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木から落ちた猿

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2013年 05月 16日 ( 1 )

ワヤンとその登場人物〜マハバラタ 第22章

22. デウィ・クンティ、処女にして子を得る
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 大叙事詩マハーバーラタを調べてめくっていると、物語の登場人物たちがそれぞれに、さまざまな経験をし、各々の使命を担っていることが見て取れる。クンティという人物についてもそうだ。
 デウィ・クンティという人物は、物語の流れに合わせてさまざまな顔を見せる。
 この多様性は、マハーバーラタ自体のさまざまなヴァージョンや解釈の問題を抜きにしても、分析に値する興味深いものだ。
 クンティは本当はヤーダヴァ Yadawa 族のスロロジョ Suraraja 王〈シューラセーナ〉の子であったが、後にクンティウィヨソ Kuntiwiyasa 国のクンティボジョ Kuntiboja 王の養子になった。彼女は勤勉な子であった。クンティボジョ王がドゥルウォソ Druwasa (ブラフマン)の訪問を受けた時のことである。
 ドゥルウォソはしばらくの間、クンティボジョ王の客として王宮に滞在した。ドゥルウォソの滞在中、クンティが彼の世話係となった。その働きが良かったので、彼のブラフマンは彼女に望んだ神を『呼ぶことのできる』マントラ〈呪文〉を賜った。
 この機会を逃さず、マントラの効果を確かめたくて、クンティはヒワン・スルヨ Surya 〈太陽神〉を呼んだ。この『招待』の結果、クンティは処女にして妊娠するにいたった。神の助けにより、クンティはその男の子を耳から産んだ。かくてその子はカルノ Karna 〈耳を意味する〉と名付けられた。
 クンティはパンドゥの妃になる前に、子をもうけていたのである。しかしクンティは処女のままであった。
 サン・パンドゥは二人の妃を持った。デウィ・クンティとデウィ・マドリムである。呪いを受けてパンドゥは二人の妃に『触れる』ことができなくなってしまった。パンドゥは子どもが欲しいと妃たちに告げた。デウィ・クンティは彼女の持つマントラの助けを借りて子をもうけることを提案し、パンドゥは承認したのである。
 デウィ・クンティは次々と神々を呼び、ダルモ Darma 神との間にユディスティロ Yudistira を、バユ Bayu 神との間にビモ Bima を、そしてインドロ Indra 神との間にアルジュノ Arjuna をもうけた。
 クンティは第二夫人のマドリムにもドゥルウォソから賜ったマントラを使わせた。デウィ・マドリムはアスウィン Aswin 双神を呼び、双子の息子ナクロ Nakula とサデウォ Sadewa を産んだ。それから間もなくパンドゥはこの世を去ったのである。
 四人の神々との関係をみると、クンティが聖処女 hiperseks 〈性を超越した人〉であるように思える。クンティは神と性的関係を結ぶこと無く受胎したように思えるからである。 
 パンダワ(パンドゥの五人の息子たち)がクロウォとの賭博に敗れて、森へ追放されたとき、クンティはウィドゥロ〈ヨモウィドゥロ〉に預けられることを拒んだ。彼女は息子たちと一緒に戦い、一緒に苦しむことを望んだのである。パンダワとその母は共に森の中を放浪した。これはクンティが英雄の母として精神的な強さを持っていたことの証である。彼女は息子たちと離れることを望まなかった。
 森の中で、パンダワとクンティたちは穏やかに暮らした。彼らが眠る時は、ビモ一人が起きていて、母と兄弟たちを見守ったのである。近くにいたラクササ〈羅刹〉の兄妹が人間の臭いを嗅ぎつけた。二人のラクササは彼らを害そうとしていたのだ。
 ラクササのアリムボ Harimba は妹のアリムビ Harimbi (女ラクササ)に餌食、つまりパンダワとクンティの居場所に忍び入るよう命じた。六人を目にし、アリムビはビモが立派なのを見て一目惚れしてしまった。彼女は兄に報告するのをやめ、美しい女に変じてビモに結婚してほしいと頼みこんだ。
 これを見たアリムビはおおいに怒った。パンダワたちを皆殺しにしようとしたアリムボはビモに殺されてしまった。ビモはアリムビも殺そうとした。
 恐れおののいたアリムビはクンティに助けを求めた。クンティはアリムビを庇い、ビモにアリムビを受け入れてやるように説得した。母を敬愛するビモは彼女に従い、アリムビとの結婚を承諾した。この結婚でガトコチョ Gatotkaca が産まれる。
 アリムビを助けたあと、クンティはエコチョクロ Ekacakra のブラフマン夫婦を息子のビモに助けさせた。そのブラフマンはボコ Baka というラクササに害されようとしていたのだ。クンティは彼らをかくまい、助けてやるようにと息子に言った。かくてビモがワクササのボコを殺した。
 これらのエピソードは、クンティが進んで人助けをする性格であることの証である。

 バロトユドが終わり、パンダワは勝利した。クンティは息子たちを育てる母としての仕事が終わったと感じた。彼女は森に隠遁し、夫へ捧げる瞑想の生活に入った。天界カヤンガンで夫サン・パンドゥと再会することができるようにと。
 ここではクンティは来世でも共に暮らせることを望む、夫に忠実な女性としての性格を見せている。いっぽうではマントラを使って神々を呼び寄せた彼女がである。
 マハーバーラタに描かれたクンティの人物像は、さまざまな側面を見せて、理屈だけで捉えることは難しい。しかし彼女はマハーバーラタでそのように描かれ、物語の中に生きているのである。

1970年1月15日 ブアナ・ミング
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by gatotkaca | 2013-05-16 00:19 | 影絵・ワヤン | Comments(0)