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木から落ちた猿

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アルジュノの生涯 その1

 マハバラタには夥しい登場人物があるが、全体の主役はやはりパンダワ五王子ということになるだろう。その中でもビモとアルジュノが特に主役中の主役である。ワヤンにおいてもアルジュノをめぐる演目は数えきれないほどある。ジャワのワヤン雑紙『チュムポロ』のアルジュノ特集号では、彼をめぐる演目が要領よくまとめられているので、紹介する。まとめてあると言ってもおよそ20ページほどの分量があるので、数回にわけることになる。とりあえずワヤンにおけるアルジュノの生涯の物語を概括することはできるだろう。

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JAGAD PEDALANGAN DAN PEWAYANGAN

CEMPALA

EDISI: ARJUNA ; januari 1997


アルジュノ

正義と公正のため、私欲を捨てて戦った人


 アルジュノ Arjuna はアスティノプロ Astinapura 王パンドゥデウォノト Pandudewanata と、マンドゥロ Mandura 国王プラブ・バスクンティ Prabu Basukunti の娘デウィ・プリト/デウィ・クンティ Dewi Prita / Dewi Kunti との間の三男である。アルジュノの誕生に際して、二つの大きな出来事があった。これら二つの出来事はどちらも、アルジュノとその一族の将来を定めるものであった。

 最初の出来事は、マンドゥロ国の大戦争であった。プリンチュンダニの苦行所 Pertapaan Pringcendani の蛇のラクササ〈raksasa 羅刹〉、アルドワリコ Hardawalika がマンドゥロ国を攻撃してきたのである。彼はプラブ・バスデウォ Prabu Basdewa の妃デウィ・マエラ Dewi Maerah を妻にしたいと要求し、プラブ・バスデウォに拒否されたのであった。蛇の姿のラクササ、アルドワリコはたいへんな超能力の持ち主であり、人のように言葉を話す。彼はまた、超能力のジン〈jin 精霊〉の王で、サン・ヒワン・ウェナン San Hyang Wenang の妃デウィ・レトノ・サオティ Dewi Retno Saoti の叔父でもあるプラブ・スムパイユン Prabu Sumpaiyun の直系の子孫でもあった。プラブ・バスデウォと二人の弟たち、アルヨ・プラブ・ルクモ Arya Prabu Rukma とアルヨ・ウグロセノ Arya Ugrasena はアルドワリコの超能力にはとても適わない。プラブ・バスデウォは、義兄弟である〈妹の夫〉プラブ・パンドゥデウォノトに、アルドワリコの脅威からマンドゥロ国を救ってくれるよう頼んだ。

 パンドゥとアルドワリコの激しい戦いとなった。パンドゥは11歳になったばかりの頃、神に選ばれし戦士 ジャゴ・デウォト Jago dewata になった人である。キスケンド Kiskenda のラクササ王プラブ・ノゴポヨ Prabu Nagapaya が、天界の美女デウィ・スプロボ Dewi Supraba を要求し、拒否されたため、天界スロロヨ Sralaya を攻撃した。パンドゥはノゴポヨを退け、滅した功績でジャゴ・デウォトと認められたのである。アルドワリコの超能力に引けはとらず、彼を敗ることのできる者である。ついにバトロ・グル Bhatara Guru 〈天界の最高神・インドでのシヴァ〉から与えられた宝具の矢、アルドダリ Harudadali を放ち、パンドゥデウォノトは蛇のラクササ、アルドワリコを滅した。後の日に、アルドワリコの子孫でブガワン・ウィラウク Bagawan Wilawuk 〈ブガワンは僧侶〉の娘、デウィ・ジマンバン Dewi Jimambang がアルジュノの妻となる。ブガワン・ウィラワクからアルジュノは、『ミニャク・ジャエン・カトン Ninyak Jayeng Katon 〈ミニャクは香油〉』の壷を与えられる。これによってムルタニ Mertani の森に住むあらゆる精霊たちの姿を見ることができたのである。

