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木から落ちた猿

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アルジュノの生涯 その4

 ジャノコ Janaka の名にふさわしく、アルジュノは数多くの妻を持つ。ジャノコとは「ジョノ Jana 」と「コ Ka 」の語から成り、「ジョノ」とは人間を、「コ」は男らしさ、男を意味する。アルジュノが多くの妻を持つのは、個人的な関心もあるが、パンダワ一族の将来のため、またひとりの人間としての生の段階を登るためでもあるのだ。

 アルジュノがブガワン・ウィラウクの娘デウィ・ジマムバンと結婚したことで、彼は「ジャエン・カトン」香料の壷を手に入れることとなる。「ジャエン・カトン」香料によって、パンダワ一族はムルタニ王国の秘密をあばくことができたのである。そしてアルジュノが、ムルタニ国王プラブ・ユディスティロの娘、デウィ・ラトリと結婚することで、マドゥコロ国と不可視のムルタニ王国を手に入れ、不可視であった王国は本来の姿を取り戻し(普通の人の目に見えるようになり)、パンダワ一族はそこにアマルト国を建国することができたのである。

 ティ・コロカシプ Patih Kalakasipu との戦いで瀕死のアルジュノを助けたヨソロトYasarata の苦行所のルシ・カンウォ Resi Kanwa は、アルジュノとブガワン・カンウォの一人娘、デウィ・ウルピ Dewi Ulupi (デウィ・パルピ Dewi Palupi とも呼ばれる)を結婚させた。これはアルジュノが、ビモとデウィ・アリムビ Dewi Arimbi の息子のへその緒を切るために、バトロ・グルから神与のプソコを借りようとしてカヤンガン・ジュングリンサロコへ赴いた時の出来事であった。ジャムルディポ Jamurdipa 山の麓でアルジュノはパティ・カシプと遭遇した。戦いとなり、アルジュノは敗れた。気絶してパティ・サキプに北の方角に放り投げられてしまった。ふらふらと宙を飛ぶアルジュノは、ブガワン・カンウォの超能力で吸い寄せられ、彼の膝元へ落ちたのだった。

 超能力の呪文でブガワン・カンウォはアルジュノを蘇生させ、デウィ・ウルピの夫とした。この結婚により、息子のひとりバムバン・イラワンが産まれたのである。(ラコン「ガトコチョの誕生 Lahirnya Gatotkaca 」)


 アルジュノはアンドン・スミウィ Andong Sumiwi の苦行所のブガワン・シディ・ワチョノ Bagawan Sidik Wacana の娘デウィ・マヌホロ Dewi Manuhara とも結婚した。大戦争バラタユダが勃発した際、勝利し得るために勝利のための教訓イルム・ジョヨカウィジャヤアン Ilum jayakawijayaan を求めて、アルジュノはブガワン・シディ・ワチョノに師事した。アンドン・スミウィの苦行所でアルジュノはデウィ・マヌホロと恋に落ち、ブガワン・シディ・ワチョノの祝福を得て夫婦となった。この結婚で後の日に双子の娘、エンダン・プルギウォ Endang Pergiwa とエンダン・プルギワティ Endang Pergiwati が産まれることとなる。

 ブガワン・シディ・ワチョノから、敵を征服する呪文、アジ・モヨブミ Aji Mayabumi を授けられたほかに、アルジュノは超能力の馬、チプト・ウィロホ Cipta Wilaha と馬の鞭キヤイ・パムク Kyai Pamuk も授かった。これらは大戦争バラタユダで、アルジュノが勝利するのに大きく貢献した。(ラコン「チプト・ウィロホ」)


 長く侍女の地位に甘んじていたデウィ・ララサティにもっと高い身分を与えてやりたいとの思いから、アルジュノはウドウォ Udawa がウィドロカンダンで催した嫁取り競技サユムボロに参加した。

 アルヨ・ウドウォはデウィ・ララサティの兄である。彼らはプラブ・バスデウォとマンドゥロ国の侍女ケン・サゴピ Ken Sagopi の間の子であるという話であった。ケン・サゴピがドゥマン・オントゴポ demang Antagopa と結婚した後、ウドウォとララサティは母に従ってウィドロカンダンに来て、ドゥマン・オントゴポの子として認められた。

