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木から落ちた猿

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「アルジュノ・ウィウォホ」の前後 1

 「アルジュノ・ウィウォホ」の物語の敵役、プラブ・ニウォトカウォチョには、その出生に関して不思議な物語がある。
 これはプレ・アルジュノ・ウィウォホとも言える話で、大変興味深い。

 「バムバン・カンディホウォ Bambang Kandihawa 」がそれである。以下エンシクロペディ・ワヤン・インドネシアの「バムバン・カンディホウォ」の項を紹介する。

  「バムバン・カンディホウォはワヤンではハンサムな偉丈夫として登場する。彼は実はデウィ・スリカンディの化身であった。スリカンディはバトロ・ナロドの意志に従ってそうしたのである。
 神の導きに従ってバムバン・カンディホウォはマニマントコ Manimantaka 国へ赴き、プラブ・コロスロノ Kalasrana 率いるロコスゴロ Lokasegara 国軍の攻撃を受けて押されていたプラブ・ディケ Dike を手助けした。バムバン・カンディホウォは敵を倒し、その見返りとしてプラブ・ディケの娘、デウィ・ドゥルヌティ Durniti と結婚した。プラブ・ディケはラクササ姿であったが、デウィ・ドゥルニティは美しい娘であった。
 結婚後幾日かが過ぎて、デウィ・ドゥルニティは泣きながら父に訴えた。というのもバムバン・カンディホウォが男でなく、自分と同じ女であったからである。それを聞いてプラブ・ディケは怒りをたぎらせた。ものも言わずバムバン・カンディホウォは宮廷から追放され、遠くへ蹴り飛ばされた。
 バムバン・カンディホウォは天高く飛び、彷徨ってアルゴスヌ Argasunu の苦行所のラクササ姿のバラモン、ブガワン・アミントゥノ Amintuna のもとへ落ちた。
 話を聞いてブガワン・アミントゥノはバムバン・カンディホウォに同情し、互いの性器の交換を提案し、その申し入れは受け入れられた。
 性器を交換して、バムバン・カンディホウォはマニマントコ国へ戻った。プラブ・ディケに、今度はバムバン・カンディホウォが男であり、デウィ・ドゥルニティに子を授けることができると証明し、承認された。
 デウィ・ドゥルニティは妊娠し、ラクササ姿の赤ん坊を産んだ *) 。赤ん坊は、ニルビトと名付けられた。ニルビトはプラブ・ディケに代ってマニマントコ国の王となった時には、プラブ・ニウォトカウォチョ Niwatakawaca と称した。
 バムバン・カンディホウォはデウィ・スリカンディに戻り、性器をブガワン・アミントゥノに返した。

*) 幾人かのダランは、ニルビトがラクササであるのは、バムバン・カンディホウォがラクササの性器をもちいたからである、とする。」

 ワヤンでスリカンディとして登場するキャラクターは、インド版マハーバーラタにおいては、シカンディンという。シカンディンはパンチャーラ王ドルパダの息子。ビーシュマを怨むカーシー王の娘、アムバーの生まれ変わりである。シカンディー(シカンディニー)という女性でこの世に生まれたが、後に男となった。ビーシュマは女、またもと女とは戦わないとの誓いを立てていた。バラタ族の大戦で無敵の強さを見せたビーシュマに対抗するため、パーンダヴァはシカンディンを盾にしてアルジュナが後ろから矢を放ち、四方八方からこの老雄を攻撃して戦闘不能にした(マハーバーラタ、ビーシュマ・パルヴァン)。
 シカンディンが男になった由来が、マハーバーラタ、ウディヨーガ・パルヴァンで語られている。それによると、子宝に恵まれなかったドルパダ王は、シヴァ神の恩寵により、子を授かった。ただし、この子は最初女児として生まれやがて男子となると予言されていた。王妃は身籠り、シヴァ神の予言どおり女児が産まれたが、王には男児が産まれたと告げられた。王はその子を男児と信じて育てた。
 成長したシカンディンは、ダルシャナ国王、ヒラニヤヴァルマンの娘と結婚する。夫が女であることを知った姫はヒラニヤヴァルマン王に訴え、怒ったヒラニヤヴァルマンはパンチャーラに大軍を差し向けドルパダを脅した。
 シカンディンは女でありながら男として妃を娶った自身を恥じて、死を持って責任を取ろうと、森の中に彷徨いこんだ。
 森の中には心優しいストゥーナーカルナというヤクシャ(クベーラ神の家来)が棲んでおり、瀕死で倒れているシカンディンを見て、わけを聞いた。シカンディンに同情したストゥーナーカルナは一定期間という条件付きで、シカンディンと性を交換した。シカンディンは、ヒラニヤヴァルマン王に男である証を立て、パンチャーラとダルシャナ両国の紛争は収まった。
 一方、ストゥーナーカルナは女になってしまったことをクベーラに咎められ、一生女でいろ、という罰を与えられた。しかし、仲間のとりなしと、親切心に発した行為である、とのことからクベーラも怒りを和らげ、シカンディンが死ぬまでふたりの性は交換されたままであるということになった。(以上、山際素男訳「マハーバーラタ 第三巻、1993年三一書房刊による)
 ジャワにおけるスリカンディは、もちろん女として生まれ、そのまま女のキャラクターとして活躍し、アルジュノの第二夫人となる。バラタユダ(パンダワとコラワの最後の戦争)でも、女戦士として戦場に立ち、ビスモと対決することになる。オムボ(アムバー)の生まれ変わりという説も存在するが、多くの場合(著名ダラン、キ・ナルトサブドの解釈等)では、戦場でビスモとスリカンディが対峙した際に、ショルガ・パングラン・トゥナン(昇天しきれない魂のいるところ)からオムボの魂が降下し、スリカンディに入魂してビスモと対決するという展開になる。女戦士の存在し得ないインドと異なり、ジャワでは女が戦場に立つ、あるいは王位に就くというケースがままある点が興味深い。そういうわけで、男になる必然性のなくなったスリカンディはジャワでは女のままなのであるが、原典マハーバーラタにあるシカンディンの性交換という挿話は、ジャワにも取り入れられ、「カンディホウォ」という不思議な物語を生んだのである。
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by gatotkaca | 2012-05-28 00:29 | 影絵・ワヤン | Comments(0)
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