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木から落ちた猿

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カカウィン・アルジュノ・ウィウォホ その11

詩編28

1.  サン・アスラパティ〈ニヴァータカヴァチャ〉が戦場で斃れた後、
   彼は再び矢を放ち、その軍隊と戦車、全てを焼き払った
   ルシ・ムチュクンダ Mucukunda の誓いにより
   殲滅されたカーラヤヴァナ Kalayawana のように 1)

1)名称一覧参照。

2.  霧雨が降りしきり、天には鮮やかな明かりが射していた
   おだやかな風が吹き、雲は雨をはらんでいた
   太陽のまわりに光が輪になっている
   すべては王がこの世を去った証である

3.  傷つき死した神々やアプサラたちに
   スラーナタ〈インドラ〉が命の水を注ぐ
   彼らのすべてが起き上がる
   健やかに麗しく善き姿に戻る

4.  敗れること無きスラーパティの帰還である
   すべての者の顔は喜びに晴れやかだ
   サン・ダナンジャヤとバタラ・インドラ
   二人は喜ばしく兵法について語り合う

5.  神の兵士たちに車が近づき
   敬意に満ちた態度と言葉で迎えられる
   かくて戦いについて語られる
   まこと激しい様であり
   語るに多くの言葉は無い

6.  帰還する軍の道筋に説明はいらないだろう
   さまざまな勝利の証が運ばれ
   スラーパティの到着にインドラロカは騒々しい

詩編29

1.  そうして彼らは帰還し、喜びをもって勝利を祝ったが、言葉は無かった
   そしてパンドゥーの息子〈アルジュナ〉は聖なる森、その名をナンダナ Nandana へ赴いた
   そこにはさまざまな心楽しませるものがあり
   十の感覚 deria 1)の完全なる滋味があった

2.  かくて王に推挙され、彼はインドラパダ Inderapada の王となった
   七日七夜彼はスラーパティと交替し、それこそがインドラ神の褒美であった
   カヤンガン〈天界〉での一夜は半月の長さであり、昼もまたそのようであった 2)
   それゆえ七ヶ月間、彼は英雄的行為の果実を受けることを許されたのである

1)Kesepuluh derianya : 五感と五種の体の部位。彼は戴冠の喜びを受けるため、森へ行く。現代でもまだそうであるが、王は通常王位に就く前にまず自身を浄める。2)Semalam di Kayangan lamanya setengah bulan dan demikian pula harinya : つまり地上と比べて。

3.  良き日にその仕事を行うために、スラーナタは王の謁見所を出た
   ルシたち、シッダたち、そして神々が招集された
   スララヤのパンディタたちは必要なすべてを差し出し整え終わっていた
   八正道に達した者にとっての良きものである!

4.  アルヤ・ダナンジャヤが到来し、宝石に飾られた玉座に迎えられた
   彼は王冠を被りバタラ・インドラの装飾品をすべて身に付けていた
   そのカイン〈腰布〉の表にはアナンタの暦が描かれ
   サファイアの青とルビーの赤に彩られ、艶やかで美しい

5.  スーラ王 raja sura 、ヤマ、バルナそしてクヴェーラが彼のそばに座した
   サンカラと太鼓の音が轟き、神々の賛美する歌が鳴り響いた
   七仙の長、ヴァシシュタが立つ
   マントラが唱える声が導き、パンドゥーの息子を神の命の水で祝福する 1)

6.  サン・アルジュナは即位し、行進し、スラー 2) たちが従う、
   アスマラ神の宮殿よりも美しい建物に向かう
   眺めの良い庭園の真ん中の輝く宮殿の中へ
   そこで待つ恋人は、スプラバ、彼女は千の星々と花々の素晴らしさを一身に集めた人

1) Merestoni : 語幹は restu 、慈悲。Merestoni は restu を与える。この言葉はマレイの書物において頻繁に用いられている。2)Sura : 神。

詩編35 1)

1)詩編30、31、32は改竄〈原文 dalam canda 、canda はふざける、冗談を意味するが、ここでは序文との兼ね合いで改竄という意味で取る〉されて喪失した。詩編34にも改竄が見られ、とくに詩編35の改竄は詩編33、34にもまたがっている。

1.  天界で王の息子はスプラバと共にさまざまな喜びを味わい
   互いに話しの尽きること無く
   瞬く間に七ヶ月が過ぎる
   かくて彼はスラーパティの足下に拝跪して別れを告げる

2.  彼はこのように言った「バタラよお許しあれ、私はインドラ神にお許し頂き地上に帰りとうございます」
   「おお、我が息子、そなたの兄弟と母への愛は明らか、私に遮ることはできない
   そなたをとどめ置き、罪の無きことを願う、というのもそなたに借りを返さねばならなかったのだから
   この父の願いは、我が息子の勝利が後の日に宮廷詩人の手で世にも美しい作品として描かれることだ

