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木から落ちた猿

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ジャワのバタリ・ドゥルゴ その2

(前回のつづき)

モジョパイト時代のドゥルガー
 ドウルガー・マヒシャースラマルディニー像の他に、モジョパイト時代に突如、マヒシャースラマルディニーとはその相貌、背景、性質もひじょうに異なるドゥルガー像が現れる。このモジョパイト時代に現れるドゥルガーは、もとは美しい姿のウマーであったのが、重い罪を犯した罰としてラスクシ(羅刹女)となる。羅刹女のドゥルガーの考古学的記録は、クディリのコタ・パレ付近にあるチャンディ・テゥガワンギの壁面、ブリタール市近くのチャンディ・パナタランの壁面、そしてラウ山の西方に存するチャンディ・スク寺院群の石壁に見いだせる。その諸チャンディの浮き彫りにあるドゥルガーは、巨大な身体を持ち、長い髪はちぢれ(ギンバル gimbal)、目を見開き、大きな鼻、分厚い唇に牙を持つが、瀟酒な衣服をまとい、また羅刹女姿の娘達に付き従われている。彼女の周りには奇妙で恐ろしげないくつかの顔があり、数頭の獣の顔を持つ怪物たちがいる。*訳注・以下神々の名はジャワ音で表記する。そろそろジャワ化しはじめるから。
 モジョパイト末期、あるいはモジョパイト崩壊後のジャワ古語あるいは中世ジャワ語の文学作品の諸本を繰っていくと、羅刹女としてのドゥルゴのキャラクターは、過ちを犯したことに対してシワ(ブトロ・グル)、または他の者から呪われ、強制されたウマーの姿に他ならない。その罪をつぐなうために、ウモはドゥルゴ、しばしばラニニとも呼ばれる、の姿にかえられ、クセトロ・ゴンド・マユと呼ばれる墓場に住む、またはパタラ(地下の世界)で12年の苦行をしなければならなくなる。以下に呪われたウモの物語を概説する。
 1.キドゥン(歌)・スドモロにおいて、ブラフマと戯れたウモは、バトロ・グルによって呪われ、ラスクシとなり、ドゥルゴまたはラニニの名が与えられた。彼女は墓場、すなわちカセトロ・ゴンドマユに住まねばならず、精霊達の女王となる。12年の後、彼女はサデウォの身体を借りたシワ(ブトル・グル)によってルワット(リヌカット)=魔除けされる。
 2.タントゥ・パンゲラランの書において、ウモはその息子クマラに対しておおいに怒り、クマラは彼女に食われてしまった。この卑しい行為はバトロ・グルによって呪われる。その怒りで咎められたウモはラスクシ・ドゥルゴとなる。彼女は罪を償うため、パタラで12年間苦行することを命じられる。
 3.キタブ・コラワス・ロモにおいて、ウモはガネシャ(ブトロ・ゴノ)が父(ブトロ・グル)から与えられた予言の書を引き裂いた。この書物で人は、過ぎ去った過去のみならず、来るべき未来も読むことができるのである。ウモはゴノに彼女の未来を予言させようとしたが、突然、彼女の過去の恥ずべき行い、彼女がかつて太陽神とひとりの牛飼いとの不誠実な戯れをしたことを読まれた。恥辱と怒りのゆえ、ゴノの書物は引き裂かれた。すると突如ウモはラスクシ・ドゥルゴとなった。ゴノは追いかけられ殺されようとした。彼はかくまってもらおうと、父のもとに逃げた。シワの助言を得たバトロ・ゴノは、デウィ・サラスワティ、デウィ・サウィトリ、デウィ・スリ(ラクスミ)の助けをかりてドゥルゴを魔除け(ルワット)した。
 4.キタブ・スリ・タンジュンにおいては、ウモがドゥルゴ・ラニニとなったことは語られていない。この書においては、ただドゥルゴは罪を犯したので、罰を受けたとのみ語られる。

 興味深いのは、ドゥルゴは高位の女神ではなくなったとはいえ、ウモへの呪いは容姿に対しだけであり、人々の救済者としての性質はいまだ優位にあるということだ。一例あげれば、キドゥン・スリ・タンジュンにおいて、ドゥルゴ・ラニニは、シドパクソとスリ・タンジュンの夫妻をもとのさやに収める手助けをする。同様にモジョパイト末期のキドゥンのひとつ、キドゥン・マルゴスモロにおいても、ドゥルゴ・ラニニは、双方の両親から命令で別れさせられようとする恋人達を助けるのである。

 (つづく)
by gatotkaca | 2011-07-11 12:47 | 影絵・ワヤン
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