。
 アルジュノ Arjuna とは「ジュン jun 」つまり花瓶の中の「清水」を意味する。彼は花瓶の中の清水のように、清く澄んだ思考を持つ人(魂)の象徴である。
 彼は別名クントディ Kuntodi という。これは「強力で鋭い矢」を意味する。彼は超能力の矢よりも鋭く強い思考と魂を持つ人の象徴である。彼はいかなる試練であっても「優れて cum laude 」、完璧にこなしてみせるのである。「サン・グル・ドゥルノ」が彼をおおいに愛し、たくさんの者たちが彼にあこがれたのも当然であろう。
 彼はジャノコ Janaka とも呼ばれる。この名は「ジョノ Jana 」と「コ ka 」の語からなる。ジョノとは人間を意味し、コとは男の道・法を意味する。つまりジャノコとは「男の中の男たる人」を意味する。そこから「トゥカン・ムヌンルカン tukang menurunkan 」〈語意不詳;あちこちで子どもをつくる者、種馬の意か?〉という意味も生じて来るのであろう。しかし彼の「男らしさ」というものは単に生物学的な意味だけではなく、その本質、行動の男性性を意味している。だから彼は「lelananging jagad 〈世界の守護者〉」とも呼ばれるのである。
 人間であれば男は女を妻にする、各々のジャノコ(男)は娘(女)を娶る。哲学の世界では女は神聖な力(クサクティアン)の象徴である。ジャノコ、つまりリンガ Lingga 〈男性の象徴〉はその力を形成する聖なる力クサクティアンと分ち難いものなのである。ジャノコ(リンガ)とは男性原理であり、サクティ〈シャクティー〉(ヨーニ)とは女性原理である。
 英雄、戦士が勝利の際に、ビンタン・サクティ〈勲章の星章 bintang sakti〉や花輪をつけるのも同様である。ワヤンの世界では、ジャノコ〈アルジュノ〉の花輪や星章は、女性で表される。つまりイストリ istri 〈妻〉という言葉、アルジュノという名は、彼の聖なる力と地位を示しているのである。
 上記の他にアルジュノはカリティ Kariti =天界カヤンガンの王、ウィバツ Wibatsu 、グドケソ Gudakesa =偉大な超能力の戦士、チプトニン Ciptaning =清らかなる苦行者といった別名を持つ。昔の時代にも名刺というものがあったなら、よほど大きな名刺がないとその名が入りきらないほどだ。つまり彼は偉大な超能力の偉丈夫である。母ならば、このようなサトリアらしく、男らしく、超能力にあふれた天才児を我が子に欲しいと誰もが思うのではないだろうか?
 アルジュノとひとつ屋根の下で共に暮らした妻は、美しく、優しい、母性にあふれたスバドゥラ 〈スムボドロ〉、美しく魅力的なスリカンディ(Sri =幸運、富、kandi =米のある所=幸運・富のある所)、物腰柔らかく愛情にあふれたララサティ Larasati である。妻とは母性、仲間、そして愛情の役割を担う存在ではないだろうか?アルジュノが多くの武器を持っていることは言うまでもないだろう。彼はパソパティ Pasopati (強欲の破壊者の意)を持つ。アルドデダリ Ardadedali =誘導ミサイル、プラングニ Pulanggeni (炎のように焼くもの)も持つ。彼は正確かつ精密なる狙撃手である。
 ワヤンの時代に賞状や勲章があったなら、彼の肩や胸は勲章やたすきや首飾りや腕章で埋め尽くされていただろう。そして彼のクローゼットは賞状とカップでいっぱいであったことだろう。しかし彼は何も身に付けない。アルジュノのワヤン人形はすっきりしていて、装飾品や飾りは何も無い。それゆえに美しいのだ。
 アルジュノは礼節ある偉丈夫で、超能力にあふれた英雄なのである。

1976年3月21日  ブアナ・ミング
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by gatotkaca | 2013-05-30 20:25 | 影絵・ワヤン | Comments(0)