 幼い頃よりララサティはデウィ・スムボドロと仲が良く、デウィ・スムボドロがアルジュノと結婚してからも、彼女の侍女として仕えていた。ウドウォは妹がいつまでも侍女/女官であることを望んではおらず、デウィ・ララサティがサトリアか王子の妻となってくれることを強く願っていた。かくてウドウォは、一騎打ちによる嫁取り競技、サユムボロ・タンディン saembara tanding を開催し、彼自身を敗ることのできた者にデウィ・ララサティと結婚する権利を与えるということにしたのである。ウドウォの願いを知っていたスリ・クレスノは、彼に死んだ者を蘇らせる超能力を持つウィジョヨクスモ Wijayakusuma の花を貸し与えた。かくてウドウォを負かし得るサトリアはひとりもいなかった。

 アルジュノはデウィ・ララサティが誰とも知れぬ者の妻になることに我慢できず、彼女を手に入れようとサユムボロに参加したのである。アルジュノの心の内を知っていたスリ・クレスノは、アジ・パンリムナン Aji Panglimunan の呪文を用いて、姿が目に見えないようにしてウドウォに近づき、ウィジョヨクスモの花を取り上げてしまった。決闘の末、ウドウォはアルジュノに敗れ、デウィ・ララサティはアルジュノの妻となった。この結婚で、彼らはスミトロ Sumitra という名の息子をもうけた。(ラコン「ウドウォ・サユムボロ Udawa Sayembara 」)

ーーーー注):ワヤンの物語では、デウィ・ララサティはアルジュノとの結婚で二人の息子をもうける。スミトロとブロントララス Brantalaras である。ジョクジャ・スタイルの物語では、アルジュノとデウィ・ララサティの間には子は無い。スミトロはアルジュノと、ムルタニ国のジンの王プラブ・ユディスティロの娘、デウィ・ラトリとの間の子であるとされる。


 デウィ・ララサティをデウィ・スムボドロの友人で忠実な「侍女」とだけ思ったら、それは誤りである。ララサティは戦士としても優秀で、特に弓の腕前に卓越している人である。その証拠にデウィ・ララサティは、アルジュノとデウィ・スリカンディが結婚する際、「仲人」の役割を果たしている。

 二人はアルジュノの弓の弟子として優れていた。アルジュノがデウィ・スリカンディに求婚した時、デウィ・スリカンディは条件を出した。もし自分より弓に優れている女性がいたなら、アルジュノの妻となると。この条件を満たすため、デウィ・ララサティはデウィ・スリカンディに勝負を挑んだ。この一騎打ちはパンダワ一族とポンチョロ Pancala 一族を証人として行われ、デウィ・ララサティはデウィ・スリカンディを敗ったのである。彼女は弓矢においても、戦いにおいてもデウィ・スリカンディを凌いでいた。勝負に敗れたデウィ・スリカンディはアルジュノの妻となったのである。(ラコン「スリカンディ弓を習う Srikandi Meguru Manah 」また「スリカンディの一騎打ち Srikandi Tanding 」)


 ワヤンの物語の中では、アルジュノはバトロ・ヨモディパティ Bhatara Yamadipati 〈死神〉の娘、デウィ・オントコウラン Dewi Antakawulan とも結婚する。この結婚でバムバン・オントコデウォ Bambang Antakadewa という息子が産まれる。アルジュノとオントコウランの結婚生活は長く続かなかった。というのも、デウィ・オントコウランは、デウォスラニから、まだ幼い息子を守るために死んでしまったのだ。デウォスラニはバタリ・ドゥルゴとバトロ・コロの息子である。

 デウォスラニはデウィ・オントコウランを妻にしたいと願い、母バタリ・ドゥルゴの手助けでアルジュノとデウィ・オントコウランの中を引き裂こうとした。デウォスラニは大臣のバランパティ Balangpati に、クレンドヨノ Krendayana の森で苦行をしているアルジュノを殺すよう命じた。パティ・バランパティがアルジュノに敗れたので、デウォスラニは自分でアルジュノと対決した。重代の武器アキ・バレバル・ナドゥ Akik Balebar Madu でデウォスラニはアルジュノを敗り、殺してしまった。しかし、スリ・クレスノはウィジョヨクスモの花の力でアルジュノを蘇生させた。

