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木から落ちた猿

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アルジュノ・クムバル その2

2.ラデン・アルジュノがブガワン・カンウォの娘婿となる

 旅の途中、ラデン・アルジュノまたの名をラデン・パマディは、ラウ山の南の麓に着いた。彼は河の源泉を探したが、見つけることができなかった。というのも河が七つの支流に分かれていたからである。彼は誰かに尋ねようと思ったが、そこには見渡す限り村一つとして無かった。彼はさらに河の源泉を調べ続けた。
 苦行を完成させたプンデト(僧侶)がいた。その名はブガワン・カンウォ、彼の苦行所はヨソロトといった。呪文を完成させたゆえに、心に浮かべたことは何でも必ず実現した。彼にはとても美しい一人の娘がいた。まさしく山の娘ではなかった。背の高さはその体に相応しく、顔は甘やか、とても魅力的で、目は星のように光を放ち、着飾った人形のように美しく、彼女を見た者は誰であろうと思い焦がれる。いつも微笑みをたたえ、光輝くきれいな白い歯が見える。心持ちは落ち着き、彼女がその唇を噛めば、その歯は清らかな水のように見える。胸は広く、乳房をたたえ、その動きは敏捷で素早い。彼女が話せば甘い雰囲気がただよう。山の娘の名はエンダン・ウルピという。
 多くの弟子たちはその娘を手に入れたいと願うが、彼女の気を引くことの出来た者は誰もいない。彼女はいつも父を手本として付き添い、苦行を好み、つねに父の命に服して従っていた。
 ある夜彼女が熟睡していると、夢を見た。その夢の中でとても美しい神を見たのである。その神は愛の神、ヒワン・アスモロであり、彼女に一振りの小さなクリスを与えた。クリスを受け取ると、それは一人のクサトリアに変わった。太陽のように光り輝くその人の名はラデン・パマディ、パンダワの真ん中である。それから彼女はそのクサトリアと結婚した。表しようもないほどうれしく思い、彼女はサン・アルジュノに寝所へ導かれた。不意に彼女は驚き、眠りから覚めた。娘はそれが夢であったことに気付き、とてもがっかりした。ひじょうに悲しみ、夢での出来事を思ってぼんやりしていた。
 その日の朝、彼女は泣きながら父の足下にすがった。サン・ルシ・カンウォは、娘が嘆きのわけを尋ねた。山の娘は答えてわけを話した。彼女が美しいクサトリアと出会ったことを。始めから終わりまでサン・プンデトに全てを話した。やさしい声で彼は娘に言った。「おお、かわいい娘よ、心を痛めることはない。そなたの夢はサン・デウォ・アグンの賜物である。真実そのクサトリアがそなたの夫となるなら、わしがきっとその者を見つけてやろう。女官たちと家で心穏やかに待っておるがよい。わしは探して来てやろう。」
 サン・ルシはかくて弟子たちに守りを命じて出掛けて行った。サン・プンデトは空に飛んだ。そこから世の隅々を眺めたが、一人として見えない。北西に光り輝く虹が架かっているのがみえるだけだ。ラウ山の麓に、供を連れずにいるクサトリアが一人、あちこち探しているように見える。彼はすぐさまそのクサトリアのそばへ降り立った。サン・アルジュノは、サン・プンデトと出くわし、おおいに驚いた。サン・ルシは腰掛けるよう勧められて、アルジュノは言った。「ああ、なんたることか、サン・ルシが私に会いに来られるとは。あなた様はどこからおいでになられたのですか、お名前は?」サン・ルシは答えた。「おお、ここは我が苦行所です。我が名はブガワン・カンウォ。わしもあなたに尋ねたい。あなたは何処からのクサトリアであられるか?森の中、供の一人も連れずにおられる。」
 サン・アルジュノは答えた。「私の名はパマディ。パンダワの真ん中です。私は河の源を探しに参りました。私の見たところ、河は七つの支流に分かれ、どれが源流なのか定め難いのです。」
 サン・ルシは言葉を続けた。「実際この河の源は十一の流れの合わさったものである。一番の源は、私の苦行所の近く、スロンガン山にある。」
 「おお師父、ルシよ。私はそこへ行きたいのです。手助けしてください。」サン・プンデトは彼の願いに同意した。かくて彼らは空へ飛び上がった。瞬く間に彼らはヨソロトの苦行所に着いた。
 「ここで少しお待ちなさい。大切な話があるのです。お願いがあるのです。」
 サン・パルト、またの名サン・アルジュノは、サン・ルシの願いに従った。サン・プンデトはサンガル・パムジャンへ向かって真直ぐ歩いて行った。弟子たちは、サン・ルシが美しいクサトリアを連れて来たのを見て驚いた。
 アルジュノに座るようすすめてから、サン・ルシは心中神に祈りを捧げた。すると間もなく天のビダダリたちが降りて来て、さまざまな食べ物を運んで来てくれた。サン・アルジュノはこのプンデトが特別な人であることを目の当たりにして、おおいに驚いた。まさしく彼は、その思いを実現させることのできる、神に愛されるプンデトなのだ。
 サン・ルシは言った。「さあ、山の食べ物を、飽きるまで召し上がりなさい。」
 サン・アルジュノは出されたものを喜んで食した。それからサン・ルシは彼に言った。「おお、サン・アルジュノ。私があなたをこの苦行所へ連れて来たのには、大切な目的があるのです。私には一人娘があり、名はエンダン・ウルピと申します。夢の中で彼女はあなたと愛し合い、妻となりました。ですからあなたに娘を娶っていただきたい。彼女は妻に相応しくないかもしれないが、側室でも結構です。しょせんは山の娘にすぎませんから。どうか彼女の姿を見てやってください。」
 エンダン・ウルピは恥ずかしがりながらも、父に命じられて彼の前に現れ、父の後ろに座った。もっと前へ出るように命じられ、後ずさりして、また家の中に戻ってしまった。
 サン・ルシはサン・アルジュノに尋ねた。「さあ、息子よ、あなたはどのようにお望みか?我が子エンダン・ウルピは、あなたにお任せできますかな?」
 サン・アルジュノは答えた。「おお、父なるブガワンよ。我が心はおおいに彼女に魅かれております。」
 かくてサン・パルトはエンダン・ウルピと結婚した。新婚の二人は互いに愛し合った。七日たって、サン・アルジュノはサン・ルシに言った。「おお、父よ、私は暇乞いいたします。河の源を探し、苦行を続けたいのです。私はお願いいたします。我が妻が男の子を産んだなら、バムバン・イラワンと名付けてくださいますように。女の子であったなら、サン・ルシにお任せいたします。」
 それからサン・アルジュノは河の源を見つけ、河の中に身を漂わせた。サン・パルトは食べもせず、眠りもせずに苦行した。獣たちも彼を煩わせるものはなかった。水に住むものたちは彼の平安を見守った。かくてサン・アルジュノは、美しい眺めのバンジャルムラティ山で苦行を続けたのである。静かな場所で、パルトの苦行は長く続けられた。

(つづく)
by gatotkaca | 2012-05-12 01:06 | 影絵・ワヤン
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