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木から落ちた猿

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2012年 04月 09日 ( 1 )

カカウィン・アルジュノ・ウィウォホ その3

詩編1

どうか災いのなきように!

1.  最上の真実を手にした聖なるパンディト〈僧侶〉は、地上に幸福のないことを知る
   世俗的なるものを好む故無く、彼は世を捨て去った
   完全性、名声、そして大いなる力こそが彼の目的であり、全世界の幸福が彼の望み
   彼はサン・ヒャン・プンガラン・ドゥニア Sang Hyang Pengarang Dunia 〈世界の創造主〉1) から幕に隔てられて、穏やかである

1)Ia sentosa, terpisah layar dari Sang Hyang Pengarang Dunia:意味するところは、ここでのラヤル layar 〈幕〉とはおそらくワヤン・クリのクリル kelir 〈スクリーン〉のことであろう。ダラン dalang 〈人形遣い・語り部〉と幕で隔てられている人とは、観客のことである。この修辞の意は、「彼はプンガラン・ドゥニア〈世界の創造主=シヴァ〉の手の中の人形ではなく、『人生というワヤン〈劇〉』の観客であり、平穏に到達し、世俗の支配から解き放たれた者である」ということになるであろう。

2.  その行為に対して、私は王に拝跪する
   それこそカヤンガン〈天界〉でのサン・パールタ〈アルジュナ〉の勝利を描く前にふさわしい賞賛
   さあ語りはじめよう、バタラ・シャクラ Batara Syakera 〈インドラ〉は悪徳と災いに脅かされていた
   それはニヴァータカヴァチャ Niwatakawaca という名の勇猛なるラークシャサ王

3.  メール山の南の方に彼は都をかまえ、1)天はその滅亡を望んでいた
   さて、彼は神、ヤクシャ yaksa 、そしてアスラ asura 2)によって、その身が殺されることはない、という恩恵を受けていた
   「超能力の人間があれば、汝はよくよく気をつけるのだ」、このようにバタラ 3)は命じた
   ショルガロカ Sorgaloka 4)で、恐れをなす全てのルシたちは相談を続けた

1)Kota:元の意味は、支配する場所。2)yaksa :半神。asura : ラークシャサ。3)Batara : ここでのバタラは最上神、シヴァ Syiwa である。4)Sorgaloka : 写本ではスワルガ Swarga 、しかしここではショルガロカとする。というのも現代でのショルガ(イスラム教やキリスト教での理解)は古代のショルガとは異なるからである。また章句のイラマ irama 〈韻律〉からもこの方が良いと思われる。

4.  秘密の会合で、バタラ・インドラは死をもたらす方法について語った
   それは、彼の敵を殺すためには、超能力の人間の手助けを求めなければならないとのことであった
   耳にしたばかりの知らせによれば、サン・パールタが戦場においてつねなる勝利を願って苦行のうちにあるという
   彼がすでに褒美を見出したなら、彼を呼び出すのだ、しかし苦しみを経ないで恩寵を賜ることはむづかしい

5.  欲望に染まれば、すべての呪文は空しい
   つねにシヴァ Syiwa 神のみを心に思い浮かべるなら、バタラ・イシュヴァラ Isyuwara 〈シヴァ〉は豊かな愛を与えてくださる
   地上の滋味から魂を解き放たなければならない
   聖なる輝き、内なる幸福の喜びを繰り返し味わうようにせねばならない
   マハーヨーギ mahayogi 1)の段階に到達しようとする望みと異なるところは僅かである


6.  ヒアン Hiang 〈神〉を恐れるゆえに、インドラはサン・パールタに決めることができなかった
   それゆえ、彼を試し、サン・アルジュノの心を見極めようとしたのである
   その心が弱く、失望したならば、手助けは他の者とする
   誘惑を受けても、その徳がたかければ、心の強さを証すことができよう

7.  名高きビダダリがタパ tapa 〈苦行〉とブロト berata 2)を粉々にする
   彼女たち大勢から、生まれついての彫刻のごとき七人が選ばれた
   その容貌の美しさに言葉もないティロッタマー Tilottama〈宝石〉
   そしてスプラバ Superaba 、この二人が最上の者である
   ならぶに相応しい者は無く、二人はデワ・アスマラ Dewa Asmara の妻、デーヴィ・ラティー Dewi Ratih よりも美しい

1)Mahayogi : 偉大なるヨーギ。ヨーギとは、内心の幸福に到達するためにヨーガを行う人。2)berata : 断食

8.  彫刻のごとき彼女らは、神々の心を奪う
   すでにして完璧、彼女らは敬意を表して神々を三度まわる
   ヒアン・ブラフマ Berahma はいそいで四つの顔となり
   そしてバタラ・インドラは目がたくさんになる
   彼らは臆し、ここにいるビダダリと、つり合わないと感じて後ろを向く

9.  ビダダリたちは拝跪し、バタラ・インドロは受ける
   「やあ、娘よ、アルジュノの心を試すのは、そなたらの美しさにまかせよう
   彼の妻、スバドラ Subadera とラトナ・ウルピー Ratna Ulupui は美しさで名高い
   そなたらは十度にわたってその美しさで負けぬように

10. 雨がふりそそがねばアンサカの花は美しくならない
   天中に月が輝かなければ心は魅かれない
   そして咲いたばかりのガドゥン〈山芋〉の花は、摘み取られて芳香が渦巻く
   ヒアン・カーマ Hiang Kama をしのぐ、そなたらの美しさを慎むのだ」

