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木から落ちた猿

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スラカルタ・スタイルのワヤン・プルウォ 造形の側面からのレヴュー その1

 「ワヤン藝術の価値」Nlai-nilai Seni Pewayangan :Dahara Prize Semarang 1993 という本を読んでいます。その中からハルヨノ・H・グリトノ氏の論文「スラカルタ・スタイルのワヤン・プルウォーー
造形の側面からのレヴュー」を拙訳でご紹介いたします。結構長いです。

スラカルタ・スタイルのワヤン・プルウォ
造形の側面からのレヴュー


ハルヨノ・H・グリトノ

Ⅰ.序

 インドネシア国家の文化には各々の地域のさまざまな藝術文化が見られる。ジャワの藝術文化はそのひとつである。ジャワ藝術を知ることには、古来からのジャワの社会生活の背景を認識する試みもまた含まれている。生計、思考のパターン、生活態度といったものも取り上げるのがよいだろう。
 ジャワの社会生活には古来、ひじょうに顕著な二つの特徴が見られる。それは、農耕と封建制である。農耕の特徴は、その時代の農業で生計をたてる文化に現れ、一方、封建制の価値は、王を中心とする政府の権力/秩序のシステムによって生み出される。であるから、藝術を形作るのは、農業と封建制を考案した思考なのである。ジャワ人の生活と精神のほとんど全てが、しばしば農耕的価値観と秩序でなされ、同様にジャワの藝術文化の発展はプリミティヴな思考(それはつねに崇拝対象、神、精神、精霊等々への関心を伴う)から生じ、特定の人間(王)に対する崇拝にまで及ぶ。この過程を経ることは、ジャワ藝術の表現、装飾、伝統そしてシムボリズムに至るまで見いだすことが出来る。

 農耕と封建制の価値を内包する、ジャワ藝術の分野は、音響藝術、舞踊、古典音楽藝術、クリス、バティック、建築、インテリア、そしてワヤンがある。これらの性質の顕在化は、時々ジャワ藝術の各分野に同時に/連携して現れ、ジャワ藝術各分野間の関連性を示している。ひとつの藝術分野は、他のいくつかの藝術分野からのサポートを必要とし、連携し合って形成される(例えば、ワヤンの上演では、カラウィタン=伝統音楽・声楽・satra 武道(sastra 文芸の誤植か?)・ワヤン人形美術である)。

 伝統的ジャワ藝術分野の一つとして、ワヤンはジャワの民衆に愛されるのみならず、とりわけその上演形式の故に、海外においてもひじょうにポピュラーである。ワヤン形式で最も発展し、高い完成度に到達しているのは、ワヤン・クリ・プルウォである。このワヤン・クリ・プルウォの上演の高貴さと魅惑は、扱う物語(ラマヤナ、マハバラタ)によるだけでなく、内包する哲学、カラウィタンと歌、文学性はもちろん、物としてのワヤン・クリ人形もふくむ、その芸術形式全体の要素によるものである。寸法、姿勢、姿、表情、体に纏う着物や装飾の種類、その他諸々の造形の要素がワヤン・クリ・プルウォのヴィジュアルを完璧にし、ワヤン・クリ・プルウォの上演全体の高い完成度の達成に資するものとなっている。この意識から出発し、思考を維持して、再評価されるべきワヤン・クリ・プルウォの造形美術に対する理解を深め、鑑賞する。
 ワヤン・クリ・プルウォ以外にも、西部ジャワ(スンダ)で創られ、ポピュラーになったワヤン・ゴレ・プルウォがある。ワヤン・クリ・プルウォは中部ジャワ、東部ジャワ、そしてバリで発展し、19世紀末頃にスラカルタとその周辺地域で頂点に達した。他のいくつかの地域、たとえばチレボン、バニュマス、クドゥ、そしてヨグヤカルタもそれぞれの地域の高い創造性と鑑賞力で、ワヤン・クリ・プルウォの造形美術を発展させた。それゆえ今日、ワヤン・クリ・プルウォの形・ヴィジュアルにはさまざまなガヤ(ガグラック/ヴァージョン)=地域スタイルがある。たとえばスラカルタ・スタイル、ンガヨグヤカルタ、クドゥ、バニュマス、チレボンその他。上演を補佐・支援する他の藝術分野(カラウィタン、声楽、文学その他)でも同様に、各々の地域のヴァージョンが成立した。ワヤン・クリの造形美術発展の頂点であるスラカルタ・スタイルの断片的事象を掲げることで、他の地域の発展も考慮しつつ、この小論ではスラカルタ・スタイルのワヤン・クリ造形美術について、できるだけ多くのことを再考してみたい。

(つづく)
by gatotkaca | 2011-08-23 06:08 | 影絵・ワヤン
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