 プラブ・パンドゥデウォノトが蛇のラクササ、アルドワリコと戦っている最中に、デウィ・クンティは三番目の子を産んだ。プラブ・パンドゥがアスティノに帰れなかったので、デウィ・クンティは赤ん坊をマンドゥロ国へ連れて行った。プラブ・パンドゥにより、三男にはプルマディ Permadi の名が与えられた。数日後マンドゥロの後宮で、プラブ・バスデウォの第三妃、デウィ・バドロイニ Dewi Badrahini がこの上なく美しい女の子を産んだ。その子はデウィ・ウォロ・スムボドロ Dewi Wara Sumbadra と名付けられた。赤子のプルマディとウォロ・スムボドロは後の日に結婚することを定められた。プラブ・バスデウォとプラブ・パンドゥデウォノトによって誓われたのである。

 アルジュノの誕生と時を同じくして、もうひとつの出来事が天界スロロヨのカラン・カウィドダレン Karang Kawidodaren で起こった。アルヨ・ニルビト Arya Nirbita がその超能力で、天界の妖精ビダダリ Bidadari たちの住むカラン・カウィドランに、神々の目を盗んで忍び込んだのである。彼はキスケンド Kiskenda 国王プラブ・プラチョノ Prabu Pracona の子孫である。プラブ・プラチョノは、デウィ・プロボシニ Dewi Prabasini を妻にしたいと望み、バトロ・グルに拒まれ、カヤンガン・ジュングリン・サロコ Kahyangan Jonggringsaloka に攻め入り、バムバン・トゥトゥコ Bambang Tutuka (ガトコチョ Gatotkaca )に殺されたのであった。アルヨ・ニルビトは、父が恋したビダダリの美しさを一目みたいと願ったのである。

 アルヨ・ニルビトは壁に開けた小さな穴から覗き見しようとしただけであったが、デウィ・スプロボに気づかれてしまった。デウィ・スプロボはカチップ kacip (ジャワの果物ナイフ)を取り、その穴に突き刺した。ナイフはニルビトの右目に突き刺さり、深い傷を負わせ、彼は片目となった。この事件により、アルヨ・ニルビトは、デウィ・スプロボ以外の者とは結婚しないという誓いをたてたのであった。

 その後アルヨ・ニルビトは、望みを叶えるため、神々を負かし得る超能力を得るため、苦行に赴いた。父親が死んで数年後、ニルビトは父に代わって王となった。キスケンド王国はその名をマニクマントコ Manikmantaka (マニマントコ Manimantaka またはイマントコ Imantaka とも言う)と代え、彼はプラブ・ニルウォトカウォチョ Prabu Nirwatakawaca 〈ニウォトカウォチョ Niwatakawaca ともいう〉と称した。

 このアルヨ・ニルビト、つまりプラブ・ニルウォトカウォチョの物語は、アルジュノの人生と深い関係を持つこととなる。それはラコン lakon 〈演目〉「アルジュノの婚礼宴 Arjuna Wiwaha 」またの名「チプトニン・ミントロゴ Ciptaning Mintaraga 」において語られることになる。口蓋にあるノタ・ブラン noktah belang 〈の護符〉に武器を受けない限り死なないという超能力を得て、大いなる超能力のラクササ王となったプラブ・ニルウォトカウォチョは、デウィ・スプロボと結婚するという誓いを実行にうつそうとした。彼はすぐさま天界カヤンガン・ジュングリンサロコに赴き、バトロ・グルと対面した。彼の希望は拒まれた。生き物の性に従い、ラクササはラスクシ〈raseksi 女羅刹〉と結婚するべきであるというグルの意見にニルウォトカウォチョは激怒した。彼は暴れ回り、カヤンガン・ジュングリンサロコを滅茶苦茶にしようとしたのである。

 父親のプラブ・コロプラチョノや、プラブ・ノゴポヨ、キスケンド国のマエソスロ Maesasura 、ルムブスロ Lembusura といったビダダリを妻にすることを拒まれてカヤンガンに攻め上って来た王たちと比べても、プラブ・ニルウォトカウォチョはさらに悪辣であった。プラブ・ニルウォトカウォチョの超能力に対抗しうる者は神々の中には一人もいなかった。また、神々の武器は何一つとしてプラブ・ニルウォトカウォチョの皮膚に傷一つ付けることもできず、ましてや殺すことなどできなかったのである。

