人気ブログランキング | 話題のタグを見る
ブログトップ

木から落ちた猿

gatotkaca.exblog.jp

「アルジュノ・ウィウォホ」の前後 3

 以前紹介した「パルト・デウォ」は、いわばアルジュノ側からの「アルジュノ・ウィウォホ」後日談とも言えるものであったが、ニウォトカウォチョ側のその後を扱った演目として「ムストコウェニ Mustakaweni」がある。ムストコウェニは前回紹介したニウォトカウォチョのプロフィールの終わりにあった、彼の三人の子どもの一人である。以下にラコン「ムストコウェニ」の概略を揚げる。

 「プラブ・ユディスティロの偉大な権威はカリモソドの書を持つ事によるものであった。それでパンダワの敵たちはそれを盗もうと計った。ある時、マニマントコ国のプラブ・ブミロコの妹、デウィ・ムストコウェニは、パンダワへの報復のためアスティノに到来した。グウォ・ドゥムンの苦行者ブガワン・コロ・プジョンゴの訓告を受け、彼女はガトゥコチョになりすまし、カリモソドを手に入れた。その時パンダワたちはチャンディ・サプトルンゴの修繕に多忙を極めていた。サデウォとガトゥコチョが見張りとなっていたが、昼夜を問わず働いてもチャンディはまだ荒れ果てていた。それ故、彼らはプラブ・クレスノに頼み、サプトルンゴまたの名をサプトアルゴへ来てもらった。クレスノがアマルトへ到着し、二人の王はサプト・アルゴの苦行所へ向った。
 一方、アマルトの宮殿ではデウィ・ドゥルパデがデウィ・スムボドロとデウィ・スリカンディに対面していた、突然ガトゥコチョの偽物がプラブ・ユディスティロの使者と称してカリモソドを取りに来た。疑いを抱く事も無くドゥルパディはそのジマット(カリモソド)をガトゥコチョに渡したが、幸運にもスリカンディは疑いを持った。
 ガトゥコチョが王宮を辞するとすぐさま、スリカンディは広間に入り、成り行きを聞くや、それが盗人による詐術だと断じた。ガトゥコチョを見つけ、戦いとなった。贋のガトゥコチョはムストコウェニの姿に戻り、空へ逃げた。
 追跡の途中でスリカンディはグラガワンギの苦行所から来たプリヤンボドという名の青年と出会った。彼は祖父、シディ・ワスポドの命でその父アルジュノを探しているところだった。スリカンディは援助を承諾したが、まずはジマット・カリモソドを持っていったムストコウェニの追跡を頼み、プリヤンボドはそれを承知した。
 マニマントコに至り、カリモソドはすぐにプラブ・ブミロコに渡された。それは実はプラブ・ブミロコになりすましたプリヤンボドだった。巧妙な詐術で彼は容易くカリモソドを取り返し、すぐさまサプトアルゴへ赴き、そのジマットはプラブ・クレスノに委ねられた。だが、今度は反対にクレスノはムストコウェニの化けたものだった。プリヤンボドは平静を失って、戦いとなり、プリヤンボドの放った矢にムストコウェニは裸にされてしまった。かくて彼女は降伏し、アマルトに連行された。
 王国に至り、カリモソドはユディスティロに手渡され、ムストコウェニはプリヤンボドの妻とされた。一方プラブ・ブミロコはパンダワたちに追い払われた。
 このラコンは、ラコン・チャランガンに含まれ、ひじょうに著名で、しばしば上演される。」

 マニマントコ国はその後も存続し、「パリクシト・グロゴル Parikesit Grogol 」という、バラタユダ終了後のラコンでも登場する場合もあるが(ダランの解釈によるけれど)、とりあえずワヤンにおけるニウォトカウォチョ・サイクルはこの演目で一段落する。ここでも、スリカンディが重要な役割を果たしている点は留意したい。さらに言えば、ムストコウェニというキャラクターも、美しい女戦士であり、ある意味スリカンディのドッペルゲンガー的キャラクターと言えると思う。
 ワヤンにおけるニウォトカウォチョ・サイクルは、以下のようにまとめることもできるだろう。
1.ニウォトカウォチョは、アルジュノの妻(第二夫人)スリカンディから生まれる(「カンディホウォ」)。ある意味、アルジュノの息子であるとも言える。=同根発生。
〈ヴァージョンによっては、ニウォヨカウチョは成長後、スリカンディに認知を求めるが、拒否される。(「ニルビト」)〉
2.アルジュノの敵対者となり、アルジュノの手により斃される。=犠牲の提供。
3.ニウォヨカウチョの子(分身的存在)ムストコウェニは、スリカンディのコピーである。=取り込み側〈パンダワ〉への親和的存在としての再生。
4.ムストコウェニはパンダワ(アルジュノ)と敵対するが、結局アルジュノの子(プリヤンボド=アルジュノの分身的存在)と結婚する。=元敵対者のスポイル〈無害化〉と取り込み。

 1.同根発生、2.犠牲の提供、3.親和的再生、4.スポイルと同化という類型は、順序や形を変え(場合によってはいくつかの項目がはずされる場合もあるが)、ワヤンの物語の中に散見されるもので、いくつかのラコン群を形成する際の類型となっていると考えられる。例をあげれば、ノロソモ:バガスパティ、スマントリ:スコスロノ、アノマン:ブビス、クレスノ:ボモノロカスロ、ガトコチョ:プリンゴダニ国といったところであろう。これらに関してはいずれ項を改めて個別考察してみたいと考えている。とりあえず、「アルジュノ・ウィウォホ」の前後に関してはここまでで一段落としたい。

 さて、「ムストコウェニ」の物語を受けて、さらにその後日談として「ペトル王になる」という物語も生まれている。次回からはこの話を紹介する。
by gatotkaca | 2012-06-01 01:17 | 影絵・ワヤン
<< ペトル王になる その1 「アルジュノ・ウィウォホ」の前後 2 >>