 スリ・クレスノとビモ、スマルそしてその息子たちは、アルジュノと共にヨモディパティの天界、カヤンガン・ヤマニ Kahyangan Yamani に向った。父ヨモディパティと共にいるデウィ・オントコウランに会うためである。彼らが到着すると、デウィ・オントコウランは男の子を抱いていた。スリ・クレスノは、その子にバムバン・オントコデウォの名を与えた。バトロ・ヨモディパティの持つ生命の水をふりかけると、その子は元気な美丈夫になった。バトロ・ヨモディパティは、アルジュノに妻と息子をマドゥコロ国へ連れて行くよう言われる。

 その途次、彼らはデウォスラニとその一党に道を阻まれた。すぐさま一騎打ちが始まる。アルジュノがデウォスラニに敗れたので、スリ・クレスノはバムバン・オントコデウォにデウォスラニと戦うよう命じた。激しい戦いとなり、デウォスラニは最後の武器、アキ・バレバル・マドゥを抜き放ち、オントコデウォ目掛けて投げつける。

 息子の身を守ろうとしてデウィ・オントコウランは、飛び上がり、デウォスラニのアキ・バレバル・マドゥに立ちふさがった。耳をつんざく轟音と共に濃い霧が立ち込め、デウィ・オントコウランとアキ・バレバル・マドゥが消え失せ、目を持つ瑪瑙の指輪に姿を変えたのであった。スリ・クレスノは、デウィ・オントコウランとデウォスラニの武器が合わさって変化したその瑪瑙の指輪をオントコデウォに与えた。武器を失ったデウォスラニは、自分の国セトロゴンドマイト Setragandamayit に帰った。(ラコン「オントコウラン」)


 アルジュノはデウィ・ジュウィタニングラト Dewi Juwitaningrat とも結婚した。彼女はもとラスクシ raseksi 〈女羅刹〉であったが、美女に変わった人である。それはこのような物語である。ヤクシプロボ Yaksipraba というラスクシが、アルジュノの美丈夫ぶりに首っ丈になった。彼女はアルジュノの妻となることを乞い願った。ヤクシプロボはギリウォノ Giriwana の苦行所に行き、超能力の賢者でラクササ姿のブラフマナであるブガワン・プラスト Bagawan Pulastha に会い、どうすればアルジュノの妻になれるのか尋ねた。

 ブガワン・プラストは言う。ヤクシプロボの願いは神の定めに逆らうものだと。ラスクシはラクササと一緒になるべきであるというのだ。ヤクシプロボは訴える。神の定めがそのようであるなら、なぜデウィ・アリムビ〈元羅刹女〉とビモの結婚は許されたのかと。デウィ・アリムビもラスクシではないか。返答に窮したブガワン・プラストは言った。デウィ・アリムビがビモと結婚できたのは、アリムビが人間の美女になれたからである。それゆえ神々も許したのだと。

 ブガワン・プラストの答えを聞き、ヤクシプロボは、ブガワン・プラストに自分を普通の人間にしてくれるよう頼んだ。ブガワン・プラストは、神から咎められることを恐れて断った。しかし、ヤクシプロボがなおも強く頼んでくるので、彼はヤクシプロボにストロゴンドマイトへ行き、バタリ・プラムニ Pramuni 〈バタリ・ドゥルゴのこと。主にスンダ地方でこう呼ばれる〉に頼んでみてはどうかと答えた。ブガワン・プラストは注意した。もしこの願いが叶えられたとしても、それは一時的なものであり、大きなリスクを伴うことは間違いないと。ヤクシプロボは言う。アルジュノの妻になれるのなら、いかなるリスクがあろうとも、受け入れるつもりだと。

 かくてヤクシプロボはストロゴンドマイトへ向かい、バタリ・プルマニに会った。バタリ・プルマニは彼女の願いを聞き入れ、ヤクシプロボは美女に変身し、デウィ・ジュウィタニングラトの名が与えられた。バタリ・プルマニはさらに手助けしてくれた。クルクマンドロ Krukmandala の森のルシ・プラマディヨ Resi Pramadya の住処でアルジュノと会うことができるように計らってくれたのである。ルシ・プラマディヨはバタリ・プルマニ自身の変身した姿であった。この結婚で、一人の男の子が産まれ、バムバン・スムボド Bambang Sembada 〈Sumbada〉と名付けられた。