3.  我が子よ、つねに高貴なる心を持ち続けよ、幸福を得たからといって心変わりしてはならぬ
   そなたはつねに苦行のうちにあるような心持ちでいなければならぬ
   仲間を忘れではならぬ
   八正道に達したマハーヨーギとなっても、喜びに過ぎたることの無きよう
   五感が解き放たれ、再び愚か者となり、また〈初めから〉始めなければならない

4.  そなたはブリンギンの樹やガジュマルの樹が伸びて崩壊した神殿が多くあることを知っておくのだ
   まだ小さいうちに引き抜いておけば、その樹は大きくならなかったであろう?
   そのようにそなたは、欲望を制御し、そなたの心の中に育たぬよう努めなければならない
   あまりにも成長してしまえば、明らかに英雄性を支配し、破壊するに至るだろう」

5.  ヒアン・インドラの言葉はこのようであり、そしてサン・アルジュナは立ち上がり、出発した
   サン・マータリが彼の乗る武器を完備した車を御した
   すぐに車は飛び、風よりも速く、思考のごとくであった
   愛の宮殿では恋人を失ったスプラバが嘆き悲しんでいた

詩編36

1.  サン・アルジュナ、真の英雄は地上に降り立った
   ヴァダリ Wadari の苦行所の森に至り、そこで兄弟たちすべてに〈迎えられた〉
   彼らの喜びはまさしく洪水のようであった、サン・アルジュナは海に降りた雲のようであった 1)
   手短に語れば、彼らは地上の全てを制することを話し合ったのである

2.  アルジュナ・ヴィヴァーハの物語はここに終わる
   ムプ 2)・カンワはこのカカウィンを編み、世に示したばかりである
   その心は定まらず、というのも彼は王を戦場へ案内することの許しを得ようとするからである 3)
   スリ・アイルランガ(王にすべての賞賛あれ)!大地の主、承認なさる者よ 4)

アルジュナ・ヴィヴァーハ終結

1)Laksana mega yang menuruni tasik : 空に昇って、元に還る。2)Mpu : 宮廷詩人、プンデタ、鍛冶屋の称号。3)Hatinya bimbang, karena setelah itu ia berharap boleh kemedan perang mengiring raja : ムプ・カンワは心を決めかねている。というのも、おそらくそれは王が望んだことではないからである。彼はきっと、後でその戦いを描くために、王に従ったのである。もし王が許可していたなら、ムプ・カンワの禁制は善と判断される。というのも、ムプが戦いを描くことに有能と看做されれば、王の許可は詩人への賞賛を意味するからである。4)Seri Airlangga mengabulkannya : 王の最初のムプ・カンワのカカウィンへの見解は善しとするものであった。 Junjungan Tanah : ここでは Tanah は negeri 〈国〉を意味する。ムプ・カンワの意図は、アイルランガ王国はまだ版図が定まっていないが、さらに拡大し、ジャワの地を平定することである。

