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木から落ちた猿

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ワヤンとその登場人物〜マハバラタ 第20章

20. デウィ・マドリムの望みを叶えたため、パンドゥは急死し地獄に堕ちる

 パンドゥと妃たちの物語では五人の神と『性を介さない』で子を産むという奇跡が語られている。デウィ・クンティはハイパーセックスな〈性を超えた〉女性〈聖母〉という印象を与える。ワヤン上演においてもそのように語られるが、ダランはその人生哲学との擦り合わせに感情や思想を表に出さずにおくには難儀しているようだ。だから鹿(キジャン kijang )を殺すエピソードを語って五人の王子の誕生と結び着けるという語りを採用しているのであろう。
 妊娠したデウィ・マドリムはサン・プラブ〈パンドゥ〉の前で跪いて言った。
 「ああ、高貴なる旦那様。敬愛するプラブ・パンドゥ。妊娠してからというもの、私は吐き気に悩まされ、気分がすぐれません。飲み物はまるで棘が生えているかのよう、食べ物は砕けたガラスのようで、何を口にしても吐き出してしまうのです。私は気晴らしにお出掛けしたい。サン・ヒワン・ジャガド・ギリノト Sang Hyang Jagad Girinata 〈至高神ブトロ・グル=シヴァ〉の乗り物であるルムブ・アンディニ牛に乗ってタマン・カディルングン Taman Kadilengen の園を見たいですわ。でもタマン・カディルングンは今は無い。私はカエンドラン Kaendran〈インドロ神の天界〉のタマン・エコチョクロ Taman Ekacakra のように美しいタマン・カディルングンがほしいのです。」
 深く考えることもなくサン・プラブはヨモウィドゥロに命じて、タマン・カディルングンをカエンドランのタマン・エコチョクロとそっくりに作り直させた。そしてプラブ・パンドゥ自身はウジュン・ギリ・サロコ Ujung Giri Salaka (ジュングリン・サロコ Junggring Salaka )へ赴き、神の中の神、すなわちサン・ジャガド・ギリノトに会いに行った。妃の希望するルムブ・アンディニを借り受けるためである。『ジャゴニン・デウォJagoning Dewa〈神に選ばれた戦士〉』たる自分なら問題なく事を成すことができると信じて。
 バトロ・グルと他の神々はパンドゥの無謀な行為を茫然と見ていた。彼は『礼儀知らず』にルムブ・アンディニを受け取ったのだ。バトロ・グルの面前でパンドゥはルムブ・アンディニの背にまたがった。サン・ギリノトは言った。
 「確かにパンドゥは首曲がりだ。自分自身を見るために首を回すこともできぬ。その罪は地獄 Naraka に落とされるに値する。」
 世界は動きを止め、風も吹くのをやめた。大地は揺れ、山は噴火し、海の波は逆巻き、はげしい地震が起こり、河は洪水を起こした。まさしくゴロ・ゴロである。世界が『本分』を忘れたパンドゥに対する、サン・ジャガド・ギリノトの呪いを承認したかのようであった。
 しばらくしてデウィ・マドリムは双子の子、ナクロ Nakula とサデウォ Sadewa を産んだ。タマン・カディルングンはカエンドランのタマン・エコチョクロと同様の美しさに整えられた。ヨモウィドゥロは金色と紺色の鹿を捕らえ、パンドゥに献上した。タマン・カディルングンの美しさはカルトスロ Kartasura 王宮の 『カンダン・ムンジャンガン kandang menjangan 』の千倍とも言えるほどだった。今時の動物園のようなものであろうか。
 二匹の鹿もカディルングンに放たれた。パンドゥの前に立った鹿たちは彼を罵った。彼らはパンドゥが罪の報いを受けていないと嘆いた。それを聞いたオウラブ・パンドゥは怒り、鹿たちを殺してしまった。
 鹿の死体は地面に溶けて、ルシ・スホトロ Suhatra とロロ・ロゴ Rara Rago の姿となり聖天した(『ジャワ』誌、1909年)。
 14日後、デウィ・マドリムとプラブ・パンドゥはタマン・カディルングンでお喋りしていた。子を産んだばかりの女の美しさか、デウィ・マドリムの顔は普段にもいや増して光輝いて見えた。それを見たパンドゥは欲望を抑えきれなくなり、サン・ルシの呪いを忘れるにいたった。サン・プラブ・パンドゥは『愛欲』の感情を抑えきれず、デウィ・マドリムの髪をなでた。不運にもその時、死神バトロ・ヨモディパティがサン・ヒワン・マハ・デワの命令書を手に、プラブ・パンドゥの魂を引き抜いたのである。かくて彼の魂は地獄に堕とされた。今風に言えば心臓発作といったところである。かくて彼は自身の罪の報いを受けることとなったのである。
 これこそ因果応報、自身で植えた果実は自分で摘み取るということである。
 上記の物語は、注意を忘れて身の程を弁えない欲望を追えば、幸福に見える者も、災厄に見舞われるということを表しているといえるだろう。

1976年9月26日 ブアナ・ミング
by gatotkaca | 2013-05-14 08:13 | 影絵・ワヤン
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