 アルジュノとデウィ・ジュウィタニングラトの結婚に、デウィ・スムボドロの息子アビマニュは反対した。スマルに教えられて、アビマニュはデウィ・ジュウィタニングラトが実はラスクシが普通の人間のすがたに変じた者であると知ったのだ。アビマニュは父を説得したが、デウィ・ジュウィタニングラトの「アジ・ケマヤン Aji Kemayan 」の呪文にかかっていたアルジュノは、アビマニュの言葉に耳を傾けようとしなかった。さらにデウィ・ジュウィタニングラトの願いで、アルジュノはアビマニュとデウィ・スムボドロをクサトリアン・マドゥコロから追い出し、森の中に放逐してしまった。代わりにデウィ・ジュウィタニングラトとバムバン・スムボドがマドゥコロに迎え入れられた。

 スマルの助言で、アビマニュは変装し、ジョコ・プンガラサン Joko Pengalasan と名乗った。彼は、デウィ・ジュウィタニングラトの企みを暴き、彼女とバムバン・スムボドをマドゥコロから追い出すためにマドゥコロへ戻った。争いとなり、戦いとなった。バムバン・スムボドはキアイ・プラングニのクリスに刺されて死に、デウィ・ジュウィタニングラトもキアイ・プラングニに刺されて元のラスクシ、ヤクシプロボの姿に戻った。

 悔い改め、慈悲を乞い、ヤクシプロボはマドゥコロを去り、ギリウォノ Giriwana の苦行所に行ってルシ・プラストの弟子になった。(ラコン「ジュウィタニングラト」また「ジョコ・プンガラサン」)


 ラコン「アルジュノ・トゥルス Arjuna Terus 〈純なるアルジュノ〉」では、アルジュノはスラワンティプロ Srawantipura 国のプラブ・スケンドロ Prabu Sukendra の娘、ディヤ・サリモヨ Dyah Sarimaya と結婚する。物語は次のようなものである。ディヤ・サリモヨはまだ夫を持っていないのに妊娠した。プラブ・スケンドロは怒り、ディヤ・サリモヨに求婚して来たサトリアや王たちを思い返し、グウォミリン Guwamiring 国のプラブ・ジョトヤクソ Prabu Jatayaksa に思い当たった。 

 名誉挽回のため、プラブ・スケンドロは思いきった行動に出た。ディヤ・サリモヨを火あぶりにすることとしたのである。そして刑の実行を息子、ラデン・モヨクスモ Raden Mayakusuma と大臣パティ・コロキスモヨ Patih Kalakismaya に命じた。しかし不思議なことが起こった。ディヤ・サリモヨが火刑に処せられ、炎の中に入れられるや、炎の中にラデン・アルジュノに求愛されるディヤ・サリモヨの姿が見えたのである。炎が鎮まると、アルジュノの姿は消え、ディヤ・サリモヨだけが座している。その顔は晴れやかに笑っており、少しも炎に焼かれてはいなかった。ここに至ってプラブ・スケンドロとスラワンティプロ国の者たちは、ディヤ・サリモヨがアルジュノと愛し合って妊娠したことを知ったのである。

 いっぽうクサトリアン・マドゥコロではアルジュノが奇妙な規則を定め、パンダワ一族を驚かせていた。監視役にアビマニュとガトコチョが任じられた。規則というのは、マドゥコロ宮殿に入る者は、誰あろうとクリスやプソコを身に着けていてはならないというものであった。ビモがこの禁令にふれて不思議な目にあった。彼がマドゥコロの宮殿に入るや、その姿は女になってしまったのだ。驚いてビモはマドゥコロ宮殿から飛び出した。

 ドゥウォロワティ国のプラブ・クレスノも同様の目にあった。ウィスヌ神の化身であるスリ・クレスノは、アルジュノの身に何が起こったかを察知した。スリ・クレスノはすぐさまカヤンガン・ジュングリンサロコへ飛び、バトロ・グルに会い、アルジュノの様子を報告した。

 バトロ・グルはバトロ・ナロドにマドゥコロへ降下し、アルジュノと会うよう命じた。バトロ・ナロドはアルジュノの禁令を犯した。マドゥコロの宮殿に入ると、その身体は女になってしまったのだ。彼はすぐさまマドゥコロの宮殿を出て、カヤンガン・ジュングリンサロコへ戻り、バトロ・グルに事の次第を報告した。バトロ・ナロドと共に今度はバトロ・グル自身がアルジュノに会うために地上界マルチョポドへ降下した。