名称一覧〈アルファベット順〉

アイラヴァナ Airwana :ビダダラ
アイルランガ Airlangga :東部ジャワの王。序文参照。
アナンタ Ananta :大地を支える蛇
アルダナリ Ardanari :一体となったシヴァとその妃ウマー。
アルジュナ Arjuna :パーンダヴァ(パンドゥーの息子たち)の三男。兄弟は、ユディシュティラ、ヴリコーダラ〈ビーマ〉、ナクラ、そしてサハデーヴァである。
アルジュナ・ヴィヴァーハ Arjuna Wiwaha :アルジュナの結婚。
アスマラ Asmara :愛の神。
アスラパティ Asurapati :ラークシャサの王。
バジラーナ Bajrana :ビダダラ
バイラヴァ Bairawa :憤怒相のシヴァ
バルナ Baruna :海の神、西方を支配する
バラタ Barata :一族の名。パーンダヴァはこの一族の後裔。
ブラフマ Berahma :神。
ブラフマロカ Berahmaloka :ブラフマの天界。
ボーマ Boma :ラークシャサ。ヴィシュヌ神と大地の娘の子。バライ・プスタカ刊の「サン・ボモ・サーガ」を参照。
チトラーンガダ Citranggada :ビダダラ。
チトラーラタ Citrarata :ビダダラ。
チトラーセナ Citrasena :ビダダラ。
ダナンジャヤ Dananjaya :アルジュナ。
ダルマータマジャ Darmaatmaja :パーンダヴァの長子、アルジュナの長兄。彼は公正の神、ダルマ神の子として育てられ、またダルマ神の魂の子である。ダルマータマジャはダルマの息子を意味する。
ドゥシュケルタ Deskerta :ニヴァータカヴァチャの大臣。
ドルパディー〈ドラウパディー〉 Dropadi :パーンダヴァ共通の妻。アルジュナを見よ。
ドゥワイパーヤナ Dwaipayana :パーンダヴァの祖父。彼らが困窮にある時、訪れてに世界の秘密を助言として与える。
イルヴァナ Erwana :インドラの象。
ハピット Hapit :月の名前。
ハスティナープラ Hastinapura :バラタ族の母国。パーンダヴァが王位継承権を持つが、同じバラタ一族の子孫、カウラヴァ一族に追放される。
ヒマーラヤ Himalaya :インド北方の山脈。
ヒラニヤカシプ Hiraniyakasip :ヴィシュヌに殺されたラークシャサの一人。
インドラ Indera :神。神々の王とされる、最高位の神。雷雨の神とされ、東方を司る。
インドラ・デーヴァ Indera Dewa :神々の王。インドラを見よ。
インドラギリ Inderagiri :インドラ山。アルジュナの苦行所。
インドラキラ Inderakila :アルジュナの苦行する山。
インドラロカ Inderaloka :インドラの天界。
インドラパダ Inderapada :インドラの天界。
イシュヴァラ Isywara :シヴァ。
ジャヤンタ jayanta :インドラの息子
カイラーシャ Kailasya :シヴァのおわす山。
カヤンガン Kayangan :インドラの天界。
カラケーヤ Kalakeya :ルシによって殺されたラークシャサの一族。
カラヤヴァナ Kalayawana :ムチュクンダが火でその人差し指から生み出した。
カーマ Kama :アスマラを見よ。
カンワ Kanwa :このカカウィンの作者。アイルランガ王の時代に生きた。序文参照。
カパット Kapat :月の名前。「第四の月」。
カララヴァークテラ Karalawaktera :ニヴァータカヴァチャの大臣。
クインドラアン Keinderaan :インドラの場所。
ケルダクシャ Kerudaksya :ニヴァータカヴァチャの大臣。
クムバカルナ Kumbakarna :ラーヴァナの兄弟。巨大な身体で、彼は起きている時より寝ている方が長い。バライ・プスタカ刊、「スリ・ロモ・サーガ」参照。
クヴェーラ Kuwera :富の神。北方を司る。
マニマンタカ Manimantaka :ニヴァータカヴァチャの国。たくさんの宝石のあるところを意味する。
マータリ Mtari :インドラの御者。
メガナーダ Meganada :インドラジット。ラーヴァナの息子。スリ・ロモ・サーガを参照。
メール Meru :神々のおわす山。ヒマーラヤ山脈の頂上にある。シュメールとも呼ばれる。
ムチュクンダ Mucukunda :カラヤヴァナを参照。
ムルカ Murka :ラークシャサ。
ナンダナ Nandana :インドラの庭園。
ニヴァータカヴァチャ Niwatakawaca :ラークシャサの王。強力な鎧をまとった者を意味する。
パシュパティー Pasyupati :シヴァ。パシュパティーの矢はシヴァがアルジュナに授けた。
パンドゥー Pandu :パーンダヴァの父。アルジュナを参照。
パールタ Parta :アルジュナ。アルジュナの母、プリターの息子を意味する。プリターはクンティーの別名。
斧持つラーマ Rama yang berkapak :著名な物語の英雄〈パラシュラーマ〉。
ラティー Ratih :アスマラの妻。
ルドラ Rudera :シヴァ。
サルジュ Salju :雪の山〈Gunung Salju〉、ヒマーラヤ。
シャクラ Syakera :インドラ。
シャンカラ Syankara :シヴァ。
シヴァ Syiwa :最高神。
シヴァロカ Syivaloka :シヴァの天界。
スバドラー Sbadera :アルジュナの妻。
スンダ Sunda :ラークシャサ。その兄弟、ウパスンダと共に一人のビダダリゆえに戦う。その戦いで二人とも死んだ。
スプラバ Superaba :ビダダリ。
スララヤ Suralaya :スラーたち、神々のところ。クインドラアン。
スラーロカ Suraloka :同上。
スラーナタ Suranata :スラーの王、インドラ。
スラーパダ Surapada :神々の場。クインドラアン。
スラーパティ Surapati :スラーの王、インドラ。
スーリヤロカ Suryaloka :太陽の神、スーリヤの天界。
ショルガロカ Sorgaloka :クインドラアン〈天界〉。
トリプラ Tripura :シヴァに殺されたラークシャサ。または三界。
ティロッタマー Tilottama :ビダダリ。
ウルピー Ulupui :アルジュナの妻。
ウパスンダ Upasunda :スンダを見よ。
ヴァダリ Wadari :森の名。
ヴァシシュタ Wasyista  :ルシ。
ヴィラクタ Wirakta :ニヴァータカヴァチャの大臣。
ヴリハシュパティ Werehaspati :神々のプンデト。
ヴィシュヌ Wisynu :神。
ヴィシュヌロカ Wisynuloka :ヴィシュヌの天界。
ヤマ Yama :死の神。南方を司る。
by gatotkaca | 2012-04-17 16:53 | 影絵・ワヤン
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