 バトロ・ナロド Bhatara Narada 、バトロ・マハデウォ Bhatara Mahadewa 、その他の神々との協議の末、バトロ・グルはデウィ・スプロボをプラブ・ニルウォトカウォチョに渡すことを決めた。ただ条件を付けた。デウィ・スプロボが身を清めるため、40日間の猶予を付し、その後はじめて結婚を許すというものであった。その後、デウィ・スプロボはバトロ・インドロに伴われてマニマントコ国へ赴くことになるだろう。プラブ・ニルウォトカウォチョは条件を受け入れたが、もし神々が約束を破れば、カヤンガン・ジュングリンサロコは壊滅させられるだろうと脅した。

 プラブ・ニルウォトカウォチョが去ると、神々はすぐさま協議した。運命の定めによれば、地上界マルチョポド marcapada に卓抜の超能力の者が現れる。ニルウォトカウォチョを負かしうるのはそのマルチョポドの戦士だけであるという。バトロ・グルは、バトロ・ナロドと共に地上に降り、神の戦士ジャゴ・デウォトたりうる、プラブ・ニルウォトカウォチョに匹敵する超能力を持つサトリア〈satria クシャトリア=戦士階級〉を探すことにした。

 その頃、アルジュノはインドロキロ Indrakila 山の中腹、カリアサ Kaliasa の丘の洞窟ミントロゴ Mintaraga で苦行中であった。アルジュノの身に試練が降りかかる。さまざまな精霊、ジン〈jin=精霊〉、セタン〈setan=悪魔〉、天界のプリ〈peri=妖精〉、悪霊、ガンダルウォ gandarwa 〈乾闥婆〉たちがアルジュノの苦行を邪魔立てするためにバタリ・ドゥルゴ Bhatari Durga によって送り込まれ、苦行者たるパンダワのサトリアの意図を挫こうとした。しかし世界の安寧ムマユ・アユニン・バウォノ memayu hayuning bawana のため、最上のサトリアたらんと欲する敬虔にして強固な精神力を屈服させることかなわず、アルジュノはすべての精霊たちの妨害を克服したのであった。

 さらにアルジュノは七人の美しいビダダリたちの誘惑も受けた。彼女らはバトロ・インドロの命令でカラン・カウィドダレンからミントロゴの洞窟に降り立ったのであった。七人のビダダリたちはさまざまな手段で誘惑し、アルジュノの苦行を試し、挫こうとしたが、失敗に終わった。ついにバトロ・インドロ自身が、ルシ・パディヨ Resi Padya という僧侶に身をやつし、アルジュノを苦行から目覚めさせるためにミントロゴの洞窟に降下した。ルシ・パディヨとアルジュノの間に世俗と霊性に関する議論が戦わされた。ルシ・パディヨは敗れ、元のバトロ・インドロの姿に戻った。かくてミントロゴの洞窟でブラフマナ Brahmana 〈僧侶〉として過ごしたアルジュノは、ブガワン・チプト・ヘニン Bagawan Cipta Hening (しばしばチプトニン Ciptoning とも呼ばれる)と称される。これは清浄なる僧 pandeta bersih を意味する。

 超能力のブラフマナ、また清浄なる魂の人としてのブガワン・チプトニンの名声は、プラブ・ニルウォトカウォチョの耳に入るところとなった。マニマントコ王は直ちに信頼し、目をかけている部下のディティヨ・ママンムルコ Ditya Mamangmurka に、インドロキロ山へ向かいブガワン・チプトニンと会い、デウィ・スプロボとの結婚に対する祝福を受けて来るよう命じた。そうすることでバトロ・インドロから確かな許しを得ようとしたのである。

 カリアサの丘に着いたディティヨ・ママンムルコは、ミントロゴの洞窟を見つけられず、ブガワン・チプトニンの苦行する場所が分からなかった。ママンムルコは腹を立て、インドロキロの苦行所を破壊し始めた。この所行により、ママンムルコはブガワン・チプトニンの超能力に呪われ、その姿が変わり巨大なイノシシに成り果ててしまったのだった。