 アルジュノに会うと、バトロ・グルはアルジュノの身体の中にサン・ヒワン・ジャガド・ウィセソ Sang Hyang Jagad Wasesa (サン・ヒワン・ウェナン Sang Hyang Wenang 〈最高神〉)の魂が入っていることを知った。バトロ・グルとバトロ・ナロドはすぐさま跪き、ジュングリンサロコに戻られるよう願い出た。アルジュノの身体を去る前に、サン・ヒワン・ウェナンは、マドゥコロに参集したパンダワ一族に訓戒を与えた。そしてパンダワ一族が大戦争バラタユダに勝利するという恩寵を与えたのである。(ラコン「アルジュノ・トゥルス」また「ジャティウィセソ Jatiwisesa 」)


アルジュノの生涯 その4_a0203553_13051608.jpg
デウィ・ウォロ・スムボドロ Dewi wara sumbadra

 ひじょうに多くの女たちと結婚したアルジュノではあるが、最も盛大な婚礼を行ったのはアルジュノが第一夫人であるデウィ・スムボドロと結婚したときである。花嫁側から多くの困難な条件が出されたからである。それは次のようなものであった。

1. 800の柱を持つ式場(ソコ・ドマス saka domas )

2. クレプ・デウォンダル klep Dewandaru ーージャヌンダル janundaruのクムバル・マヤン kembar mayang 〈結婚式で用いられる一対の花〉

3. パリジョト・クンチョノ parijata kencana ーー作物用の蔵

4. パレードを先導する、神が馭するジャティスロ Jatisura の馬車

5. クボダヌ Kebodanu /婚礼を先導する40頭のパンチャル・パングン pancal panggung 〈身体は黒く、脚先のみ白い〉水牛

6. プラチョンドセト Pracandaseta 、婚礼を先導する白猿

7. 婚礼の伴奏をつとめるガムラン・ロコノント gamelan Lokananta

8. 花嫁の付き添いとしての7人のビダダリ


  ガムラン・ロコノント、クレプ・デウォンダルージャヌンダル、ならびにパリジョト・クンチョノといった神々の持ち物を借り受けるため、アルジュノ自身がスマルと共にカヤンガン・チョクロクムバン Kahyangan Cakrakembang に赴き、愛の神バトロ・コモジョヨ Bhatara Kamajaya とその妃バタリ・ラティ Bhatari Rati の助けを求めた。二人の神のおかげで、アルジュノはガムラン・ロコノントならびに、デウォンダル・ジャヌンダルのクムバル・マヤン〈原文ガガル・マヤン gagar mayang だが、ガガル・マヤンは葬式用なので、クムバル・マヤンの誤りと思われる〉をヒワン・ジャガド・プラティンカ Hyang Jagad Pratingkah (バトロ・グル)から借りることができた。そしてパリジョト・クンチョノをバトロ・クウェロ Bhatara Kuwera から借りることができた。

 800本の柱を持つバレ・クンチョノ(ソコ・ドマス)と馬車ジャティスロは、ビモがシングロ Singgela 国へ赴き、プラブ・ビソワルノ Prabu Bisawarna から借り受けることに成功した。バレ・クンチョノ・ソコドマスとヤクソyaksa /ラクササ〈夜叉・羅刹〉の馬がひく馬車ジャティスロは、プラブ・ロモウィジョヨ Prabu Ramawijaya の所有するプソコ〈家宝〉だった。バレ・クンチョノ・ソコドマスはスリ・ロモがスウェロギリ Swelogiri ーーアルンコ Alengka 国との戦いにおいてスリ・ロモとラクスモノ Laksmana ならびにその軍勢が幕舎とした所ーーで王位にあった時の館である。また、ヤクソ/ラクササの馬がひくジョトスロの馬車は、ラウォノ Rahwana の戦車に対抗するため、インドロ神がスリ・ロモに与えた戦車である。アルンコとの戦争が終わり、ウィビソノ Wibisana がアルンコ国の王となって、プラブ・ビソワルノと称した。二つの歴史的聖遺物はスリ・ロモからプラブ・ビソワルノに与えられたのであった。プラブ・ビソワルノは、アルンコの名をシングロ国と改めたのだった。