11. ヒアン・シャクラの言葉はそのようであり、拝跪したビダダリたちは、かくて飛び去った
   彼女らはそよ風のように飛び、すばやく目指す所に到着した
   たくさんの少女たちが加わって、遠くから彼女らについて行った
   インドラキラ Inderakila 山が見え、だんだんと近づいていった

12. 到着は朝であり、冗談を言い合い、陽気に歩む
   チュマラ cemara 〈もみの木〉が山の斜面に揺れ、ビダダリたちを見て敬意を表する
   カユ・マニス kayu manis 〈シナモン〉が物憂げに見え、その葉はすばらしい
   ビダダリたちの唇の赤さに不満なのか、マニスは言葉もない

13. 森の樹々は雲に覆われ
   すべては霧にもうろうとしている
   黄色の花は、青白く見え、蜂の羽音はするが姿は見えない
   輝く二羽の孔雀が尾羽を広げ、枯れた白檀の樹の前に立つ

14. 苦行所の扉は白い石
   客を歓迎して笑う
   ビダダリたちは美しい縁取りを見て歓喜する
   しかし、その重さが彼女たちの心をふさぎ込ませる
   曇天から 太陽の光が差し込み、大空に虹が掛かり、ビダダリたちを慰める

15. 険しい谷間の上に岩が滑り落ちる
   その中は奈落のようだ
   谷の中には河が流れ、流れの下に砂石が流れる
   空に赤トンボが飛び、トンボたちが群れ飛ぶ
   樹々がその枝を伸ばし、ゆるやかに手招きする

詩編2

1.  その山はアジャル ajar 1)のよう、霧の上着を着て、スクン sukun 〈パンの樹〉の帽子を被る
   竹は河にしなだれ、水に触れそうで、その蕾は祈りを捧げる人のよう口と顔を洗う
   樹々は生い茂り、その実は道行く人の糧となる
   その気根はほっそりと伸びて垂れ下がり、訪れた者たちに敬意を表する

2.  森にはカパット Kapat 月の初めの雨にあった人のための宿がある
   その壁は清潔で、クティラ ketirah の花が飾られ、目を引く
   テジャ teja の樹が花をつけ、束ねられて耳飾りとなる
   ブングル bungur 〈百日紅〉とアンサナ〈もみの木〉の樹が競い合って伸び、花をつけ、見る者を魅惑する

3.  初めての道のりに疲れたビダダリたちはアーシュラマ asyrama 2)を見る
   彼女たちはサン・アルジュノに報いようとする
   花をつけたガドゥン gadung の小枝は密林の美しさの中にすべて見えて、愛欲の使者となる
   その心は弱まり、アスマラ Asmara 〈愛〉の超能力に悲しむ

1)Ajar : ルシ resi 〈僧侶・阿闍梨〉1-5、5-2を見よ。2)Asyurama : 苦行所

4.  アンサナの樹の下に石があり、そこでビダダリたちは足を組み、座る
   その石には葉や苔が憩い、美しい
   近くにはマンゴーの実が落ち、疲れた御身に水を恵む河もさほど遠くない
   アプサリ apsari 1)たちはすっかり喜びに満ちて見えた

1)Apsari : ビダダリ

5.   彼女らはあわてて座り、仲間につまづくその足に怒る
    水に足を浸す者あり、かわいいふくらはぎを揉む者もある
    顔を洗う者もあり、ゆるゆると水をすくう者、河を直す者もある
    彼女らは水に姿を映し、媚態を研究する

6.  彼女らははしゃぎながら、体を揉みほぐす
   サン・アルジュナのもとへいつ行こうかと話す
   太陽が沈み、月が輝きはじめたら、と
   それこそが合図、そして彼女らはその時を待って
   たわむれ、おしゃべりする

詩編3

1.  アプサリたちは皆で決めた
   太陽がほとんど沈み、彼女らも
  侍女たちの手助けで華やかに着飾る
   彼女らは異なる装いで、同じ装いは二つと無い
   その美しさは芳香を放つマンゴー、砂糖水、お菓子のように甘やかだ

2.  皆は出立し、サン・アルジュナの苦行所の扉の前に立つ
   その三尋〈ひろ=1.8m〉前で、ビダダリたちは立ち止まり、身を隠す
   ワリカダプ walikadap の葉の流れる渓谷に近い西の扉で
   命令に従って、苦行者をくじけさせるために入って行く

3.  洞窟の中に人はおらず
   供物の花はしおれ、香入れは輝きを失っていた
   静寂につつまれて、その場所は長い間洗われることなく、庭は厚い草で覆われていた
   ビダダリたちはサン・アルジュナを捜す
   中に入り、彼を見て驚く
   彼は黄金の彫像、大きな満月のよう、光輝いている

4.  彼はすでに完全なる瞑想 1)に入っていた
   何ヶ月も神を呼びつづけ、ついに光輝く身となったのだ
   足を組み、手を組み、鼻先をじっと見つめる
   もはや魂は地上に無く、音も聞こえず、死んでいるかのようだ

1)semadi : 精神集中。

5.  ビダダリたちは、彼をたやすく誘惑できると思った
    彼女らの美しさを見れば、心穏やかではいられないにちがいない
   彼女らは椰子の樹よりも高い山を知らない
   瞑想の幸福が、愛欲を超えることもまた

(つづく)
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by gatotkaca | 2012-04-09 17:16 | 影絵・ワヤン | Comments(0)