 自身の姿がイノシシに変わってしまったことに気づいたママンムルコは、ますます猛り狂った。あちこちに駆け回り、インドロキロの森を滅茶苦茶に荒し回った。激しく暴れ回るイノシシにブガワン・チプロニンは怒り、すぐさま超能力の矢を放った。矢は過たずイノシシに命中し、彼を殺したのだった。

 ママンムルコの変身したイノシシに近づいたブガワン・チプトニンは驚愕した。イノシシの身体にはまったく同じ場所に二本の矢が突き刺さっていたのである。もう一本の矢はこの場所で狩りをしているプラブ・キロトワルノ Prabu Kilatawarna のものであった。彼にはプラブ・キロトルポ Prabu Kilatarupa が同行していた。両者の間に緊張が走った。もはや戦いは避け得ない。

 キロトワルノとキロトルポはついにブガワン・チプトニンに負け、バトロ・グルとバトロ・ナロドに戻った。かくてバトロ・グルにより、アルジュノは無比なる最上のサトリアとして認められたのであった。アルジュノは、バトロ・グルにより神与の武器パソパティ Pasopati を賜る。神は言う。後の日の大戦争バラタユダ Bharatayuda において勝利し得るであろうと。かくてアルジュノはカヤンガン・ジュングリンサロコへと招かれ、プラブ・ニルウォトカウォチョを滅ぼす、天界の戦士ジャゴ・カヤンガン jago khyangan となって、天界に安寧をもたらすよう要請されるのである。

 マニマントコ国へ向うアルジュノは、デウィ・スプロボを連れて行くことを望んだ。アルジュノはニルウォトカウォチョが驚くべき超能力の持ち主であることを知ったが、まだその弱点が分からなかったのだ。アルジュノとニルウォトカウォチョの一騎打ちとなった。戦いでアルジュノはラクササ王の超能力に全く敵わなかった。アルジュノは敗れた。スリ・クレスノ Sri Kresna の教えに従い、アルジュノはプラブ・ニルウォトカウォチョ打倒の戦略を立てることにした。

 アジ・パングリムナン Aji Pangulimunan の呪文を使って、アルジュノはその姿を誰にも見えないようにして、マニマントコの王宮に忍び込んだ。デウィ・スプロボはプラブ・ニルウォトカウォチョの妃になることを承諾したふりをして、ラクササ王の死に係わる秘密を探ることを願い出た。

 デウィ・スプロボがやって来たことに、プラブ・ニルウォトカウォチョは大喜びであった。デウィ・スプロボの媚態と甘言はプラブ・ニルウォトカウォチョの心を溶かし、彼はデウィ・スプロボの美しさに我を忘れた。デウィ・スプロボへの愛欲に我を忘れたプラブ・ニルウォトカウォチョは、デウィ・スプロボに求められるまま、自身の弱点が口蓋にあることを教えてしまう。

 プラブ・ニルウォトカウォチョの急所を知ったアルジュノは、騒ぎを起こし、マニマントコの宮殿は混乱に陥る。再びプラブ・ニルウォトカウォチョとアルジュノの激しい戦いとなった。戦いが極まった時、アルジュノは策略を用いて、プラブ・ニルウォチョカウォチョの足下に倒れ、死んだふりをした。アルジュノが死んだと、デウィ・スプロボも駆け寄り、嘆き悲しむ。プラブ・ニルウォトカウォチョに慰められ、デウィ・スプロボは、彼の妃になることを承諾する。

 プラブ・ニルウォトカウォチョの喜びは頂点に達し、彼は呵々大笑する。アルジュノが立ち上がり、神与の武器パソパティをつがえる。笑っているプラブ・ニルウォトカウォチョの口は大きく開いたままだ。その真ん中に光る点が見える。アルジュノは、その光る点こそがプラブ・ニルウォトカウチョの生死を司る秘密であることを知る。アルジュノはパソパティの矢をその一点に狙い定める。パソパティが閃光を放ち、過たず命中する。プラブ・ニルウォトカウォチョの身体はたちまちのうちに崩れ折れ、死体となる。

