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木から落ちた猿

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イスモヨ・トゥリウィクロモ その3

国境線の戦闘

 アルヨ・スティヤキ、アルヨ・ソムボ、アルヨ・ウドウォに率いられたドゥウォロワティ軍は、すでにドゥウォロワティ王国から遠く離れて行軍していた。アルジュノとスマルを探すため、彼らは谷に分け入り、丘を登り、河を渡った。夜になって行軍を止め、アルヨ・スティヤキは、谷一体を覆う樹々の繁る丘の麓に野営するよう軍に命じた。
 アルヨ・スティヤキとアルヨ・ソムボは明日の行程について話し合っていた。そこへ突然、野営の外から見張りの兵がやって来た。見張りの兵は谷の外に何者か知れない軍が野営を張っていると知らせた。とても怪しい動向である、と。遠くから様子を伺ってみたところ、丘の反対側に野営している軍は、トリガルト国のものであると分かった。
 「ウドウォ、ソムボよ。我が知るところによれば、トリガルトはクロウォに従うもの。奴らがなにゆえドゥウォロワティとウィロトの国境にいるのか、気にかかる。」スティヤキは言った。
 知に優れたクサトリアとして知られるソムボは、「今朝の我が父スリ・クレスノの話から推察するに、このトリガルト軍はドゥウォロワティとウィロトの国境地帯を秘密裏に抑えておこうという腹なのだと思われませんか?私の考え通りなら、クロウォ側はすでに戦争に向けて計画を実行に移していることになります。」
 「しかし何故この今、ウィロト国を取り囲んでドゥウォロワティと分断するのだ?」アルヨ・スティヤキが聞いた。
 「ウィロトとドゥウォロワティはパンダワの盟友です。クロウォたちがアマルト攻撃を開始するにあたって、ウィロトとドゥウォロワティの援軍を阻止するためでしょう。」ソムボが答えた。「このクロウォの行動はアマルトを孤立させるためのものでありましょう。」
 「クロウォの計画はまさしくそなたの言う通りであろう。」アルヨ・スティヤキは言った。
 「そうであるなら、今我らがトリガルト軍を除くに否は無い」アルヨ・ウドウォが提案した。
 「そのとおりだ。」アルヨ・スティヤキが答えた。
 「私もです。」アルヨ・ソムボが言った。
 「スティヤキ兄とソムボが私の提案に同意であれば、」ウドウォは続けた。「奴らがぐっすり眠っている今、攻撃しましょう。」
 「眠っている者を襲うのは、クサトリアとして相応しくないと思う。」とスティヤキ。
 「奴らは我らが宿営する丘の西側にいるわけではない。夜が開けたら眠っている連中を驚かしてやるのだ。奴らは慌てふためき、太陽の光に目が眩むだろう。奴らを待ち伏せするのだ。敵に対するには三つの方策がある。つまり、敵を殲滅し、根絶すること。敵を占拠地から追い払う、また捕虜とすること。この三つのうち、私は敵を捕虜とすることを選ぶ。敵を殲滅しようとすれば、私は彼らに同情を禁じ得ぬ。というのも彼らはことの本質を弁えない道具にすぎないのだからな。追い払うだけでは、奴らは力を蓄えて再び我らを攻撃して来るだろう。捕虜として捕らえれば、我らは行軍中に彼らを諭すことができる。我らの理想を知れば、彼らは我らの側に付くようになるであろう……。」
 アルヨ・スティヤキの意見が入れられ、方針が決定した。ドゥウォロワティの兵たちは夜半のうちに準備を整え、丘に登り北から南へ縦に丘を占拠して夜明けを待った。丘の頂から太陽が昇り、トリガルトの幕舍を照らした。攻撃命令が下った。サンカラ(笛の一種)、タムブール、グンダン(いずれも太鼓の一種)、銅鑼の連打される音が幕舍を包んだ。ぐっすり眠っていたトリガルトの兵たちは攻撃命令の声とドゥウォロワティの騎馬の侵攻にびっくりした。「ブラニ・マティ(決死)」の軍と「黒鴉」の軍が続く。瞬く間にトリガルトの軍は、五千人以上の者がセノパティたちに降伏を求められ、武器を放り出し、抵抗を諦めた。
 まだ生きている者は一所に集められ、ドゥウォロワティの兵たちに見張られていた。傷ついた者たちはドゥウォロワティの医療団から手当を受けた。戦死した者たちは軍令に則って埋葬されたのである。
 捕らえられたトリガルト軍を前にして、話術に長けたアルヨ・ソムボがドゥウォロワティ軍の意向に付いて説明した。ドゥウォロワティ側はトリガルト軍の目的を知っていた。クロウォとパンダワの戦いに巻き込まれまいように、トリガルト軍はドゥウォロワティの捕虜となった。アスティノ国とアマルト国の争いが終わった後には、すぐさまトリガルト軍はその国に帰還できるだろう。ドゥウォロワティ国は、トリガルト軍がクロウォとパンダワの争いが終わるまで、ドゥウォロワティ国でおとなしくしていることを希望する、と。

(つづく)
by gatotkaca | 2012-06-30 00:25 | 影絵・ワヤン
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