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木から落ちた猿

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ワヤンの女たち 第19章

19. ナクロとサデウォの涙がしっくりいかなかった新婚さんを仲直りさせる

●「母さん、お腹がすいたよぅ、喉が渇いたよぅ。お腹が痛いよ、何か飲みたいよ。お腹がすいたよ母さん。」双子(ピンテン Pinten とタンセン tansen 〈ナクロとサデウォの幼名〉)が泣きわめく。
 『バレ・スゴロ・ゴロ Bale ssigala-gala 〈パンダワ焼き打ち〉』事件以来、パンダワたちのその日暮らしは続いていた。経験したことも無い無慈悲な苦しみの中にいたのである。
 「とってもお腹がすいたよ、母さん。」ピンテンとタンセンがまたわめいた。
 ビモは弟たちの泣き声を聞くと、針で耳を突き刺されたような心持ちになるのだった。
 「よお、ピンテン、タンセン。りっぱなサトリアは腹がへったくらいで泣きわめいたりしないものなんだぞ。
 サトリアは餓えや渇きに耐え、『泣きわめ cengeng 』いたりしてはならんのだ。」
 ピンテンとタンセンはビモに叱られて怖くなり、しゅんとしてしまった。涙をこらえて『すすり泣き mingseg-mingseg 』しながら、クンティの胸に顔をうずめた。ピンテンとタンセンの顔は、何日も腹をすかしていたのですっかり青ざめていた。
 「おおビモ。」クンティはビモに言った。「思いやっておやりなさい、息子よ。わかってあげて!弟たちはまだ幼いのです。五日も飲まず食わずなのですよ。幸い病気にこそなっていませんが。おお、息子たちよ。これも神の思し召しなのです。
 『誰あろうと、神のなさることに無益なものなどないと信じなければなりません。信じる者を神は愛されます。』最も高貴なる者は神を信じる者なのです。我が子パンダワたちよ、今一度心に刻むのです。この苦難を受け入れたなら、あなたたちの未来にかならずや輝かしい神のお導きがあることでしょう。」
 「ああ、パンドゥ。我が父王よ。あなたの五人の息子は惨めな苦しみの中にある。パンダワは森に追いやられ、クロウォどもは王宮で宴を催しておる。うう、ピンテン、少し待っていろ。俺が食い物を探してきてやろう。」
 「おおビモ。もうお亡くなりになった父上の名を呼ぶのはやめなさい。」ユディスティロが言った。「聖なる書物に書かれていたことを思い出すのだ。」
 「善き人はひとつの口で物を食べる。いっぽう腹をすかした狼のような偽善者や欲張りの者は、七つの腹で物を食うのだ。空腹に耐え、少しだけ笑い、世界のあるがままを喜びを持って受け入れる。そのような者こそが神に愛され、いつの日か天界の扉の内に招かれるのだ。腹を満たし、富を得るために『神を利用する』者には地獄が待っている。さて、そなたはどちらを選ぶのだ。
 怒りや餓えや渇きで心を殺してはならぬ。まさしく心とは作物のようなもの。良き水が無ければ死ぬのだ。ビモよ、力強き我が弟よ。この森は危険に満ちている。そなたは母クンティや弟たちのそばを離れてはならん。弟たちの食べ物を探すのはアルジュノに頼むのがよかろう。」
 アルジュノはただちに母の前に跪き、食べ物を探しに出る許しを乞うた。アルジュノは茨の森を抜け、襲いかかる野獣たちをすり抜けてエコチョクロ Ekacakra の村に着いた。そこは街の人々の居住地から遠く離れ、街から見捨てられたかのようなさびれたところであった。あたりを見回すと、泉を水を汲む女に目を奪われた。彼女に食べ物をもらおう。頼めそうな人はその女しかいない。言葉をかけるのも面倒だ。アルジュノは水瓶 kelenting に水を注ぐのに一所懸命な女の背中を撫でた menjawi/menyentuh 。
 背中を撫でられた女はビックリした。飛び上がって駆け出し、サゴトロ Sagotra (夫)の名を呼びながら逃げていった。
 アルジュノとサゴロトの間で何が起こったか?次回をお楽しみに。

1977年1月30日 ブアナ・ミング
by gatotkaca | 2013-07-20 07:25 | 影絵・ワヤン
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