 プラブ・ニルウォトカウォチョが死ぬと、パンダワたちの手助けを得た神々の軍勢がマニマントコ国へ押し寄せた。マニマントコ軍は容易く平定された。地上の災厄は討ち滅ぼされてあのである。

 かくてアルジュノは神の恩寵を得ることとなった。デウィ・スプロボとの結婚が許され、しばしの間カヤンガン・カエンドラン Kahyangan Kaindran の王の座を賜り、プラブ・キリティン Prabu Kiritin (プラブ・カリティ Prabu Kariti / Kaliti とも言う)の称号が与えられたのである。


 アルジュノが「カラン・カウィドダレン」の王に任命されたことに、バタリ・ドゥルゴは気分を害した。アルジュノは本来「普通の人間」(単なる人/地上の戦士)に過ぎず、神の子でもないのに、天界スロロヨのすべてのビダダリを統べる王に任じられるに相応しくないというのである。バタリ・ドゥルゴは、バタリ・ドゥルゴとバトロ・コロ Bhatara Kala の息子であるデウォスラニ Dewasrani のような者こそ、「カラン・カウィドダレン」の王たる者に相応しいと考えていたのである。

 妬んだバタリ・ドゥルゴ一派の神々や女神たちはバトロ・グルに訴え出た。アルジュノはデウィ・スプロボを妊娠させるという過ちを犯したと。これは神の定めを穢す行為であるというのだ。アルジュノは直ちに地上マルチョポドへ送り返され、普通の人間に戻されるべきであるというのである。

 真実なる生の完全性を目指す者の証しとして、アルジュノは「本分を忘れない」人であった。アルジュノは人間としての責務を忘れることなく、自身の一族、母、兄弟、そしてまわりの人々に対する責務を忘れることはなかった。天界スロロヨで、美しい妻を娶り、数百のビダダリにかしずかれ、贅沢に過ごしたが、自身の責務を想起したのである。アルジュノはアマルト Amarta 国への帰還を願い出た。カラン・カウィドダレンの王としての贅沢な生活を捨て、妊娠中のデウィ・スプロボを残して、彼は地上へ帰還したのであった。

(ラコン「パルトデウォ」 Lakon : Partadewa )


 アルジュノ、つまりプラブ・カリティンが去って数ヶ月後、デウィ・スプロボは一人の息子を産んだ。彼はプロボクスモ Prabaksuma と名付けられた。少年になったプロボクスモは父を探すため地上マルチョポドへ降りた。

 プロボクスモがクサトリアン・マドゥコロ〈クサトリアン kesatrianはクサトリアの領地〉に着いた時、デウィ・スムボドロは病に苦しんでいた。〈彼女の内なる〉デウィ・スリ Dewi Sri の魂 sukma が彼女から離れてしまったからである。デウィ・スリの化身であるデウィ・スムボドロは、その魂が身体から抜け出て、弱ってしまったのだ。彼女はあらゆる力を失ってしまったのである。

 デウィ・スムボドロの病を回復させようとあらゆる努力がはらわれたが、すべてはむなしかった。デウィ・スリの魂が何者かの不思議な力によって盗まれたのである。マドゥコロに逼迫した悲しみが満ちていた。そこへバムバン・プロボクスモが父アルジュノを探しにやって来た。問答の末バムバン・プロボクスモは、デウィ・スムボドロの病を癒すことができれば、アルジュノの息子と認められることとなった。

 キ・ルラ・スマル Ki Lurah Semar の教えで、プロボクスモはデウィ・スリの魂を見つけ出し、デウィ・スムボドロの身体に戻すことができた。たちまちデウィ・スムボドロは病から回復した。バムバン・プロボクスモもアルジュノの息子として認められたのであった。(ラコン「デウィ・スリ帰る」 Dewi Sri Mulih / Dewi Sri Mantuk )