 40頭のパンチャル・パングンの水牛クボンダヌは、ビモがクルンドヨノ Krendayana の森に行って手に入れた。40頭のクボンダヌまたケボ・アンダヌ Kebo Andanu とは、体全体が黒く、脚先が白/パンチャル・パングン(ジャワ語)の水牛のことであり、バタリ・ドゥルゴが飼育しているものである。クルンドヨノの森で小柄なラクササ、ダドゥンアウク Dadungawuk が、彼らの牛飼いをしている。ダドゥンアウクは始め、ビモにこれらを貸し与えることを拒み、戦いとなった。ダドゥンアウクはビモに負け、アンダヌたちをビモに渡した。さらにバタリ・ドゥルゴの命令により、ダドゥンアウク自身が40頭のアンダヌを、アルジュノとデウィ・スムボドロの婚礼の行列で率いることとなった。

 白猿のお披露目のため、ビモは大臣のガガボコ Gagakbaka /ガガボンコル Gagakbongkol をパンダスラト Pandasurat の苦行所に向わせた。そこはジョディパティ国の管轄下であり、ルィ・マヤンガセト Mauanggaseta の助けを得るためであった。ビモの願いを自身への侮蔑と感じたルシ・マヤンガセトは、その望みを断り、とうとう戦いとなった。ルシ・マヤンガセトはガガボコに敗れ、彼はアルジュノとスムボドロの結婚式の余興として、ドゥウォロワティの広場でその芸を披露することを承知した。

 婚礼には、バトロ・インドロがカヤンガン・エコチョクロから降下し、花嫁の付き添いとして七人のビダダリを提供し、バトロ・インドロ自身がジャティスロの馬車の馭者を引き受けた。この結婚により、デウィ・スムボドロとアルジュノの間にはラデン・アビマニュまたラデン・オンコウィジョヨ Raden Angkawijaya と名付けられた男子が産まれた。(ラコン「パルトクロモ Partakrama 〈パルト(アルジュノ)の結婚」〉

ーーー注:ラコン「パルトクロモ」の上演において、多くのダランが重大な間違いを犯している。特にガガボコとルシ・プラチョンドセトの場面において。この間違いは、彼らがワヤンの物語の時間軸に対する知識不足に起因ており、それが誤った解釈を生んでいるのである。誤った解釈では、ガガボコとルシ・プラチョンドの場面が、ガトコチョとアノマンに代わっている。この場面の取り違えは、トルノジョヨ Trunajaya 時代の女性ダラン、ニャイ・パンジャンマス Nyai Panjangmas がラコン「パルトクロモ」を上演する際、『意図的』に取り違えたことに始まる。ニャイ・パンジャンマスはマタラム Mataram 王宮のダランであった。彼女はマタラムを攻撃したトゥルノジョヨに捕らえられ、トゥルノジョヨの進軍に従ってパチタン Pacitan に至った。あるとき、ニャイ・パンッジャンマスはラコン「パルトクロモ」の上演を命じられた。ビモの指示で白猿を探しに出たガガボコの場面になったとき、ガガボコのワヤン人形が無かった。ニャイ・パンジャンマスはガガボコに姿の似ているガトコチョの人形を用いた。ガガボコの人形はガトコチョ、ジョヨドロト Jayadrata 、またゴンドモノ Gandamana の人形と似たすがたであったからである。さらにパンダンスラトの苦行所の場面になると、今度はプラチョンドセトの人形も無かった。プラチョンドセトは白い猿の姿である。そこでニャイ・パンジャンマスはアノマンのワヤン人形を用いたのである。その上演ではガトコチョとアノマンの戦いが演じられ、観衆に強い印象を与えたのだった。観衆はアノマンこそが、このラコンで結婚の条件となるものだと理解してしまった。間違いがそのまま受け入れられてしまったのである。それ以来ダランたちもラコン「パルトクロモ」の上演において、ビモの指示でガトコチョがアノマンを探すという展開を踏襲するようになってしまったのだ。しかし、プルマディ(アルジュノの若い時の名)がデウィ・スムボドロと結婚する時点では、まだガトコチョは生まれていないのである。アノマンにも悪影響が出た。アノマンはウィスヌ神の化身たるプラブ・ロモのセノパティ〈senapati 軍司令官〉であり、パンダワたちに畏敬の念で対される存在である。ドゥウォロワティ国の広場で普通の猿のように踊らされるなど、その威厳を損ねることになる。ダランたちへの提案:手元に人形が無いからといって、著名な人物を代わりに用いてはならない。新作のラコンを書く際も、新しい人物に著名な人物を用いてはならない。


(つづく)


by gatotkaca | 2014-12-25 13:07 | 影絵・ワヤン
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