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木から落ちた猿

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ワヤンとその登場人物〜マハバラタ 第39章

39.コクロソノ、農家に潜んだ王子がクーデター鎮圧に成功する

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 キ・ダランの語るところによれば、コクロソノ Kakrasana はプラブ・バスデウォ Prabu Basudewa とデウィ・ロヒニ Dewi Rohini の息子であったが、命を狙われたため赤ん坊のとき、弟のノロヨノ Narayana 、妹のブロトジョヨ Bratajaya と共にウィドロカンダン Widrakandang 村にかくまわれた。彼らはドゥマン・オントゴポ Demang Antagopa とニャイ・サゴピ Nyai Sagopi に育てられた。コクロソノは開墾と農作に才能を発揮した。成人してからは何でも作り、どんな作物も豊作にした。マンドゥロ Mandura 王国の王宮の門も立派に作った。二本のブリンギン〈ガジュマル〉の樹が家の前に植えられていた。田と畑は豊かな緑におおわれ、小山のような一頭の象も飼われていた。古のワヤンの時代にも工学技術はあって、彼はエンジニアの資格を持っている人のようだったのである。
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*)コクロソノは後のプラブ・ボロデウォ Prabu Baladewa 。クレスノ(ノロヨノ)と、アルジュノの正妻スムボドロ(ブロトジョヨ)の兄である。
 インド版でのクリシュナ、バララーマ兄弟とカンサの物語。ヤーダヴァ族の王カンサは多くの悪行を働いていた。神々は対策を協議し、ヴィシュヌがカンサの妹(姪とも)デーヴァキーの胎内に宿り、クリシュナとして誕生するよう定めた。ある時カンサはデーヴァキーとその夫のヴァスデーヴァを乗せた馬車の御者を務めていた。都への途上、どこからか「デーヴァキーの八番目の子がカンサを殺す」という声が聞こえた。恐れをなしたカンサはヴァスデーヴァとデーヴァキーを牢に閉じ込め、そこで生まれてくる息子達を次々と殺した。デーヴァキーは7番目の子バララーマと八番目のクリシュナが生まれると直ちに、ヤムナー河のほとりに住む牛飼いのナンダの娘(同日に生まれた)とすり替え、二人をゴークラの町に逃がして牛飼いに預けた。
 一方カンサはクリシュナが生きている事を知り、すぐさま配下のアスラ達を刺客として送り込むが、悉く返り討ちにされた。そこでカンサはクリシュナとバララーマをマトゥラーの都へ呼び寄せて殺害を謀るもクリシュナに斃された。

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 ご存知のように後日、コンソ Kangsa は諜報員からコクロソノとノロヨノがウィドロカンダンにかくまわれてまだ生きているとの報告を受けた。コクロソノとノロヨノは、マンドゥロ国を乗っ取ろうする彼の計画の邪魔になる。彼はすぐさま二人を捕らえるための軍を送り込んだ。デウィ・ブロトジョヨだけは小舟でウィドロカンダンからスンカプラ Sengkapura *) へ移されたのだった。だってこの時代にはまだ『ヴォルヴォ Volvo 』はありませんから。
 *)サンカプラ Sangkapura はジャワ島沖、スラバヤ、マドゥラ島の約百五十キロ北に位置するバウェアン島 Pulau Bawean の地区。
 幸いにもコクロソノとノロヨノは捕まらずにすんだ。二人とも当局の手の届かぬところにいたからである。コクロソノはアルゴスニョ Argasunya 山の頂で苦行中であり、ノロヨノはギリプロ Giripura 山で師に仕えていたからである。
 コクロソノは飲まず食わずの断食を何ヶ月も続けていた。そして川の流れに身を浸す『トゥムプラン Tempuran 』も毎日行っていた。ようするに激しい苦行 tirakat をしていたのである。
 その苦行の激しさが天界を揺り動かし、不穏にさせた。マルチュクンド Marcykunda の館に座していたシヴァが揺すられるほどであったのだ。地震で地滑りが起こった。ヌロコ Neraka 〈ナラカ;地獄〉もかき混ぜられたかのようにぐらぐらした。大雨が降り、洪水で泥まみれ lumpur blegedaba になり、ジュングリン・サロコ Junggring Salaka 〈シヴァ=バトロ・グルの王宮〉の屋根までが浸かってしまうほどだった。天界の妖精ビダダリたちは安全を求めて逃げ惑い、洪水から逃れられたのは屋根に昇った神だけだった。
 『テレビの緊急放送』を見て神々はこの騒動を起こしたのがコクロソノであることを知ったのだ。かくて火神ブロモ Brama がアルチョポド Arcapada 〈地上〉へ降下し、アルゴロ Alugara とヌンゴロ Nenggala という棍棒の宝具を恩寵として与えた。
 「さあコクロソノ、すぐにマンドゥロ国へ行け。」ブロモ神はきっぱりと命じた。「マンドゥロ国の王位を奪おうとしているコンソの陰謀を阻止するのだ。真実マンドゥロ国の王権はそなたのものであると知れ。」
 勇猛なるコクロソノは、父の王位を転覆しようと画策するクーデターを殲滅することに成功した。そして彼は反逆者コンソの頭をヌンゴロで叩き潰したのである。
 国は喜びと繁栄に満ち満ちた。かくてコクロソノは皇太子、パンゲラン・パティ Pangeran Pati となったのである。

1976年3月7日 ブアナ・ミング
by gatotkaca | 2013-06-09 03:49 | 影絵・ワヤン
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