 「マハバラタ」の書、「ワナパルウォ Wanaparwa 森の巻」(エムプ・カンワ Empu Kanwa 、1019~1042)によれば、プラブ・ニルウォトカウォチョを斃した後、アルジュノはプラブ・カリティンの名でカラン・カウィドダレンの王となり、バトロ・ブラフモ Bhatara Brahma 〈ジャワではバトロ・ブロモ Bhatara Brama 火の神と同一〉の娘デウィ・ドゥルソノロ Dewi Dresanala と結婚した。アルジュノが天界の王となり、デウィ・ドゥルソノロと結婚したことを、バタリ・ドゥルゴは見とがめた。というのも彼女自身の息子デウォスラニこそがドゥルソノロに相応しいと考えたからである。

 神々の協議により、アルジュノは地上界マルチョポドへ戻され、デウィ・ドゥルソノロとの結婚は解消されることとなった。妊娠中のデウィ・ドゥルソノロは中絶させられることとなった。胎内の子は如何なる手段を用いても亡き者にされるよう決定されたのである。この仕事はバトロ・ブラフモに任されることになった。

 神々の意向を知ったアルジュノは、いち早くデウィ・ドゥルソノロをブガワン・アノマン Bagawan Anoman 〈ラマヤナで活躍する神猿〉のいるクンダリソド Kendarisada の苦行所へ避難させた。デウィ・ドゥルソノロを誰も知らぬ所へ隠し、アルジュノはすぐさまアマルトへ戻った。

 しばらくしてクンダリソドで、デウィ・ドゥルソノロが男の子を産んだ。子の誕生はバトロ・ブラフモの知るところとなり、彼は直ちに赤ん坊をさらってしまった。赤ん坊は喉を噛まれ、ぐったりと動かなくなった。バトロ・ブラフモは赤ん坊が死んだと思い、森の中に投げ捨てた。

 妊娠後期の妻と別れたアルジュノは病に伏してしまった。事の真実を知るスリ・クレスノは、アルジュノを元気づけようとして、イマントコ国で婿選びの競技会サユムボロ・ピリ saembara pilih が行われることを話した。イマントコ国のたてた三人のラクササ戦士を倒せば、誰あろうと美しいイマントコ国の王女との結婚が許されるというのである。その話を聞いてアルジュノは元気を取り戻し、直ちにイマントコ国へ向った。

 イマントコの三ラクササと戦ったアルジュノは敗れた。というのもプソコ〈pusaka=重代の宝具〉・パソパティが不思議にも消え失せてしまっていたからである。彼は他の手だてを探るため、競技場を後にした。

 いっぽう、アルジュノのあとを追ってイマントコへ向っていたスリ・クレスノはデウィ・ドゥルソノロの赤ん坊を見つけた。ウィスヌ Wisnu 〈インドでのヴィシュヌ〉神の化身であるスリ・クレスノは、赤ん坊がまだ生きていることに気づいた。その赤ん坊の体内には火の力を持つ毒(ジャワ語でウィソ Wisa )があった。バトロ・ブラフモの内なる火の力が、噛まれた時に赤ん坊の身体に入ったのである。木片を使って赤ん坊を取り上げると、競技場のただ中に放り込んだ。

 イマントコの三人のラクササ戦士は赤ん坊を殺そうとしたが、赤ん坊の熱の力にあてられ死に、その身体は粉々になった。イマントコ王と王女も競技場に入ったが、赤ん坊の力で死にいたった。

 戦い終えた赤ん坊は、弱るどころか力を増し、すっかり元気になった。彼は大きくなり、立派な姿になったのである。アルジュノは小さな子どもが敵を敗ったことを知って自身を恥じた。彼はその子どもと対峙した。激しい戦いとなった。アルジュノも、その子どもに敵わなかった。

 アルジュノも叩きのめされようとした時、ブガワン・アノマンが来て二人を引き離した。彼にはその逞しい子こそが、デウィ・ドゥルソノロの子であることが分かったのだ。アルジュノも、まさしく彼がデウィ・ドゥルソノロの孕んでいた子であることを知った。その子の体内に火(ジャワ語=グニ Geni )の毒(ジャワ語=ウィソ Wisa )を持つことから、スリ・クレスノはその子をウィサングニ Wisanggeni と名付けた。(ラコン「ウィサングニの誕生」Lahirnya Wisanggeni )


(つづく)


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by gatotkaca | 2014-12-19 16:25 | 影絵・ワヤン | Comments(0)
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